石綿セメント管の飲用に関する毒性と撤去作業の石綿対策

石綿セメント管の残存状況

 石綿(アスベスト)による健康被害が全国的社会問題となっています。石綿セメント管は地震に弱いため、耐震化対策の一環として積極的に更新が進められてきましたが、平成15年度末現在で、18,710km(水道管総延長の3.2%)が残っているそうです。

飲料水中アスベストの毒性(経口摂取の発ガン性リスク)について

 水道水への健康影響について、厚生労働省は、経口接種による毒性は極めて少なく、「水道水中の石綿の存在量は問題になるレベルにはない」として、平成4年に改訂された水質基準には設定されませんでした。世界保険機構(WHO)の飲料水水質ガイドラインでも、飲料水中のアスベストは健康影響の観点からガイドライン値を定める必要はないと結論づけています。

 厚生労働省は水道水中のアスベスト繊維数の調査結果を2006.2.23に公表し、飲用しても十分に安全が担保される値であることを明らかにしています。この調査は、石綿セメント管の延長が長いか、比率が高い30箇所の水道事業体を対象に、2005年12月に採水を行ったものです。
 結果は、30箇所中3箇所でアスベスト繊維が検出されました。10μm以上のアスベスト繊維は最大で89,250本/l検出されましたが、米国環境保護庁が示している最大許容濃度目標(700万本/l)と比べても問題のない値でした。
 厚生労働省は過去に昭和63年にも同様の調査をしています。石綿セメント管の使用比率の高い30箇所の事業体で、末端の給水栓水質を調べたものです。この時は、10μm以上のアスベスト繊維が4箇所で検出され、繊維数は最大で36,200本/lでした。
 これらの調査結果から、水道水中のアスベストが経口摂取しても、健康に影響のない範囲で推移していることがうかがえます。

 アスベストの毒性について医学的見地からもう少し詳しく説明しましょう。

 アスベストの毒性についてよく知られているのは、吸入による悪性中皮腫・肺ガン・石綿肺の誘発です。各種アスベストの内、毒性が高いとされているのは繊維が細く堅く長いもので、青石綿(クロシドライト)などとされています。
 一般的に、空気中に含まれる異物が気道に入ると、捕捉されて咳・痰により外部に排出されます。気道をくぐり肺の奥まで吸い込まれた場合は、肺胞を常時巡回している肺胞マクロファージと呼ばれる食細胞の消化酵素により分解・排除されます。
 アスベストは長さ10μm以上でありながら非常に細いため、肺の奥まで到達する可能性があります。長くて堅い鉱物繊維であるアスベストは肺胞マクロファージが消化・分解することができないので、複数のマクロファージが融合して巨細胞と呼ばれるモノを作って取り込んだり、タンパク質で固めて無害化しようと試みます。この悪戦苦闘している際に放出するマクロファージの因子が周囲の正常な組織細胞を傷つけ慢性炎症となるのではないかと考えられています。こうしたアスベストの肺障害メカニズムは、喫煙による有害化学物質暴露とはメカニズムが違うので、アスベストと喫煙とは発ガン性に相乗効果があると言われているのです。

 一方、アスベストが口から飲み込まれた場合、前述した障害メカニズムは働かず、消化吸収されない食物繊維などと一緒に単純に排出されます。仮に消化管上皮にアスベストが突き刺さっても、消化管上皮細胞は常に代謝回転していますので、新生してきた新細胞に古い細胞が押しのけられる際に脱落・排出されるだけで、慢性炎症を誘発することは無いと考えられています。これが「経口摂取による発ガン性リスクは極めて低い」と言われる所以なのです。
(畝山智香子氏の「飲料水中アスベストの毒性について」(日本水道新聞2005.10.16)を引用しています。)

 とはいえ、水道水の安全・安心に不安を持たれている人も多いことから、早急な石綿セメント管の更新が望まれます。

 これだけ騒がれますと当然の如く来年の選択論文の出題が考えられます。例えば「石綿セメント管の水道水への健康影響と更新工事を進める上での対策を述べよ」でしょうかネ!

 更新工事を進める上での労働者の健康障害防止対策を充実するため、労働安全衛生法に基づく「石綿障害予防規則」がH17年7月1日に施行されました。これを受けて、水道用石綿セメント管の撤去作業等における石綿対策の徹底を図るため、手引き書が厚生労働省健康局水道課より発刊されましたので、その内容を紹介します。

水道用石綿セメント管の撤去作業等における石綿対策の手引き (厚生労働省健康局水道課平成17年8月)

1)事前準備

1.事前調査

 @ 請負者は石綿セメント管の埋設状況を設計図書等で調査しなくてはならない。
 A 発注者は石綿セメント管の埋設状況(設計図書等)を通知しなければならない。

2.作業計画

 請負者は作業計画を定める。
 @ 作業の方法及び順序
 A 石綿粉塵の発散を防止し、または抑制する方法
 B 労働者への石綿粉塵の暴露を防止する方法

3.作業主任者の選任

 請負者は特定化学物質等作業主任者技能講習を終了した者から石綿作業主任者を選任する。
 @ 石綿粉塵汚染や吸引防止のため、作業方法を決定し、労働者の指揮をすること
 A 保護具の使用状況を監視すること

4.特別教育

 請負者は労働者に教育を行う。
 @ 石綿の有害性
 A 石綿の使用状況
 B 石綿粉塵発散の抑制措置
 C 保護具の使用方法
 D その他、石綿の暴露防止に関する必要事項

2)撤去作業

1.保護具等

@ 石綿セメント管の切断作業を行うときは、労働者に呼吸用保護具(防塵マスク)及び作業衣(保護衣)を使用させねばならない
A 保護具等は他の衣服から隔離して保管し、廃棄のため容器等に梱包したとき以外は、付着物を除去した後作業場外に持ち出す

2.切断等の作業

@ 原則として石綿セメント管の切断は避け、継手部で取り外すことを基本とする。
A やむを得ず切断する場合は、管に水をかける等湿潤状態にして石綿粉塵の発散を防止する。
B 切断作業で生じる石綿の切りくず等を入れる蓋のある容器を備える。

3.立ち入り禁止の表示

 石綿セメント管の撤去作業を行うときは、関係者以外の立ち入りを禁止し、その旨を表示する。

4.石綿暴露防止対策の掲示

 石綿の暴露防止対策や粉塵飛散防止対策を労働者や周辺住民に周知するため、その実施内容を作業現場の見やすいところへ掲示する。

5.発注の条件

 石綿セメント管の撤去作業を発注する全ての者は、請負者が安全のために必要な措置を講ずることができなくなることが無いよう配慮しなければならない。

3)運搬・処分

1.石綿セメント管は「産業廃棄物」に該当するので、廃棄する場合は処理基準に基づく適正な処理を行う。

2. 石綿セメント管の保管、収集、運搬等において、石綿粉塵発散防止措置を行う。

@ 排出事業者は廃石綿セメント管が運搬されるまでの間、湿潤化させる等の措置を講じた後、十分な強度を持つプラスチック袋等で梱包するなどの粉塵発散防止を行うこと
 容器や包装の見やすいところにアスベスト廃棄物と表示する
A 廃石綿セメント管の収集・運搬に当たっては、梱包したプラスチック袋の破損や石綿セメント管の破砕により石綿を発散させないよう慎重に取り扱うこと。
 プラスチック袋の破損等で石綿の発散の恐れが生じた場合は、速やかに散水または覆いをかける等の措置を講ずる。

3.石綿粉塵が発散する恐れがある場合は、運搬車両の荷台に覆いをかける。

4.最終処分では覆土等石綿粉塵が発散しないようにする。

2005.10.12 「飲用に関する毒性」を追加
2006.3.11  「水道水中のアスベスト繊維数調査結果」を載せました