水源池の保全と地下水専用問題

T.地下水の使いすぎ懸念

1.日本の状況(日経新聞2016.12.25、他)

 最近、地下水の利用が広がっています。防火用井戸の設置やミネラルウォーター人気が牽引役です。

 ミネラルウォーターの生産量は10年前に比べ倍増していることも、地下水需要が増える一因となっています。県内水道水源の9割以上を地下水に頼る鳥取県は、2013年に条例を施行し、水源維持のために、くみ上げる業者に対し、地下水を蓄える森林の保全協力を求めています。サントリーは森林育成の他、生産工程で「省水化」を進めています。

 東日本大震災以降、防災目的での地下水の利用が増えています。
 熊本市のある病院では、井戸を設置し、ろ過した地下水を飲料水、洗面所、浴室などに、日量40〜50tほど利用しています。2016年4月の熊本地震でも、いつも通り水が使え100人以上の入院患者に支障はなく、断水した近くの方々に水を分けてあげたり、夜間は60〜70人の避難者を受け入れる等、防災拠点の役割も担ったそうです。井戸のコスト削減効果も大きく、井戸の利用と共に節水トイレの導入により、水の費用は70〜80万円/月と約半分に減りました。

 イオンはイオンモール31店舗で地下水を導入します。関東地方のある削井業者は震災前と比較すると納入実績が約4割増えたそうです。

 三井金属は2016年12月から埼玉県の工場で、温暖化対策として、地下水から熱を取り出し、部材を冷やすシステムを稼働させました。今後は空調にも利用し、電気代と温暖化ガスの排出を減らす予定です。

 高度成長期に工場等で地下水のくみ上げが急増し地盤沈下を引き起こしたため、政府は大量に地下水を使う工場やビル等の事業者に対し、1950年代以降、くみ上げを許可制にしています。この結果、工業用水の使用量が1970年代の約半分になり、地下水は回復傾向にあります。そのため、「もっと地下水を利用すべきだ」という声や、「地下の状況は地域で異なるため、過去に問題を起こした地域はくみ上げには慎重に対処すべき」という意見があります。

 東京都は2016年7月、地盤沈下の予防策として、中規模以上のポンプが対象でした設置届を全ての電動ポンプに拡大しました。ポンプ性能の向上で、個人で設置する小規模ポンプでも大量の水のくみ上げが可能になったためです。

 地下水の所有権に対して、民法は土地の所有権者にあると定めています。2014年に施行された水循環基本法は、地下水を国民共有の財産と位置づけていますが、強制力はありません。
 国は地域の関係者に、地下水の実態把握と持続的な利用を求めています。地下水が溜まる地層は地域を超えて繋がっているという指摘もあり、地下水を守ろうとする意識は行政の間では高まっていて、保全を目的とする自治体の条例や規定は600件を超えています。

<参考>造水促進センターの地下水利用状況アンケート調査結果(2014.7.17日本水道新聞)

 造水促進センターは全国地下水利用対策団体連合会を通じて2300事業所に水使用状況、地下水の使用状況、地下水の新たな利用方法について、アンケート調査を行い、結果を公表いたしました。521件の有効回答を得て、回収率は約23%でした。内容的には、地下水の利用状況は高いが、地下水規制の周知や環境対策については関心が低い。また、新たな地下水の利用方法が考えられれば、利用範囲が広がる余地は大きいことが伺えます。

1) 水使用状況地下水を利用する率が高い
@ 製造業:井戸水=35.8% 工業用水=41.7% 
A 製造業以外の事業所:井戸を半数以上使用している

2)地下水利用者の代替水源
 上水道=39.7% 代替水源が無い=40.1%

3)地下水を使用する理由コスト面以外でも、意識して地下水を使っている
 コストが低廉=75.4% 防災対策=17.9% BCP対策=10.2%

4)地下水利用時の管理状況全体的に危機管理意識が低い
 定期的な水質検査=52.4% 揚水量の把握=52.8% 揚水ポンプの定期検査=26.3% 井戸水位の定期的な検査=17.5%

5)水源別のコスト(mあたり)
 回収水=7.5円 井戸水=13.5円 工業用水=27.1円 上水道=223円

6)工業用向け井戸水の処理プロセス別コスト
 10円/m以下=塩素や砂ろ過処理 100円/m以上=凝集沈殿や膜ろ過処理

7)地下水規制の有無について約1/3が条例等の規制を認識していない
 不明=25.4% 未回答=10.4% 

8)自主規制などの取り組みの有無約3/4は関心が薄い
 あり=22.8% なし=26.3% 不明=37% 未回答=13.8%

9)地下水環境対策の実施の有無環境対策への意識向上の余地が大きい
 なし=19.8% 未回答=59.7%

10)地下水の新たな利用方法具体的手段・方法の提示により利用範囲が広がる可能性あり
 特になし=46.6% 地下水熱を利用した空調利用=29.8% 防災対策=34.1% BCP対策&危機対応=18.4% 具体的になし=73.1%

2.世界の過剰な地下水利用が食料供給に大打撃を与える

 2016年の年末に、気温の上昇と、米や小麦と言った穀物の需要増加によって、世界の地下水は今後数十年のうちに激減する可能性があるとする米国コロラド鉱山大学の水文学者インゲ・デ・グラーフ氏の研究結果が発表されました。

 内容は、今世紀半ばには、インド、パキスタン、ヨーロッパ南部、米国西部の広い範囲で帯水層が枯渇する可能性があり、そうなれば食料供給が打撃を受け、また18億人もの人々がこの貴重な水源を利用できなくなるというものです。カリフォルニア州の農業の中心地であるセントラルバレー、トゥーレアリ盆地、サンホアキンバレー南部では、早くも2030年代に、インドの上ガンジス盆地やスペイン南部、イタリアでは、2040年から2060年の間に、米カンザス州、オクラホマ州、テキサス州、ニューメキシコ州の地下に位置するオガララ帯水層南部は、2050年から2070年の間に枯渇する可能性があると記しています。

 こうした乾燥地域では、過去50年間で急速に農業が発展しました。降水量が少なく、川や湖もほとんどないため、大量の地下水のくみ上げだけに頼っています。この地下水の枯渇を懸念していて、今後は気候変動と人口増加により、地下水の使用にさらに拍車がかかると予測しています。

 通常の状態では、砂や透水性の高い岩の層は地中に染み込む雨、雪解け水、川の水などによって水が溜まり、涵養されます。ところが猛烈なペースで水をくみ上げている現在のような状況では、特に降水量が少ない地域においては、水が減っていく量に涵養が追いつかないという訳です。
グラーフ氏は、地下水位が約90メートルよりも深くなり、くみ上げ費用が多くの利用者にとってあまりにも高額になってしまった時点で、その帯水層は枯渇したものとみなしています。

 若干内容は違うのでしょうが、地球帯水層の枯渇を懸念している学者は、オランダ、ユトレヒト大学の水文学者、マルク・ビエルケンス氏・NASAジェット推進研究所の水文学者ジェイ・ファミグリエッティ氏・英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者、キャロル・ダーリン氏・カリフォルニア大学デービス校でセントラルバレーの研究を行う水文学者、トーマス・ハーター氏がいます。

U.水源池の保全

1.水源池の保全に関する動き(日本水道新聞2012.4.2、2012.7.5)

 2006年頃から、北海道内では外国資本(特に中国系資本)による目的が不明確な森林買収が相次いでいました。2010年に北海道庁が実施した独自調査では、820haを外国資本などが所有していることが判明しました。尖閣諸島を巡って中国との軋轢が生じていた時期でもあり、道内では規制を求める声が高まりました。
 その後、国土交通省や林野庁の調査でも2006年〜2010年にかけて計40件、620haの森林買収があることが判明し、その内、北海道が36件と9割を占めていました。目的が不明な土地取引による水源の独占や水資源の枯渇が懸念されるようになったのです。

 日本では、後継ぎのいない林業従事者などが山林を手放すケースが増えています。一方、世界的な金余りで、山林が投資先として魅力が高まり、企業や投資家の購入が目立ってきています。日本の山林は植林から30〜40年たち、伐採期を迎えています。住宅投資が増え続ける中国資本などの投資意欲は高まる気配があります。また、住民生活に影響を与える飲料水や農業用水の水利権を獲得する狙いがあるとも言われています。

 外国資本の土地取引を禁止する法律として、1925年制定の「外国人土地法」があります。この法律は、国防の観点から、必要な土地は政令で外資の購入を禁止するものですが、戦後は一度も政令を設けてはいません。国土交通省は、実際に適用すれば、世界貿易機構(WTO)の相互主義に反する可能性があるという見解を持っています。
 日本の森林法では、1haを超える土地を開発する際には都道府県知事の許可を得る必要があるとしています。ただ、土地取得に対する規制はなく、水源地の保全に関するルール作りも地方自治体に委ねられています。1925年制定の外国人土地法は、「国防上必要な地区においては外国人の土地の取得を禁止、制限できる」としていますが、政令がないため機能していないのが実情です。なお、2012年4月に施行した改正森林法では、水源地保護を求める声の高まりを受けて、すべての森林売買に事後の届け出を義務付けました。

 国家安全保障の観点からも水資源は守る必要がありますが、土地取引に関して、日本はあまりにも自由な状態にあることが懸念されますね。

そこで、2010年頃から市町村単位での保全条例化が始まり、2010年9月の山梨県富士吉田市の「地下水保全条例」をはじめ、北海道ニセコ町が「水道水源保護条例」「地下水保全条例」を施行するなど、一定程度の地下水を取水する場合は事前許可制にするなどの独自対応をする動きが始まりました。

 県単位の動きとして、2012年3月、北海道議会は「水資源の保全に関する条例」を全会一致で可決し、同年4月1日から施行となりました。同じ日に、埼玉県も[水源地域保護条例]を施行、群馬県も6月に「水源地域保護条例」を施行し、2012年度に長野県も条例化に向けた動きがあります。

 北海道と埼玉県の条例では、水源地の適正利用の確保のため、まず、水源地域を指定・定義します。埼玉県では「水源地域」を「山間部の地域であって、水源の涵養の機能を有する森林の存するものとして、知事が指定する地域」と定義し、知事により指定します。土地の所有者がその権利を移転する場合、契約前(北海道では3か月前、埼玉県では30日前)に、知事に買い手の氏名や土地の利用目的などを届けなければならない「事前届け出制度」を導入しています。知事はこの契約について土地所有者に報告を求めたり、職員の立ち入り調査や関係者への質問を受けたり、契約内容についても助言ができます。また、届け出が無かったり、虚偽の届け出を行った土地所有者の氏名や内容の公表等ができます。
 条例施行後の許可申請等土地購入に関する目立った動きは無くなったそうです。

 ワサビ栽培が盛んな長野県安曇野市では、「地下水保全対策研究会」を立ち上げ、地下水源の所有や水利用に関するルール作りを始めています。「民間の所有者に水源を全て委ねていいのか」という意見が増えてきている傾向があり、地下水を「公水」と位置付ける新条例の制定も視野に入れているそうです。神奈川県秦野氏や熊本市も地下水の保全対策を講じています。

2.北海道水資源保護条例

 北海道水資源保護条例が制定された背景には、海外資本等による土地の取得が認められ、水源の周辺において利用目的が明らかでない大規模な土地取得もあることから、多くの道民が不安に感じていたことがあります。これによって、水源の周辺における適切な土地利用が求められてきたのです。
 2012年4月、「北海道水資源の保全に関する条例」が施行されましたが、先人から受け継いだ北海道民のかけがえのない財産である「水」を、持続的に利用し、次世代に引き継ぐために、北海道・市町村・事業者・道民がそれぞれの役割を認識し、一体となって北海道の水資源の保全に取り組んでいけることを目的としています。水資源を保全するために、道・事業者・土地所有者・道民の責務を定めています。
 
 水資源保全区域の指定は市町村からの提案に基づき、知事が指定します。2012.9.18に第一回の指定告示が行われ、18市町村の53地域が指定されました。合計面積17,614haで、地表水23、地下水30でした。第一回に間に合わなかった12地域の指定は2013年3月に行われる予定であり、今後2〜3年かけて水資源保全地域を増やしていくそうです。
 「水資源保全地域」内での土地取引行為については、1ha未満の土地でも、契約締結の3か月前までに届け出ることが義務付けられます。

<参考>
 日本の森林法では、1haを超える土地を開発する際には都道府県知事の許可を得る必要があるとしています。ただ、土地取得に対する規制はなく、水源地の保全に関するルール作りも地方自治体に委ねられています。1925年制定の外国人土地法は、「国防上必要な地区においては外国人の土地の取得を禁止、制限できる」としていますが、政令がないため機能していないのが実情です。

3.ニセコ町の水道水源保護条例(2012.10.11日本水道新聞)

A.条例制定の経緯

 北海道ニセコ町は羊蹄山やニセコアンヌプリの山々に囲まれる丘陵盆地で、人口4700人の町です。山林原野が町の面積の7割を占め、冬は2mを超える積雪と周囲の山々が豊かで良質な水を育んでいます。塩素を入れただけで給水されるおいしい水が町の自慢で、観光を主産業とする町にとって、ニセコの水は貴重な財産であり、平成14年に環境基本条例を定め、「水環境の町ニセコ」を掲げました。水源地、河川、湖沼、湿原等の環境保全に努め、健全な水環境と安全な水の確保のために必要な対策を講じる」ことを明記したのです。これを具体化したのがH23.4.27に制定した「水道水源保護条例」と「地下水保全条例」です。

B.水道水源保護条例

 町の水道水源15か所の内、7地区200haを水道水源保護地域に指定し、規制対象施設として
@ 水道の水質を汚染する恐れのある施設
A 水源の水量に影響を及ぼす恐れのある施設
B 水源を涵養する樹木の伐採が必要となる施設
C 取水を目的として水源の枯渇を招く恐れのある施設
を挙げ、水道水源保護区域内に設置してはならないとしています。

 設置に当たり町との協議が必要な「協議対象施設」としては
@ 給排水を利用する施設(ホテル、別荘分譲地など)
A 砂利採取場、岩石採取場、鉱物を採掘または土石を採取する施設
B 産廃処理施設または産廃保管施設
C 水質汚濁防止法に定める特定施設
を挙げています。
 違反者には、罰則規定として、1年以下の懲役または50万円以下の罰金を設定されています。

2017.1.16

4.東京都の水源林管理計画(日本水道新聞2016.7.25)

 東京都水道局は、計画期間を平成28〜37年度の10年間とする「第11次水道水源林管理計画」を策定、公表しました。

 荒廃した民有林を含めた多摩川上流域全域を視野に入れ、民有林を積極的に購入・整備していくことを初めて盛り込みました。東京都は2010年度から、多摩川上流にある民有林の買収に乗り出しています。多摩川は都内の水道水の2割を賄う水源です。平成27年4月1日時点で、多摩川上流域(総面積48,766ha)のうち22,776ha(約47%)の森林を水道水源林として管理しています。水道林管理の歴史は110年以上に及び、概ね10年ごとに策定する管理計画に基づき、森林の保育作業や基盤整備などを実施し、良好な状態を現在まで維持してきました。
 しかし、ほぼ同面積を占める民有林の多くは手入れ不足などから荒廃し、水源涵養機能の低下や土砂流出による小河内貯水池への影響が懸念されています。
 また、環境対策として森林管理への関心は高まっていますが、東京都水道局の水源地保全活動についての情報発信は不十分でした。

 このような課題を踏まえ、第11次計画では、「多摩川上流域全域を見据えた森林の育成・管理」を目的に掲げ、「水源林の管理」に加え、「民有林の再生」と「水源地を通じた社会とのコミュニケーション」を打ち出しています。
 民有林の再生では、所有者が手放す意向のある民有林の購入を引き続き進め、小河内貯水池周辺については、荒廃状況等を調査し、優先度を踏まえた購入計画を作成したうえで、積極的に購入していきます。ボランティア(多摩川水源森林隊)による保全活動も継続・充実していきます。
 水源地を通じた社会とのコミュニケーションでは、これまでの水道局主体の森つくりに加え、都民や企業、大学など多様な主体と交流・連携して、森林保全活動を展開します。
 また、水源地来訪者への広報を充実すると共に、平成30年の国際水協会(IWA)世界会議や東京オリンピック・パラリンピックなどの機会に、国内外の参加者・来訪者に水源林への取組みに関する情報を積極的に発信していく計画です。

V.地下水専用問題

2015.5.5

1. 地下水保全法の原案提示(2015.2.19日本水道新聞)

 水制度改革議員連盟が設置する水循環基本法フォローアップ委員会が検討を進めてきた地下水保全法(地下水の保全、涵養及び利用に関する法律)の原案がまとまりました。原案は水循環基本法が定めた水の公共性の理念に基づき策定されました。

 地下水を「地表面より下に存在する水」(温泉法と鉱業法の適用を受けるものを除く)と定義しています。そして、「地表水と一体的に水循環の基礎を構成する国民共有の貴重な財産」と位置づけ、地下水の保全・涵養及び利用の統合的かつ持続的な実施の必要性を明記しています。

 地下水の管理団体である地下水保全団体」には、都道府県を原則として位置づけています。地下水保全団体の枠組みは景観法が定める景観行政団体の考えに準拠しています。都道府県の同意を得られれば市町村が単独で保全団体になることも可能です。都道府県の区域をまたぐ場合は、都道府県共同での権限行使、複数の関係団体による広域連合の設置も可能です。
 地下水保全団体は地下水の保全・涵養・利用に関する地下水基本計画を策定できるほか、審議会の設置や関連制度について条例で定めることができます。具体施策の枠組みとしては
@ 地下水採取の許可
A 地下水保全涵養負担金の徴収
B 地下水保全特別区域・地下水水源保護区域の指定と土地の先買い
C 地下水の涵養・保全に関する調査とモニタリング体制の整備
などを、各団体における条例制定の根拠としています。

 国の役割は、
@ 主務大臣の諮問により地下水保全審議会を置く
A 地下水の保全・涵養等に関する技術研究、国民への社会教育・普及啓発、財政支援・技術助言等に努める
ことです。

<参考> 地下水の利用方法に関する提言(2007.2.19日本水道新聞他)

 国土交通省水資源部が設置している「今後の地下水利用のあり方に関する懇談会」は07.2.8に会合を開き、「健全な地下水の保全・利用に向けて」と題した報告書をまとめました。

1.地下水資源の保全・利用に向けた課題
@ 地下水は共有の水資源としての共通認識を醸成するために、社会への啓発と関係者の意識向上を図る
A 水循環系の構成要素としてのデータ整備・実態把握の必要性(科学的かつ定量的処理と電子情報化)
B 地下水収支が保たれる範囲内での利用を図るために、持続的可能性の観点から見た保全と利用の最適なマネジメントの実現
C 地域特性に即した保全・利用の促進

2.課題解決の基本的考え方
 地下水資源の利用に当たっては、持続的に利用可能な範囲内で利用し、地盤沈下や塩水化等地下水障害を招かないように、地下水資源の保全・利用をマネジメントしていくことが可能かつ不可欠なことから、そのための方法論を明らかにする必要があります。また、地下水管理者となる地方自治体の計画担当者に対して、どのようにして地下水に関する意識啓発や広報・指導、地下水のデータ整備や実態把握を行い、必要な施策を計画・実践・運用していくべきかをわかりやすく示すガイドライン(指針)が必要と整理しています。そして、この基本的考え方を具現化する手段として「地下水資源マネジメント」の考え方と具体的な手順を提案されています。

 「地下水資源マネジメント」とは、健全な地下水文循環にあって、地下水障害や枯渇を発生させない範囲で、地下水を水資源として持続的に保全・利用できる揚水・運営・管理の方法論であります。
 その主なポイントは、
@ 適正採取量(地下水涵養量より小さく地下水障害を起こさない量)を目安に、その範囲内で地下水資源の保全と利用のマネジメントを実践すること。
A 規模の違いによってマネジメントの目的や方法も違いがあるので、地下水盆や帯水層の規模と行政単位に着目し、
・局所(地区レベル)
・小規模(市町村レベル)
・中規模(都道府県レベル)
・大規模(複数の都道府県レベル)
に大別すること。
です。

 科学的知見に基づき、実態把握、計画策定、揚水マネジメント、観測・モニタリング、評価・見直しを定量的に行うことを基本に、
・数値シミュレーションモデルを活用した対象地下水盆の適正揚水量の数量化
地下水位に基づいた管理・モニタリング
PDCAサイクルに基づく継続的な取り組み
等を推奨しています。
 ただし、その根幹をなす各種観測データ、特に地下水採取量データの収集整備が進んでいない地域が多く、その収集・処理体制の整備に着手することが必要としています。また、今後地下水を水資源として利用していくに当たっては、地下水を「共有の水資源」として捉える共通認識を醸成していくことが課題としています。

 EU27カ国では、2000年12月に「水枠組み指令」を発効し、欧州全体で地下水と地表水を総括した水資源全体での統合的な管理がなされています。日本でも地下水を表流水と一体のものとして、保全・利用をハンドリングしながら付き合っていく時代が来たようですね。

2.ニセコ町の地下水保全条例(2012.10.11日本水道新聞)

 地下水の枯渇と地盤沈下を防止するため、揚水機(動力ポンプ)を用いての地下水の大量取水を規制するものです。吐出口の断面積が8cm(吐出口が2つ以上ある場合はその合計面積)を超える井戸を掘削する者は予め町長の許可を得ることとしています。
 許可申請を行うに当たっては、事前に関係住民への説明会開催を義務付け、必要に応じて関係住民との協定締結も義務付けています。許可の是非については、ニセコ町水資源保全審議会の意見を聞きながら判断を行います。
 許可を受けた者は規則で定める水量測定器を設置し、毎月の採取量を町長に報告する義務があります。
 なお、地下水の保全上、町は必要に応じて勧告および命令ができ、採取行為の一部停止を命じることができ、それに従わない場合は、罰金を含む罰則規定を設け、実効性を確保しています。

 課題としては
@ 地下水の実態把握の難しさ
 データの不備や地下水マップが無いため、地下水がどの方向にどのくらい流れているのか推計するしかなく、実際に許可申請が出たら、ケースバイケースで判断するしかないこと。
A 財産権の問題
 民法207条では「土地の所有権は法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ」とあります。ニセコ町の条例は私有地に対する開発規制になりますので、財産権に抵触するのではないかという懸念があります。水道水の確保や地下水取水による周辺への影響を考慮した場合、公共への福祉が優先するだろうとの判断ですが、地下水を公共財と位置付ける「水循環基本法」の制定が待たれます。
B 産業振興に支障が生じないか
 条例の審議に当たり、議会からは「地下水取水の規制は観光業を始めとした産業振興のブレーキとならないか?」という疑義が出されましたが、基準をクリアしてから開発を行った方が、(1)住民の理解を得やすい。(2)地域を大切にするという企業イメージの向上がある。(3)乱開発を防ぐ。という意味で企業にもメリットがあるという説明で、理解を得たそうです。

3.帯広市の地下水利用専用水道に対するバックアップ料金制度(日本水道新聞2011.12.15、2012.2.6、他)

A はじめに

 日本の水道料金体系はいわゆる福祉型逓増料金となっていますので、少量使用の一般家庭等生活用水は安価に提供し、大量に使う大口使用者には最高金額帯料金がほとんどを占める高額な水道料金が科せられることになります。結果として、企業にとって水道料金が経営の圧迫となっている事情があります。昨今、大深度ボーリング技術と膜処理システムの普及により、広範囲な場所で大量の水を簡易な管理のもとに調達することが可能となる浄水システムが売り出されています。このことが地下水の無秩序な利用開発を促し、水資源の保全や福祉を目的とした逓増型料金体系で運営する水道事業の経営を圧迫しかねない問題が全国的に報告されています。

 長野県安曇野市は工業用水やミネラルウォーター用水源としての地下水利用を規制するため、地下水を利用する企業に使用量に見合った協力金を求めることで地下水保全を図るための条例制定を目指しています。

 以下に、受水企業の地下水利用に対する給水条例の一部改正を2011.11から実施した帯広市の手法を紹介します。

B バックアップ料金設定への背景

 地下水利用専用水道の事業者は、専用水道に移行しながら給水契約は継続し、平常時は専用水道をメインに使用し、非常時のみに水道に依存しようという水道利用となりますので、平常時は地下水依存量が9割以上の使用形態で、ほとんど基本料金のみの負担で給水契約を続行している実態があります。
 帯広市の実態調査では、2006年度末で9事業者が地下水利用専用水道に移行し、年間約1億2千万円の減収になりました。職員定数や経費の削減による1億円の行革効果額は地下水専用水道への移行者により相殺されたことになります。2010年度末では12事業者が地下水利用専用水道に移行しています。以前は日量100m3規模程度の浄水プラントが多かったのですが、最近は50m3規模のプラントも出始めていて、より一層地下水利用専用水道への移行が拡大する可能性があります。
 水道施設の老朽化に伴う計画的な施設更新の実施は、水道事業体が安全・安心な水道水を持続して給水し続けていくために必要不可欠な事業ですが、施設の耐震化や更新を進めていくには多額の費用が必要となります。しかし、地下水利用専用水道がどんどん増えていけば、水道事業会計は赤字転落の危機に陥ります。
 一般市民は水道を利用し相応の建設コストを負担して頂いていますが、専用水道事業者は建設コストを適正に負担しないまま、いつでも必要量の水道を使用できる状況にある現状は、負担の公平性から大きな問題と言えます。非常時等に備え、給水契約等は従前の口径のまま継続されていますので、専用水道事業者の日最大給水量に備えた水道施設整備が水道事業者には求められ、過大な施設整備や維持管理コストが水道事業者に係ることになります。基本料金の負担だけで非常時の給水サービスを受けようとする者からも応分の負担をして頂かないと、施設更新費用を一般使用者のみに負担の求める不公平な状態になるわけです。

<参考> 別荘地の水道料金割高は差別(産経新聞2006.7.15)

 山梨県高根町(現北杜市)の避暑地、清里高原の別荘地に対して、高根町は平成10年4月に給水条例を改正して、月額の水道基本料金を一般世帯では1400円(100円の値上げ)、別荘地で5000円(2000円の値上げ)と改訂しました。その結果、一般世帯と別荘地とでは値上げ幅で20倍、基本料金で3.57倍の格差が生じました。このため、清里高原の別荘所有者111人が「一般町民より高い水道料金を設定しているのは不当」として、水道料金を改訂した給水条例の無効を求めた訴訟を起こしていました。

 1審・甲府地裁では別荘所有者の訴えが棄却されました。
 2審・東京高裁では、「法の下の平等を定めた憲法に違反し、不当な差別にあたる」として、値上げを定めた部分を無効とし、料金改定前との差額分約300万円の返還を町に命じました。
 最終審として、町は最高裁に上告しましたが、2006.7.14、「料金格差を不当な差別的取扱」として町側の上告を棄却し、2審通りの料金改定前との差額分約300万円の返却が確定しました。

 判決では、「別荘地の基本料金を別荘地以外の基本料金より高額に設定することは、水道事業者の裁量として許される」と指摘しています。
 新たな基本料金の設定根拠は、町がホテルなどの大口使用者を含む別荘地以外と別荘地との年間の水道料金負担額を同一水準となるように定められたものでした。これに対して、「水道料金は給水に要する個別原価に基づいて設定されるべきという原則に照らすと、大きな格差を正当化する合理性はない。」と判示しています。

 給水条例のうち、別荘地の基本料金を改定した部分は、公の施設の利用について不当な差別的取扱を禁じた地方自治法に反していることから、「無効」と結論づけています。

 その判決文の中に、「一般的に水道事業においては、様々な要因により水道使用量が変動し得る中で、最大使用量に耐え得る水源と施設を確保する必要があるので、夏季等の一時期に水道使用が集中する別荘給水契約者に対し、年間を通じて平均して相応な水道料金を負担させるために、別荘給水契約者の基本料金を別荘以外の給水契約者の基本料金よりも高額に設定すること自体は、水道事業者の裁量として許されないものではない。」という一文が付け加えられました。過大な負担を課すことはできないけれど、しっかりした根拠を示すことができれば、水源や施設を確保するために必要な金額を料金に付加することはできるわけです。

C 帯広市のバックアップ料金制度

 専用水道に移行しながら給水契約を継続し、平常時は専用水道をメインに使用するものの、非常時は水道水を利用することから、「バックアップ」という新サービスに対して料金を賦課するという考え方を帯広市は採用しました。負担金ではなく料金という扱いでした。
 年額は、年間の地下水量相当の従量料金に、総括原価における資本関係費用(減価償却費と支払利息)の配賦率(31.5%)を掛け、賦課料金の総額を算定します。この金額を口径と流量、専用水道事業者の数に基づき、口径ごとに配分します。バックアップ料金の総額は3351万6千円です。

 専用水道12社の内6社は医療機関でした。医療機関からの反論は「我々は厚生労働省の指導に従って複数水源化を図っている。何故バックアップ料金を払う必要があるのか?水道事業者は市民の命と暮らしを守る医療機関の使命を理解しているのか?」というものでした。それに対して、「複数水源化を図ろうとすることは理解できるが、それなら水道をメインに使用し、地下水をバックアップに使用すべきだ。コストの縮減が目的なのではないか?」と相手の主張を受け入れませんでした。
 @ 施設更新のための費用が不足していることと、このままでは市民にその負担を強いらざるを得ないこと。
 A 公営企業の経営が成り立たないこと。
 B 帯広市で企業経営を営む以上、企業は帯広の水を守る使命があるのではないか。
等の主張を繰り返し訴えて、議会の賛同を得ました。
 医療機関については、業務内容や社会的使命から複数水源を確保している事情を考慮し、1/2に設定しました。

 この制度の目的の一つには水道に回帰してもらうこともありますので、水道回帰へのインセンティブを与えるため、年間全体使用量に占める水道の割合が3割以上の場合は、バックアップ料金を50%、同じく5割以上では70%割引する制度も設けています

バックアップ料金の金額については以下の表に示す。

4.熊本市の災害時井戸水提供協定(2017.8.31日本水道新聞)

 熊本市は上水道の水源を全て地下水で賄っている都市では最も人口の多い(給水人口約70万人)都市です。阿蘇外輪山西麓から熊本市東部地区にかけては、阿蘇火山の火砕流堆積物が厚く積もり、非常に水を浸透しやすい地層が形成され、その下に、「基盤岩」と呼ばれる水を浸透しにくい地層があるため、地下水がたまりやすく、豊富な地下水に恵まれています。約400年前、肥後藩主となった加藤清正が白川中流域に水田を開きました。この地域は他の地域に比較して浸透能力が5〜10倍高く、「ざる田」と呼ばれる地下水涵養田の勤めも果たし、大量の地下水が涵養されることとなりました。

 H28年4月の2度にわたる熊本地震(最大震度7)は熊本県、大分県に甚大な被害を発生させました。長期間に及ぶ断水が発生し、多くの市民が飲料水・生活用水の確保に苦労しました。

 一方、停電が早期に復旧し、井戸水を汲み上げることができた多くの事業者は、地域住民へ無償で井戸水を提供しました。

 今後、同様な災害が発生した場合、上水道が復旧するまでの補完策として、民間事業者が管理する井戸水を飲料水・生活用水として活用する制度を整備しました。

1) 通常時

 熊本市は、井戸水を提供していただける民間事業者と「災害時における井戸水の提供に関する協定」を結びます。「熊本県地下水保全条例」に基づき報告を受けている地下水採水量3万m3/年を超える52事業所等(2017年8月末時点)と協定を締結しました。

 協定要件は以下の2項目です。
@ 普段から常時使用する井戸であること
A 「飲料用」として提供する場合は、平常時に、簡易10項目(濁度、色度、臭気、pH、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素、塩化物イオン、有機物(TOC)、一般細菌、大腸菌、硬度)の水質基準を満たすもの

 協定を締結した事業所は「災害用井戸プレート」、「災害用井戸の注意事項プレート」を掲示します。
@ 市は、HPに事業所の名称・所在地等を掲載する。
A 市民は、事業所が指定するルール(駐車場、取水場所、取水時間等)を守ることと、井戸水を入れる容器は自分で用意します。

2) 災害時の対応

@ 市(水保全課)は、上水道の断水の状況、今後の復旧見通しを確認します。
A 事業所に対して、事業所の被災状況や井戸水の提供が可能か聴取する。「飲料用」の提供を予定している事業所に対しては、検査結果が判明するまでは「生活用水」として提供するよう依頼する。
B 井戸水の提供が可能な事業所の名称・所在地等を公表する。
C 事業所は、「生活用水」として井戸水の提供を開始する。
D 市が「飲料用」としての提供を予定している事業所の水を採取し、水質検査を実施する。
E 水質検査の結果が判明し、水質に異常がないことが判明した事業所にはその旨を連絡する。
F 「飲料用」としても受け入れられる事業所を公表する。
G 事業所は「飲料水」としても提供を開始する。

5.長岡京市(2013.2.21水道産業新聞)

 長岡京市は昭和51年という早い段階で「地下水は公水」という考え方から、水道事業者以外の地下水利用者にはハードルの高い地下水規制・取水制限を設けたことによって、現在においても地下水専用水道への転換や増加は無いのだそうです。

長岡市の水道事業は地下水を水源として昭和38年から給水を開始しました。市は京都と大阪の中間点にある立地の良さ、交通の便に恵まれているため、昭和30年代から企業進出が進み、工場などの地下水利用が拡大しました。市は水源である地下水を守るため、昭和51年に地下水を公水と位置付け取水規制に関する条例を制定し、早い段階から地下水規制・制限によって、現在においても地下水専用水道への転換や増加は見られません。

 長岡市の条例は、生活用水の水資源を保全し、地下水の枯渇、地盤沈下などの防止を目的としています。水道事業用井戸と揚水機の吐出し口の断面積が19cm2未満(口径50mm未満)の施設と動力の無い揚水機は対象外です。
 新設井戸、既存井戸の堀替えを対象に、井戸設置は許可制とし、新設揚水機吐出し口面積は88cm2(口径100mm)以下、ストレーナの位置は120m以深、揚水量は1500m3以下であり、市の立ち入り調査権も定めています。

 昭和57年には、地下水取水事業所(現26社)で構成する財団法人・水資源対策基金を設立し、地下水取水事業所から取水量に応じた負担金を求めています。負担金は地下水保全のための水源涵養事業や小学校に地域交流井戸(校内の散水、ビオトープ、災害時のマンホールトイレへの配水)の設置等を行っています。H25年度には全小中学校16校への整備が終わります。

6.神奈川県企業庁(2013.2.21水道産業新聞)

 神奈川県企業庁では、平成13年に宮ヶ瀬ダムが完成したことで、渇水リスクは大幅に少なくなりましたが、水需要の減少による水道料金の減収傾向が続いています。そのため、給水区域内の企業などが地下水利用から県営水道に切り替えた場合、水道料金と水道利用加入金を減免する制度を平成23年度から導入しました。減免制度により確保している水量を有効に活用しようという狙いです。
 地下水の全量または一部を県営水道からの供給に切り替えた場合、申請に基づき、増加した水道使用量の料金の40%を減免するものです。1000m以上増加した月の料金が対象となります。

 また、地下水利用者が地下水の全量を県営水道からの供給に切り替えるにあたって、新規の水道利用申し込みや給水装置の口径を大きくする場合、申請に基づき、水道利用加入金の50%を減免します。
 この他、研究所、本社、工場を立地する場合には、区分に応じて水道利用加入金の20%または50%を免除する制度も作りました。
 
 地下水利用からの切り替え実績は、H23年度とH24年度で1件づつ、一部の切り替えがあったのみだそうです。件数は少ないのですが、使用水量は多いので、料金収入としては大きいとのことです。

7.神戸市(2013.2.21水道産業新聞)

 神戸市水道局は平成23年に、地下水利用者に対して[届け出義務]や「水道水の水質適正管理」・「固定費負担」を課す「地下水等併用水道制度」を条例制定しました。

a 届け出義務
 「届け出義務」は地下水利用者のより一層の実態把握を目的とし、メーター口径25mm以上で水道水を地下水等の補給水として利用する場合を対象とします。
 平成23年10月1日以降、地下水等の設備を設置する場合(新規利用者)は工事着工の前日までに、既存の地下水等利用者(既設使用者)は同年10月1日から半年の間に、水道局への届け出を義務付けました。
 形態は、@水道水と地下水を混合して使用 A飲用以外の雑用水等に水道水の一部と地下水等を混合 B水道水と独立して地下水等を使用するが、補給水利用が可能 Cそれ以外 の4パターンを想定し、計画使用水量設備状況を届け出てもらいます。
 水道水を地下水等の補給水として利用し、給水装置の口径に比べて、日常の水道水使用量が少ないと、水道水の停滞による水質悪化や地下水利用者の都合による水道水使用急増が生じた場合、周辺地域での赤水が発生する可能性があります。また、現行の料金体系では、給水するための施設を維持・整備する経費が適正に回収されなくなる恐れもあります。この点を地下水等利用者に理解頂いて協力してもらうという考え方です。

b 水道水の水質適正管理
 水道水の水質保持のため、@地下水利用者に一定量以上の水道水利用をお願いする。 A水道水使用量の急増の場合は水道水と事前協議を行う 等、給水装置工事施行基準に基づく必要な措置を想定し、指導を行います

c 固定費負担
 水道局と新規利用者が2か月ごとの協定水量=水道水計画使用水量+水道水補給水計画使用水量 を設定します。協定水量が水道水計画使用水量の3倍を超えた水量について、水量区分別基準単価を乗じて固定費(下図a〜f)を負担してもらう仕組みです。水道水実使用量が水道水計画使用量×3を超えていた場合は、(協定水量―水道水実使用量)(下図g’)が固定費となります。
 もし、水道水実使用水量が協定水量をオーバーした場合は、超過分について、従量料金相当額の3倍の違約金を支払ってもらいます。

  

  固定費の水量区分別基準単価

水量区分

基準単価

60m以下

155

61m〜120m

195

121m〜200m

230

201m〜600m

250

601m〜2000m

285

2001m以上

310

2018.1.9

8.JR東海の地下水採取工事差し止め裁判で摂津市が敗訴(2016.9.22・2017.7.24日本水道新聞他)

 大阪府摂津市、茨木市にまたがる東海道新幹線鳥飼車両基地において、JR東海が茨木市域で計画している地下水の採取に対して、隣接する摂津市が掘削工事の中止を求め、大阪地裁・大阪高裁と争われていましたが、2017年7月12日の判決でも、大阪地裁と同様に、JR東海の言い分が認められ、摂津市は敗訴しました。摂津市長は判決を不服として上告する方針を示しています。

 問題の発端は平成26年9月に、JR東海が鵜飼基地で車両に使う水を確保するため、摂津市内ではなく、茨木市域で井戸の掘削を始めたことです。鳥飼周辺地域の地盤沈下に対処するため、摂津市とJR東海(当時国鉄)他市内75社と締結した昭和52年に交わした地下水採取禁止の覚書(摂津市環境保全協定8条)について、「摂津市と交わした環境保全協定の効力は茨木市内には及ばない」というJR東海の考えなのです。

 新幹線鳥飼車両基地では、旧国鉄の新幹線開業に伴って、昭和39年から、1日2000〜2500m3の地下水を採取していましたが、周辺地域の地盤が昭和52年までに最大54cm余り沈下しました。このため摂津市は、昭和52年に、旧国鉄を含む周辺76事業所と環境協定を結び、地下水採取の中止を取り決めました。当時約2000tを汲み上げていた旧国鉄は、地下水を浄水や工水に切り替える対策を行いました。JR東海となった平成11年には、JR東海もこの取り決めを受け継いでいます。

 <参考>環境保全協定書(平成11年4月6日締結)
第2条 事業者(JR東海)は公害関連法令及び大阪府生活環境の保全等に関する条約に定める特定施設もしくは届出施設、その他公害の発生の恐れのある施設を設置し、または変更しようとするときには、事前に市と協議するものとする。
第8条 事業者は、地下水の保全及び地域環境の変化を防止するため、地下水のくみ上げを行わないものとする。

 鳥飼車両基地の97%は摂津市域ですが、残り3%は茨木市域であることから、JR東海は
@ 電力の2系統化を図るのと同様に、水道と地下水の2系統化により日本の大動脈の運航を確保する
A 災害などで水道がストップしても車両基地への優先的な給水の確保がされていない
B 地下水を汲み上げるのは茨木市域であり、750m3/日程度の採取では地盤沈下の恐れはない
C 地下水採取に伴い環境影響モニタリングを行う
ということを理由に2014年9月から試験掘削を開始しています。
 なお、2014年10月にJR東海が摂津市に示した書面では
D 茨木市域での採取なので摂津市との環境保全協定の適用を受けるものではない
E 大阪府に工業用水法の井戸使用許可事前協議書を提出した
ことを理由に、地下水利用への理解を摂津市側に求めています。

 これに対し摂津市側は
@ 協定は事業場の操業に関して締結したものであり、適用範囲を摂津市市内に限るものではない
A 鳥飼基地の97%は摂津市市内にあり、茨木市内で協定違反があればその影響は摂津市にも及ぶ
B 将来の地盤沈下を防ぐために車両基地内では地下水の汲み上げは行わない趣旨で協定を締結した
C 協定はJR東海関西支社との間で締結している。協定は行政区域に関わらず車両基地が対象となる
と主張しています。

 一審判決
@  環境保全協定の効力は茨木市域には及ばない。
A  環境保全協定書は条例を補完するために締結されたにすぎず、第8条に法的拘束力はない。
B  地盤沈下が再発する危険性や地下水の管理のあり方については触れていない。
と判断しました。

 大阪高裁の二審判決は、
@ 環境保全協定は鵜飼基地全域に及ぶ。
A 水を汲み上げたとしても、環境を悪化させる具体的な恐れがない
として、結果的には、一審に引き続き地下水利用の差し止めを退けました。 

 JR東海が鳥飼基地で使う水道料金は年間1億円で、摂津市の水道料金収入の5%を占めていて、水道会計への影響は大きいものです。JR東海にとっては割安な地下水を掘削・利用して、水道料金負担の軽減を図りたい思惑があります。背景には、リニア新幹線の建設資金をJR東海が自前で調達するため、地域との摩擦もやむを得ないというお家事情があるとの声もあります。

 また、現時点では地下水は民法上土地所有に付属する財物として取り扱われていますが、地下水は地下を流れ、地盤を構成している要素として、表流水と同様に公水として捉える考えが台頭してきています。
 2014年3月に成立した水循環基本法では、地下水を「公共性の高いもの」と定義されていますが、担保する手立てが明確になっていません。

 大都市の給水区域内で増加している地下水専用水道の大規模版とも言えるこの問題は、今後の地下水ビジネスのさらなる進展が懸念されますね。

2011.09.09   初版
2013.03.06 記載内容の充実を図り大幅改定
2013.07.29 記載内容を水源地の保護と地下水専用問題とに分け、内容を補追する。地下水専用水道に長岡京市、神奈川県企業庁、神戸市の例を追加記載
2015.03.07 造水促進センターの地下水利用状況アンケート調査結果を追加
2015.05.05 地下水保全法の原案提示
2017.01.15 地下水の使いすぎ懸念を追加し、内容を再編集
2018.01.09 「JR東海の地下水採取工事差し止め裁判で摂津市が敗訴」を改訂