積雪寒冷地における凍結防止策

はじめに

 ポチは温暖な瀬戸内気候の中でも比較的自然災害の少ない広島県沿岸部で水道事業を営んでいました関係上、今回のテーマである「積雪寒冷地における凍結防止策」については、全く知識がありませんでした。昨年(2011年)、凍結防止対策について意見を求められたことがあるのですが、当然のことながら、ノーコメントしか言いようがありませんでした。

 しかし、温暖な広島県内といえども、年に一度か二度くらいは−3〜―5度程度の極寒気温となることがあり、ろ過機のような外置き機器におけるメータ等の計器破損事故が毎年のように生じていて、維持管理している現場職員は寒波が来るたびに苦労をしている実態があることを知りました。にもかかわらず、この地方での浄水機器には凍結対策らしい対策はほとんど施していません。最近では、「沖縄県を除く事業体では、計器等の凍結防止策は不可欠」との認識を持つようになっているのです。

 2012.7.9日本水道新聞の水道座談会「積雪寒冷地編」を読みまして、非常にタイムリーな企画に遭遇したなという感激(ややオーバーですが)から、その内容を皆様に紹介しようとまとめてみました。この座談会は旭川市の担当者とそれに関わるコンサル、企業の方々のご意見です。北海道・東北地方全域での一般論的な凍結防止策の内容とは言えないかもしれませんが、この点を考慮してお付き合い願えば幸いです。

1.旭川市の冬の状況と水道施設の耐寒目標

 旭川市の年間降雪量は5〜8m、2012年1月の平均気温は−9.4℃、2011年度の−20℃を下まわった日が7日でした。雪解けは平年より11日遅い4月19日でした。

 冬季の最低気温は−20℃以下に下がるため、水道施設は−30度に耐えられることを目標にしています。

2.取水の凍結

 河川付近の水温が低くなると、一定量の水量・流速を確保しなくては取水口付近がすぐに氷結します。寒い日は約30分で川面が完全に氷結します。河川水量が減少せざるを得ない水量状況であれば、河川自体が凍ることもあります。

 アイスジャムが導水路や沈砂池に入ると閉塞して取水停止になる恐れがあります。平成11・12年はジャムによる取水停止が数回ありました。平成13年1月には約27000世帯が5時間ほど断水する事態が生じています。
 取水口のやや上流に45°のアイスブームを設け、アイスジャムを取水口以外の方向へ導こうと計画ましたが、うまくいかなかったようです。ドルフィンゲート取水なので流水取水となりますが、流水に混入している氷を除塵機で除去しようとすると、過負荷により動かなくなりました。
 対策として、河川や沈砂池の中に水中ミキサーを設置して、水の流れを強制的に作り、氷結やジャムの発生を防止しています。この対策も、−20℃以下の寒さや暴風雪が発生すると、取水停止のリスクが高くなります。寒さが厳しかった2012年冬には、0.8m3の大型バックホーを取水口付近と沈砂池に待機させ、7日ほど稼働しました。

 ジャムの発生を防止するためには河川に一定流量があることが必要です。北海道その他の利水者の理解を得て、取水口の22Km上流(放流後8時間で取水口へ到達)にある愛別ダムから緊急時の放水を依頼しています。旭川市の取水量は4m3/秒程度ですが、冬季は取水量の5倍の河川流量がないと安定的に取水できません。他の水利権者や河川管理者の理解と協力が必要な措置です。

 冬季は取水施設を有人監視とし、浄水場からもインターネットで24時間監視できる体制をとっています。

ドルフィンゲート

  

アイスジャムは、川の上流の氷片が下流に流れてきた際、川幅が狭い等の理由によって、下流側に次々に氷が集積し滞留する現象です。狭い海峡や河川に砕けた河氷海氷が詰まった状態を言います。

写真は旭川市忠別川浄水場取水口付近の水路に溜まったアイスジャムを重機により除雪・結氷の破砕を行っているものです。

サロマ湖の防氷堤(アイスブーム)

 オホーツク海とつながるサロマ湖第一湖口で、流氷が湖内に侵入するのを防ぐ目的で、世界初の「アイスブーム」が建設されました。
 アイスブームは、湖口から約400m湖に入った地点を中心に、半円を描くように約14本の支柱を110m間隔で打ち込み、直径1.2mの円筒ブイと深さ4mのワイヤネットで流氷を受け止めるもので、1枚のネットで約500tの荷重に耐えられる施設です。(流氷の侵入により、ホタテガイ養殖の被害を防止する施設です。)

3.浄水場の問題点

@ 浄水装置の保温

浄水施設は沈砂池以外すべて屋内に納めています。
配管等の機器の凍結防止のため、気温が3〜5度程度になるよう暖房対策を行います。2012年冬の暖房費用は1000万円ほど使用しました。暖房装置から少し離れた位置の配管は凍結する恐れがあるので、温度管理には注意が必要です。
・水温が冷たく配管外部の温度が温かいと結露が発生し、設備の腐食・故障につながるケースがあります。

A 浄水処理

 冬場と夏場で原水水温の変化が激しいのが浄水処理上のネックです。冬季の低水温時の低濁度処理春先雪解け時(低水温で濁度・色度が高い場合)の凝集処理は非常に厄介です。

1.凝集沈殿・砂ろ過方式
 表流水取水の凝集沈殿・砂ろ過方式では、冬季は低濁度・低色度で低水温のため良好なフロック形成が困難です。そのため、凝集剤をろ過池直前で少量の凝集剤をもう一回注入する二段凝集を行います。二段凝集処理では、沈澱池出口に撹拌装置がないと注入むらが生じ、ろ過池に負担がかかるケースもあります。

2.膜処理
 北海道における膜ろ過流速は本州の1/2〜1/3程度低下させて運転させなければ、厳冬期と融雪時期に対応するのは非常に難しい状況にあります。北海道で5千トン処理の浄水場は本州の1.5〜2万トンの浄水場に匹敵すると言われています。

3.その他
・次亜塩素酸ソーダや凝集剤の凍結防止として、テープヒータを設置するなどの工夫が必要。
・浄水場の道路には除雪スペースが必要。
・防水工事の養生期間が本州より長く必要。

4.配水管や給水装置の凍結防止

@ 配水管の凍結防止対策

水道管の凍結防止策は 
・ 水道管を氷点下に下がらない環境に置く
・ 水道管を何らかの熱源により温める
・ 常に水道管内の水を動かす
・ 水道管内の水を空にする
です。
 旭川市は配水管の凍結防止対策として、管内流量を一定に保つよう管末での排水管理を行っています。2011年度は40.5万m3(配水量の1.1%)を排水をしています。排水管理による管内流速を一定程度に保っているため、127個所ある橋梁添架部で、電気保温を施している個所は1か所でだけです。

A 漏水調査と冬季の漏水修繕方法

 漏水調査や修繕工事は、可能な限り春先や秋口に行うよう心掛けています。

 凍結対策深度として、配水管は1.4mとしています。積雪により路盤が0.5〜1mは凍っているので、漏水が地上に現れることは皆無です。
 漏水検知方法は、制水弁を操作して流水音を感知します。ソフトシール弁は流水音の確認が難しいので使用していません。過去の漏水実績等を頼りに試掘し、管路を露出させ、超音波流量計をかけて漏水発生個所を割り出します。最終的には、相関式漏水感知器で漏水個所を特定します。

 冬季の修繕工事は、凍土部分の掘削や路面舗装時の保温工事が必要で、夏季に比較すると工事費は4割アップとなるそうです。

B 消火栓の維持管理

 消火栓の埋設深度は1.5mで、そこで弁を閉め、上部に残った水をポンプで抜き取ります。この作業を怠ると凍結により緊急時に使用できなくなります。このため、冬季は水道局が全ての消火栓を2〜3回巡視点検しています。凍結している個所を見つけた場合は、蒸気を入れて解凍します。

C 給水装置

1.メータの凍結防止
 給水装置の設置深度はを1.2mです。メータは、埋設深度が深く(1m程度)目視による読み取りがしにくいことと、年間4〜5か月は雪に埋もれるため、電子式隔測メータを採用しています。
 また、メーターボックス内は空洞なので、地上が除雪されると寒気の影響を受け凍りやすくなるため、断熱材を入れてメータ本体の凍結を防止しています。このような事情で、メータ交換費用(機器費+工事費)は29000円と割高になっています。
 秋田湯沢市では、隔測メータは配線工事や取付位置について需要者との了承を得る等の対応が必要なことから、無線検針を採用しています。

2.屋内給水管の水抜き栓や解氷装置設置の奨励
 規制緩和により、現時点では屋内給水装置に関する規制や指導は行っていませんが、以前は、外傷に強く凍結時の電気解氷機が取り付け可能な金属管の使用を推奨し、立ち上げ管には解氷用のさや管を設けたり、防寒材による断熱対策を行うよう需要者に働きかけていました。樹脂管用にはスチームクリーナーを解氷用に使う製品があります。

 旭川市では、高断熱の家ではほとんど水落としが必要ないほどの凍結防止状況になっていますが、水抜き栓が不要という認識ではありません。家の断熱性が向上して水抜き栓の使い方が解らない需要者が増えています。

2016.8.29日本水道新聞)
 水抜栓の構造ですが、下図1は器具に立ち上がり管が組み込まれ、屋外水道の水抜に使用するタイプです。図2は器具に立ち上がり管を接続することで、屋内水道の水抜に使用します。

 平成28年1月に中四国や九州地方を連日寒波が襲い、屋外の散水栓などの給水管が凍結破壊する漏水事故が多発しました。北海道や東北地方などの寒冷地では不凍水栓が使われていますが、それ以外の地域でも寒冷期の凍結防止対策を考える必要があるかも知れません。(図は竹村製作所製品)

D 検針

 冬季はハンディターミナルのバッテリーがもたず、予備のバッテリーを約3セット持ち、肌で温めながら検針を行っているそうです。

2012.07.29 初版