環境対策

目次
1.水道事業における環境保全対策
2.地球温暖化防止に関する上下水道の役割
3.ヒートアイランド現象の防止技術
4.環境関連のトピックス

1.水道事業における環境保全対策

 近年、地球温暖化対策、物質循環の確保と循環型社会の形成、環境保全上健全な水循環の確保等、環境問題への対応が重要になってきている。
 水道事業は、全国の電力の0.8%を消費しているエネルギー消費産業の側面を有している。また、浄水処理等や施設・管路等の工事において、各種資源を使用し、浄水汚泥、建設副産物、その他廃棄物を発生させている。さらに、水道も循環資源である水を利用する水循環系の一構成要素でもある。このように、環境に少なからず影響を及ぼして成立している水道事業が果たすべき役割や水道が備えておくべき機能について、効率性と環境・省エネルギー・持続可能性という視点からもそのあり方を見直すことが必要である。

 水道事業における環境保全対策としては以下のことが考えられる。

1). 公害防止

@ 水質汚濁防止

 浄水場外への排出水が「水質汚濁防止法」により規制されている。
 廃水処理施設からの排出水についても定期的な水質検査を行う。

A 化学物質の適正管理

1) 塩素
 液化塩素は極めて毒性が強いため「高圧ガス保安法」「労働安全衛生法」の適用を受け、事業者は職員の保安教育、訓練を実施しなければならない。
2) PCB
 PCB(ポリ塩化ビフェニール)は、通常の管理状態では危険がないが、事故・廃棄等により漏洩した場合、難分解性の性状から、人の健康を害する恐れがある。
 厚生省令で定める技術上の基準に従い保管し、特別管理産業廃棄物管理責任者を置く。

B その他の公害防止
●大気汚染防止
●悪臭防止
●騒音・震動防止
●建設工事における環境対策
●水質分析機器の放射線障害の防止

2). 省エネルギー

@ エネルギーの消費抑制

●照明・OA機器の適正使用(昼休憩時の消灯)、冷暖房の適正温度管理、換気設備の運用方法の検討
●省エネ型建築設備の採用(複層ガラス、屋上緑化、日除け、センサー付き照明器具の配置、用途による照度調整、氷蓄熱空調、太陽光発電、雨水利用)
●廃水処理方式の変更(凍結融解方式→長時間加圧脱水方式)
●省エネ型高効率機器への取り替え(インバータ制御ポンプ、省エネ型トランス、高効率照明機器)
●位置エネルギーの有効利用(自然流下配水方式への切り替え、用水供給残存圧の有効利用)
●適正施設規模への更新(ポンプ容量・揚程の適正化)
●効率的水運用(需要予測システム、配水池容量を考慮した深夜電力の積極的利用・ポンプ運転台数調整・ポンプ起動頻度の抑制、配水区域ブロック化による漏水防止、適正水圧管理)

A エネルギーの有効利用

●小水力発電
●排オゾン処理装置の熱回収

B 新エネルギーの活用

●風力発電
●太陽光発電
●コージェネレーションシステム(発電+廃熱利用)
●汚泥の天日乾燥
●NAS電池による電力貯蔵システム(夜間に充電し昼間に活用)

3). 資源循環

@ 効率的資源利用

●原水(浄水場のクローズドシステム化、漏水防止)
●薬品類(消毒剤・凝集剤・粉末活性炭の最適注入・設備の漏洩点検)

A 廃棄物減量化リサイクル

●建設副産物(建設発生土、建設廃棄物)の減量化(浅層埋設、非開削工法の採用)
●建設発生土のリサイクル化(再使用、土質改良工場での埋め戻し土として再資源化)
●建設廃棄物のリサイクル化(鋳鉄くずの再資源化、コンクリート塊の再生路盤材、アスファルト塊の再生アスファルト)
●浄水汚泥の減量化(凝集薬品の最適注入、脱水処理方式の無薬注化、脱水ケーキの乾燥、水運用による高濁度原水のスルーパス)
●浄水汚泥のリサイクル(セメント原料、グランド用土、農・園芸土)
●活性炭のリサイクル(再活性化による再使用、他用途での使用)
●石綿セメント管の適正処分

B その他の資源循環

●節水(節水機器の開発と普及)
●雨水等の利用(水洗トイレ・冷却・散水等に再生水や雨水を利用する)

C グリーン購入

 グリーン購入(調達)とは、商品やサービスを購入する際、価格や品質だけでなく、環境への負荷ができるだけ小さいものを優先的に購入すること。
●環境ラベル商品等、環境物品の購入
●環境配慮型電線・ケーブル(エコケーブル)の使用
●低公害車の購入
●競争入札参加資格へのISO14000シリーズやISO9000シリーズの認証取得を格付けに反映させる

トピックス1.環境配慮契約法(2007.06.17)

 「環境配慮契約法」とは政府調達の温暖化対策であり、国自らが物品やサービスを購入する際、価格だけでなく温室効果ガスの排出削減効果も考慮して契約を結ぶよう義務付けたものです。
 最低価格で入札した業者と契約している現行の制度では、環境配慮の点で必ずしも的確でなかったり、あるいは阻害要因となってしまう場合もあります。これまでも契約金額は安かったが環境性能が悪い製品であったため、長い目で見ると余分にコストがかかってしまうケースもありました。この、環境配慮契約法は、購入後に掛かる燃料費など温室効果ガスによる環境への負荷も評価した上で契約の相手方を決める制度です。
 政府は同法によって国が率先して温室効果ガスの削減に取り組むことで、最終的には自治体や民間にも環境に配慮した契約を浸透させていきたいと考えています。

 今のところ、電力を購入する場合は天然ガスや石油から電気を造る際に発生するCO2の量を示す排出係数を入札の参加資格としたり、公用車の購入では、同じハイブリッド車を購入するにしても、使用期間中に支払う総燃料費などを含めた経済性と環境性能を総合的に評価して車種を選ぶことが考えられています。

 また、国が省エネルギー改修事業(ESCO)を行う場合の債務負担行為の期間を10年に延長しました。これにより長期契約による大規模な改修が可能となることから、省エネや光熱費の節約効果がより高まると見られています。さらに、庁舎の設計では、環境に配慮した設計のノウハウや知恵を競い合わせて、設計者を決めることになります。

4). 健全な水循環

 健全な水循環系とは「流域を中心とした一連の水の流れの過程において、人間社会の営みと環境の保全に果たす水の機能が、適切なバランスの下に、共に確保されている状態」である。

@ 漏水防止等による有効率の向上

●配水管整備、漏水防止対策、適正な配水コントロール

A 用途間転用

●水需要が当面見込めない工業用水や減反等による必要量が減少した農業用水から他用途への転用を行う。

B 上下水道の取排水系統の再編や取水位置の上流への変更、伏流水の取水

●水道原水の水質保全・向上のため、水道の取水先と下水道の放流先の再編

C 地盤沈下、塩水化等の地下水障害により地下水の保全が必要とされる地域において、地下水利用から水道水利用への転換

D 水道水源の保全

●水道水源保護、地下水保全、環境保全等の条例や要綱・要領の制定
●水源林整備基金の運営
●上流の水源涵養林の取得や管理
●流域の水質保全協議会の運営
●水源上流域の廃水処理設備整備への援助

5). 環境管理

@ 環境管理のツール

●環境活動評価プログラム(中小事業者用の簡易な方法による環境保全への取り組みと、その結果を「環境行動計画」としてとりまとめ公表できるよう工夫されたプログラム)
●環境マネジメントシステム(企業等の事業組織が、環境保全に関する方針、目標、計画を定め、これを実行、記録し、その実行状況を点検して方針等を見直すという一連の手続き。PDCAサイクル方式)

A 職員への環境教育

●環境保全についての理解と認識を深め、環境に配慮した行動を取るために行われる環境保全に関する教育及び学習

B 環境負荷の監視・測定

●環境負荷とは、人の活動により、環境に加えられる影響であって、環境の保全上の支障の原因となる恐れのあるもの

6). 研究開発

@ 省エネルギー

●エネルギーの消費抑制
●エネルギーの有効利用(小水力発電)
●新エネルギーの活用(燃料電池、太陽電池)
●その他の資源循環(水)
●浄水汚泥の減量化

A 資源循環

●効率的資源利用(薬品使用量の低減化、活性炭の再生)
●廃棄物減量化リサイクル(建設発生土、コンクリート塊、アス・コン塊、建設発生木材、管材、浄水汚泥)
●その他資源の利用(雨水、再生水)

B 健全な水循環

C 社会活動

●自然保護、緑化等の環境改善工法

7). 社会活動

@ 自然保護、緑化等の環境改善対策

●庁舎・浄水場内の緑化
●庁舎・浄水場上部の緑化

A 地域住民の環境活動に対する支援

●市民ボランティアによる水源涵養林の整備
●職員の環境ボランティア活動への支援
●環境に関する助成制度

B 環境情報の公表、環境広告

 環境報告書、環境会計の公表や環境に関するPR活動の広告等
●環境報告書(企業等の事業者が、経営責任者の緒言、環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況、環境負荷の低減に向けた取り組みの状況等をとりまとめ、一般に公表するもの。
●環境会計(事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を認識し、可能な限り定量的に測定し伝達する仕組み

注釈
 「平成15年度 厚生労働省委託費による水道事業における環境対策の手引書」平成16年3月(社)日本水道協会 を参考に「ポチ」が独断と偏見でまとめたものです。しかし、分厚い報告書ですねー。読む人がいるのかな?
内容的には水道部門、総合技術監理部門の筆記・口頭試験全てに必須のテーマと思えます。

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2.地球温暖化防止に関する上下水道の役割

1)上下水道における地球温暖化対策

 平成18年度の上下水道一般問題に、「上下水道事業において、地球温暖化防止対策を実施する必要性を述べるとともに、水道事業および下水道事業それぞれについて、主要な対策を2つずつ挙げ、それらの対策の概要について述べよ。」が出題されました。ポチの予想通り(気持ちが悪いくらい!)の問題せしたのですが、環境対策のうち地球温暖化に特化した出題で、受験後メールを頂いた方のご意見では、「地球温暖化対策の必要性には、少なからず面食らった」という感想がありました。これ以降も、水道事業が多大な電力消費を伴う事業である観点から、環境問題の中で、とりわけ地球温暖化防止に取り組む姿勢を示すことは社会的責務とも言えますことから、「水道事業における地球温暖化対策の必要性」というテーマの出題対策は欠かせませんね。

 2013年9月27日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が提示した報告書は、
@ 「気候変動に人為的な活動が影響している確率は95%以上」と位置付け、「20世紀半ばからの気温上昇は石炭・石油等化石燃料の利用が原因で、地球の平均気温はこの100年で約0.78℃上がった」と指摘し、世界各国・地域に気候変動の危機を訴えました。
A この気候変動は、乾燥地域ではさらに乾燥が進み、雨の多い地域ではさらに雨が増えると警告しています。干ばつ、洪水、豪雨、巨大台風、竜巻、熱波等の気候変動が原因とみられる異常気象が世界各地で頻発しているとしています。
B さらに、「温暖化の流れに歯止めがかかっていない」と指摘しています。2000年前後に比べ今世紀末の海面は最大82cm、平均気温は4.8℃上昇するとの予測値を出しました。平均気温が2℃を超えると、グリーンランドや南極の氷河が一段と溶け海面が上昇し、島嶼国や低地の一部が消滅する可能性があります。農業・水産業への大打撃や動植物の生態系の変化も予想されます。日本の砂浜の8割が消失するという試算もあります。

 この報告書は世界195か国の科学者らによる科学的な評価であり、「21世紀末はまだ先の話で、本当に温暖化するかどうかは解らない」とする楽観論を打ち消し、温暖化対策にコストを掛けることに慎重な各国に対し、全世界が一致して有効な手立てを打てなければ、人間や経済活動に多大な不利益が生じることを警鐘している。(2013.9.28日経新聞)

 1970年代の半ば以降、オゾン層の破壊や地球温暖化など、地球環境の悪化が科学的にも明らかにされてきていて、地球環境の悪化は、人間活動の営みの結果として排出される二酸化炭素や汚染物質といった環境負荷であることを認識し、経済社会システムの内部で物質循環を確保し、自然の物質循環を損なわないよう我が国社会を循環型に変革するための取り組みが、様々な分野で進められています。水道界でも、「(旧)水道ビジョン」で主要政策課題の一つに「環境」が位置付けられていました。 

 水道事業は、全国の電力の0.8%を消費しているエネルギー消費産業です。また、浄水処理等や施設・管路等の工事において、各種資源を使用し、浄水汚泥、建設副産物、その他廃棄物を発生させています。さらに、循環資源である水を利用する水循環系の一構成要素でもあります。このように、環境に少なからず影響を及ぼしながら成立している水道事業が果たすべき役割や水道が備えておくべき機能について、効率性と環境・省エネルギー・持続可能性という視点からも、そのあり方を見直すことが必要です。

 地球温暖化対策に特化すれば、以下の点に留意することになります。
@ エネルギーの消費抑制
 省エネ機器の採用、適正規模機器や省エネ型高効率機器への更新、位置エネルギーの有効利用、効率的水運用
A エネルギーの有効利用
 小水力発電、排オゾン処理装置の熱回収
B 新エネルギーの活用
 太陽光発電、風力発電、燃料電池、コージェネレーションシステム、汚泥の天日乾燥

トピックス2.水面を利用した太陽光発電(2008.5.8水道産業新聞)

  水資源機構とクレハエンジニアリングが共同で技術開発を進めていた「水面を利用した太陽光発電システム」が陸上と同等以上の発電量が期待できることを明らかにしました。この事業は「平成19年度地球温暖化対策技術開発事業」の一環で、07年8月から愛知県日進市の愛知池の水面に、太陽光発電システムを設置し、太陽電池モジュールを搭載した浮体の安定性やモジュールの冷却による発電効率の向上を検証するものです。実証試験結果から年間発電量を推定したところ、水上の太陽光パネルの傾斜角を10度とし、さらに散水して冷却することで、陸上に設置した場合と同等以上の年間発電量となったそうです。
 このシステムの利点は
@ 陸上設置のような広い用地を確保する必要がなく、広大な水面を有効利用できること。
A 発電装置により遮光することで水質保全効果が期待できる。
ことです。

 「下水道ビジョン2100」では、21世紀型下水道は、これまでの下水道機能の整備に加え、今後の年の持続的発展に貢献する健全な水環境と資源循環を創出するものと位置付け、基本コンセプトを「循環のみち」としています。
 下水道事業の省エネ対策としては
@ 処理場のエネルギー100%自立(エネルギーの有効利用、新エネルギーの活用)
 小水力発電、NaS電池の導入等省エネルギー化の推進
 汚泥・生ゴミ・剪定ゴミ等を活用するバイオマス、太陽光・風力発電等の自然エネルギーの利用
A バイオマス資源回収・活用ネットワークシステムの構築
 地域に張り巡らされた下水管により、汚水・生ゴミ・剪定廃材・家畜排泄物等のバイオマス資源を回収して再生させるバイオステーションの役割や都市排熱の回収により、電力・バイオガス・火力発電用汚泥燃料等のエネルギー供給、リン・肥料等の資源を供給します。
B エネルギーの消費抑制、窒素酸化物の排出抑制
 活性汚泥の活性化に超微細気泡装置を導入し省エネルギーのバッキ効果
 汚泥処理の高温焼却によるN2Oの排出抑制

2)上水道システムにおける再エネ、省エネの促進(H25〜27年度環境省)

平成25年度、環境省は「上水道システムにおける再エネ・省エネ等導入促進事業」を実施します。平成25年〜27年度:補助率1/2

@ 事業の必要性
 水道事業は、配水ポンプ等による水の移送に多大なエネルギーを使用していて、年間約80億KW(全国使用電力の0.8%)を消費しています。水道事業を行う地域の地形特性にもよりますが、特に10万t未満の中小規模の水道施設の場合は、エネルギー使用効率が良くない傾向にあります。
その消費形態の中には
(1) 水運用においては、夜間、流量が減少する時間帯に末端水圧が不要に高くなり、結果として、ポンプのエネルギー消費が過剰になる課題があります。
(2) 高い標高から浄水場や配水場へ水を取り込む場合、その圧力差がエネルギーとして使用されないまま大気解放されて失われている実情があります。
のような課題が指摘されています。このため、施設の更新時期に、エネルギー使用効率に問題のある施設については、高効率設備の導入や、末端水圧を計測してポンプのエネルギー消費を制御できるよう工夫して、電力使用量の削減を図ることが必要です。また、未利用圧力が存在する場合は、小水力発電設備等を導入を検討すべきです。

A 導入設備の例
a ポンプ回転数制御(インバータ制御)による流量制御ポンプの導入


b 夜間等の末端圧力制御による省エネ


c 未利用圧力のある水は大気解放せず、密閉(インライン)のまま、小水力発電、送水動力、浄水処理エネルギーに活用する。

2009.06.13

トピックス3.低炭素型給水システムの開発(2009.6.8官庁速報)

 東京都水道局は、浄水場や給水所が送水・配水に伴って排出する二酸化炭素(CO2)を削減するため、電力使用量の少ない給水経路を選定するシステムの開発を進めています。2009年度予算に15億3000万円を計上し、2010年度から運用を開始する予定です。
 都水道局は浄水場11カ所と給水所39カ所を管理しています。水道水を安定供給するため、事前に1日の配水必要量を予測した上で、浄水場や給水所の送配水能力や一定水量の供給に必要な水圧を考慮しながら、浄水場や給水所に送配水量を割り当てています。
 ただ、浄水場や給水所は、送配水のためポンプを運転する際、多量の電力を使用します。都水道局の使用する電力は都内全域での電力使用量の1%を占めており、浄水場や給水所が排出するCO2の削減が課題となっています。
 このため都は、浄水場や給水所ごとに、一定量の送配水に要する電力使用量のデータを収集し、送配水量や水圧を考慮した複数の給水経路を設定した上で、給水経路ごとに電力使用量を算出し、電力使用量の少ない経路を選べるシステムを2009年度中に完成させる方針です。

2013.06.16

トピックス4.直結配水+小水力発電を併用した配水場システム(2013.3.25水道産業新聞)

 東京都水道局では、送配水ポンプのインバータ方式化や浄水場からの送水が配水池で圧力解放されることで、利用できなかったエネルギーの有効利用に取り組んでおられます。

 1つは配水池引込管への小水力発電の導入です。もう一つは、給水所内の配水池バイパス管にブースター方式の直結配水ポンプを配備して、配水池を経由しないで一定程度の配水を直送圧水するものです。この2方式を比較すると、引き入れ圧力をそのまま用いる直結配水方式の方が効率面では優れています。しかし、給水所の本来の役割である需要変動の吸収や配水池貯留水の水質維持を考慮しなくてはならないために、直結配水する水量比には一定の制限が生じます。

 そのため、給水所の運用状況から直結配水の水量を想定し、それに適応するブースターポンプにより引き入れ圧力を利用したエネルギーの有効利用を図ります。そして、配水池に引き入れる一定量の流入水に対しては小水力発電によりエネルギーを生み出します。すなわち、直結配水・小水力発電ハイブリッドシステムと言えます。ちなみに、東京都の江北給水所による試算では、小水力や直結配水単独ではそれぞれ20%のエネルギー削減となりますが、このハイブリッドシステムでは30%の削減が期待できます。具体的運用方法は、昼間で配水量の多い時間帯は主に直結配水ポンプで引き入れ残圧をダイレクトに活用します。そして、夜間など配水量が少なく配水池への引き入れ量が多くなる時間帯は小水力発電によって電力エネルギーを回収します。水需要の多い昼間は配水池水位も下降傾向となりますので、直結給水バイパスの引き入れ圧力はより有効に働くことになると思えますし、水需要が少なくなると、バイパス管の能力一杯まで配水したとしても配水池に流入する水量が増えてきますので、東京都の計画は妥当だなと推測できます。

 なお、ハイブリッド方式は既存の給油所には設置スペースの制約から導入は困難と言われています。

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3.ヒートアイランド現象の防止技術

 ヒートアイランド現象とは、都市部の気温が周辺部より異常に高くなることである。最近の防止技術について報告する。(「都市再生・環境フォーラム」より)

@ 舗装技術

1.保水性舗装
 保水性舗装とは、舗装体の隙間に注入した保水材で雨水などの水分を吸収し、蓄えておくことができる舗装のことで、蓄えられた水分が晴天時に蒸発することで路面温度を低減し、ヒートアイランド抑制効果を発揮します。

その1
 吸水性ポリマーや鉱物質をアスファルトに混ぜた道路舗装材。雨水等を内部に蓄え、蒸発するときの気化熱で路面温度を下げる。通常舗装より路面温度は10度ほど低くなる。

その2
古紙再生時に発生するペーパースラッジ焼却灰を再利用した舗装用ブロック。多孔質セラミック構造により保水性が優れている。雨水を一度蓄えると、炎天下でも1週間ほど温度抑制効果を持続する。

その3(浄水汚泥の有効利用)
 保水材に浄水場発生土を配合したもので、発生土の性状により異なるものの、舗装面積1m2当たり約5.5Kgの発生土が利用できます。東京都の保水性舗装性能要件である路面低減温度(12℃)、保水量(6.5Kg/m2)共クリアしています。産業廃棄物処理のコストを考えれば、トータル的に従来の保水性舗装よりコストを抑えられる見込みだそうです。東京都と戸田建設グループが共同開発したものです。(2006.10.16水道産業新聞)

トピックス5.大阪市の浄水場汚泥を用いた保水性舗装事業(2008.5.13官庁速報)
 大阪市は、2,008年5月から、浄水場で発生した汚泥を、ヒートアイランド対策に効果があるとされる保水性舗装の保水材として活用する取り組みを民間業者と始めました。市は、主に廃棄物として処理されている汚泥を保水材として企業に売却し、地球温暖化防止につなげたい考えです。2010年以降の正式な事業化を目指す予定です。
 汚泥は、浄水場に取水した水の中の土砂成分を固め、脱水などをした浄水発生土です。06年度には市内で約2万3000トン発生し、埋め立て処分されたり、セメント、園芸用の土として使われています。
 有効利用が模索されていた中で、浄水発生土は舗装材内に水を蓄積し、蒸発時の気化熱で路面温度を下げる保水性舗装に利用できることが分かりました。
 市は、民間の道路会社から浄水発生土を保水材として利用したいという申し出を受けて、事業としての採算性を検討した結果、採算が取れることが分かったため、5月からの試験事業に踏み切ったのです。
 1トン当たり1万5000円前後での販売が検討されており、利益は約4000円程度が見込まれる計算です。
 担当者は「保水性舗装の需要は伸びると思われる。浄水発生土を収益につなげて有効利用していきたい」と話しています。

2.遮熱性舗装
温熱効果の高い太陽光の赤外線を反射し、昼間の路面温度の上昇を抑え、夜間の放射熱を軽減する。

A 緑化技術setstats

1.屋上緑化
植物の水蒸発作用で温度上昇を抑える。重量やコストが普及のネック。耐水性防水シートや軽量で保水・排水性の良い土壌を使った低コストシステム化が図られている。

2.コケ
軽量で寿命が長く、CO2を体内に蓄積する温暖化ガス削減にも効果がある。水分を空気中から吸うため、毎日水やりする必要がない。

3.芝生ラック
軽く通気性の良いラック型芝生プランター。自由に並べるだけで緑化ができ、造園業者に依頼しなくてもできる。ベランダや狭い場所の緑化も可能。

4.壁面緑化
壁面緑化とはコンクリート構造物に植栽する技術で、都市に新しい緑の空間を創造できる。デザインが自由に選べる「パネル式」、つる性植物と金網を一体化し高所設置に適した「ユニット式」、フェンスへの取り付けが簡単な「簡易式」などのシステムがある。

5.駐車場緑化
多くの隙間のあるブロックに芝生やクローバを植栽したもので、車に踏みつけられてもOK。路面温度の上昇を抑え、雨水の透水性にも優れている。

B 散水システム

1.光触媒カーテンウォール散水システム
 光触媒カーテンウォール散水システムとは、NEDOがH15年〜17年に産学連携で開発したヒートアイランド現象の緩和策です。
 親水性が高い光触媒のコーティングを窓ガラスに施し散水し、そのガラス面を伝う水の気化熱により冷房空調負荷を軽減するものです。このシステムはH18年、横浜市水道局菊名合同庁舎に日本で初めて採用されました。


2.コンクリート壁面のミスト散布
 ミスト散布とは、2005年の愛知万博で話題になりましたヒートアイランド現象を緩和する壁面散水システムのことで、加圧した水を数十μm程度の微少な噴射口から空気中に散布して人工的に霧を発生させる技術です。水を効率的に気化させることで、気化熱として周囲の熱を奪う減少を利用し、対象空間を効果的に冷却しようとするものです。新技術として注目されており、各方面で技術開発に取り組まれています。

大阪市が水道水ドライ型ミスト散布を事業化(2008.5.9官庁速報)
 大阪市水道局では、都市化に伴うヒートアイランド現象を緩和する対策として、水道水を活用したミスト散布の実験を2006.8.21から41日間城東配水池で行いました。
 実験は、配水場内の半地下構造物が形成する空間を商店街等の街路に見立てたミスト散布、配水池上部のコンクリート被覆面へのミスト散布、配水池端部でのミスト散布の3つによって構成されています。
 街路空間でのミスト散布による気温低下効果は、夏場の日中で最大10度C程度でした。ミストが微少粒径であるため、皮膚や衣服が濡れることもなく、公共空間における水道水を用いたミスト散布の有効性・実用性を確認することが出来ました。
 コンクリート構造物は日中の日射により蓄熱された熱が夜間に放熱され、熱帯夜の主な原因になるなど、周辺地域の熱環境を悪化させています。コンクリート被覆面へのミスト効果は、最大で60度Cに熱せられた日中のコンクリート表面温度を30度C程度に低減できました。

 大阪市は2008年夏、ヒートアイランド対策として水道水ドライ型ミスト散布事業に乗り出す方針です。民間事業者と連携し、ミスト散布の普及を目指します。市によりますと、自治体がミスト散布を事業化するのは全国で初めてとのことです。

 市は、1日からホームページで企画提案書の受け付けを開始。書類審査を経て、パートナーシップ協定を結ぶ民間事業者1社を5月下旬までに決定します。
 ミスト散布の顧客は、市内の商店街やイベント業者などを想定しており、水道料金を一般料金より低く抑えることも検討する方針です。同事業では、市が民間のノウハウを活用できるメリットがある一方、企業側には市と組むことによるPR効果が見込まれます。
 市の過去10年間の8月平均気温は、那覇市を上回る29.1度で、ヒートアイランド対策は市にとって喫緊の課題です。昨年行われた世界陸上選手権大阪大会では、モデル事業としてミスト散布を実施しました。

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4.環境関連のトピックス

2009.11.30

水道水ドライ型ミスト装置の加湿効果を検証(2009.11.25官庁速報)

 大阪市は、インフルエンザへの予防効果が期待される室内の加湿対策として、水道水を霧状にして散布する室内実験を始めます。12月下旬の2週間に実験を行い、室内環境を観測して、効果的な装置の形態や運用方法の確立を目指す予定です。
 市水道局はこれまでに、夏のヒートアイランド現象を緩和させるため、水道水から人工霧を作り出すドライ型ミスト装置を開発しています。空気中に散布された人工霧が蒸発する際、周囲の熱を奪うことで「外気温を2〜3度下げる」特性を生かしたものです。今夏は小中学校や商業施設などで導入されました。一定の成果が出ているため、冬バージョンにも取り組むことにしたものです。
 実験は、同局浄水場内の水道技術センターの講義室で実施します。地元のノズル製造業者と連携して、扇風機と組み合わせたファン付きドライ型ミスト装置を作製し、数十ミクロンの微細な噴射口から、空気中に噴き出した水道水の人工霧をファンの力で室内に行き渡らせる仕組みです。
 今回は、約100平方メートルの講義室内に2台の装置を設置します。無人の状態で、室内の温度や湿度分布、細菌など浮遊物質濃度の時系列変化を測定します。年明けには、学校での実験も予定されています。結果を検証した上で、加湿効果の高い装置の開発を進め、「来年冬には実用化し、夏も冬も利用できる通年型のミスト装置を目指す」考えです。

2009.10.19

浄水場の上流移転を検討へ(2009.10.13官庁速報)

 東京都水道局は、低炭素型の水道事業を目指し、下流にある浄水場の上流への移転を検討しています。下流の浄水場は標高の高い地域に配水するポンプの運転に膨大な電力を使っているため、現在策定を進めている新たな経営計画に検討の方針を盛り込む考えです。

 施設能力が100万トンを超える大規模浄水場は、高度成長期に急増した水需要に対応するため、多くの水量を確保できる下流に配置しています。そのため、標高の高い地域にポンプで圧力を掛けて配水しています。水道局の電力使用量は都内での電力使用量の1%を占め、二酸化炭素(CO2)の削減が課題となっているのです。

 一方、浄水場の7割は高度成長期に整備され、10年後から順次、更新の時期を迎えます。水道局は更新時期をとらえ移転を進めることを想定していますが、一定水量の確保も必要なため、新経営計画では電力削減との両立策など、課題の検討を打ち出す方針です。

 都の水源量の2割を占める多摩川上流にある水源林の管理も課題となっています。水源林は、水道局が所有する森林と民有林にほぼ半分に分かれていますが、林業の衰退で荒廃が進む民有林が増えているのが問題なのです。このため、水道局が民有林を譲り受け、所有・管理することも検討しています。

 いずれにしても、このような事業を可能にできる経営状況はうらやましい限りですね

2008.06.08

脱ペットボトルによる水道水PR(2008.5.22水道産業新聞他)

 名古屋市はおいしい水道水のPRにペットボトル水「名水」を配布していましたが、環境負荷の低減や廃棄物減量の観点からペットボトル水を廃止し、今後は、再生ガラスを使用したカラフェ(水差し)を製作・活用してPRしていくことにしました。

 名古屋市上下水道局のPR用ペットボトル水「名水}はイベントなどで約5万本(H19年度)配布していて、市政世論調査によりますと、「名古屋の誇れるところ、良いところ」でそのおいしさが第2位に入るほどの好評を得ています。しかし、その製造から処分までのCO2排出量は6000Kgに相当し、資源ごみとしてリサイクルはされるものの1250Kgのごみが発生する問題がありました。
 オリジナルのカラフェは水滴をイメージしたしずく型で1Lと500ccの2種類があります。原材料には使用済み蛍光管を使った再生ガラスです。
 今後は局イベントや会議などでカラフェで地元のおいしい「名水」を提供し、環境に配慮した行動を展開するそうです。また、レストラン等にも協力を呼びかけ、カラフェを貸し出します。

 「蛇口へ安全でおいしい水を供給していることをいかに市民に理解してもらえるか」という課題解決に向けて多くの事業体が選択した手法が水道水のペットボトルの配布・販売でした。結果として、このペットボトル水に接した市民の多くは市販のボトル水に遜色ない水道水の品質を実感していただいています。市販のボトル水と比較して水道水が市民に対してさらに優位性を主張できるのが「環境」です。蛇口まで水を供給する水道システムそのものがボトル水に比べて環境負荷が格段に低いことはいうまでもないことですが、「環境」をキーワードにした名古屋市の取り組みは、英国政府の考えに追随したものなのでしょうが、今後、事業体のボトル水に一石を投じるかもしれませんね。

 追加の情報ですが、08.5に仙台市行われた全国水道研究発表会の水フォーラムにおいて、座長が講師席に配られていたボトル水に対して、「会議などの水の用意はボトル水ではなく、別の方法を考えて欲しい。」と会場に呼びかけました。これに同席していた厚労省の山村水道課長も同調し、ロンドンの事例を紹介した上で「日本でも積極的にPRしていくべき。」と訴えたそうです。今後の流れとしては、こういう方向になるんでしょうかねー!

2008.03.31

ボトル水禁止の動きが広がる(水道産業新聞2008.3.17)

 環境保護のためボトル水を禁止し、水道水を飲もうという動きが世界的に広がっていますが、英国政府は2008年夏から、政府機関や公式会合などでボトル水を禁止し、水道水とすることを決めました。

 内閣のガスオドンネル卿長官は、この措置は大きなプログラムの一部であると語り、今後さらにボトル水排除の政策や環境保護の政策を打ち出すことを示唆しました。英国政府は「水道水はボトル水に比べ1/300のエネルギーを使用し、廃棄物処理の問題がない」と説明しています。

 ボトル水禁止の動きは、サンフランシスコ、ニューヨーク、ロンドンなど世界の主要都市に広がっています。2005.09.01 「5−1大雨か無降水、進む二極化」

2006.08.08 「2.地球温暖化防止に関する上下水道の役割」を追加
2006.10.10 「3.ヒートアイランド技術」に「B散水システム」を追加
2006.10.24 「3.ヒートアイランド技術」に保水性舗装その3「浄水場発生土の有効利用」を載せました。
2007.05.15 「3.−B散水システム−2.コンクリート壁面のミスト散布」の記述を実験結果を追加して記載内容の変更を行いました。
2007.06.17 「1.−3」−C環境配慮契約法」を記載。記述構成を大幅に変更しました。
2008.06.01 「環境関連のトピックス」に「脱ペットボトルによる水道水PR」を追加。「散水システム」の項に「大阪市が水道水ドライ型ミスト散布を事業化」記事を追加。
2008.06.02 「3.ヒートアイランド対策」に「大阪市の浄水場汚泥を用いた保水性舗装事業」を追加
2008.07.01 「水面を利用した太陽光発電」を記載
2009.06.13 「低炭素型給水システムの開発」を記載
2009.11.30 「水道水ドライ型ミスト装置の加湿効果を検証」を記載
2013.06.16 「直結配水+小水力発電を併用した配水場システム」を記載
2013.09.28 内容の全面改訂。2.に「IPCCの温暖化報告書」の内容と「上水道システムにおける再エネ・省エネ等導入促進事業」の内容を記載