水道施設の長寿命化

 水道施設の長寿命化については最近少しずつ話題に上ってきているようです。現段階では指針やマニュアル化されているわけでもなく、ハッキリした定義もありませんが、ポチが収集した資料を基に気がついた点をまとめてみようと思います。施設の改良更新の重要性と共に今ある施設の長寿命化や更新時における長寿命化への配慮等、LCCの観点を含めて興味のあるテーマとして取り上げました。

1.配水管材料の選定

1) 配水管更新計画の策定

 昭和30年代後半から昭和50年代前半のいわゆる高度成長時代には、臨海工業地域の都市を中心に爆発的な発展を遂げました。この間、長大な配水管が布設され、それらの多くが今更新時期を迎えようとしています。一定期間に多量の配水管の更新をこなしていくことは、公営企業である水道事業体にとって、財政面・人員面の多くの課題を克服しなくてはなりません。そのため、更新管路の優先順位の選定によって単年度の更新管路長を抑えると共に、更新管路の長寿命化をめざし、今後の年度別更新管路長の平準化を果たす必要があります。

 現在、配水管の法的耐用年数は全ての管種において40年です。各事業体は年度別配水管更新量を把握し、将来における更新管路長の平準化を図れるよう配水管更新計画を立てる必要があります。その更新計画において布設替え後の配水管必要寿命(耐用年数)を推定し、必要耐用年数をクリアできる配水管材料を選定することが大切です。

2) 長寿命化を期待する配水管の要件

@ 壊れにくいこと

 長期間使いたいわけですから、地震等の災害が起こっても壊れにくい管であるべきです。いわゆる耐震管が該当し、耐震型継手を有するダクタイル鋳鉄管、溶接鋼管、熱融着継手を施したポリエチレン管(PE管)ということになります。(水道ガイドラインの定義)

A 腐食に強いこと

 管の内面・外面が腐食されにくいことです。
 内面の腐食は、主として塩素による金属管腐食が考えられます。金属腐食は水質障害の原因となり、たとえ耐用年数以内でもお客様の水質苦情が多発すると、布設替えせざるを得ないことになります。
 外面の腐食は、金属管の場合は塗装を施工時に傷つけたことが主な原因となって、電食・マクロシェル腐食・ミクロシェル腐食により腐食されます。PE管の場合は、有機溶剤等による腐食に注意する必要があります。

B 施工性に優れていること

 配水管材料自体がいかに高品質であっても、工場で製作されたままの品質を現場施工時に傷つけることなく土中に埋設されなければ意味がありません。具備すべき要件とすれば、軽量で取扱が容易であること、複雑で熟練した施工技術を必要としないこと、少々の取扱ミスが生じても管体に傷がつきにくいこと等が挙げられると思います。
(2006.10.12水道産業新聞:福山市の例)

3) 耐震管の得失比較

@ 耐震型継手を有するダクタイル鋳鉄管

 長所は、1.強度が大であり、耐久性がある、2.強靭性に富み、衝撃に強い、3.継手に伸縮可とう性があり、管が地盤の変動に追随できる、4.継手の種類が豊富、等です。
 短所は、1.重量が比較的重い、2.異形管防護を必要とする場合がある、3.内外の塗装面に損傷を受けると腐食しやすい、等です。
 耐震型ダクタイル鋳鉄管はNS型耐震継手が主流になりつつあります。NS継手はK・T型継手と比較し施工が難しく作業者の熟練を要します。特に、管接合を間違った場合の管体離脱時に、管体に傷を付けやすいので注意が必要です。
 内面塗装は、長寿命を考えた場合、エポキシ樹脂粉体塗装が望まれます。
 管外面の塗装厚は溶接鋼管と比較し非常に薄いので傷つけやすく慎重な施工が必要です。管体保護と腐食防止を目的にポリエチレンスリーブ被覆を行います。

A 溶接鋼管

 長所は、1.強度が大であり、耐久性がある、2.強靭性に富み、衝撃に強い、3.溶接により一体化ができ、地盤変動には長大なラインとして追随できる、4.加工性が良い、等です。
 短所は、1.溶接継手は、熟練工や特殊な工具を必要とする、2.電食に対する配慮が必要である、3.内外の防食面に損傷を受けると腐食しやすい、等です。
 温度応力や地盤の不同沈下対策として、適宜に伸縮可とう継手を併用します。
 鋼管の腐食対策として、内面塗装には液状エポキシ樹脂塗装が望まれます。内面塗装機も改良が加えられ施工品質が向上していますが、溶接箇所の内面塗装をより完璧なものとするためには作業員が管の中に入って直接塗ることができるφ600mmないしφ700mm以上の口径が望まれしい。
 外面腐食対策として適切な電気防食工法の施工が必要です。

B 熱融着継手を施したポリエチレン管(PE管)

 長所は、1.重量が軽くて施工性が良い、2.融着継手により一体化ができ、管体に柔軟性があるため、管路が地盤の変動に追随できる、3.加工性が良い、4.内面粗度が変化しない、等です。
 短所は、1.熱、紫外線に弱い、2.有機溶剤による浸透に注意を要する,3.融着継手は雨天時や湧水地盤での施工に注意を要し、コントローラ等特殊工具を必要とする、等です。
 ポリエチレン管は、耐震性に優れている利点が注目され、小口径の配水管として注目されています。有機溶剤浸透防止ナイロンスリーブの装着やロケーティング用ワイヤを施しておくことが長寿命化には必要と思えます。

2.配水管の洗浄

 配水管の大量更新時代を迎えています。配水管の老朽化は水道水の安全・安心を揺るがせかねない問題であり、老朽管の計画的な更新は是非とも必要ですが、耐用年数にはまだ期間があるのに、配水管の内面が錆や夾雑物等で汚れており、これが原因で蛇口から出る水道水の水質を悪化させていることから、使用者の水道不信を防ぐためにやむなく布設替工事を行っているケースがあります。
 このため、不断水内視鏡カメラ等で配水管内を調査し、洗浄が必要な管路を選定して洗浄することが、管路の長寿命化に有効となります。
 2つ以上の消火栓のある配水管を断水し、消火栓から洗浄ブラシを挿入して、高圧水でブラシを回転自走させることにより、劣化したシールコートや夾雑物を除去します。
(2006.9.25水道産業新聞:名古屋市の例)

3.コンクリートの劣化対策

 オゾン処理施設や生物活性炭処理施設ではコンクリートの劣化が報告されています。原因は、オゾンとコンクリート中の混和剤の反応生成物(硫酸、有機酸、炭酸)によるカルシウム溶脱や生物活性炭由来の酸性物質(主に炭酸)によるカルシウム溶脱と洗浄摩耗だそうです。

1) コンクリートの高品質化

 水密コンクリートとして水セメント比を45%以下に減少させ、単位セメント量の増加・圧縮強度の増強、水密性の向上を図っています。単位水量が減りスランプが少なくなりますので、コンクリート打設時の流動性が悪くなり、突き堅め作業不良によるジャンカの発生が懸念されますが、高性能AE剤の使用で対処し、さらに、セメント量が多いことによる乾燥収縮熱によるひび割れ対策としては低発熱セメントを使用しています。(2006.9.25日本水道新聞:東京都の例)

<参考>
@ 寿命1万年のコンクリート
 鹿島・電気化学工業・石川島建材工業は寿命1万年のコンクリートを開発したそうです。材料に特殊な鉱物を加え、表面を炭酸ガスコーティングすることで、炭酸化と呼ばれる化学反応によって表面の隙間が埋められ、内部への水や塩分の浸透を減らし、腐食を防いで耐久性を向上させるという技術です。塩素や水流等の腐食対策が必要な水道構造物に応用できるかも知れません。

A 鉄筋の不要な耐火性能を大幅に強化したコンクリート
 一方、大成建設は、フランスで開発された超高強度コンクリート系素材に特殊な繊維を加えることで、鉄筋の不要な耐火性能を大幅に強化したコンクリートを開発しました。
 従来のコンクリートに比較し6〜7倍という鋼材なみの強度を持っているため、鉄筋が不要で鉄筋腐食による劣化の心配がないとのことです。
 耐火性能の向上とは、火災時にコンクリート内部の水分が膨張し表面がはがれる現象を、特殊な繊維を混ぜ込み、水分の逃げ道を作ったことだそうです。
 また、鉄筋をいっさい使わなくて良いので、玄関ホールなどの飾りの付いた壁や柱にも最適で、芸術系コンクリートとしても脚光を浴びそうです。
(2006.10.15産経新聞)

 この他、塩素によるコンクリートの劣化も報告されています。対策として、東京都のように高品質水密コンクリートを打設することが基本ですが、それに加えた劣化防止として、鉄筋かぶりを基準より1〜2cm多めにとり、腐食しろを余分に確保することも有効です。

2) 遮断材料(ステンレス板)による表面保護工

 ステンレスは塩素やオゾンによる耐腐食性が高いことが特徴です。コンクリート劣化などの補修時に施設の全面停止を伴う箇所に対しては、ステンレス板による内張を施し、メンテナンスフリーを目指した恒久的な対策の必要から、ステンレス板の内張工法が採用されています。
 東京都はオゾン接触池に設置した耐オゾン腐食対策として、厚さ2mmのSUS304を使用し、供用期間60年の場合は維持補修する必要はないものと考えています。
 ステンレスの内張は日常オゾン処理水に接している底部・側面に施工し、溶接によって一体の函型構造とし、ステンレス板のずれを防ぐためにアンカーボルトで既設の躯体に固定します。側面の最上部は凹形状にはつり、ステンレス板をL型に折り曲げ、躯体凹部にシリコンシーリングと無収縮モルタルを充填して、ステンレス背面の躯体を保護します。
(2007.11.8水道産業新聞:東京都の例)

<参考:オゾンや生物活性炭によるコンクリート劣化の原因>
 オゾンによるコンクリートの劣化はコンクリート内部に浸透したオゾンと混和剤が反応して生産された硫酸によるものと考えられています。
 また、生物活性炭の呼吸・代謝によって発生する炭酸によって、コンクリートを中性化させることも判明しています。

3) 防水性塗装の塗布

 遮断材料による劣化対策として、防水性塗料の塗布も考えられますが、ポチは推薦致しません。塗料の品質保証期間はせいぜい十数年が限度です。コンクリート構造物の寿命は50〜60年以上を期待しているのですから、塗料のコーティングによる対策は、塗料の寿命が尽きたとき、「水に接している面の短期間での補修はまず無理だ。」と思うからです。東京都のように、構造物の寿命が来るまでコーティングの補修などは考えずに使い切るという考え方がよいと思います。

<参考:鉄筋かぶりを多めにする>
 防水性塗料の塗布は、主として塩素によるコンクリートの劣化対策に使われます。東京都のように高品質水密コンクリートを打設することが基本と思いますが、その他の劣化防止策として、鉄筋かぶりを基準より1〜2cm多めにとり、腐食しろを余分に確保することも有効です。

4.PC配水池のドーム不断水改修工法(2008.12.25日本水道新聞他)

 PC工法配水池の不断水ドーム改修工法「ウォーターラッピング工法(WW工法)」が初めて採用されました。WW工法とは、PC製配水池を稼働させたまま既存のRC屋根部分をアルミ合金製屋根に掛け替える工法のことです。屋根と貯留水の間に遮蔽シートを設置し、既存ドームの解体や新規ドーム構築の際に生じる粉塵・濁水を貯留水に混入することを防ぎます。
 この工事を施工するのは、生駒市水道局の東生駒配水池(PCコンクリート製1池、内径20m、容量1740m3、水深5.6m、築後36年)です。この工法については、先に守谷市(参考参照)において、@落下物への耐性、A風圧力への耐性、B防塵性能、C雨水止水性能、D雨水排水性能に関する安全性が確認されています。生駒市での工事では、@実運用による水位変動に対する通気性の問題やシートと水面間の空気変化への対応、A水質監視装置の設置場所や監視方法、Bリスク管理対応方法について検討されます。

 施工業者が策定した「リスク管理マニュアル」では、水質の監視項目と水質管理基準を設定し、それに関するリスク管理レベルを以下のように定めています。
レベル0
・監視水質項目が管理基準範囲内で上昇・下降等の一定傾向を続けた場合
・不審者の侵入を確認した場合
・奈良県北西部に大雨警報・強風警報が発令された場合
レベル1
・監視水質項目が管理基準を超えた場合
レベル2
・監視水質項目が水質基準を超えた場合
レベル3
・東生駒配水池の土木構造物が倒壊・崩壊するなどして、配水池の機能を維持できなくなった場合

 また、生駒市水道局が作成した本工事における「水質汚染事故対策マニュアル」は、@水質事故発生時の初動体制、A水質事故対策本部の設置等応急体制の確立、B緊急措置、C応急復旧、D応急給水、E応急対策班の担当業務、F情報連絡体制、G事故収束について定めています。

<参考>守谷市におけるドーム不断水工法の実証実験(07.05.07日本水道新聞)

 中小規模水道では、配水池を1基しか持たない等、更新時の施設能力に余裕がないことが多いため、配水池を稼働させながら更新する工法が望まれています。今回は、PCタンクの老朽化したドーム部の取り替え工事を不断水の状況で行う工法の紹介です。

 水道技術研修センターではPC配水池ドームの不断水改修工法について、守谷市の第一配水池を実規模フィールドとして実証実験を行っていましたが、貯留水の遮蔽シートへの落下物や雨水の影響等の安全性確認試験を行った結果、安全性が確認されました。

 この実験は、守谷市の第一配水池に水を貯めたまま運用している状態で、老朽化したPC配水タンクのRCドームをアルミドームに架け替えを行う際の施工面および衛生面の影響を確認するためのものです。

 実験の具体は次の通りです。
@ RCドーム切除時等に濁水や粉塵がタンク内の貯留水に入らないように、水面を遮蔽シートや養生シート等で防御していますが、その影響の有無を水質検査や粉塵計、目視等で調べます。
 結果は、残留塩素・濁度・色度が施工期間中も安定していました。
A 遮蔽シートを防護するネットとシートに重さ約8Kgのコンクリート塊やボルト・工具を落下させても問題ありませんでした。
B タンク内壁にシートを固定しているテープに10m/秒の風を当ててもシートが捲れ上がることはありませんでした。
C ドームの開口部から雨水が浸入しても貯留水に影響はなく、雨水ポンプで排水することが出来ました。

5.鋼製水路橋の内面電気防食(2007.11.8日本水道新聞:横浜市の例)

 築造後40年以上が経過し、内面塗装の劣化により局部腐食が進行していた水路橋に対して、外部電源方式によるカソード防食を施し、効果を上げています。

 カソード防食は、主に土壌や海水中の構造物に適用され、淡水中でも貯水タンクや河川の水門で適用されている工法です。しかし、流動する淡水と接触する大型鋼構造物の電気防食はこれまで例がありませんでした。

 今回採用されたカソード防食とは、水路内に設置した電極から水路内面へ電流を流し、水に接した水路内面の電位を下げることで、鋼材が錆びる反応を停止させて防食を達成させるものです。実験により電気防食に付随した効果であるエレクトロコーティングが形成する条件が明らかになったことで、淡水環境での積極的な活用の目途がついたといえます。

 電源には商用電力と太陽光発電を利用し、現在では必要電力量の40%を太陽光発電で賄えているそうです。電気防食の導入から1年が経ち、電気防食に必要な電流値は1/5に減少しました。これはエレクトロコーティング形成の効果であると考えられています。

2006.10.26 初版。「配水管材料の選定」、「配水管の洗浄」、「コンクリートの劣化対策」
2007.05.11 「4.PC配水池のドーム不断水改修工法」の記載
2007.11.12 「3.コンクリートの劣化対策 2ステンレス板」、「5.鋼製水路橋の内面電気防食」を追加記載
2007.12.10 「3−2遮断材料(ステンレス板)による表面保護工」の内容を補足
2009.01.09  「4.PC配水池のドーム不断水改修工法」の追加