地震対策

1. 阪神大震災以降に発生した震度6弱以上の主な地震(07.12.1現在)

95年1月17日 阪神・淡路大震災 M7.3 震度7
97年5月13日 鹿児島北西部地震 M6.2 震度6弱
98年9月3日 岩手県内陸北部地震 M6.1 震度6弱
00年7月1日 新島・神津島近海地震 震度6弱
00年7月30日 三宅島近海地震 震度6弱
00年10月6日 鳥取西部地震 M7.1 震度6強
01年3月24日 芸予地震 M6.4 震度6弱
03年5月26日 宮城県沿岸地震 M7.1 震度6弱
03年7月26日 宮城県北部地震 M6.4 震度6強
03年9月26日 十勝沖地震 M8.0 震度6弱
04年10月23日 新潟県中越地震 M6.8 震度7
05年3月20日 福岡沖玄海地震 M7.0 震度6弱
05年8月16日 (仮称)宮城県沖地震 M7.2 震度6弱
07年3月25日 能登半島地震 M6.9 震度6強
07年7月16日 新潟県中越沖地震 M6.8 震度6強
08年6月14日 岩手・宮城内陸地震 M7.2 震度6強
08年7月24日 岩手県沿岸北部地震 M6.8 震度6強

震度7になると水道被害が顕著になってくる傾向が伺えます。setstats

2.耐震対策

 水道施設は輸送する水の品質が各施設を経由するごとに変化します。また、機能面では、相互に綿密に連携している複合型であったり、樹枝状の線形輸送系であったりします。従って、水道施設の耐震化を進める場合は、これらの特徴を十分理解して計画する必要があります。

(1)小規模水道施設の耐震化の基本的考え方

 非都市型地域では、施設の多くが中山間地に分散していて、給水人口に比較して給水区域が広い特徴があります。水運用も異なる水源との相互融通がほとんど不可能で、樹枝状の配管形態をなし、行き止まり管になっているケースも多い。また、水源地と給水区域の高低差が大きく、ポンプ施設や配水池等による加圧・減圧による複雑な水運用を強いられます。

 このような山間部における水道では、以下のような点に工夫をする必要があります。

1) 主要管路の二重化、広域的バックアップ体制の構築

 導水管・送水管など重要管路の二重化やループ化、あるいは、広域水道からの受水、隣接水道事業体からの連絡管等広域的バックアップ体制など危険分散を考える。ただし、地震対策としてのバイパス管路の設置やループ化は、多大な費用を要するため、費用対効果の十分な検討が必要である。
 点在する集落への給水は一般的には樹脂状に布設されることが多く、耐震性の高い管を布設しておくことが被害を最小限に食い止め、復旧を早める効果がある。

2) 断水に至った場合の水供給の代替え方法の確保

・予備水源や代替え水源の調査とリスト化
 水道に切り替える以前に使用していた井戸、伏流水など、集落内で利用可能な水源を非常用水源として確保しておく。

・簡易浄水器の保有やリース経路の確保

3) 基幹施設の更新時には、「分散型」と「集中型」を組み合わせた水道システムに再構築する。

 「集中型」とは、離れた場所に比較的大きな水源を求め、長距離の導・送水管により複数集落に給水する配水形態である。降雪地帯で遠距離送水システムが破綻すると、長期にわたって復旧が困難となります。

 山間地域に水源が求められる場合は、地域ごとに「分散型」の水道システムとして、膜ろ過浄水処理システムのような施工や維持管理の容易な方式を採用することが防災上望ましい。一般に電力の復旧は早いので、比較的狭い地域で独立した水道システムを構築しておくことが被害の最小化、復旧の迅速化が図りやすい。膜ろ過システムは通常自動運転であり、水道技術者不足の小規模事業体には適している。遠距離送水コストを考えれば検討する価値がある。

4) 施設建設位置の選定

 新潟県中越地震での構造物被害は、構造物の耐震性に問題があったのではなく、地盤条件や周辺の地形条件により被害が生じている。施設位置の選定、基礎構造の選定が重要である。沢近くの地下水位の高い場所等水没の危険性のあるところや、急峻な斜面、盛土部のような大規模な土砂崩れが想定される場所は極力避ける。

(2)施設の耐震化

A.水源、浄水施設における耐震化

1) 水道専用ダム、原水調整池の整備と補強対策

 水道専用ダムや原水調整池の保有は地震対策のみならずリスク管理上有効な手段である。これらは2次災害防止のため、耐震性診断により構造的強度を確認し、漏水防止、提体法面の崩落防止、コンクリートの打ち増しを行う。

2) 水源水質の汚染対策

 地震発生時には重油・毒物等の流出事故の発生が考えられる。取水・導水設備に水質監視設備やオイルフェンス等流入防止設備を検討する。

 地下水取水では地震後の濁りや湧水箇所が変わる可能性があり、ろ過機等の設置やリースの可能性の検討、及び、他系統との連絡を検討する。

3) 構造物の補強対策

 @構造物の強度が不足する場合は「水道施設耐震設計施工指針・解説」等最新鋭の構造基準に基づき、底版や側壁の補強を行う。
 A基礎杭の水平補強を考慮していない場合は、現在の基準に基づき基礎地盤や基礎杭の補強を行う。
 B伸縮継ぎ手は50mm程度の許容範囲を持った止水版を使用する。
 C底版部の埋め戻し土部分や盛土部の円弧滑りの補強は杭基礎、地盤改良を施す。
 D高架水槽等の塔状構造物は鋼版の内・外張り、基礎の補強を行う。

4) 液状化対策

 液状化が予想される場合、地下水の低下方策、地盤改良、浮き上がり防止策等の対策を検討する。

5) 構造物との取り合い部における管路の補強対策

 @構造物との取り合い部の管路については、管体強度の補強、伸縮可撓管の設置を検討する。
 A架空部では管体の十分な支持が必要である。
 B配管が伸縮継ぎ手(目地)にまたがる部分については、目地の変異に追随可能な形式を採用する。

6) 電気・機器等の耐震対策

 @電線、ケーブル配線は配電盤の転倒、移動に備え、十分な余長を持たせる。
 A自家発電の冷却配管の強化、または冷却不要の原動機を採用する。
 B直流電源装置、交流無停電電源装置の設置を検討する。
 C浄水機器・薬品貯留槽・薬注機器・電気盤等の浄水機器設備、OA機器、薬品棚、分析機器類の転倒防止

7) 漏水による水没対策

 構造物からの漏水が予想され、水没の恐れのある場合には、躯体の漏水防止対策を施すと共に、人孔蓋の固定や排水ポンプの設置等水没対策を行う。

8) 2次災害の防止

 @配水池の流入流出管に緊急遮断弁を設置
 A薬品貯蔵槽の防液堤の設置、貯留槽の定着強化、付帯配管に伸縮可撓管を設置
 B塩素設備の配管類の強化、ボンベの転倒・滑動防止

B.管路における耐震化

1) 更新の好ましい管種

 石綿セメント管、印籠継ぎ手鋳鉄管、TS継ぎ手VP管、コンクリート管は地震時の破損被害が大きい。耐震管への布設替えやパイプインパイプ等耐震化を図る。

2) 主要管路の耐震化

@ 導・送・配水幹線、病院・避難所等重要施設への給水管は、耐震性の高い管種への変更
A 河川に沿った地域、海岸部、盛り土部などの地盤の悪いところは耐震管を採用する。
B 不安定地盤や活断層の近傍を避けたルート変更、及び伸縮継ぎ手の補強策を施す。
C 弁栓類のフランジ部の強化、伸縮管等の免震化を検討する。

3) 水管橋、橋梁添架管

 水管橋は橋台基礎を護岸から独立させ、伸縮可撓管を採用する。リングサポート、シューを調査し、必要な補強を行う。
 橋梁添架管は、支持取り付け部、吊り金具等の構造を強固にし、必要に応じて伸縮管を設置する。

C.管路システムの耐震化

1) 広域的バックアップシステムの確立

 広域水道の整備、隣接水道との相互連絡管の整備による広域的バックアップ体制を強化する。

2) ループシステムの採用

 送水管、配水幹線等における既設管相互を連絡するループシステムを採り入れる。

3) 配水ブロック化の推進

 配水区域が広かったり、高低差が大きい場合、配水管網のブロック化を推進する。ブロックの中央監視システムや遠隔操作システム、及びブロック間の連絡管を整備することも有意義である。

4) バルブの配置の見直し

 断水被害を予測した結果、復旧作業用水の不足により被害が長期化する恐れがある場合は、弁の配置を見直す。被災した場合の影響を局所化して断水区域を限定し、復旧作業用水を確保し早期復旧を可能とするため、必要な弁を新設して、設置間隔を短くする。

(3).応急復旧及び応急給水

A.被害調査

1) 原水の水質調査

 被災工場等からの有害物質流出、地下水の濁度上昇

2) 基幹施設(取水、導水、浄水)の調査

 運転状況、漏水事故、外観上の被害
 電力、薬品、燃料等の確保の目処

3) 送配水システムの調査

 運転状況、出水不良、断水区域の確認
 緊急断水・・・多量漏水個所(道路陥没等の2次災害の恐れのある箇所)
 管路状況の把握・・・バックアップ体制・・・断水区域の最小化

B.応急給水

 破損管路を一時的に断水し、修理後、通水するまでの間の給水継続。
 避難所、病院等緊急度の高い施設から優先的に行う。
  ・拠点給水・・・ポンプ、仮設配管、応急給水用常設給水栓の設置
           管路破損時は負圧による水道水汚染の恐れがある・・給水前の水質確認
           残留塩素0.1mg/l以下の場合、煮沸指示、浄水場の塩素量増加の指示
  ・運搬給水・・・給水タンク車、携帯用タンク

C.応急復旧

・上流側施設から優先復旧・・・取水、導水、浄水、送配水
・後戻りのない復旧計画の作成・・・市民の混乱を避ける。一旦通水したら再度断水させない。
・浄水施設、大口径管は内部点検
・優先箇所(都市機能の早期回復)
  避難所
  重要医療施設(災害医療活動拠点病院、人工透析治療病院)
  災害弱者施設(重度身体障害者施設、特別養護老人ホーム)
  災害対策中枢機能である公共機関
  冷却水を必要とする公共性の高い発電所、ゴミ処理施設
  広域断水の原因となる管路
・応急復旧用資材
 事業体、給水装置工事業者、他都市の応援物資(日常からその事業体に特有な水道資材は極力使わないよう整理しておく)
・他都市の応援を受ける場合
 配水方式、使用資機材、応急復旧の進め方をよく打ち合わせる

D.恒久復旧

 応急復旧が概ね完了した時点で計画的に恒久復旧を行う。
   ・漏水調査、修理・・・小規模漏水の多発化
   ・耐震管路・・・木造家屋密集地域、広域的被害を受けた地域
   ・バックアップ体制の整備 

3.水道施設が備えるべき耐震性能

3−1.水道施設(構造物)

 水道施設(構造物)の耐震化は、新設や更新において耐震性の高い構造物が建設される必要があります。既存施設については更新されるものと耐震補強によって対策されるものがあります。新設・更新あるいは補強を計画する際の水道施設が備えるべき耐震性能は、施設基準における包括的な規定を基礎として、水道施設耐震工法指針・解説に記された考え方を参考に表−1のように規定されました。これは、構造物のみならず管路も同様な考えであります。

表−1 水道施設の重要度と備えるべき耐震性能
対レベル1地震動 対レベル2地震動
重要な水道施設 原則として無被害であること 個々に軽微な被害が生じても、その機能保持が可能であること
それ以外の施設 個々に軽微な被害が生じても、その機能保持が可能であること 個々には構造的損傷があっても、システムとしての機能保持が可能であること。また、早期の復旧が可能であること

 表−1に示す耐震性能は最低限の例示として示したものであり、水道事業体の判断で、より高い耐震性能を求めても良い
 レベル1地震動とは、施設の供用期間中に発生する確率が高い地震動
 レベル2地震動とは、過去から将来にわたって当該地点で考えられる最大級の強さを持つ地震動

表−2 重要な水道施設(構造物)
重要な水道施設 ・取水施設、貯水施設、導水施設、浄水施設、送水施設
・配水本管に直接接続する配水施設並びに最大の容量を有する配水池・配水
塔・高架タンク等
・重大な二次災害を起こす可能性の高い施設
それ以外の施設 ・上記以外の施設

 重大な二次災害を起こす可能性の高い施設とは、破損した場合に重大な二次災害を起こす可能性の高い施設であり、具体的には、破損時に住民の財産等に直接関わる可能性の高い施設(構造物や管路)、塩素等の危険物取扱施設となります。
 構造物と一体をなして施設の機能の維持に深く関わる機械設備、計装設備、施設内管路も、施設全体として備えるべき耐震性能を必要とします。

耐震化の進め方

@ 既存施設の耐震化の考え方

 既存施設に対する基準の適用については、大規模な改造の時までは適用しなくて良いことになります。
 しかし、既存施設の耐震化は、水道水の供給に支障を与えない対策を講じて実施する必要がありますから、一般的に長期間の工期が必要になります。このため、速やかに耐震診断を行い、早期に耐震化計画を策定し、計画的に更新を進めていく必要があります。特に、破損した場合に、2時災害を引き起こす可能性の高い施設や応急給水で対応出来ないほど影響範囲が大きな施設は、優先的に耐震化を図るべきです。

 応急給水で対応出来ないほど影響範囲が大きな施設とは、
ア バックアップのない施設
イ 破損し稼働停止になった場合、数日以内に復旧が困難な施設
ウ 断水地域内の応急給水対応可能人口を超える断水が発生する施設
の3点が該当する施設です。

 応急給水対応可能人口の算定は、地震発生後初期の断水区域内の必要飲料水の応急給水を行う場合で想定します。

A 水道利用者への情報提供

 耐震化の必要投資に関する水道利用者の理解は特に重要です。重要な水道施設の耐震診断結果、施設耐震化の実施計画と進捗状況は定期的に情報提供すべきです。

3−2.管路

@ 耐震性能を有する管路とは

 管路が「耐震性能を有する」と解釈できるのは、レベル1・レベル2地震動に対する要件を満たすときです。配水支管のレベル2地震動に対する耐震性能は、システムとしての代替性の確保、多重性等により総合的に達成されるものとの考えにより、整理から除外されています。できるだけ耐震性能の高い管種を採用することが望ましいのは言うまでもありません。耐震管と位置づけられている溶接鋼管、NS型等の耐震継手を有するダクタイル鋳鉄管、ポリエチレン管はレベル2地震動に対して耐えうる管材と考えて良いでしょう。

A 配水本管と配水支管の分類

 簡易水道では配水本管と支管の区別が無い場合が多いが、配水管として配水支管が満たすべき耐震性能を満たす管種・継ぎ手を採用します。できるだけ耐震性能の高い管種を採用することが望ましい。

B 小口径の管路

 φ40mm以下の管路においては、表−3に示す管種・継ぎ手が存在しない場合があります。このような場合でも、できるだけ耐震性能の高い管種を採用するよう心がけましょう。

C 属具類

 仕切弁・消火栓・空気弁等の属具類は、弁室の取り合い部、伸縮可とう継ぎ手の有無、弁室との相対変位等を考慮し、弁室の補強、躯体への固定化などの必要な対策を講じる。構造部との取り合い部、水管橋の橋台付近なども同様です。

D 地盤条件の判断

 地質分布・断層の有無を把握した上で判断する。

E 管路内配管

 管路内配管や配水池等構造物内配管のように別途耐震を考慮している場合は、耐震性能を有していると判断する。

表−3 各種配水管の耐震適合性
管種・継手 配水支管が備えるべき耐震性能 基幹管路が備えるべき耐震性能
レベル1地震動に対して、個々に軽微な被害が生じても、その機能保持が可能であること レベル1地震動に対して、原則として無被害であること レベル2地震動に対して、個々に軽微な被害が生じても、その機能保持が可能であること
NS型鋳鉄管
K型鋳鉄管  注1
A型鋳鉄管 ×
鋳鉄管  × × ×
溶接鋼管
融着継手PE管 注2
RRロングVP 注3 注3
RR継手VP ×
TS継手VP × × ×
石綿セメント管 × × ×

○:耐震適合性あり
×:耐震適合性なし
△:被害率が比較的低いが、明確に耐震適合性有りとは言い難いもの

注1:K型ダクタイル鋳鉄管は埋め立て地など悪い地盤において、一部被害は見られたが、岩盤・洪積層などにおいて低い被害率を示していることから、良い地盤においては基幹管路が備えるべきレベル2地震動に対する耐震性能を満たすものと整理できる。各水道事業者の判断により採用することは可能です。

注2:融着継手ポリエチレン管(PE管)は使用期間が短く、良い地盤におけるレベル2地震(新潟県中越地震)で被害がなかったが、布設延長が十分に長いとはいえないこと、悪い地盤における被災経験がないことから、十分に耐震性能が検証されるには未だ時間が掛かると考えられています。各水道事業者の判断により採用することは可能です。

注3:RRロング継手硬質塩化ビニル管(VP)はRR継手より継手伸縮性能が優れているが、使用期間が短く、基幹管路が備えるべき耐震性能を判断する被災経験はなく、十分に耐震性能が検証されるには未だ時間が掛かると考えられています。なお、離脱防止機能を有するものも開発されているが、金属管と比較して強度が1/10と低く、かつ、使用実績・使用期間ともに短いことから、十分に耐震性能が検証されるには未だ時間が掛かると考えられています。各水道事業者の判断により採用することは可能です。

3−3.耐震化を妨げている要因(2008.6.19日本水道新聞)

 2008.6.2日本水道協会での第130回水道事業管理者協議会において、「耐震化を妨げる要因」についての意見がありましたので報告いたします。
 まず、耐震化に対する利用者への情報提供は、広報誌やHPによるものがほとんどです。関連の業務指標を公表している都市も51都市中4例ありました。耐震化の必要性に関する説明会等の開催事例はありません。
 耐震化を妨げる主な要因について、施工条件の厳しさを挙げる都市が多いのですがその主な内容は次の通りです。
@ 予備施設がない
A 地下埋設物の輻輳が著しく基幹管路のルート選定に苦慮している
B 道路が狭小である
C 既存施設を稼働させながらの工事は困難である
D 代替え施設の確保が困難である
E 管路の二重化を図りたいがスペース・ルートがない
F 建設当時と周辺環境が大きく変化している

 このほかの意見としては次の通りです。
@ 過去に地震による被害が少なく利用者から理解が得られにくい
A 比較的経過年数の浅い管路の布設替えについては資産管理の面から抵抗がある
B 最新の耐震レベルに対応させるには施設がまだ新しい

4.地震対策

4−1.新潟県中越地震(2004.10.23 M6.8 震度7)

 平成17年度の選択問題Bに「新潟県中越地震による水道施設への被害状況の特徴を挙げ、今後の課題について述べよ」が出ました。新潟県中越地震は、日本の約7割を占める中山間部での小規模水道のあり方や復旧体制を含めた地震対策のあり方について考えさせられる出来事であったと思えます。
 水道技術ジャーナルNo35(2005-4)の(財)水道技術研究センター常務理事、谷口元氏の「新潟中越地震における水道被害視察に参加して」と題した報文と、新潟県中越地震水道被害調査報告書「長岡市山古志地域編」の概略及び国土交通省の「下水道新施設における地震対策の提言」と「耐震対策の通知」を紹介します。

A.水道施設

1.新潟県中越地震の水道施設被害状況

 2004年10月23日に発生した新潟県中越地震は阪神・淡路大震災を超える震度7を記録し、住宅をはじめ道路・鉄道・上下水道・電力・ガス・通信などライフラインがおびただしい被害を受けた。この地震による浄水場や管路施設の被害は概ね次の状況であった。

1) 大規模浄水場や配水池施設は大きな被害はなかった。
 長岡市水道局妙見浄水場等で耐震補強を施した電気・機械設備等の損傷は比較的少なく、主要配水池に緊急遮断弁を設置していたことにより、断水被害を最小限に食い止めた等、耐震対策の成果があった。

2) 山間地域の小規模浄水場や配水池は、地盤の崩壊、構造物の移動・沈下、自然ダムの出現による水没等で機能停止する被害が多く発生した。

3) 管路施設の被害
 長岡市、小千谷市共に管路被害率は0.31件/Km程度で阪神・淡路大震災(芦屋市1.61件/Km、西宮市0.72件/Km)に比較し少なかった。老朽管の更新や耐震継手の採用が有効に働いた結果である。
 管路被害原因は地盤の液状化による道路陥没(軟弱地盤、盛土部、傾斜地で多く発生)で阪神・淡路大震災と同じ傾向である。
 特徴は、山間部の斜面崩壊や法面崩壊に伴う管路流出被害が多かったことである。K型ダクタイル鋳鉄管では継手の抜け出し・管体の曲がり、PE管では溶融継手部の破断、硬質塩化ビニル管ではRR継手の抜け出し・管体破損が見られた。溶接鋼管と耐震継手ダクタイル鋳鉄管に被害は見られなかった。

2.今後の課題

1) 一般事項

@構造物との取り合い箇所にボール型伸縮可とう管の採用
 浄水処理に不可欠な場内給水管・薬品注入管・自家発電設備冷却水管や送・配水管等重要な管路と構造物との取り合い箇所、大きな地盤変位が予測される箇所には、一般的な可とう管でなくボール型伸縮可とう管を設置する。

A水質試験計器、計装計器の固定
 計器類が転倒や落下により使用不能になると、浄水処理の再開に大きな負担となる。転落防止対策は簡単で有効な手段だ。

2) 山間地集落の水道施設のあり方

@ 水道システム
 この地震では山間集落が大きな被害を受け、地滑りによる道路崩壊や送水管の流出が各所で発生し、復旧に時間を要した。また、降雪地帯で遠距離送水システム(離れた場所に比較的大きな水源を求め、長距離の導・送水管により複数集落に給水する「集中型」。山古志地域は「集中型」システムに該当する)が破綻すると、長期にわたって復旧が困難となる。送水管の複数化、耐震化は重要だが、送水ルートの複数化は地形的に困難な場合が多く、道路が流出する地盤では溶接鋼管や耐震継手でも対応できない。
 山間地域に水源が求められる場合は、地域ごとに「分散型」の水道システムとして、膜ろ過浄水処理システムのような施工や維持管理の容易な方式を採用することが防災上望ましい。一般に電力の復旧は早いので、比較的狭い地域で独立した水道システムを構築しておくことが被害の最小化、復旧の迅速化が図りやすい。膜ろ過システムは通常自動運転であり、水道技術者不足の小規模事業体には適している。遠距離送水コストを考えれば検討する価値がある。
 非常時に備えたバックアップ・ルートを設けることは自然的・社会的な制約で困難な場合が多く、中山間部における水道は、水源の状況、地形・地質、過去の発災例を勘案し、集中型と分散型を適切の組み合わせた水道システムを検討する必要がある。また、水道に切り替える以前に使用していた井戸、伏流水など、集落内で利用可能な水源を非常用水源として確保しておく。

A 施設の耐震対策
ア.構造物
 構造物の耐震性に問題があったのではなく、地盤条件や周辺の地形条件により被害が生じている。施設位置の選定、基礎構造の選定が重要である。沢近くの地下水位の高い場所、急峻な斜面、盛土部は極力避ける。

イ.管路
 耐震性の高い管を布設することが被害を最小限に食い止め、復旧を早める。点在する集落への給水は一般的には樹脂状に布設される。地震対策としてはバイパス管路の設置やループ化があるが、多大な費用を要するため、費用対効果の十分な検討が必要である。

B 復旧
ア.復旧計画
 各集落の被害状況、応急復旧と本復旧対象施設・対象路線の仕分け、地域全体の復興計画との整合性を考慮する。
 一時帰宅者のための応急給水、集団移転への対応も検討する。

イ.復旧体制
 財政的・技術的・組織的に脆弱な水道事業が甚大な被害を受けた場合、その復旧に当たっては、近隣の水道事業者、日水協の地方・県支部の協力体制が必要である。

B.下水道施設

 国土交通省下水道部では、2005.10月28日付けで、「新潟県中越地震を踏まえた下水道施設の耐震対策」について通知を出し、今年度発注予定の工事より速やかに耐震対策を行うよう連絡しました。内容の概要は以下の通りです。

 地下水位が常時あるいは一時的に高くなることが予想され埋戻土に液状化が生じる恐れがある場合、「重要な配水施設」「その他の配水施設」の別にかかわらず、埋戻し部の液状化対策を行うこと。具体的液状化対策としては、地盤の特性、施工条件等の現地特性を勘案して、道路管理者と調整の上、以下のいずれかの対策を参考とすること。
@ 埋戻土の締め固め
 最適含水比に近い状態にした上で、タンパ等による念入りな転圧を行い、現場測定での締固度が90%以上に保たれるよう施工管理を行う。
A 埋戻土の固化

新潟県中越地震を受けた「下水道新施設における地震対策の提言」の主な内容

@ 管路施設の液状化対策
 管路埋め戻し土の液状化による路面陥没(被災管路延長152.1Km)や、マンホールの突出(被災マンホール個数2719個)が多数生じたことが特徴である。埋戻土の液状化対策として、埋め戻し土の締め固め、採石による埋め戻し、埋め戻し土の固化を提言している。

A 重要幹線等の定義の見直し
 埋め戻し部の道路陥没やマンホールの突出は交通障害を起こし、災害復旧活動に支障をきたす。このため、重大な影響を及ぼす恐れのある管路は重要幹線の扱いに準じて耐震性能を確保すべきとしている。

B 処理場・ポンプ場の継ぎ手対策
 処理場・ポンプ場については構造的に大きな被害はなかった。水槽内には継ぎ手を設けない工夫が必要である。
 建物の内外を継ぐ配管や施設内で応力集中の可能性のある配管には、より可とう性の大きな継ぎ手を設ける。

4−2.能登半島地震(2007.3.25 M6.9 震度6強)

 平成19年3月25日(日)午前9時42分頃、能登半島沖の深さ11Kmを震源とするM6.9、最大震度6強の地震が発生しました。最大加速度は849galで、阪神淡路大震災の最大値818galを上回っています。能登半島沖は地震活動が不活発な地域で、この地域でM7級の大地震は過去400年で初めてだそうです。政府が06年に作成した今後30年以内に震度6弱以上の揺れが起こる確率を地域別に示した全国地震動予測図でも、能登半島北部の確率は0.1%未満と5段階の最低ランクで想定外の地域でした。

 今回の地震は、フィリピン海プレートの圧力で歪みが蓄積され、陸側ユーラシアプレートの内部が壊れて起きた、いわゆる「内陸直下型」に近いメカニズムと考えられています。プレート運動で常に地殻が押されている日本列島では、地震の安全地帯はなく、どこでも大規模な地震が起こりうることが改めて実証されたことになります。

 死者1名、重軽傷合わせて341名にのぼり、全壊638棟、半壊1563棟、一部破損13553棟、非住家被害4196棟で、海岸線や山間を走る道路が盛土や斜面の崩壊・落石により通行止め箇所は18路線・24カ所でした。水道の被害状況は、07年3月26日0時現在、、断水世帯は石川県内で13,290世帯、富山県で38世帯です。輪島市と穴水町では総合病院が断水し、人工透析患者を他市町に移送する事態も発生しましたが、10日後には暖水は解消しました。

 3月25日時点での水道関係者の活動は、日本水道協会に災害対策本部を設置、石川県より日水協中部地方支部(幹事都市:名古屋市)に応援要請があって、福井市・名古屋市・富山市・高岡市・射水市等から給水車と上下水道職員が派遣されました。自衛隊給水車も輪島市・穴水町へ派遣されています。

表−4能登半島地震の断水状況
被災都市 断水世帯数(07.3.26現在)
輪島市 5500
能登町 2100
志賀町 3600
中能登町 10
津幡町 20
七尾市 1500
穴水町 550
氷見市 38
合計 13280

能登半島地震の特徴

1) 管路

 能登半島地震は地方過疎型で新潟県中越地震に近いものです。被害箇所が点在しているので復旧には苦労がありましたが、大都市ではなかったため被害そのものが少なく、比較的混乱が少なかった。また、最大震度が少なかったことや液状化などの地盤変状が少なかったことが、管路被害が少なかった原因と考えられます。旧門前町の被害率は0.32件/Kmで、阪神淡路大震災時の芦屋市の1.61件/Km、西宮市0.72件/Kmより少なく、新潟県中越地震時の小千谷市0.31件/Km、長岡市0.30件/Kmと同程度でした。

 輪島市皆月地区にあるダクタイル耐震管は断層の直上に布設されていましたが、震度6に耐えうることが実証されました。
 穴水町では山間部に埋設された導水管(鉄筋コンクリート管)が破損し、水道システム全体への影響が大きくなりました。ライフラインとしての水道システムは、上流部分が最も重要であることを再認識できました。
 七尾市では、酸性の珪藻土地盤や海岸近くの塩分に富んだ地盤での古いダクタイル鋳鉄管の経年劣化が問題となりました。

 管種ごとの被害状況は、ダクタイル鉄管は一般継手の抜け、高級鋳鉄管は継ぎ手漏水と管体破損、鋼管はねじ継ぎ手の抜け・破損、水管橋橋台と埋設部との取り合い部で破損,VP(硬質塩化ビニル管)はTS継ぎ手の破損・抜け、RRPでは継ぎ手抜け・漏水でした。被害形態としては新潟県中越地震や阪神淡路大震災と同じでした。VPの被害が最も多く、次いで石綿セメント管、ねじ継ぎ手鋼管の被害が多い。
 耐震継ぎ手型のダクタイル管、溶接鋼管、ポリエチレン管については被害がありませんでした。
 導水管の損傷として、山間部に設置された鉄筋コンクリート管(φ250mm)が数カ所損傷し、代替え水源の確保に手間取っています。

 被害の多発地盤も被害形態としては新潟県中越地震や阪神淡路大震災と同じでした。石綿管やTS継ぎ手のVPは地盤変状が見られないところでも被害は生じていましたが、それ以外の管路被害は、河川に沿った地域、海岸部、盛り土部などの地盤の悪いところで起こっています。
 ダクタイル管の一般継ぎ手は上記の地盤の悪いところで被害が多く発生しており、K型継ぎ手の抜けも複数箇所でみられました。このことから、ダクタイル管の一般継ぎ手は地盤条件をよく考慮した上で布設する必要があります。

2) 2つのステンレス配水池の損傷

 能登半島には32基のステンレス配水池が築造されていましたが、2基が損傷し、その他は全く問題はありませんでした。

 ステンレスタンクの破損原因としては
1)  スロッシング(跳ね返り)による動水圧等、設計地震動以上の荷重が作用
2) 部材の断面・強度不足
3) 施工不良
が挙げられます。

 溶接不良等の施工不良によることが考えられますが、異なる施工業者によるタンクの被害であることから、1)、2)による影響も考えられます。単純な施工上の問題なのか、地震動等の複合的な要因によるものなのかは、今後の十分な照査が必要なようです。

3) 水管橋

 橋台やコンクリート防護工の沈下により上部工や支承部に損傷が発生しています。また、橋台と埋設部の取り合い部で管路被害が発生しました。

4) 緊急遮断弁

 緊急遮断弁を設置していた浄水場系統では応急給水を確保することが出来ましたが、未設置の一部の配水池では応急給水が不足することがありました。

5) 停電被害

 大規模な停電は発生せず大きな被害はなかった。自家発電設備が設置されている施設では、停電時に正常稼働し施設機能が維持されました。

6) 浄水設備

 次亜塩素酸ソーダやPACの薬注計器の軽微な損傷があった。地震時の転倒・滑り・アンカーボルトの抜け出し防止対策や腐食度合いの点検が必要です。

 志賀町では水源が濁って給水不能となり、緊急的に搬送可能な膜ろ過器をリースで運用しました。

下水道の被害

 下水道の被害は3月26日午前現在、マンホールの隆起事故が、輪島市で36カ所(最大100cm)、志賀町で4カ所(最大50cm)確認されました。管路の蛇行もありましたが、仮設ポンプの設置などにより流下能力を確保し、大きな機能障害はありませんでした。処理場は一部で破損があったようですが、水処理に支障はありませんでした。

4−3.新潟県中越沖地震(2007.7.16 M6.8 震度6強)

1) 地震の状況

 2007.7.16の午前10時13分頃新潟県中越沖を震源とする地震があり、新潟県長岡市・柏崎市・刈羽村・長野県飯綱町で震度6強を記録する強い揺れを観測しました。マグニチュードは6.8でしたが震源の深さは17Kmと浅かったため被害は甚大でした。新潟県上中越沖を震源とする逆断層型の地震であり、最大加速度は柏崎市での1018.9gal(3方向合成値)でした。

 7.7.23時点で、新潟県・長野県合わせて死者11名、重軽傷者1312名、建物全壊949棟、建物一部損壊3837棟、非住家損壊1522棟という被害に加え、東京電力柏崎刈羽原発からの出火や、自動車部品工場の倒壊により、トヨタ・ホンダをはじめとする主だった自動車工場が軒並み操業停止せざるを得ない影響もありました。

 また、今回の中越沖地震では、地震発生直後に大きな揺れが来ることを知らせる気象庁の「緊急地震速報」が震度6強を観測した柏崎市・刈羽村などで間に合いませんでした。震源が浅く陸地に近かったため、揺れの到達が早すぎたとのことです。緊急地震速報は地震発生の際に、伝わるのが速い初期微動(P波)と後から来る大きな揺れ(S波)との時間差を利用し、震度などを推定して速報するシステムです。今回の地震では、速報が出たのは地震発生7.1秒後で内容はほぼ正確でした。震源から80Km離れた飯綱村では16秒前に情報が伝わりましたが、約9Kmの柏崎市や刈羽村では揺れの方が早く到達しました。

2) 水道被害

水道被害として、断水戸数が新潟県・長野県合わせて58,981戸に上りました。

 水道の被害は震源地に近い柏崎市、刈羽村に集中しています。柏崎市では、水道システム上流にあるダムからの導水管や浄水場内の洗浄管の被害(φ600mm逆洗管、φ450mm表洗管、薬品注入管、サンプリング配管)、さらには、配水本管・配水支管の多数の管路被害により、7月16日の地震発生とともに給水区域全域の約4万戸が断水しました。上流の重要な管路、導水管や送水管の大口径の管路(主としてK型ダクタイル鋳鉄管)が被害を受けたことにより、復旧に大きく影響を与えました。上流部は壊れてはならないという考えの基に、重要度に応じた上流からの耐震化の必要性が痛感されます。

刈羽村は、3年前の新潟県中越地震に比較し5倍強の被害を受けています。また、水源である川内ダムでは、天端部に数カ所クラックが発生しています。

 本地震では、配水池等の施設には大きな被害はなかったものの、大口径の導水管が被害を受けたことをはじめとして、軟弱地盤の影響もあり、送配水管の被害箇所数は柏崎市だけでも536カ所にのぼりました。現時点で判明している被害の内訳は、塩化ビニル管221カ所、一般継ぎ手のダクタイル鋳鉄管や古い鋳鉄管が212カ所、鋼管が56カ所でした。ダクタイル鋳鉄管は約7割が抜け出し、鋼管と塩ビ管は約6割が破損でした。管路被害率は0.65件/Kmでした。阪神淡路大震災が0.44件/Kmだったことを考えると、柏崎市の管路被害は神戸市よりもひどい被害であったと言えます。NS型ダクタイル鋳鉄管の被害はありませんでした。管路の更新・耐震化が有効なことを実証しています。また、神戸市では配水管の10倍位の被害があった給水管の被害は283件と非常に少ない状況でした。ポリエチレン管の採用が被害を小さくしたとの見解です。

 管路の被害は同種の管であっても地域によって被害状況に大きなバラツキがみられます。被害状況としては、震度5以上の地域で断水が発生していること、送水管・幹線配水管など大口径管路に多く被害があったこと、砂地盤の液状化による管路被害が顕著であったことが挙げられます。液状化や主要道路のり面の崩壊、緩斜面・砂地盤における地盤変異を起こした箇所、地質境界に被害が集中しています。
 柏崎市で長期間断水が続いているのは、ダムから赤坂山浄水場導水する3本の導水管のうち2本が破損したことに加え、浄水場内の破損という水道システムの上流部分の被害が大きかったためといわれています。この3本の導水管はK型ダクタイル鋳鉄管でした。液状化等の地盤変状が生じた悪い地盤に布設されていた導水管(3本中2カ所)や配水幹線(18カ所)が耐震化されていれば復旧はもっと早かったと思われます。しかし、K型管の耐震性はかなり高いものですので、耐用年数を残している状況で耐震管に布設替えすることは難しい状況だったことでしょう。現に、液状化していない良好な地盤では震度6強にも耐えられたことが確認されています。

<液状化地盤は日本海沿岸部の特徴?>

 パイプラインの被害に注目すれば、1964年新潟地震、1983年日本海中部地震、2007年の能登半島地震と新潟中越沖地震は液状化による被害が顕著であるといえます。これらの被害地は日本海沿岸にみられる砂丘の後背地にあたります。砂丘の後背地は、砂丘の砂が強い季節風で飛ばされて積もり形成されます。この時、粒子の大きい砂は近くに落ち、小さいものはより遠くまで飛ばされ積もりますので、砂丘からの距離によってそれぞれに粒子の揃った土地が出来上がります。この粒子が揃っていて地下水位の高い砂層地盤では、液状化が生じやすい条件が整っているといえます。沿岸部地震の液状化現象は日本海特有の自然条件によるものともいえそうです。(2007.9.27水道産業新聞)

 このため、液状化を含む地盤条件と管路の被害状況の関連性について分析を行い、原因を究明していく必要が指摘されています。

応急復旧

 被災地における応急復旧は、日水協新潟県支部、中部地方支部、関東地方支部の協力により、発災から約2週間後の7月31日をもって概ね終了しました。管路の被害規模からみて2週間での応急復旧完了は異例とも言える早さであり、平成16年に新潟県中越地震の経験を生かした迅速な情報収集と状況判断を行った新潟市水道局の対応は評価に値するものです。
 応急給水や復旧に関する07.7.24時点での対応状況は、応急給水車が自衛隊198台に加え、事業体等から32台(新潟県内14台、県外12台、その他6台)が駆けつけました。漏水調査班として、県内事業体5班、中部地方支部事業体32班、関東地方支部事業体19班の合計56班(160名)が活動しています。修繕班として、県内事業体38班、中部地方支部事業体15班、関東地方支部事業体28班の合計81班(事業体職員147名、業者416名)が対応しています。

3) 下水道の被害

 下水道の被害状況は、新潟県信濃川流域下水道長岡浄化センター・十日町下水処理センター・柏崎市自然環境浄化センターの一部が破損しましたが、水処理に支障は出てない模様です。
 柏崎市では、八坂中継ポンプ場・柳橋中継ポンプ場で圧送管破断、公共下水道管渠のマンホール隆起、道路陥没等の被害が確認されています。

4−4.中国・四川大地震(2008.6.5水道産業新聞)

 2008.5.29時点での中国政府及び四川省からの情報によりますと、四川、重慶等4省の水道施設では5万カ所が被災していて、損害が大きい管路は4.4万Kmに達しているそうです。
 四川省では、震源地に近い2つの浄水場が全壊し、254の主要鎮(県以下の町)の140の水道施設が全壊しています。破損した水道管路延長は7880Kmに達しています。
 水道の長期断水などの影響された人口は955.5万人、その内四川省だけで575.2万人だそうです。
 中国政府は次の4つの対策を施しています。
@ 水道施設の緊急復旧
 全国の水道事業体からの復旧支援チーム14隊300人
A 臨時消毒装置と移動式浄水装置の導入
 移動浄水設備40台(浄水能力1200m3/日)、軍用膜浄水器1000台、浄水用消毒錠剤130万錠、水質測定・監視システム1セット
B 人口が多い地域への集中給水所の設置
C 給水車などによる応急給水

4−5.岩手・宮城内陸地震(2008.06.14 震度6強、M7.2)

 2008.6.14午前8時43分頃、岩手県南部を震源とするM7.2の岩手・宮城内陸地震が発生しました。宮城県栗原市、岩手県奥州市で震度6強、東北から関東の広い範囲で強い揺れを観測しました。厚労省の発表によりますと、総断水戸数は岩手・宮城・秋田・山形の4県で最大5098戸に達しましたが、6月15日午後4時までに1292戸が復旧、3806戸で断水が続いているそうです。

 栗原市では主として配水管の破損により2780戸が断水し、市や宮城県支部からの給水車による応急給水を実施しています。簡易水道の施設の崩壊、ろ過装置転倒破損の被害がでています。
 奥州市でも簡易水道地区で1420戸が断水、岩手県支部による応援応急給水が始まっています。

 下水道は北上川流域下水道水沢浄化センター(奥州市)で汚泥濃縮槽、汚泥消化タンクの機械設備の一部に被害が出ましたが、水処理機能に影響はありませんでした。栗原市では約50カ所のマンホールが隆起しましたが、下水の流下機能は確保されているようです。

4−6.岩手県沿岸北部地震(2008.07.24 震度6強 M6.8)

 2008.7.24午前0時26分頃、岩手県沿岸北部を震源とするM6.8の岩手県沿岸北部地震が発生しました。2008.7.25午後4時時点の総断水戸数は1265戸と地震の規模のわりには軽微でした。断水の内訳は、岩手県769戸、青森県471戸(八戸市で水源濁度上昇に伴う取水停止による断水)、宮城県25戸です。

 八戸圏域水道企業団の被害状況は、白山浄水場ろ過池の柱3本座屈、地下水源の浄水場での濁水による取水停止3カ所(最大40度〜2度)配水管破損2件、給水管被害37件(メーター以降が34件)でした。3カ所の浄水場には送配水のバックアップ機能を持っていたため、断水は回避できたそうです。管路耐震化率も30%だそうで管路更新がうまくいっていたのでしょうね。(2008.8.4日本産業新聞)

 この地震は、陸側のプレート(岩盤)の下に沈み込む太平洋プレートの内部で起きた「スラブ内地震」で、震源が108Kmとかなり深いところでした。岩手・宮城内陸地震のような内陸(直下)型ではなく、太平洋プレートの沈み込みに関係する地震なのです。気象庁によりますと、地震のメカニズムは東西方向に引っ張られた正断層型で、沈み込む太平洋プレート内の深い所ではこのタイプの地震が起きることが知られているそうです。東北地方で規模の大きな地震が続いていますが、この地震はタイプが異なり関連性はありません。 

5 地震に関するトピックス

2008.3.30

水道施設耐震化加速へ改善運動(日本水道新聞、水道産業新聞2008.3.17)

 厚生労働省、日本水道協会、水道技術研究センター、全国簡易水道協議会の4者は、2008.4.1から2年間「水道施設・管路耐震性改善運動」の全国展開に乗り出します。

 水道施設のうち、特に耐震化が遅れているのが基幹施設です。H17年度末現在、耐震化率は、浄水場が12.4%(能力ベース)、配水池が20.1%(容量ベース)、基幹管路(導水管、送水管、配水本管)が10.8%と極めて低い水準にあり、ここ数年の推移を見ても、取り組みは目に見えて進んでいないのが実情です。基幹管路耐震化率(水道統計に基づく試算結果)によると、計画給水人口25万人以上の都市でも10%以下が相当数存在しています。2007.7の新潟県中越沖地震では59000戸が断水しましたが、耐震化が進まない現状の問題が国会でも取り上げられ、水道の給水機能の確保に対する社会的な関心が高まっています。

 水道管路の耐震化については、
@ 石綿セメント管の年間布設替え延長の増加
A 布設後20年以上を経過した鋳鉄管、コンクリート管の年間布設替え延長の増加
B 布設後20年以上を経過した塩化ビニル管(TS継手)の年間布設替え延長の増加
を求めていきます。

 水道施設のついては耐震化計画策定に向け、全ての既設浄水場、配水池など基幹施設の耐震性能の評価を促進し、耐震化事業の増加を目指します。震災発生後の水量を確保するため、計画一日最大給水量の12時間分に相当した配水池容量の確保、緊急時給水拠点の増加、緊急時用連絡管による接続箇所の増加を促します。

 運動を水道利用者に理解して貰うため、情報開示も徹底して行います。水道事業者ごとにPIを活用した耐震化率及び取り組み状況を開示します。

 厚生労働省は、水道施設の耐震性能基準を明確化し、水道施設の適切な耐震化を図るため、2008年度内に水道施設の技術的基準(施設基準)を定める省令の改正・交布、10月1日の施行を予定しています。

2005.11.01 「4−1.新潟県中越地震」 「下水道新施設における地震対策の提言」を追加
2005.11.15 「4−1.新潟県中越地震」国土交通省の耐震対策通知を追加
2007.05.24 「4−2.能登半島地震」調査団長の宮島金沢大学教授のコメントを掲載
2007.08.27 「4−3.新潟県中越沖地震」厚生労働省の中越沖地震水道調査団の調査コメント
2007.09.03 「4−3.新潟県中越沖地震」土木学会等関連5学会の調査報告内容を追加
2007.10.01 「4−3.新潟県中越沖地震」液状化地盤における管路被害状況を追加記載
2007.12.01 「4−2.能登半島地震」平成19年(2007年)能登半島地震水道施設被害等調査報告書(平成19年8月)の内容を追加記載
2007.12.23 「3.水道施設が備えるべき耐震性能」を追加記載
2008.03.30 5.トピックスに「水道施設耐震化加速へ改善運動」を記載
2008.06.11 「4−4.中国・四川大地震」を記載
2008.06.22 「4−5.岩手・宮城内陸地震」を記載
2008.06.30 「3−3.耐震化を妨げている要因」を記載
2008.07.30 「4−6.岩手県沿岸北部地震」を記載