2006年度の水道事業体の方が聞かれた口頭試験の特徴として、「おいしい水であなたが重要と思うことは何ですか?」とか、「あなたの事業体が供給する水はおいしい水ですか?」という「おいしい水」について問われた質問が気になりました。そこで、「おいしい水」について整理し、おいしい水造りの事業体の取組状況についてまとめてみました。参考にしてください。
最近、飲み水には浄水器を通した水やミネラルウォーターを使っているといったような話を聞きます。では、「おいしい水」とは、いったいどのような水なのでしょう?
水の「おいしさ」は、のどの渇きなど飲む人の体調や気温などの環境条件によって感じ方が違い、一概には決めにくいものですが、一般的に「水温が低い」、「適量のミネラルを含む」、「異臭味がしない」ときに、おいしく感じるといわれています。
このことを科学的に解明しようと、厚生労働省では昭和60年に「おいしい水研究会」を設置し、水に含まれる成分などから「おいしい水」の姿を明らかにしようとしました。
「水の味は水に含まれる成分によって決まり、そのバランスによって微妙に変わる。」ということであり、「おいしい水」とは「安全で、かつ、おいしく飲める水」と定義付けられています。
具体的には、
@ 体に害を与えるものが入っていないこと
A 無色で透きとおっていること
B 飲んだ後でさっぱりとした感じがすること
C 水の温度が15℃〜20℃であること
D 嫌なにおいがしないこと
ってところでしょうか!
以下に「おいしい水研究会」が発表した7つの項目と水質要件を紹介します。
1)蒸発残留物:30〜200mg/L
水中には,見えるものも見えないものも含めていろいろな物質が混ざっています。この水を,火にかけるなどして蒸発乾固させたときに残ったものを,「蒸発残留物」といいます。蒸発残留物に含まれる無機塩類は味に影響し,多すぎても少なすぎても味をまずくします。
2)カルシウム・マグネシウム等(硬度):10〜100mg/L
「硬度」とは水中に含まれるカルシウムやマグネシウムの量を示したもので,一般的に「ミネラル」と呼ばれています。飲料水中に多すぎると口に残るような味がしますし,少なすぎると淡泊でコクがなくなるといわれます。
3)遊離炭酸:3〜30mg/L
「遊離炭酸」とは水中に溶けた二酸化炭素(炭酸)の量を示したもので,適度に含まれると水がおいしく感じられます
4)過マンガン酸カリウム消費量:3mg/L以下
「過マンガン酸カリウム消費量」とは,水中の有機物(たとえば糖類など)の量をまとめて示す項目です。硫酸で酸性にした水を煮沸したとき,過マンガン酸カリウムという物質をどれだけ消費するかで数値が示されます。多いと水はまずくなります。
5)臭気度:3以下
水に臭気がある場合,どのくらいまで薄めれば臭いを感じられなくなるかを示したものです。臭気の種類にもよりますが,通常臭気が感じられれば水はまずく感じられます。ただし,水道水には残留塩素が必要ですから,これは臭気の対象から除かれます。
6)残留塩素:0.4mg/L以下
水道水には,消毒のために塩素が加えられています。「残留塩素」とは,加えられた塩素の残量を示したもので,衛生上0.1mg/L以上含まれていることが義務づけられています。多いと水にカルキ臭をつける場合があります。
7)水温:20℃以下
夏に水温が上がるとあまりおいしく感じられません。適温は10〜15℃くらいのようです。
@ 水源対策
水源保全の取り組み
貯水池水質改善
A 水道施設の改良や水質管理の強化
高度浄水処理システムの導入
HACCPの考えを取り入れた水安全計画の策定
残留塩素濃度の低減化
浄水場での塩素注入量を減らし給水所で追加塩素注入塩素の多点注入方式
残留塩素濃度コントロールシステムの開発
B 配水管における水質劣化対策
老朽配水管の布設替
経年配水管の洗浄
C 給水装置対策
直結給水への切替促進
小学校等教育機関の水飲み栓直結給水化
貯水槽水道の適正管理
D 水道水の安全・安心PR
水道事業体の広報誌による広報活動
HPの充実
浄水場施設見学
水道出前口座の開催
大阪市水道局は、「すっきりとしたまろやかなおいしさの水道水」の供給を目指し、独自の数値目標を掲げた「市おいしい水指標」を設定しました。他の自治体でも水道水の評価指標を設けていますが、同市の指標は公募した市民に試飲してもらって客観的な評価を加えるほか、水道水特有の塩素臭さを測る「カルキ臭強度」を全国で初めて盛り込んだのが特徴です。
新指標設定は、市民の感覚を反映させて「おいしい水道水」を追求するとともに、市民に水道行政への理解を深めてもらうのが狙いです。ボトル入りのミネラルウオーターなどが普及する中、安全・安心な水道水を市民に提供することを目指し、昨年5月に策定した「市水道おいしい水計画アクションプラン」で掲げた施策の一つなのです。
新指標は、水道水を「味」「におい」「快適さ」「お客様評価」の4項目で評価します。
「お客様評価」は、市民40人に試飲してもらい、8割以上の人がおいしく感じることを基準としています。このため、小学1年生以上の市民40人(「水のソムリエ」=「おいしい水テイスター」)を募集して、浄水場で年3回の試飲会を行う予定です。
「におい」は、▽カルキ臭の強度▽遊離残留塩素▽かび臭さ―について目標値を設定しています。カルキ臭強度は、市民に異なる塩素臭の水をかいでもらい、不快感が少なかったものを目標値にします。市によると、ほかの自治体では、塩素臭さは水道水に付き物として評価項目に入れず、塩素を取り除いて「臭気強度」を測るところが多いそうです。
また、試飲会では、浄水過程の説明なども行い、同局を身近に感じてもらえるイベントにします。指標の達成状況は、市のホームページで公表されます。
@ 味指標
硬度=10〜100mg/L
TOC(全有機炭素)=0.8mg/L以下
A 臭い指標
カビ臭=0(検出されない)
カルキ臭強度=今後おいしい水テイスターのモニターアンケートにより設定
遊離残留塩素=0.1〜0.4mg/L
B 快適さ指標
水温=15°C以下
C お客様評価指標
おいしいと感じるお客様の割合=80%
大阪市水道局では、水道水の「おいしさ指標」に、一般市民の評価を組み込む「おいしい水テイスター」制度をスタートします。市民に「水のソムリエ」として実際に水を飲んでもらい、80%以上がおいしいと感じるかどうかをおいしさ指標に加えるものです。これまでは硬度など客観数値だけでおいしさ指標を設定してきましたが、これからは、大阪市民の舌がおいしいかどうかの判定に加わります。
大阪市の水は高度浄水処理を導入してから味も改善してきており、さらに、おいしい水を目指して、水道水の硬度、全有機炭素(TOC)カルキ臭強度、水温などを指標に「おいしい水指標」を設定してきました。しかし、科学的なデータだけでなく、実際に飲んでおいしいと思うかどうかが大事との観点より、市民から「おいしい水テイスター」を募集し、実際に判定してもらうことにしました。
「おいしい水テイスター」は大阪市に住む小学生以上が対象で、抽選で40人を選び,2008.3.1のイベントで「きき水」をしてもらうそうです。
2007.12.06
福岡市水道局では、直結給水の促進を目指し、市内小・中学校の各1校で、2007年の夏休みを利用し、貯水道方式から直結式への切替工事を実施し、モデル校の小・中学生約100人にアンケート調査を実施しました。
「学校の蛇口から出る水を飲みますか?」という設問に対して、直結化の工事前は「飲む、時々飲む」が47%だったのに対し、工事実施後は90%が「飲む、時々飲む」と答えていました。水道局や学校関係者が驚くべき高評価だったわけです。ともすれば、貯水道方式であったための長期休暇の水道水滞留や夏場の水温上昇などから、蛇口から水道水を直接飲むことは敬遠されがちであったのですが、今後、直結化による効果や水量水圧の変動などの影響を検証し、蛇口の下に「直結給水シール」を貼って、直結給水によるフレッシュな水道水のPR活動を展開するそうです。
2007.04.09
東京都水道局は07.4.1から直結給水方式の普及拡大策として、切替工事費の見積りや工事内容の相談を無料で行う「直結切替え見積りサービス」を開始しました。直結給水は新築のほとんどで採用されているものの、既存建物では貯水槽水道からの切替えがなかなか進んでいません。切替え工事費など工事に関する具体的な情報が利用者に提供されていないことが原因と考え、今回のサービスを行うことになったものです。
「直結切替え見積りサービス」は無料で見積もりを行う見積りサービスと、その内容の相談に応じる相談サービスがあります。
見積りサービスは、指定給水装置工事事業者のうち、無料のサービス提供に協力する水道工事店が「見積りサービス実施店」として、現在120社以上が登録されています。この実施店に依頼して見積書を作ってもらいます。実施店は現地調査を行い、個別の建物に応じたきめ細かい見積内容を提示し、内容を説明します。このサービスは、貯水槽容量10m3以下で2社までは無料です。
見積書の内容について相談したい貯水槽水道設置者は、東京水道サービスに相談サービスを依頼します。工事実施店ではない第三者が相談に応じることで見積の信頼性を確保でき、トラブルの未然防止に役立ちます。
東京都は平成16年度から約22万件の貯水槽水道を点検しており、その調査時にこのサービスを紹介し、希望者には「見積りサービス実施店」のリストを提供します。この取り組みにより、新築だけでなく既存建物でも直結給水が採用され、安全でおいしい水の供給につながるものと期待しています。
2007.03.29
千葉県水道局は07.3.28に平成27年度までの10カ年を計画期間とする「おいしい水づくり計画」を策定しました。この計画は、@おいしい水づくりに向けた技術的取り組み、A安全・安心・おいしい水キャンペーン、Bお客様と協働した取り組み、で構成されています。
@ 印旛沼原水の凝集改善など水源に適した浄水処理技術を産学官で共同研究する。
A 残留塩素低減化策として、配水系統毎や管網途中に於ける塩素の多点注入方式の導入、および、千葉県独自で開発・発展させた残留塩素濃度コントロールシステムの構築
B 赤水の発生や水質劣化の原因となる老朽管布設替えの推進
C 経年配水管の定期洗浄を強化する。
平成27年度の目標値(達成率)は一般市民などで構成する懇話会での利き水やアンケート結果など、実際に飲んでもらう利用者の感覚を参考に設定されたものです。いわば、専門的な知見と併せて実際に飲んでもらった感想を基に、市民と一緒に造った目標値といえます。
残留塩素濃度の達成率 | 0.4mg/L以下 |
臭気強度の達成率 | 100% |
2−MIB | 1ng/L以下 |
ジェオスミン | 1ng/L以下 |
有機物の達成率 | 1mg/L以下 |
色度の達成率 | 5度以下 |
濁度の達成率 | 0.1度以下 |
総トリハロメタン | 0.031mg/L以下 |
@ おいしい水づくり計画のオフィシャルサイトの設置
A 水道出前口座の取り組み
@ 「おいしい水づくり計画」の達成状況の評価は、「(仮称)おいしい水づくり推進懇話会」に報告し、客観的な評価を得て毎年度公表されます。
A 「ウォーターメイト制度」
利用者に自宅の蛇口の残留塩素などの水質検査や味などの水道水に対する感想を報告してもらう制度。数値や感覚的な評価も水作りに反映していくつもりです。
2007.03.01
日本水道協会では「安全でおいしい水道水推進運動」を06年10月から展開しています。これは、水道事業を取り巻く環境が水道水源の水質汚濁による異臭味問題や、新たな水質問題によって水道水の安全性に対する信頼性が損なわれていることに加え、厚生労働省がH16年に策定した水道ビジョンでは、「全ての国民が安心しておいしく飲める水道水の供給」が掲げられていることに起因します。これらの対策として、水道事業体で行われている高度浄水処理の導入、水源保全への取り組み、小学校での出前口座の開催等を積極的に情報発信していかなくてはなりませんが、水道事業体の単独活動では限界がありますので、日水協が中心となり情報発信に取り組むものです。実施期間は平成21年3月までです。
@ 日水協が実施する事業
1) 専用ホームページの立ち上げ(07年3月)
2) ポスターの配布
3) 平成16年に発売のブロック宝くじに水道関連のデザイン掲載
4) 水道週間中央行事における関連行事の開催
A 水道道事業体に依頼する事業
1) 水道事業体発行の広報誌による広報活動の実施
2) 施設見学者へのPR
3) 教育機関に対する働きかけ
4) 水道出前口座の開催
2007.02.05
東京都水道局は、2007.1.30に平成19年度から3カ年を計画年次とする「蛇口回帰推進計画(安全でおいしい水を次世代に伝えるために)」を策定しました。この計画は、「お客様に安全でおいしい水を作り、届ける」「お客様の視点に立ったPRを行う」の2本柱で体系化され、書く施策を推進することで、次世代を担う子供達に蛇口から直接水を飲むという日本が誇る「水道文化を継承していく」ことをコンセプトに掲げています。
@ お客様に安全でおいしい水を作り、届ける
水質管理の強化策として、HACCPの考え方を取り入れた水安全計画の策定があります。水源や浄水場、配水・給水などの全行程で危害を分析し、その対応方法をマニュアル化して安全性を確保しようとするものです。H20年度からの運用を目指しています。
残留塩素濃度の低いおいしい水を供給していくために、浄水場での塩素注入量を減らし、給水所で追加塩素注入するよう施設整備します。残留塩素濃度の目標値は0.4〜0.1mg/Lで、H21年度までに65%の達成率を目指しています。
・高度浄水処理の着実な導入:高度浄水処理率H17年度57%→H21年度76%
・直結給水化の普及・促進:直結給水率H17年度62%→H21年度65%
・公立小学校の水飲み栓直結給水化モデル事業:対象直結給水化実施校数→H20年度400校
・貯水槽水道の適正管理:貯水槽点検率H17年度25%→H20年度100%
・残留塩素濃度の低減化:残留塩素濃度目標達成率H17年度60%→H21年度65%
A 「お客様の視点に立ったPRを行う」
重点化したPR面は、モデル事業として実施する公立小学校の水飲み栓直結給水化に合わせたキャンペーンや、小学校を巡回して授業を行う水道キャラバンなど、次世代をターゲットにした情報発信を拡大します。その他、水道工事のイメージアップ大作戦や浄水場見学コースの整備を進めます。
・施策の展開に合わせたイベントの実施:水道週間等主要イベントの動員数H18年度5300人→7000人以上
・貯水槽水道対策PR:貯水槽水道使用者への周知H17年度25%→H20年度100%
・公立小学校水飲み栓直結給水化PR:実施校児童への周知→H20年度100%
・水道キャラバン:実施校数H18年度84校→H21年度1850校
最近、「蛇口から直接飲める水文化を守ろう」というキャンペーンが新聞等で目につくようになりました。「水道の水はまずい。健康に良くない。」という宣伝のためかどうかは解りませんが、ペットボトルや浄水器の飛躍的な普及に反比例するかのように、蛇口からの水を直接飲んでいる人は年々減っているそうです。
日本中の小学校の多くは、貯水タンクに水道水を一旦貯めて給水する方式です。タンクの管理が適切であっても、長期間の休暇中には塩素が消費され、水質が悪化するという問題が生じています。タンクの管理がずさんな場合は更に問題が深刻となります。保護者の間では「水道水はまずい。健康に良くない。」という思いこみもあることから、自宅から水筒を持参する児童も多いそうです。
東京都は、小学生の水道水離れに歯止めをかけるため、水道管から直接給水する「直結給水方式」を公立小学校に導入するモデル事業を2007年夏に始めます。23区と都営水道の25市町の48校をモデル校に選び、計48校に直結水道化の財政支援をするというものです。直結給水化には1校当たり約700万円掛かりますが、このうち工事費に当たる約350万円を東京都が負担します。東京都はモデル校を平成20年度までに、公立小学校の3割に相当する400校に拡大することを明らかにしています。モデル事業の実施状況を踏まえ、対象校の拡大を検討していくとしていますが、「自主的に直結給水化する学校が出てきて欲しい。」と言っています。
同様な事業は、横浜市水道局が2005年度から実施していますし、大阪市水道局も2006年度にモデル校2校で実施し、順次24区ごとに1校の割合で直結化の拡大を進める予定です。
その他に、大阪市水道局では、水道水が安全でおいしいPRをする「実感・納得キャンペーン」を実施しています。市民サークル等に職員を派遣し、利き水や水質検査キットを用いた実験を通じて「おいしい水計画」に基づく市民とのコミュニケーション施策を積極的に行うものです。
2007.12.08 初版
2007.12.24 「3−5.学校直結給水、水道を飲むが90%に」を記載
2008.01.19 「3−6.求む「水のソムリエ」」を記載
2008.02.16 「3−6.大阪市の「おいしい水道水」指標」を記載。「求む「水のソムリエ」」はこの中に統合