品確法と入札制度改革

1.品確法とは?

「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(略称・品確法)が2005年4月1日から施行されました。
 公共事業は国や地方自治体の財政状況の悪化により事業量を抑制されていますが、その結果、民間の供給能力と工事発注量のバランスが崩れ、過当競争による受注価格の低下が顕著になり、公共工事の性能・品質の悪化が懸念されています。
この法律は、公共事業の発注に際し、現行の会計法による価格優先の発注方式から総合評価・透明性を重視した合理的な発注制度に転換しようとするものです。

2.技術力を重視する提案型の入札制度

 日経新聞(05.6.16)に東京大学の武田教授が記述された「入札制度改革:コンペ方式に可能性」という記事が面白かったので紹介します。(面白かった下りは仮定の話しなので、記載しませんでしたのでご勘弁)談合関連の口頭試験対策としてヒントになるのではないでしょうか?

 一般にお金を出してモノを買うとき、もっぱら値段に関心があるときもありますが、品質を重視して多少価格に目をつむるときもあります。前者であれば、入札は有効な手段の一つです。しかし、価格に品質基準が加わったら、選択肢が多くなり入札制度のみでは難しくなります。
 
 価格と品質が問題となる大型公共工事や機器の発注のケースを考えてみましょう。

 入札制度の利点は、誰が一番安く、一番良いモノを供給できるかを発注者側が知り得ないという場合でしょう。品質を重視した場合、入札制度では品質の情報をすべて価格に転嫁させ得るものでなくてはなりません。「品質は発注者の仕様書に定められた要件により保証されている」という考えに基づきますが、これが問題なく可能となるためには、発注者は仕様書に基づいた予定価格を標準的な施工方法のもとに、ある程度正確に算定しうることが不可欠であります。この場合、発注者の知らない新技術や施工の熟知による効率性の発揮等の要因は発注単価に反映されにくいのです。また、発注者側が高度な技術を要する工事の予定価格を算定できる情報や技術を持ち合わせてはいないのが実情です。
(発注者側の積算情報や関連技術の不足を補う手段として「談合」が存在し、その仕組みが公共工事のリーゾナブルな価格設定となっていると仮定されていますが、この点は定かでないので内容説明は省略します)

 そこで、コンペ方式(設計VE)を提案します。発注者側は大まかな予算規模と、発注すべき内容の概要を示し、民間から自由に提案を受ける方式にします。提案者は斬新なアイデアによる品質の良さを強調しても良いし、安価な工法の提案を行っても良いのです。提案がいくつも出てきたら、委員会で選定しても良いし、一定条件に絞り込んで指名競争入札にしても良いでしょう。

1) プロポーザル方式

 国民は、公共事業がより安価であることは期待していますが、品質的に劣るものの採用を望んでいるわけではありません。しかし、現行の発注形態では、いかに優れた技術やノウハウを持った会社がいても、価格のみの単一要素により落札者が決定されてしまう状況にあります。

 品確法は技術提案によるプロポーザル方式の採用を打ち出したものと言えましょう。PFI、DBO、第三者委託等による受注者審査の手法としても活用されるプロポーザル方式とは、選考過程の透明性と審査の総合評価に関する具体案として、発注者は発注に際して受注を希望する企業から@施行計画書A見積書B技術提案書等を提出させ、それを基に個別にヒヤリング等の調査と選定過程等の情報公開を行いながら、最適の企業を選定しようとする方式です。

 次に一般的なプロポーザル方式による業者選定手続きのフローを紹介します。

2) VE(バリュー・エンジニアリング)

 民間の技術を広く活用することにより、公共工事の機能と品質を保ちつつコスト縮減を図れるよう契約額の減額設計変更を行う方式です。
 落札・契約後であっても、受注者による新技術等の提案により当初の目的とする性能が確認された場合には、その提案に従って設計図書を変更し、提案に対するインセンティブを与えるために、コスト縮減額の一部を受注者に支払うものです。

3.談合の防止策

1) 独占禁止法の改正(2005.12.30日経新聞)

 談合摘発の強化に向けて、平成18年1月4日から独占禁止法が改正されました。
@ 違反課徴金の引き上げ
 違反対象製品の売上高に対して、以下のように従前より課徴金をひきあげました。

業種 大企業 中小企業
製造・建設業 6%→10% 3%→4%
小売業 2%→3% 1%→1.2%
卸売業 1%→2% 1%

 過去10年以内に課徴金支払い命令を受けた企業は課徴金を上記の5割り増しとする。
 談合を摘発されたことのない企業は公正取引委員会が立入検査をする1ヶ月前までに談合を辞め、談合期間が2年未満なら課徴金は2割減とする。

A 自ら談合を公正取引委員会に申告した企業は課徴金を減免
 談合参加企業を疑心暗鬼にして参加者の自主申告を促すため、公正取引委員会の調査着手前に最初の申告者になれば課徴金は無し、2番手は50%減額、3番手は30%減額とする。
 公正取引委員会の立入検査後の申請者は合計3社まで、全て30%の減額措置がある。
 報告書は、着信時間で自主申告の順位を決定するため、ファックス送付とする。

B 公正取引委員会に強制調査権限を付与
 公正取引委員会が裁判所の令状を得て強制的に調査できる権限を持つ。

<課徴金減免制度 初適用>(2006.3.29毎日新聞)

 「水門工事を巡り談合が繰り返されていた」として、公正取引委員会は、06年3月28日、大手鉄工・重工二十数社に対し独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで立入調査をしました。この調査は「課徴金減免制度」に基づき、検査対象企業から事前に違反内容の情報提供を受けてのことで、同制度の適用は06年1月初旬に導入されて以来、僅か3ヶ月で初適用されたことになります。

 「アメとムチ」の性格が強いこの制度は、今回のケースを機に、他の業界へも申告が波及する可能性があります。立入検査前に1番目に申告すれば、課徴金の全額と刑事告発が免除されます。また、国土交通省は同法違反に伴う指名停止期間について、減免対象社は通常の1/2に短縮する方針を打ち出しています。

 公共工事依存度の高い企業ほど指名停止による経営上の影響は大きいと言われています。また、申告しなかったり先着3社から漏れた企業は、株主代表訴訟等で「申告しなかったことによる会社への損失責任」を追求される恐れもあります。

 企業に“自首”を促す減免制度は「身に覚えのある企業」にとって、早急に内部点検を迫られることになりそうで、談合防止に対する大きな効果が期待されます。

2) 業界の取り組み

(2005.12.30日経、朝日新聞)
旧日本道路公団の鋼鉄製橋梁工事や新東京国際空港公団(現・成田国際空港会社)の電気設備工事を巡る入札談合の摘発が相次ぐ中で、各企業や業界も防止策に乗り出しています。
 鹿島・大成建設・大林組・清水建設のゼネコン大手4社が、独占禁止法が施行される平成18年1月4日から、法令遵守を徹底し入札談合と決別することを申し合わせていたようです。全国各地域の談合組織では、4社の担当者が中核メンバーになっているところが多いと言われていますので、各社談合担当者の配置転換により組織の解体につながる可能性を期待されています。

(2006.4.6読売新聞)
 国土交通省が発注したダム建設などの大型工事の入札で、今年に入り、大手ゼネコン各社が予定価格の40〜70%台という極めて低い価格で落札しています。同省の低入札価格調査の対象となった物件は2006年に入って既に6件だそうで、大手ゼネコンが落札した工事が同調査の対象となること自体が異例なのだそうです。この現象は、先に記したゼネコン業界の「談合決別宣言」が大きく影響していると言われています。

(2006.9.19日本経済新聞)
 国土交通省発注の公共工事でゼネコン(総合建設業)主要15社の落札率の低下が続いています。罰則を強化した2006年1月の改正独占禁止法施行を契機に、「談合決別」を申し合わせたゼネコン大手が低価格入札を始め、価格競争が中堅企業にも広がりました。7〜8月の落札率は平均で73.8%に急落したそうです。談合が有れば落札率は高止まりすることが多く、公共工事では95%を超えるのが通例でしたが、1〜3月は大手の低価格入札が先導して84.3%に下落、4〜6月は、年度当初で大型工事案件が少なく、価格競争も一服したためか?92.3%に上昇しましたが、大型工事が徐々に増えた夏場から再び競争が激化した模様です。価格競争は大手・準大手から中堅まで巻き込み、激しさを増しています。

 落札率・価格の低下は各社に案件の選別を促しています。公共工事は選別された業者だけが参加できる「指名競争入札」が一般的でして、落札できないと分かっていても次回の指名を受けるために応札することが多かったのです。より競争を促す「一般競争入札」や「公募型指名競争入札」が増えてきたことと併せて、価格競争の激化により、見積書作成など参加コストの回収が難しくなったことが原因と思われます。

<低入札価格調査>
 著しい低価格での落札は、手抜き工事や下請け業者へのしわ寄せなどが懸念されます。このため、落札額が基準を下回った場合、業者の経営内容や工事実績、工事計画などを調査した上で契約をします。国土交通省における2004年度の調査対象件数は473件でしたが、大手ゼネコンは入っていませんでした。

3) 国土交通省の「入札・履行ボンド」制度(2006.1.10日経新聞)

 国土交通省は談合が起きにくい一般競争入札を拡大するための新しい制度を検討しています。
 入札参加者を絞らない一般競争入札が公平・公正の観点では優れた入札手法なのですが、なかなか広まりません。それは、経営基盤の弱い不良業者が大量に入札に加わり、安値受注の横行、受注企業の倒産による工事中断、事務負担の増加等のリスクが高いため、地方自治体が導入に二の足を踏んでいる背景があります。

 国交省が検討しているのは、損害保険会社や大手銀行が入札前に発注者に工事の完成などを保証する「入札・履行ボンド」と呼ばれる制度です。
 入札前に損保や大手銀行が建設会社の財務状況や受注余力を審査し、保証書を発行します。保証を受けられない建設会社は入札に参加できません。契約が何らかの理由で実施されない場合は、保証を与えた企業が再入札に掛かる費用も含めて建設資金を負担しますので、厳格な審査が期待できます。この民間審査制度により不良会社の締め出しに目途を付け、地方自治体に一般競争入札の活用を促します。建設会社の審査に発注者以外が加わることで、入札の透明性がより高まるとの期待もあります。

 建設業界は公共事業の需要が縮小しているにもかかわらず業者数は横ばいで、供給過剰状態にあります。保証制度の導入で、経営基盤が弱い企業には退場を促し、施工能力のある企業だけが競争する環境ができ、業界の再編・淘汰が進むきっかけになる可能性も考えられます。

(2006.4.6日経新聞)
 国土交通省は、2007年度にも公共工事の指名競争入札を廃止し、一般競争入札に全面移管する方針を固めました。
 一般競争入札にすると、財務体質が劣悪な業者や技術力の乏しい業者が格安で落札する危険性があります。そこで、同省では「多段階入札制度」を導入します。これは、最終的な入札に参加できる資格があるかどうかについて、一定の基準に基づいて選抜する仕組みで、予備入札と呼ばれ、欧米では実績のある制度です。現在の会計法では、「入札のための入札」を実施しにくいため、関連法規や政省令の改正も検討されています。透明性を高めるために、最終的な落札者の決定後、予備入札を含めた入札結果や判定基準を公表したり、第三者による監視委員会を活用する予定です。

4) 電子入札

 官を巻き込んだ談合防止策?として、最近では、入札予定価格の事前公表が広まっています。これにより、官に予定価格を探る動きは防げるし、入札価格の低下も期待できます。

 しかし、もう一つの問題として、入札指名業者名を知られないようにする工夫も必要です。指名業者が設計図書の閲覧に役所を訪れる時、業者同士が会することにより指名業者を知られることを防ぐため、役所での閲覧をやめ、印刷会社数社の内から購入するという方法に切り替えている例もあります。さらに、電子入札は指名業者名を知られないようにする工夫としては有効な手段となります。

 電子入札とは、情報通信技術の活用により、建設業者等の入札の透明性・公明性を確保でき、競争性の向上や受注者・発注者双方の入札手続きの負担軽減と効率化を図れる入札手法と位置づけられています。以下に電子入札の概略を説明します。

@ 事前準備

 電子入札に参加するには、銀行カードのような登録ICカード、カードリーダー、パソコンを揃え、システムの環境設定をして、利用者登録を行宇必要があります。
1. ICカード取得のための利用開始申請を行い、利用者登録番号を入手します。
2.民間認定会社からICカード、カードリーダーを入手し、端末のシステム環境設定を行い、利用者登録を済ませます。

A 電子入札のしくみ

 電子入札の一例を紹介します。
1.指名通知
 電子入札者に、電子入札システム(以下システムという)と電子メールにより役所から指名通知があります。
2.入札金額と工事費内訳書の提出
 電子入札者は、入札受付期限内に、送られてきた様式に従い工事費内訳書と入札金額を記入し、システムにより役所にメールします。
3.改札と立会
 公告及び指名通知書に記してある開札日に、役所で入札書をパソコン上で開札します。入札参加者は立ち会えます。
 開札の結果、同額者が複数いた場合はクジ引きとなります。入札参加者がその場にいれば、クジ引きに参加できます。居ない方については役所の職員が代行します。
4.入札結果の通知と公表
 電子入札者にはシステムにより入札結果が通知されます。なお、入札結果はシステムの検証機能を利用すれば確認できます。
5.契約の締結
 落札された業者は従来通り、役所の契約担当部署に行って、書面で契約を締結します。

5) 国交省が低額入札対策を強化(2006.12.06読売新聞)

 今年当初から談合防止策が次々と打ち出されましたが、その結果、極端な低価格の入札が相次いでいます。
 国土交通省は、工事の品質確保のために新たな評価方式を検討しています。
@ 原則として、どの業者でも参加できる一般競争入札で実施されている「総合評価方式」を改正し、価格の他に評価対象となっている技術水準の点数の割合を大幅に引き上げ、入札価格が低くても、技術点が高くなければ落札させない仕組みにするものです。
A 公正取引委員会に対して、低価格入札について積極的に情報提供し、不当な安値によるダンピングが行われていないかどうか厳格にチェックします。
B 入札額が予定価格の67%〜85%の間で決められている「調査基準価格」を下回った場合、契約通りの工事が可能かどうかを調べる「低入札価格調査制度」については、業者に人件費や材料費など積算の根拠となる資料を提出させ、書類に問題がある場合は契約を取りやめます。
C 一般競争入札では入札に見合うだけの規模・技術の工事実績がなければ入札に参加できない仕組みであるため、実績作りのための低価格入札があります。このため、施行実績の要件を過去10年から15年に延長し、無理な低価格受注の抑制を促します。
D 入札参加者に金融機関の補償を求める「入札ボンド制度」の活用も拡大し、その工事の規模や技術に不適切な業者を排除します。

 公共工事の品質を確保するために技術重視の評価制度に改めることは意義有ることと思えますが、結果的に公共事業の費用負担が増えるとなれば、その負担は国民に回りますので、慎重な対応が求められます。

4.上下水道事業での取り組み

 日本水道協会では、水道事業体における「品質確保に関する調達方式」に関し、全国規模の実態把握に向けたアンケート調査を、給水人口10万人以上の正会員水道事業体を対象に2006年3月初旬頃実施します。
 協会は厚生労働省から「水道工事における品質確保の促進に関連した手引書」の作成を要請されています。アンケートはその第1ステップですが、事業体の実態調査を踏まえ、産業界の要望・意見も反映させながら、水道工事の品質確保促進に関する本格的な議論を開始し、手引書の作成を目指します。

 日本下水道協会でも下水道工事における品質確保促進に関する検討委員会」を開催し、下水道工事における「技術提案の範囲」(総合評価方式)等を中心に検討を進め、「下水道工事における品質確保の促進に関する手引書」(仮称)の作成に着手しています。

<コーヒーブレイク>
 「談合は犯罪である。」という観点から今回の独禁法改正等の動きがあったものと思われます。これに対して、長谷川明海大学教授の談合に関する面白いコラムがありましたので紹介します。

 日本語で言う談合の意味は、「話し合うこと、談じ合うこと。」とあり、犯罪的な語感は見あたりません。
 役所の絡んだ仕事には談合は付きものです。そもそも、これまでの入札契約システム自体が談合を合理的に行うように作られており、官の役割は公平・公正に利権を分け合うことを支援することであったと述べられています。
 談合は日本的な公正・公平の現れであり、ワークシェアリングの考え方がそれを支えています。公共の仕事をワークシェアリングすることは公共の利益を害する不公平な行為ではなく、官が、談合を事実上認めるのは、フェアシェアを認めることが、適切な統治行為、ガバナビリティと考えているからです。すなわち、根本には日本的な統治体制、企業風土があるのです。
 一方、アメリカ社会の公正は、ルールに従った競争であり、機会での公正であって、結果の公平ではないのです。
 「日本は、和の社会で、話し合いで結果の公平を求める考え方が根底にあり、アメリカ流の弱肉強食への抵抗は強く、談合を破廉恥な行為だとは考えていないので、本当に談合は無くなるのでしょうか?」と結んでおられました。
 3−2)の大手ゼネコン4社はいずれも競争力の強い大企業です。ちまたでは、「4社が本気で競争をする気なら、中堅業者は死活問題だ。」などという噂も飛んでいます。(本当のところは解りませんが。)

 皆さんは、間違っても技術士試験でこのような見解は述べないようにお願いします。あくまで、「このような意見がありましたよ。」という紹介ですので、よろしく!

2005.7.26 初版
2006.1.13 プロポーザル方式、PFI,VE,独禁法の改正、国交省の制度改革案を追加
2006.1.17 <コーヒーブレイク>を追加
2006.1.20 一般競争入札、電子入札の記述を追加
2006.3.1  「上下水道事業での取り組み」を追加
2006.3.29 独禁法「課徴金減免制度」初適用を追加
2006.4.6  「談合決別宣言」の影響、指名競争入札の原則禁止を追加
2006.9.23 「落札価格の下落続く」を記載
2006.12.10 3−5)「 国交省が低額入札対策を強化」を追加