水道技術管理者と受託水道業務技術管理者

 水道事業を的確に運営するために、水道法では、「水道事業者は技術上の業務を担当する水道技術管理者を一人置かねばならない。」と規定しています。すなわち、水道事業を運営するにおいて、経営上の責任者は水道事業管理者、水道工事の施行状況や水道施設及びその管理の状況等に関する技術上の責任者が水道技術管理者ということになります。

水道技術管理者の役割

 水道技術管理者の役割は次の7つの事項の事務に従事し、かつ、この事務に従事する職員を監督することです。

@ 水道施設が施設基準に適合しているかの検査(第5条)
・施設基準は水道の布設時及びその後も常時保持されるべきもの
・技術上の管理業務について、適否を検査する。(工事完成検査の報告チェック)
・取水〜配水の工事・維持管理、施設の構造・材質のチェック

A 水質検査と施設検査(第13条1項)
・配水施設以外の水道施設または配水池の新設・増設・改造を行い、給水を開始するとき給水開始前の水質検査と施設検査を行う。
・給水開始届を、あらかじめ厚生労働大臣に届け出る。
・検査の記録を作成し、5年間保存する。

B 給水装置の構造と材料の適合検査(第16条)
・給水装置の構造と材料が基準に適合しているかの検査を行う。
・給水装置の構造・材質が、政令に定める基準に適合しないときは、給水契約の申し込みを拒否できる。
・その者が不適合な給水装置を基準に適合させるまでの間は、給水を停止できる。

C 定期と臨時の水質検査(第20条)
水質試験結果の記録を5年間保存する。水質試験を指定機関へ委託してもよい。
1) 定期の水質検査(第4条の水質基準に適合しているかの判断)
・色・濁り・消毒の残留効果を1日1回検査する。
・省令に定める50項目等の検査
2) 臨時の水質検査(水質基準に適合しない恐れのあるとき)
・水源に異常があったとき。
・浄水施設に異常があったとき。
・住民から苦情があったとき。

D 健康診断(第21条1項)
・赤痢、腸チフス、パラチフス、コレラ、O−157等の保菌者の有無を定期・臨時に検便検査する。
・水道の取水場・浄水場・配水池において業務に従事するもの、構内居住者、臨時職員、請負工事作業者を対象
・6ヶ月毎に実施する。
・記録は1年保存

E 衛生上の措置(第22条)
水道施設の管理や運営において、消毒・立入禁止・その他衛生上必要な措置をとる。
・清潔の保持(常に清潔にし、水の汚染を防止する)
・汚染防止の措置(フェンス、施錠等により人畜による汚染防止)
・立入禁止看板等警告板の表示
・塩素の保持(給水栓における一定濃度の残留塩素の保持)

F 給水の緊急停止(第23条1項)
健康を害する恐れのあるとき、直ちに給水停止を行う。
・原水が浄水処理で除去困難な有害物資で汚染された疑いのあるとき。
・浄水場以降の水が有害物質で汚染された疑いがあるとき。
・塩素注入不能が判明したとき
・工業用水、農業用水等との誤接合が判明したとき。
・原水に以下の異常があり、給水栓水が水質基準値を超える恐れがある場合
  不明の原因で色、濁りに著しい変化
  臭気、味に著しい変化
  魚が死んで多数浮上
  塩素消毒のみの水道水源に汚物が浮上
・危機管理マニュアルの策定
  水質事故対策マニュアル
  侵入防止対策マニュアル
  地震対策マニュアル
  災害対策マニュアル
  渇水対策マニュアル
  クリプトスポリジウム対策マニュアル
  緊急時水運用マニュアル
・関係者に「危険であること」の周知(広報)の措置

水道技術管理者の資格

@ 水道(簡易水道を除く)の布設工事監督者資格を有するもの
 1) 大学土木科卒で衛生工学、水道工学を修め、水道技術の実務経験2年以上
 2) 大学土木科卒で             水道技術の実務経験3年以上
 3) 短大土木科卒で             水道技術の実務経験5年以上
 4) 高校土木科卒で             水道技術の実務経験7年以上
 5) その他の者で              水道技術の実務経験10年以上
A 大学の工学(土木を除く)、理学、医学、薬学卒で、水道技術の実務経験4年以上
B 短大の工学(土木を除く)、理学、医学、薬学卒で、水道技術の実務経験6年以上
C 高校の工学(土木を除く)、理学、医学、薬学卒で、水道技術の実務経験8年以上
D 簡易水道事業等の特例
 消毒設備以外の浄水施設を必要とせず、かつ、自然流下のみによって給水できる簡易水道事業や同様の給水方法による一日最大給水量が1000m3以下の専用水道の水道技術管理者については上記の資格は問いません。

厚生労働大臣の立入検査

 厚生労働大臣は水道事業の運営状況をチェックするため立入検査の権限を与えられています。該当する水道事業者や水道用水供給事業者478事業者(平成16年現在)に対して、毎年計画的に立入検査を実施していて、立入検査の結果、法令に違反する事項に対しては文書指摘、通知・指針等に対する違反は口頭指摘を行っています。

 立入検査結果ですが、平成15年度の文書指摘では、水道技術管理者の責務規定違反が全体の5割、平成16年度でも責務規定違反が多く見受けられたと報告されています。具体的には、施設検査・水質検査・健康診断等について、実際に実施している職員の監督や結果の確認等で適切に関与していない実態があることです。また、水質検査については、色・濁り・消毒の残留効果に関する検査を土日に実施していない、クリプトスポリジウムの混入の恐れがあるにもかかわらず、適切な措置をしていない等が多く指摘された内容です。

 食品である水道水をお届けする水道事業の大半が、公営の事業体に任せられている実態とその責任の重さを考えますと、これらの指摘内容は十分な反省と共に事業運営方法の見直しを早急に図らなくてはならない大きな課題であるといえます。「安全・安心・安定を基本としたライフラインである水道の経営を、利益追求を至上命題とする民間企業に委ねることがいかがなものか?」という公営であることへの信頼感が、水道事業の民営化や第三者委託へあまり進まない最大の理由なのに、肝心の公営企業が守るべき義務違反を重ねていたのでは話しになりません。水道事業の運営上、コンプライアンスの遵守に基づくリスク管理の徹底は不可欠の命題です。

受託水道業務技術管理者

 平成17年度の上下水道部門の選択科目に「水道法24条の3に基づく受託水道業務技術管理者が行わなければならない業務を挙げ、説明せよ。」という設問がありましたので、関連として、包括的第三者委託に関して少し説明します。

 平成13年の水道法改正において、浄水場の運転管理・水質管理等の技術上の業務を、技術的に信頼できる第三者に委託することが、水道法第24条の3(業務の委託)により可能となりました。
 本条の意味する委託は、水道法上の責任を伴う包括的な委託であり、各事業体で行われている一部の業務委託とは性格が異なるものです。
 具体的には、水道施設の管理(運転・保守点検)、水質管理(水質検査を含む)、給水装置等の検査が該当します。包括的な委託ですので、技術上の観点から一体として行わなければならない業務の全部を一つの事業者に委託することになります。 
 例えば、ある浄水場の技術上の業務について委託する場合は、水質検査・衛生上の措置等の施設管理全般を包括的に一事業者に委託すべきであって、水質検査のみを委託したり、業務全般を複数の事業者に分割して委託してはだめなのです。
 給水装置の管理に関する技術上の業務委託でも、給水区域内にある給水装置工事の設計審査から竣工検査までの管理に関する技術上の業務を全部委託することになります。

 受託者となる要件ですが、他の水道事業者や水道用水供給事業者はOKです。民間の法人については、委託業務を適正、確実に遂行するための経理的、技術的な基礎を有する者と定められています。「技術的な基礎を有する者」の資格認定制度として、水道施設管理技士制度があります。

 受託者が受託業務を遂行するには、水道技術管理者に相当する技術上の責任者である受託水道業務技術管理者を置く必要があります。受託水道業務技術管理者は委託された業務の範囲内において水道管理技術者の行うべき事務に従事し、その事務に従事する職員を監督します。資格は水道技術管理者の資格と同等です。

受託水道業務技術管理者の役割

@ 給水開始前の水質検査・施設検査の実施、記録の作成・保存(13条)
A 給水装置の検査の実施、記録の作成・保存(17条)
  法17条は、需要者への土地や建物に立ち入り、給水装置の検査ができる規定です。
B 水質検査の実施、記録の作成・保存、検査の委託(20条)
C 健康診断の実施、記録の作成・保存(21条)
D 衛生上の措置(22条)
E 給水の緊急停止(23条の1) 

2005.12.23