鉛製給水管の布設替促進について

<鉛製給水管に関する出題実績>
H13年 給・配水管における鉛管対策について述べよ。
H 6年 水質項目のうち鉛について総括的に述べよ。

1.鉛の毒性と水質基準

 鉛の毒性として、急性中毒の明確な症状は、感情鈍麻、落ち着きのなさ、短気、注意力の散漫、頭痛、筋肉の震え、腹部の痙攣、腎臓の損傷、幻覚、記憶の喪失があり、脳症は、血中鉛濃度が成人では,100〜120μg/dl、子供では80〜100μg/dlで起こるとされています。
 慢性毒性の兆候は、疲労、不眠、短気、頭痛、関節痛、胃腸障害があり、成人では血中鉛濃度50〜80μg/dlでこれらの症状が表れるとされています。

 鉛に関する水質基準は世界保健機構(WHO)の飲料水水質ガイドラインに準拠し、2003年(H15年)4月1日より0.01mg/Lに基準強化されました。
 ガイドラインの考え方は、鉛は蓄積性毒物であり、鉛の体内蓄積量の増加は避けるべきであるとし、乳幼児と子供のための暫定受認摂取量(PTWI)を3.5μg/dlと定めています。1日に0.75Lの飲料水を飲む体重5Kgの人工栄養児で3.5μg/dlの半分を飲料水から摂取するとすれば、ガイドライン値は0.01mg/Lとなります。乳幼児は最も感受性の高い群ですので、このガイドライン値は大人等他の年齢群も防護できるという考えです。

2.鉛製給水管対策の現状と必要性

 水道水の鉛汚染の主要原因は、鉛製給水管からの溶出であると考えられ、これにより水道水の鉛濃度が水質基準を超過する可能性があります。全国の給水人口5万人以上の水道事業体に対しての調査結果は、平成17年1月1日現在で、約7割の水道事業体に鉛製給水管が残存しており、残存戸数は約550万戸、その延長は14,500Kmでした。年間4〜5%程度減少はしていますが、一般的に給水管は水道事業体が所有しているものではないし、約4割の水道事業体が鉛製給水管の布設替計画を策定してなくて、今後より一層対策を充実させないと、鉛製給水管がなくなる状況にはありません。

 厚生労働省は、平成元年に給水管に係る衛生対策として以下のことを通知し、水質基準の強化を実施してきました。
@ 鉛給水管の新規使用の回避

A 鉛配水管・給水管の布設替

B pHの改善による鉛溶出抑制
 水道水のpHを上げることにより、鉛製給水管からの鉛溶出を低減化できます。
 大阪市の報告では、pHを7.0から7.5に上げた場合、pH調整後の流水状態の給水栓で、鉛濃度の1年間の平均値は55%低減(0.020→0.009mg/l)されているそうです。pH調整の方法は、水道用の水酸化ナトリウムか消石灰等のアルカリ剤の注入によります。 
 なお、河川水を水源とする場合、pH調整により7.0から0.5上昇あるいは低下させた場合、トリハロメタンの生成量が10〜20%増加あるいは減少したという報告例が多いので、鉛対策とトリハロメタン対策の両方を考えたうえ慎重に実施する必要があります。
 トリハロメタンの制御方法としては、塩素注入量の低減化、前塩素注入から中塩素処理への切り替え、粉末活性炭による吸着、高度浄水処理(オゾン+生物活性炭処理)等があります。

C 広報活動の実施を都道府県に通知
 鉛給水管内に長期間停滞していた水道水には鉛が溶出して濃度が高くなっていることが懸念されます。そのため、「朝一番や長時間水道を使用しなかった場合、バケツ1杯程度は飲用以外の用途に使って下さい」という広報をしました。

 平成16年6月に発表した「水道ビジョン」では、「鉛給水管延長を5年後に半減し、できるだけ早期にゼロにする」という目標を掲げています。鉛給水管の布設替を推進するためには、鉛給水管布設替計画の策定、起債制度をはじめとした財政制度の活用、組織体制の整備、積極的な公法の実施等の各種取り組みを、水道事業体が積極的に推進していく必要があると考えています。

3.鉛給水管の布設替計画の策定

 水道ビジョンの目標を実現するためには、水道事業体が計画期間10年程度の布設替計画を策定し、計画的に鉛製給水管の布設替を進める必要があります。多くの事業体では、配水管の布設替に併せて鉛製給水管の布設替を実施していますが、配水管の布設替は数十年の単位で布設替えしていくものですから、早期に鉛製給水管の解消を図るには、単独事業としての実施が不可欠となります。

 水道メータの上流側(公道側)は、漏水防止と有収率向上の観点から水道事業体自らが布設替えを行うことになります。「個人財産とはいえ公道側の漏水事故による損害賠償責任は水道事業体にある」というのが今までの裁判凡例となっています。
 
 水道メータの下流側(宅地側)は、原則として、給水装置の所有者が布設替えを実施すべきです。水道事業体は更新工事に関する助成制度や低利または無利子の融資制度等による早期更新のインセンティブを与えるような努力をすべきです。

 とはいえ、上流側の布設替え工事を実施するにしても、場合によって一概には言えませんが、1戸当たり15万円程度の経費が必要となり、多くの鉛製給水管残存戸数を抱える水道事業体にとっては大きな負担となります。
 布設替事業の財政に与える影響を軽減する方策として、平成15年度から認められています「鉛製給水管布設替事業に係る起債制度」の利用が有効です。起債制度を利用する場合、工事対象が上流側に限られ、給水管を事業体資産とする必要があります。

4.組織体制の整備と広報活動

 財政的な課題と共に布設替を円滑に実行していくためには、組織体制の整備が不可欠であり、布設替を主業務として担当する職員を配置し、事業実施上のノウハウを蓄積する必要があります。
 
 広報活動としては、「鉛製給水管の滞留水を飲料以外に使用する」というだけでなく、鉛製給水管を使用している使用者(所有者)に、個別に鉛製給水管の使用状況を伝える必要があります。

2006.6.11 初版