水道事業経営の効率化

第1章 水道事業経営の効率化策

はじめに

 総合技術管理部門を目指す方々にとっては、水道事業のマネジメントに関する考え方が非常に重要なポイントになると思います。特に気を付けて頂きたいのは水道事業体の方です。水道事業体に所属されていない方々は、青本等に書かれている一般的なマネジメントの実践計画を述べればよいと思います。(現在の公が運営している水道事業運営の非効率性の立証と民の係わった効率性のある対策案を述べる。等)しかし、水道事業体の方は現に水道事業を運営されておられることから、水道マネジメントのあるべき姿と現状とのギャップが大きいのではないかと思います。(現時点では、国策通りの事業運営をしていない。等)
 水道事業経営の効率化は国策であります。国策として論じられている内容を熟知した上で、自分の属する事業体の現実に足を置いた状態で「今後の(自分の属する事業体も含めて)水道事業経営のあるべき姿」を論じることを求められるのではないか?と思います。
 このようなシチュエーションを考慮して、「水道事業経営の効率化のあり方」をポチなりにまとめてみようという試みで書いてみました。一読下さい。
 なお、考え方の基本としているのは、「水道事業における新たな経営手法に関する調査研究会報告書(平成15年3月)」です。(ほとんど丸写しですが!)

1. 水道事業の現状と課題

(1) 水道事業の現状

@ 我が国の水道事業は、既に高い普及率(平成13年度末96.7%)に達していて、経営形態は地方公営企業がほとんどです。また、その事業体の約60%が昭和30〜40年代に供用を開始しており、今まさに大量更新期を迎えつつあります。

A 水質面では、水源である公共用水域等の水質は水道原水として十分良いとはいえず、より良質な水道水の供給を目指して新たな水質基準項目が追加されていますし、水質基準も世界的に強化する動きがあります。

B 国民生活の中で水道サービスへの依存度はますます高まっていて、量的な充足や「良質な水」への要望が高まるなど利用者ニーズは高度化・多様化する傾向が見られます。

C 水道料金は、最高料金と最低料金で約10倍、最高料金と平均料金との間においても約2倍の料金格差があります。また、我が国の水道事業の給水人口規模を見ると、3万人未満の小規模水道事業の占める割合が67.4%(平成13年度末)と小規模水道事業体が全体の3分の2を占めています。

(2) 水道事業の課題

@ 水道事業は施設の大量更新期を迎え、計画的な改良・更新が必要となっていますが、その際、耐震性の強化等ライフラインとしての機能の向上を図っていくことが重要です。さらに、供給する水についても、トリハロメタン対策や病原性原虫クリプトスポリジウム対策を講じるとともに、世界的な水質基準の強化に対応し、より良質で安全な水の供給に向けて必要な施設の整備を行っていく必要があります。

A 水源環境の保全や良質な水道原水の確保と水質の向上に向けた流域単位での統合的水管理システムの形成を目指す努力も求められています。

B 小規模水道事業では、独立採算制の維持が難しくなっているものも見受けられるなど、その脆弱な経営体質の改善を早急に図る必要があります。加えて、施設の建設時期や地理的条件等による料金格差についても、その是正を引き続き図っていく必要があります。

C 少子高齢化や節水型社会への移行に伴う有収水量の伸びなやみ等による収入面の減少が予想される一方で、従来からのダム等水源開発に伴う資本費の負担に加え、施設の改良・更新による支出面の増加が見込まれており、今後、水道事業の経営は次第に厳しくなっていくものと予想されます。

 このような諸課題に対応するためには、計画的かつ適切な投資を行う一方で、ITの活用等による業務の効率化業務委託の積極的な推進等による経費節減に努めつつ、利用者ニーズの高度化と多様化に応え得る質の高いサービスを提供するとともに、そうしたサービスの品質に見合った合理的かつ適正な料金設定を行う必要があります。特に、小規模水道事業体は、広域化の推進を通じての経営規模の適正化や自己資本の更なる充実等、従来にも増して経営基盤の強化を図っていかなければなりません。

(3) 今後の水道事業のあり方を考える上での基本的な留意点

@ 社会的便益を考慮した水道サービスの必要性
 今日、水道サービスには経済性や効率性が強く求められていますが、水道事業にとって必要とされる経済性(効率性)とは、市場取引を通じて利潤極大化を目指す私企業的な採算性ではなく、外部経済効果をも考慮した社会的な経済性(効率性)です。例えば、水道の普及による公衆衛生の向上などが外部経済効果として挙げられますが、これらは市場的(私企業的)な資源配分では解決できないものです。
 また、水道事業の今後を考えると、私的価値評価(日常の水使用中にハッキリと感じられる価値)と社会的価値評価(水源や配水状況の安定性とか地震に強い施設等、日常の水使用中では価値がほとんど感じられないもの)の乖離が大きくなる可能性もあります。例えば、ライフラインとして社会的に求められる水道の機能を維持していくためには、計画的な更新投資や追加投資が不可欠ですが、その評価をめぐっては両者の乖離が生じやすいということです。つまり、更新・追加投資の性格として、それが社会的に求められているとしても、利用者にとって自覚できる私的便益の水準が以前と変わらない場合には理解を得ることが難しく、そのことに見合う追加的な収益の拡大を見込むことも困難であるということです。
 このような場合、短期利益志向の強い私的企業では、収益増に直結しない先行投資を極力抑制する行動が選択されやすく、私的便益を超える社会的便益が必要と考えられる場合には、公的関与により適切に対応していくことが必要と思えます。

A 流域の統合的水管理下での水道事業経営であるべき
 水供給は健全な水循環の一構成要素として位置付けられるものであり、水需給を水循環と切り離して単独で捉えるべきではありません。つまり、水源汚染問題に代表されるように、水供給自体がもはや利水や治水の視点だけで自己完結的には管理できない状況にあるということです。そのために、流域を単位とする統合的水管理が必要であり、統合的水管理システムの確立を早急に図りつつ、その下で水道事業とその経営のあり方が論じられるべきなのです。
 水管理のグランドデザインを欠いたままミクロの経済性を優先させると、各人の判断は経済合理性を持ちつつも、社会的には不合理な結果を引き起こしかねない恐れがあります。

B 公的独占から私的独占への憂慮
 現在の市町村営優先の原則には、水道事業が有する地域独占的性格が色濃く反映しており、競争的市場化が急速に図られつつある電気、ガス、通信など他の公益事業とは大きな違いがあります。仮に水道事業を民営化したとしても、市場構造を競争的市場にすることは難しく、現在の公的独占が私的独占に変化するに留まるものと思われます。例えば、水道事業においては、最近「地下水の膜処理、」、「海水淡水化」などの技術が急速に進展しているものの、地域独占体制を突き崩すような技術的変化には至っていませんし、また浄水・配水・給水などに機能分割し、その一部を自由化することにより競争的市場化を図ることも容易とは思えません。
 完全民営化しているイギリスにおいて、配水ネットワークを共同使用化し、その前後を自由化する試みが進められつつありますが、安全性の確保や共同使用の管理などにおいてクリアすべき課題が山積しており、その前途は多難です。その一方で、民営化された水道会社が非営利組織化される動きも見られます。
 我が国では、水道事業の合理的、効率的な経営や広域化こそが求められているのであって、多数の事業主体による競争的市場化を求めることについては慎重な検討が必要です。

 以上のように、水道事業はかなり特異な性格を持っているので、その経営は、基本的に公共が重要な役割を果たしていく必要があると考えるべきでしょう。

2. 水道事業の経営改革

 水道事業は、最大限合理的かつ効率的に経営すべき我が国の経済社会の重要なインフラあります。そのためには、民間企業の経営手法と市場経済下で展開されている競争原理を水道事業に見合った適切な形態で積極的に取り入れていく必要があります。

(1) 顧客指向によるサービスと信頼性の向上

 水道水の需要者(地域住民・企業)を顧客として捉え、各種のサービスにおいて顧客満足度を極力高める必要があります。水道事業における顧客満足度は、「清浄」、「豊富」、「低廉」な水の安定的な供給という観点から常に検証されなければなりません。
 具体的には、安全で良質な水の供給が保証され、渇水時においても必要十分な給水が行えるよう安定的な水源が確保され、国内のみならず諸外国と比較しても遜色ない品質に見合った合理的な料金となっているといったことがまず挙げられます。その他にも、給水の使用開始・中止、料金収納等各種手続面における利便性の向上給水装置(需要家の所有部分)の適正管理の指導、各種窓口業務等における接遇の改善、顧客ニーズ把握のための広報広聴業務の充実といったことも重要です。

 また、利用可能な資源・資金により大きな効果を生み出そうとする「効率性」は重視すべきですが、それのみの追求はサービス水準の低下に結びつく場合もあり、総合的な顧客満足度をいかにしたら高め得るかという「有効性(効果)」に配慮してサービスを実施するとともに、顧客に対する「説明責任」 を十分に果たし、水道事業に対する信頼性を高めていく必要があります。なお、顧客に対する「説明責任」を果たす際には、サービスの品質の向上にはそれ相応の負担を伴うものであるということも適切に伝えていかねばなりません。

(2)「目標による管理」に基づくマネジメントサイクルの確立

 水道事業の経営目標は数字で明示する等解りやすくするとともに、部門別の目標も具体的に設定し、可能ならば担当職員別の目標を設定し、その達成度を評価するといった「目標による管理」の導入を推進すべきです。なお、この前提としては、各組織・職員に対し権限の配分と責任を明確にしておくことが必要です。

 「目標による管理」を導入する場合には、設定する目標を事業推進により達成された成果として客観的に理解されやすい数値、数量等の指標によって示すだけでなく、更にその評価が次の事業計画段階にフィードバックされ、より効率的、効果的な運営を目指す「Plan-Do-See(PDCA)」のマネジメントサイクルの確立を図るべきであり、その際、評価結果及び次の事業運営への反映内容について、可能な限り情報開示の対象とすることが望まれます。

 なお、設定された目標を良好に達成したと評価された場合には、透明性を確保しつつ、人事処遇面で的確に反映していくような取扱いが職員等の士気の高揚の面からも必要です。

(3)情報開示

 水道事業体の情報の開示は、必ずしも十分とはいえません。顧客に対する説明責任を果たし、より身近な水道として住民の理解と協力を得るためにも、今後更に積極的な情報開示を行っていく必要があります。

@ 業績評価
 決算を踏まえた財務諸表による経営状況等の情報開示は、多くの事業体においてなされていますが、今後は達成された業績を数値等により分かりやすく示す「業績評価」を重要な開示情報として位置付けていく必要があります。業績評価は、自己評価によるものの他、住民・水道利用者・公認会計士・学識経験者等、外部の目により客観性を確保された評価であることが望まれます。

A 比較評価
 各水道事業体相互の成果(経営実績)を比較できるような指標化を行い、それに基づいて住民等が比較評価できる手法を導入する必要があります。比較評価が適切に行われれば、一般のレベルから乖離した経営が行われている事業体に対し、是正・改善を促す契機となると思われます。

B PRの手段
 情報の開示に際しては、広報誌、パンフレット、インターネット等、あまりコストがかからず多数の需要者に有効に知らせることができる手段を利用するよう心がけるべきです。あらゆる機会を通じて、管理者を先頭に住民に対する積極的なPRをする必要があります。

(4)PFIの活用

 PFI(Private Finance Initiative)とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金・経営能力・技術力を活用して行う手法のことです。民間の資金・経営能力・技術的能力を活用することにより、国や地方公共団体等が直接実施するよりも効率的・効果的に公共サービスを提供できる事業について採用したい手法です。
 PFIを活用する場合は、その対象とする施設の計画、建設、所有、管理、運営の各段階での効率性、リスク負担等を十分に考慮し、直接投資等の場合と比較しての総合的なメリットの有無を詳細に検討して、十分な競争環境の下で実施することが必要です。以下に、主なPFI手法のプロジェクト推進形態を列記します。

BLT(Built Lease Transfer 建設→リース→譲渡)
 民間事業者が自ら資金調達し、施設工事完成後公共体に施設をリースし、一定期間管理運営する権利を得ます。リース代を受け取って投下資金を回収した後、公共体に所有権を引き渡します。公共が施設を保有するため固定資産税や都市計画税は非課税です。

BOO(Build Own Operate 建設→所有→運営)
 民間事業者が自ら資金調達、施設建設、所有権を保持したまま運営を持続します。

BOS(Build Operate Sell 建設→運営→売却)
 民間事業者が自らの資金調達によって施設を建設し、公共体に売却してその売却益を償還原資とします。民間事業体は売却後、公共体とリース契約を結んで施設貸与を受け施設の所有権は持ちません。公共が施設を保有するため固定資産税や都市計画税は非課税です。

BOT(Build Operate Transfer 建設→運営→譲渡)
 民間事業者が自ら資金を調達し、施設を建設後、一定期間管理運営を行って資金回収後、公共体に施設を譲渡します。

BTO(Build Transfer Operate 建設→譲渡→運営)
 民間事業者が自ら資金を調達し、施設を建設後、施設の所有権を公共体に引き渡しますが、引き続き施設の運営権を得て施設運営をします。運用収益を民間事業者と公共体が分配することもあります。公共が施設を保有するため固定資産税や都市計画税は非課税です。

DBO(Design Build Operate 設計→建設→運営)
 所有権は公共体のままで、民間事業者が施設の設計・建設・管理運営を行います。公共が施設を保有するため固定資産税や都市計画税は非課税です。国庫補助金の獲得等、資金調達を公共が行った場合の方が有利となるケースで採用されます。

(5)アウトソーシング(業務の包括委託)

@ 技術業務の包括委託
 検針、料金徴収、水質検査、庁舎管理・清掃等の業務については、多数の事業体で委託が進んでいます。しかし、全体としては、なお一層の業務委託を進める余地はあり、特に小規模事業体においてその必要性が高いと考えられます。

 改正水道法により、浄水場の運転管理等の高度な技術力を要する業務の包括委託が制度化され、民間企業の技術・ノウハウや人的資源の活用が可能となり、職員の大幅な減員・配置換えを進めることができるようになりました。包括委託を進めるにあたっては、委託の効果を明らかにし、必要なコア職員(組織)の採用、研修、配置等を計画的に行う必要があります。

 今後、小規模水道事業では、技術上の業務の包括委託が増えていくものと考えられます。そのため、委託契約する際の条件、責任分担等について、早急なガイドラインの作成が望まれます。

 改正水道法に基づく技術上の業務の包括委託の範囲は技術的な管理業務に限られていますが、今後予定される施設の更新投資には、維持管理の現場からフィードバックされた情報が重要ですので、包括委託の範囲が技術的な管理業務であっても、更新事業との連続性を無視することはできません。また、実際には既に料金計算などの業務もその一部が委託対象とされており、こうした業務との連続性も自然な流れとして生じる可能性があります。
 その意味では、技術上の業務の包括委託だけでなく、その前後において一般的な委託が連続的に生まれる可能性が考えられ、各事業体は、こうした全体像を視野に入れた戦略的な検討が必要となります。

A 技術業務の包括委託の留意点
ア)委託者側の留意点
1.直営体制の空洞化
 技術・人材等の確保に苦しい事業体を中心に、技術上の業務の包括委託が順次進めば、なし崩し的に直営体制の空洞化が進む恐れがありますので、将来を見通し必要な準備を経て実施する必要があります。
2.的確な審査・交渉能力の確保
 委託者は、受託者への丸投げ意識を払拭するとともに、管理の品質低下やコストアップの要因を発生させないために、受託業者の選定に当たって技術等に関する的確な審査能力や交渉能力を持つ必要があります。
3.中長期計画に沿った委託範囲の位置付け
 委託に当たっての考え方としては、業務を徐々に切り離して外部に出していくのではなく、中長期の経営計画を策定し、直営で維持すべきものが何かを見極めた上で、委託範囲を設定する必要があります。
4.適切な契約期間の設定
 契約方式についても、業務運営の安定性や効率性を一層向上させる観点から適切な契約期間を設定しなくてはなりません。
5.受託者との責任ある相互関係の確立
 従来の一般的な委託とは異なり、技術上の業務の包括委託は責任権限を含めた委託であり、その意味では利用者にとって第二の水道局(部・課・係)ができるわけですから、受託者と透明で責任ある相互関係の確立が重要であり、戦略的パートナーシップとして相互の理解と信頼に基づいて利用者に対するサービスや責任を果たせる仕組みを工夫する必要があります。

イ)受託者の留意点
 今後は、法的責任権限まで含めた受託により、相応のリスクを負うことになりますので、それに耐え得るだけの経営体力、委託者との間の長期的な信頼関係の形成、住民に対する責任権限等を確実に処理できる体制の整備が必要となります。
 技術上の業務の包括委託に関する制度は、特定分野に限定されない総合的な技術管理能力を受託者には求められます。
 委託者が小規模事業体の場合には、単独での受託が困難となるケースも想定されます。このような場合、周辺事業体を含めたスケールメリットの働く受委託の可能性について考慮する必要もあります。

B 技術業務の包括委託促進のための環境整備
 技術上の業務の包括委託については、業務委託先の育成、開拓等を行うとともに、委託可能先の状況を周知していく必要があります。受託者側の人材育成計画の確認、受託者として具備すべき要件に関する基準の具体化やその適切な運用の確保に努めていくことも重要です。
 また、技術上の業務の包括委託の効果的かつ適正な遂行を担保していくためには、受・委託者が実施する自己評価に加え、水道の利用者の立場に立ったモニタリングや評価を行う仕組みの整備が望まれます。

(6)指定管理者制度

 近年、NPOの活躍が様々な分野で見られますが、地域住民が共同参画する地域社会を実現するためには、地方公共団体の行う公共サービスの分野においても共同で一定の業務を実施していくという協働の理念が必要です。地域密着型のサービスを行う水道事業においても「水」という欠くことのできない「財」に対してより一層住民の関心を高めると同時に、NPOになじみやすい業務の共同処理の可能性を追求することが必要です。

 指定管理者制度とは自治体かその外郭団体に限っていた公共施設の運営管理を、民間企業や非営利組織(NPO)、市民団体等民間にも任せられるようにした制度です。資金調達を伴うPFIより企業の投資リスクが小さく参入のハードルが低いのが特徴です。
 自治体は条例で施設を定め、議会の議決を経て対象施設を指定します。直営を除き、06年9月までに全施設の指定管理者を決定しなくてはなりません。

(7)地方独立行政法人

 地方独立行政法人は地方公共団体(地方公営企業も含む)の行っている事務や事業において、地方公共団体が自ら直接に実施する必要のないもののうち、民間に委ねた場合は必ずしも有効に実施されないおそれがあるものを、効率的・効果的に行わせることを目的に設立する法人です。
 独立行政法人は3〜5年の中期計画により企業会計原則で業務を遂行し、第三者機関である評価委員会が定期的に評価・勧告します。設立には議会の議決が必要です。

(8)契約制度の特例化

 民間企業の経営と比較されるケースが今後さらに多くなるため、経営の独立性と柔軟性をより高めていく観点から、契約制度の特例化や附帯事業に関する弾力的な取扱いについて検討していく必要があります。例えば、契約制度については、随意契約における金額要件の緩和や競争入札手続きの簡素化等、地方公営企業の経営のあり方を踏まえた制度の特例化についても検討すべきです。

(9)小規模水道の広域化

@ 小規模水道事業の広域化の必要性
 小規模水道事業ほど施設整備的な側面に力点がおかれ、経済合理性に従った企業経営という側面から策定すべき中長期計画が策定されていないところが多い状況があります。
 業務委託の実施状況をみても、当該地域に適当な受託業者があまり存在しないため委託の際の競争原理が働きにくいし、事業規模が小さいため、結果として委託単価が割高となるといった問題があります。
 さらに、小規模水道事業においては、専門技術職員の確保が難しく、少数の職員で広い範囲の業務を行わなければならないため、職員の専門性が育ちにくく、管理レベルの向上が難しいといった問題も見受けられます。

 一方、水道事業の広域化は、昭和40年代から水源開発と並行して積極的に進められてきましたが、近年はほとんど進展していません。現在、広範に進められている市町村合併により水道事業の規模の適正化が図られていますが、早期の市町村合併が期待できない場合は、事務の共同処理、施設の共同管理等、新たな手法により実質的に広域化の効果を挙げていく必要があります。

 小規模水道事業は、このような広域化によりある程度の規模を確保し、スケールメリットを働かせることが必要です。

A 今後の広域化の方向性
 水道事業においては規模の経済性が存在し、広域化による事業規模の拡大が効率的な運営・給水原価の抑制などに効果的です。広域化の一つの形態として、用水供給事業を行っている企業団が末端給水事業までを行うことや、その逆に、末端給水事業者が用水供給事業を取り込むことも考えられます。

 しかし、山間部や低人口密度地域では地理的条件や配水管使用効率等の面から、事業規模の拡大がむしろ経営面においてマイナスとなる可能性もあり得ます。このような地域においては施設等のハード面のみに着眼するのではなく、経営管理等のソフト面の統合化に重点を置いた広域化が検討されるべきです。具体的には、事務の共同処理による水道技術者の有効活用やその技術の継承があります。業務委託における受託者側の受託規模の確保とそのネットワークの活用により、結果として実質的な意味での広域化が図れる可能性もあります。

 受託者の確保が困難な地域にあっては、技術上の業務を独立して処理する組織を複数の事業体が共同で設立することや、民間企業との共同出資により設立することも可能です。例えば、都道府県単位又は適当な区域内の水道事業を対象として、技術上の業務を一括して共同処理する組織を設立することが考えられます。

B 望まれる広域的なビジョンづくりと支援措置
 今後の経営管理等のソフト面での統合に向けて、広域的なビジョンも含めた新たな構想と計画づくりが必要です。その際には、広域化を単なる経営効率化の手段としてのみ捉えるのではなく、流域単位での統合的水管理の視点をも重視して既存の水道整備基本構想等の総括的な見直しが必要となるでしょう。

 地理的、自然的条件等の要因で広域化の進まない地域については、従来のような水源の確保や広域的な施設整備等のハード面ではなく、経営管理等のソフト面の統合化に重点を置いた新たな視点での広域化計画の策定とその推進が必要です。

 水道事業においては、広域化の推進や市町村合併に関する各種財政措置が講じられていますが、経営の効率化や経営基盤の強化を図るための広域化を積極的に推進する観点から、自主的な広域化の奨励や経営管理等のソフト面を含む多様な手法による広域化に配意した財政支援措置の充実が望まれます。

第2章 水の安全保障

1.「水道の安全保障に関する検討会」設置の背景

 世界の水資源ビジネスの市場規模は新興国を中心に工業、生活用水の需要が伸び、25年には現在の1.7倍に当たる100兆円規模に膨れあがるという試算もあります。しかし、世界の水資源ビジネスを巡っては「水メジャー」と呼ばれる欧州の仏スエズ、仏ヴェオリア・ウォーター、英テムズウォーターの3大企業の寡占化が進んでおり、上下水道市場の3社のシェアーは約8割に上ります。日本企業の進出は出遅れているのが実情ですが、今後水ビジネスの市場拡大が見込まれ、国際貢献にもつながることから、政府、研究機関、自治体と民間企業が協力して世界の水資源ビジネスに本格参入することになりました。

 プラントメーカーやゼネコン、商社など約30社が、09.01.16に「海外水循環システム協議会」を設立し、企業などはこの協議会を情報交換の場として、事業に応じて特別目的会社(SPC)を設置し、連携して市場を開拓することになります。
 現時点で考えられているモデル事業や研究開発としては、国内での造水技術と再生技術を活用した高効率水循環実証事業、既存浄水場の増設と漏水対策などを含めた経営の効率化や、RO膜やMBR膜など複数の分離膜を組み合わせた下水排水再利用プロセスの研究開発事業が挙がっています。

 企業の海外市場進出を後押しするために、政府は日本政策金融公庫・国際協力銀行(JBIC)の融資や、独立行政法人、日本貿易保険(NEXI)の貿易保険制度を活用したり、円借款などの政府開発援助(ODA)も検討します。

 しかし、日本企業は海水淡水化に必要な水処理膜や廃水処理技術ではシェアーは高いものの、長期的な利益が見込まれる上下水道経営のノウハウが少ないことが弱みです。そのため、水分野全体を巻き込み、国を挙げて水に関する施策全般を再検討することが必要なのです。

 我が国の水道はその多くが小規模であることと、料金収入低迷の中で、老朽施設の更新・再構築、施設の耐震化、熟練職員の一斉退職と技術継承の問題など課題が山積しています。「水の安全保障」に関する議論を通して、我が国の水道が国際貢献を進めるためにも、これら国内の水道に関する課題を解決し、水道事業の運営基盤を固めることがグローバル化の中で水道界全体の国際競争力を高めることになります。
 日本水道協会は、2008年6月に「水道の安全保障に関する検討会」を立ちあげ、いかなる道筋によって運営基盤を固め、そのうえで、世界の水の安全保障に資する国際貢献を行うべきかを検討しました。以下にその検討結果を記します。

2.日本における水道経営の基本理念

(1) 水道経営の基本理念

 水道は極めて公共的性格が強く、「安全」「安心」「持続」を最優先に事業運営されるべきものです。日本の水道はほとんどが創設以来公営で運営されており、国民のゆらぎない信頼を得ています。こうした国民の支持のもと、今後とも水道事業の経営権、財産権は公が保持し、最終的な責任を公が負うべきです。

(2)水道は公共財産的性格が強いものである理由

@ 水は、食料、エネルギーと並び、国家の安全保障にとって極めて重要なものです。
A 水は、食料、エネルギーと異なり代替物がありません。
B 水道は国民の健康を維持し、公衆衛生の根幹をなすものです。
C 水道は国民生活、経済産業活動に不可欠なライフラインです。
D 水道は地域独占企業であり、他の企業に乗り換えることができないものです。

(3)水道運営における最優先事項

@ 安全
 水は人が口にするものですから、安全性は絶対要件です。コスト削減や財政難等を理由に事業運営がおろそかになり、水の安全性が損なわれることがあってはなりません。
A 安定
 人々が安心して使用するためには、水道水は常に安定して供給されなくてはなりません。そのためには、適切な施設の維持管理並びに計画的な施設更新や耐震化事業等を行い、常に施設の健全化に努める必要があります。
B 持続
 代替物が無く地域独占である水道は、継続して事業運営が行われなければなりません。そのためには、適切な料金設定により健全な財政を維持する必要があり、経営の誤りによって財政が破綻し、事業継続が不能となることはさけなくてはなりません。

3.日本の水道の現状と課題

@ 人口減少、普及率の頭打ち、節水型社会の到来により、料金収入は低迷し、今後大きな収入増は見込まれない状況にあります。
A 高度成長期に敷設した管路等が一斉に更新時期を迎えますが、施設の更新・再構築事業に対する資金確保が困難となっています。
B 頻発する地震等、自然災害への対策が急務となっていますが、施設の耐震化は12%程度に留まっています。
C 熟練職員の一斉退職に伴い技術基盤の空洞化が発生し、技術継承について問題を抱えています。
D 原水の水質が悪化する一方で、国民の水質に対する要望は高まっており、高度浄水処理施設の導入等、水道施設の更なるレベルアップが望まれます。

4.検討会としての提言

(1) 広域化推進(新たな広域化の推進)

 水道事業の運営基盤強化のために、全国的な広域化を進めるべきです。
 広域化の推進にあたっては、事業統合を最終的な目標としますが、まず、業務の共同化等の新たな概念を含めた広域化を積極的に進め、将来的には都道府県あたり数事業体程度の事業統合、さらには、流域単位、道州制を見据えた大規模な事業統合をも視野に入れるべきです。
 広域化の推進に当たっては、例えば都道府県や地域の中核となる都市の水道事業体がコーディネーターとしての役割を積極的に果たすことが望まれます。

(2)公民連携推進(業務受託者の活性化)

 将来にわたってサービス水準を確保するために、水道事業体のパートナーとして「業務受託者」(民間企業、事業体出資団体等)を業務委託の拡大など通じて積極的に育成・活用(活性化)すると共に、併せて技術の継承を図るべきです。
 委託の推進に当たっては、業務受託者との委託監理や契約支援を行う事業体に対する支援基幹を創設することが必要です。


 このような広域化や委託の推進を行うことで、水道事業体の運営管理のノウハウを持つ競争力のある「業務受託者」が育っていくことにより、国内だけでなく、海外における事業展開が可能となります。

 なお、我が国の水道事業を取り巻く環境は非常に厳しく、このまま手をこまねいて内在する課題が一挙に顕在化するようなことになれば、国民の信頼を失うことは明らかです。
 将来にわたって、「安全」「安定」「持続」に充分配慮した事業運営を行っていくためには、ある程度の余力のある今から、水道事業者自らが主体的に課題解決に向けた取り組みを始めなくてはなりません。

第3章 他事業体との緊急時用連絡管

 水道事業は市町村経営が基本であり、小規模な事業体が多く、それぞれが独立していて、近隣事業体と管が結ばれている例は少ない。しかし、給水区域外からの補給は、震災時・浄水事故時・水質障害事故発生時、配水幹線漏水事故時等の緊急時に役立ち、管路のループ化や二重化以上の有効な効果が期待できるケースが多い。

 事業体間を連絡管で結ぶかどうかは、「どの位の費用で、どの程度の水を融通できるか」という費用対効果で判断される。1トン/日の水を融通するのにいくらかかるかの単価である。事業体同士が、バックアップが必要な箇所を選んで、この単価を試算し、事業の可能性を判断する。事業費用は事業体が折半する場合が多いが、お互いの水圧や水道施設整備状況の違いにより融通水量が異なる場合は水量割りで負担するケースもある。
 浄水場や配水場を送水管で結びネットワークを作れば、更にバックアップ機能が向上する。他事業体との連絡管整備は、それぞれの事業体が少ない経費で断水リスクを下げるための有効な選択肢の一つである。

 連絡管は常時使用しているわけではないので、延長が長いと管内滞留水の水質が問題となる。いざという時に即座に使える体制作りが大切である。双方の事業体用の排水設備を設けたり、滞留水の水質に問題が生じないようバイパス管を設けたりバルブを少し開いておいたり、あるいは定期的に排水作業を実施する等の対策が必要である。
 融通作業を始めるための連絡方法と融通作業開始の取り決め、融通水量の認定方法、融通単価、日常維持管理の主体とその費用負担を決めた協定を結んでおく。

緊急時用連絡管に対する国庫補助
1.対象事業
 緊急時に広域圏域間、近隣事業体の間、同一事業体内で水を相互融通できる施設の整備事業
2.対象施設
 管路延長が近隣事業体の間の場合は1500m以上、同一事業体の場合は1000m以上
3.国庫補助率
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第4章 経営効率化に関するトピックス

(1) 公営水道の完全民営化(2008.11.10日本水道新聞)

 新潟東港臨海水道企業団は08.10.30、水道事業の完全民営化を視野に入れ、民間事業者から民営化事業計画をプロポーザル方式で募集します。今回の民営化の背景には、需要と供給水量のギャップが大きく、毎年大幅な赤字が発生していることがあります。
 同企業団は、昭和58年10月に給水を開始、新潟東港地域用水供給企業団から受水し、工業団地である東港に進出した企業や船舶など275社に配水しています。1社当たりの使用量が大きいため、設立時に余裕のある供給水量を設定しましたが、基本料金3045円、使用量222円/m3と、料金が全国的にも高い水準(H18年度水道統計)にあることから、計画給水量12350m3/日に対し、実績最大給水量は2932m3/日と利用実態が少なく、料金収入で減価償却費を賄えていない状態に陥っています。H19年度収支では4900万円の赤字で累積欠損金は6億8700万円、欠損金の大半は減価償却費だそうです。

 同企業団と、構成団体の新潟県(出資比率90%)、新潟市(4.9%)、聖籠町(5.1%)は、独自の経営改善では事業の継続は困難と判断し、民営化により、毎年発生する構成団体の赤字解消に加え、民間の経営ノウハウを活用することで、利用者ニーズに柔軟に対応したサービスの向上やコスト縮減、収入の増加を期待しています。民営化後、民間事業者による運営が困難になった場合は、構成団体によるセーフティネットを設け、事業継続に責任を持つ体制を想定されているようです。そのため、民営化後も企業団の経営状態を把握できる仕組みも考えられているみたいです。

 民営化事業計画の提案条件は、民間による水道事業経営、水道施設の譲渡を基本とし、現行以下の料金水準を維持しながら、現行の業務・サービスを維持・向上するよう求めています。累積赤字、起債償還は構成団体が処理します。提案事項は、収支計画、料金体系、保守・運営体制、水道資産保全方法などです。
 募集期間は08年11月下旬から12月中旬、事業者のヒアリングを経て、12月下旬に最優秀提案者を決定、21年度前半には本契約を締結し事業譲渡を行う予定です。公営水道事業の民営化は、実現すれば全国初の試みとなります。

(2)水道施設更新費用捻出のためコア業務以外を民間委託(2008.11.27日本水道新聞)

 会津若松市水道部は平成22年3月から、取水・浄水・送配水施設の維持管理、水質検査等技術業務の第三者委託と料金徴収業務を全面的に外部委託する旨の答申を経営審議会から受けました。この経営改善策が実施されますと、基本計画や供給規定の策定など、事業経営に関わる業務以外を委託することになります。予定では、平成21年度上半期をめどに、@浄水場運転管理、A送配水施設の維持管理、B料金徴収業務について、プロポーザル方式、または総合評価競争入札により受託者を決定し、平成22年3月から業務を開始することになります。
 会津若松市では、施設の耐震化はある程度進んでいるものの、管路の耐震化率は2.5%と低い状況にあります。今後、老朽管や浄水場の更新に向け、現時点で140億円前後の事業費が必要と試算されています。また、団塊世代の大量退職に伴う技術の維持・継承などの課題もありました。
 大多数の市民と事業所が使用する水道水であることから、水道施設の改良更新に掛かる財源確保の方策を水道料金改定に求めることは慎重にという考えのもとに、業務の見直しによる経営改善策の実施を図ることを選択されたものです。
 会津若松市では、これまでも、検針業務や浄水場の運転管理の委託により経費の節減に努めてきました。ここ数年第三者委託の導入が広がり、経営改革に成功しつつある事例もあることから、平成20年1月に「会津若松市水道事業経営改善検討委員会」を設置し、第三者委託の導入、料金徴収を含めた包括的業務委託による、さらなる経営効率化の可能性を探るため、導入の可否を検討してきました。検討の結果、委託により、事業サービスの向上、1億3700万円のコスト縮減が可能と判断できたことから、導入に向け、委員会が報告書をまとめました。この報告書について、「会津若松市水道事業経営審議会」で審議を重ね、これらの経営改善策の実施は妥当であると答申されたものです。当初、検討委員会では、全ての業務を包括的に委託することと、料金徴収業務の分離の2案を想定していましたが、審議会からは、「費用対効果、管理監督体制によっては、料金徴収業務の分離が効率的である」という答申を受け、最適な体制について検討されています。

(3) 現場へ行かない工事検査手法(2017.10.12水道産業新聞、2017.10.23日本水道新聞)

 東京水道サービスは工事の検査・確認の効率化を目的に、給水管分岐工事の検査や漏水修繕、配水管布設工事の確認業務を、現場に行かずに実施できる「現場管理システム」を開発しました。このシステムは、スマートフォンの写真機能を活用して検査・確認する作業項目ごとの施工状況を施工業者が現場で撮影し送信すると、事業体職員が庁舎でクラウドサーバーに送信された画像をリアルタイムで検査・確認することが可能となり、施工指導も行えます。

 水道事業体職員は、庁舎にいながら同時に複数の工事の検査・確認を行うことができ、移動時間を短縮できるため、広域化するエリアや職員の減少に対応できます。

 施工業者は検査員の現場到着を待つことなく施工を進めることができます。また、クラウドサーバー上には検査項目ごとに写真が整理・ひも付けされることから、自動で写真帳や工事報告書を作成することができます。システム上で提出処理が完了するため、施工業者が提出のために事業体窓口へ行く必要はありません。
水道事業体、施工業者の双方にメリットをもたらすツールと思えます。

 具体的な工事検査の流れは、まず、施工業者は受付窓口で工事申請を行い、事業担当者は工事日程を調整のうえ、受理した情報を現場管理システムに登録します。施工業者は、申請時に登録した工事の情報をアプリケーションによりスマートフォンに取り込みます。

 工事当日、施工業者は端末用アプリを操作して工事開始を発信します。工程進捗に合わせ検査・確認に必要な項目を選択し、該当工程の工事写真を撮影すると、端末アプリが項目にひも付いた写真を自動でサーバーに送信します。
 事業体の検査担当者は、工事写真をリアルタイムに取得し、確認・検査、必要に応じて施工指示を行います。
 施工業者は担当者の到達を待たずに施工開始でき、施工指示や検査結果を受信して内容を確認しながら、自分のペースで施工を進められ、業務品質の向上も期待できます。

 工事終了後、施工業者はサーバーアプリに登録された工事写真を確認、選択します。検査項目ごとに写真が整理・紐付けされると共に、コメントも書き込めるようになっています。写真帳や検査報告書が自動作成できるうえ、現場管理システムで提出処理をすることで完了しますので、水道事業体窓口へ出向く必要がありません。

 帳票類はエクセルを活用したもので、検査項目やチェック表などは各事業体で容易にカスタマイズできるようになっています。


4)管路工事の効率的発注方式

a 神奈川県企業庁の概算数量設計発注方式(2019.5.13水道産業新聞)

 神奈川県企業庁は2019年度から、職員が行っていた管路設計作業負担の軽減化や発注作業の効率化を図るために、φ300mm以下の管路工事を対象に「概算数量設計発注方式」を採用しています。

 配管設計には、平面図・現況図・配管図・掘削図・道路復旧図がありますが、「概算数量設計発注方式」では配管図・道路復旧図を受注業者に作成してもらいます。県職員が行う当初設計は概算数量で行い、発注後、職員と受注者が現場立会を行い、それを基に受注者が詳細な図面を作成し、同庁に提出します。提出された図面を同庁が承諾した後に工事着手することになります。

 全国的に管路の更新・耐震化の促進が求められていますが、同庁も例外ではありません。同庁は年間管路更新率を1%以上に掲げていますが、配管更新業務の増加による職員の負担を軽減するため、設計作業の簡素化や執行方法などの業務改善を検討していました。
 この「概算数量設計発注方式」は2015年度から2018年度まで試行されています。発注者側が設計・積算にかかる日数の軽減度や、受注者側から提出された図面の承諾に要する日数、当初設計の概算数量と承諾した数量との変更金額の増減度を検証されています。
 その結果、通常の設計業務と比較して設計積算にかかる日数が短縮するなどの効果がありました。試行を4年間実施したことにより、受注者側の業務認知度が高まり、実施に踏み切れる状態になったようです。

 φ300mm以下の管路工事を対象としたのは、
@ 管路工事の大半がφ300mm以下であること、
A 過去の実績から概算数量で設計することが難しくなかったこと、
B 設計変更があっても変更額が少ないこと
です。

 また、職員の技術力や受注者への指導力の確保を考え、職員自らが配管図等を作成する機会を残すことも考えられています。

b 十和田市の概算設計による管路更新工事のDB発注方式(2019.8.5水道産業新聞)

 日本ダクタイル鋳鉄管協会が2018年度に発足させた「管路更新を促進する工事イノベーション研究会」は、マンパワー不足にある水道事業体で管路更新事業をスムーズに執行できる方策のあり方をテーマに検討を進められています。そのモデル事業に位置付けられたのが、十和田市の概算設計による管路更新工事のDB発注方式です。

 十和田市の配管工事設計施工業務は、現地踏査・測量、積算、工事起案、落札、現地再測量、試掘、詳細配管図の作成を経て、施工に至っていました。
このような設計発注方式では、
@ 測量後に作成した暫定配管図が契約後の現地再測量を行った時や試掘後に大きく変更になる場合があること。
A 受注者が測量・試掘後に行う詳細配管図作成や配管材料集計が事業体業務と重複する。
B 水道事業体職員の技術者不足で配管工事設計施工業務の作業手間を減らしたい。
という問題点があり、設計業務の効率化を考慮してDB発注方式を考案されました。
従来の暫定配管図作成や配管材料集計は省略され、代わり概算設計書を作成します。詳細配管図作成や配管材料集計等の重複作業が解消されます。

 十和田市の意見
@ 配管図を考慮しながらの測量が無くなり、従来より作業工数が減り、管材と労務の入力業務が軽減され、工期短縮と職員の労務軽減につながった。

A 道路管理者である県との協議もスムーズに運んだ。

B 業者の作成した配管図の手直しは殆どなかった。

C 管割の設定は、事業体が一方的に決めるより、民から現場の事情に沿った形で上げてもらった方がベターだ。

D 概数計算の数量・金額的根拠は八戸圏域水道企業団の工事実績を参考にさせてもらった。

 企業関係者の意見
@ 管割図、詳細設計は自社で行えた。

A 設計するにあたって発注者からの引継ぎ情報に不足は無かった。

B 当工事現場では、既設管がかなり蛇行していたが自由度のある発注方式であり作業効率を考えた管割を認めてもらい助かった。試掘の箇所数は地域特性、施工環境に左右されるので、企業側で管割を決めることができるのはやり易い。

C この発注手法に関する不安点は無く、何よりも自由度が魅力で、どの企業でも慣れれば問題はない

 十和田市が非常に短期間で実践に至ったのは、人口減少化・技術者等のマンパワー不足に対する課題解決に真摯に向き合われた結果と思えます。事務手続きの簡素化・効率化を目指しての取り組みですが、小規模市町村では工事契約や検査部署が水道部所ではない場合もあり、市役所上層部や他部門への説明と理解を得ることが大切になります。管工事組合の理解のための調整も大変であったと思います。それを短時間でやり遂げ得る事業体の組織風土があったのでしょう。
水道事業には地域性があるので、十和田や八戸の事例が九州の事業体にそのまま参考になるとは思えません。地域ごとに核となる水道事業体との連携が重要です。官民連携を下支えしていくには、官と官の連携も重要ですね。

 モデル事業に参加して管路更新工事のDB発注方式を取り入れているのは、十日町市や小松島市があります。マンパワー不足の打開策として取り入れられた「管路更新工事のDB発注方式」ですが、仕事内容の効果が認められて更なる人員削減に繋がらなければ良いですね。

2005.8.17 「他事業体との緊急時連絡管」初版
2006.6.14 「他事業体との緊急時連絡管」を「水道事業経営の効率化」と改め、「経営の効率化策」を追加した。
2008.11.17 トピックスに「4−(1) 公営水道の完全民営化」を記載
2008.12.05 トピックスに「4−(2) 水道施設更新費用捻出のためコア業務以外を民間委託」を記載
2009.03.12 「水の安全保障」の項を作成し、日本水道協会の「水道安全保障に関する検討会」の提言内容を紹介