貯水槽水道

貯水槽水道の水質管理

1.東京都の取り組み

(貯水槽水道の残留塩素管理は滞留時間がポイント(2011.7.14日本水道新聞)

1)滞留時間が長く残塩消費量が多いと推定される貯水槽の点検調査

 東京都水道局は「貯水槽水道においしい水を届けよう」ということをテーマに平成16年〜21年度に都内全貯水槽水道を対象に点検調査を実施しています。この調査で、
 @ 滞留時間が長く残塩消費量が多いと推定される貯水槽26000件
 A 点検調査が出来なかった6万件
を対象に平成22〜24年度の3年間で点検調査を行います。

 22年度は30121件の貯水槽水道を調査しました。点検項目は残留塩素濃度、水温、色度、濁度の4項目で、点検個所は、受水槽上流側の直結栓、受水槽内、末端給水栓の3か所です。
 解析結果は、残塩濃度の消費に大きな影響を与えるのは滞留時間と水温で、有効容量や経年、点検や清掃の有無は影響が小さいことが判明しました。

 設備の設置方式では、「受水槽のみ」、「受水槽+高置水槽」、「躯体一体型+高置水槽」の3種類において、「受水槽のみ」が最も塩素の消費量が小さく、「躯体一体型+高置水槽」が最も大きかったそうです。

 これらの結果を踏まえ、滞留時間、水温、点検・清掃の有無、設置方式を用いた残塩消費の想定式も作成されています。

 また、Aのデータを用いて、水温・滞留時間と残塩消費の関係を比較した結果では、回転数が2回転/日未満の場合は残塩消費量0.15mg/L未満が63%だったのに対し、2回転/日以上の場合は、消費量0.15mg/L未満が76%で、夏季も同様の結果を示したそうです。

 滞留時間により残塩消費量に顕著な差が出ることが判明し、滞留時間(回転数)の監理が有効だと指摘しています。

2)定点調査

 12件の実際の貯水槽水道を用いて、実際の使用形態における1週間連続での残塩消費量を調査しました。受水槽上流側の直結栓と末端給水栓の2か所において、残留塩素濃度、水温、使用水量について、日内、週内、季節変動(夏季、冬季)を調べました。
 この結果、残塩の消費量は冬季より夏季の方が多い、日中よりも深夜〜未明の方が多い等、水温と使用水量の影響が明らかになりました

3)モデル貯水槽調査

 浄水場内に高度浄水処理水を用いた、引出水量を一定にして水位と回転数を変えた時の、モデル貯水槽とモデル配管の残塩消費量の挙動特性を調べました。貯水槽の材質はFRPとRC、配管材料は塩ビ管とライニング鋼管です。
 モデル貯水槽では、水温と貯水槽滞留時間が残塩消費量に影響を及ぼし、水位や材質による影響は小さいものでした。
 モデル配管内では、水温が残留消費量にわずかに影響を及ぼしていましたが、滞留時間との関係性は認められませんでした

  以上3種類の調査を総括して、「滞留時間により残塩消費量に顕著な差が出る」として、 東京都水道局では、2012.12.21「残留塩素低減化に向けた貯水槽水道における残留塩素消費抑制検討委員会」の最終報告をまとめました。

4)貯水槽水道の残留塩素の消費(2013.1.3水道産業新聞)

 貯水槽水道の残留塩素消費(以後、残塩消費と記す)のメカニズムとしては、滞留時間が長くなると残塩消費量が増えることが確認されました。滞留時間が24時間以上の貯水槽水道が全体の6割を占めていることから、滞留時間を24時間以内に短くすることで、残塩消費量を平均0.15mg/L程度に抑制できると考えています。

 一方、滞留時間が24時間以内であっても残塩消費量0.15mg/L以上となる「短滞留・多消費」の施設も存在することが判明しました。有効容量10m3以下の小規模貯水槽水道の割合が高い傾向にあり、経年化した貯水槽以下の配管による残塩消費が多い場合もあります。

 基本的には、滞留時間に着目し、滞留時間を適正化することで残塩消費を抑制するのが効果的との判断から、以下のような取り組みを行います。
@ 設置者への働きかけ
 直結給水方式への切り替え→躯体一体型の貯水槽水道は補修が難しいので直結化を薦める
 適切な維持管理の実行→残塩消費を定量化する推計式を構築・観測し、そのデータを利用者へ継続的に情報提供を行う
 施設の更新
 未調査の貯水槽水道→区・市町村の衛生行政と連携し、実態把握を推進する

A 管理目標値の設定と指導
 貯水槽水道における残塩消費を0.15mg/L程度とし、需要者末端の残塩濃度を0.10mg/Lとするなどの管理目標値を設定して、設置者に明示する。これに応じた評価・指導を実施する。

B 衛生行政(区、市町村)との連携強化
 設置者への働きかけをより実効性あるものとするために、区・市町村衛生行政と連携し、情報共有・意見交換を行い、未調査施設へ対応していく。

C 衛生行政(国)への働きかけ
 国などに対し、残塩消費や滞留時間に関する管理基準の明確化を図るよう働きかける。

2.千葉県水道局の受水槽内残留塩素濃度調査(2011.8.22日本水道新聞)

 千葉県水道局は「おいしい水づくり計画」の中で、H27年度までに給水栓での残留塩素濃度0.4mg/Lを最終目標に掲げ、H22年度末までに平均0.6mg/Lを達成しています。今後、最終目標値を達成していくには、さらに残塩濃度を下げていく必要がありますが、管理の不十分な受水槽で残塩が消費されている実態を解決していかないと、水質基準を満足し得ない結果がでる恐れがあります。そのため、実際の受水槽を用いて残塩の消費量の実態調査を行います。

 調査方法は、@通常使用時の現地調査と、A塩素0.1mg/Lへの減少到達調査の二つを並行して行います。

 @案では、住民と管理者の了解を得たうえで、現在使用されている受水槽の流入・流出側に流量計・残留塩素濃度系を設置し、受水槽前後での残塩濃度の変化、流量、気温を計測します。調査は最夏期(25度以上)、冬季(15度以下)の2回、15分間隔で1週間連続測定します。調査対象は受水槽の材質コンクリート、FRP)、容量(1〜5m3、5〜10m3)、入れ替え回数(0.5回/日以下、1回/日以下)、浄水処理方法別(通常処理区域、高度浄水処理区域)で、検針データを基に条件に見合った受水槽を選定します。

A案では、正月などの不在期間を想定し、長期間使用されない場合の残塩濃度の変化を調査します。千葉県の受水槽は63%が容量10m3以下で、88%がFRP製です。調査は現在使用されていないFRP製・容量5〜10m3の物に流出側に残塩計を設置し、一時間ごとに排水して、残塩濃度が0となるまでの変化の他、気温・水温を測定します。

3.貯水槽滞留時間が長期化すれば増殖する細菌がいる(2011.8.22日本水道新聞)

 現在、貯水槽水道に義務付けられている検査には、貯水槽内の滞留時間は殆ど検査されておりません。滞留時間の増加は残留塩素濃度の減少につながり、水中に存在する細菌や微生物の増殖による衛生上の問題を引き起こす恐れがあることは一般的に知られています。

 しかし、検査している一般細菌以外にも検出されない細菌等が存在するとの報告もあります。
 また、水質基準を満たし残留塩素が存在する水においても、滞留時間が長期化すれば増殖する細菌があることも解ってきました。
 例えば、「メチロバクテリウム」は強い病原性を示す細菌ではありませんが、乳幼児や高齢者等、感染弱者の基礎疾患を悪化させる可能性があると言われています。この、メチロバクテリウムは塩素消毒された水道水からも高頻度で検出されています。

 そこで、厚生労働省は、滞留時間の長期化に伴う細菌・微生物の増加について、その種類や量を実プラント調査とモデル貯水槽実験により解明し、改善方法を検討します。貯水槽水道の滞留時間の適正化を図ることにより、供給される飲料水の安全性の向上を目指しています。

4.貯水槽水道の優良管理ランキング表示制度(2013.5.21日本水道新聞、2013.12.12水道産業新聞)

 「ランキング表示制度」は、第三者機関が貯水槽水道の法定検査に合わせて、一定の基準に従って貯水槽水道の評価を行い、格付けを行う制度です。この格付けにより優良な管理を行っていると評価された施設は、それをマークによって表示することができ、ビルやマンションの評価を高める根拠と出来るものです。ビルやマンションの転売市場が拡大する中、設置者や管理者が管理へのインセンティブを高め、小規模施設も含めた貯水槽水道施設の衛生水準を向上させるのが目的です。

 評価は27項目、45点満点で、法定検査と一体的に行われます。項目・点数については以下の通りですが、「6.施設の強度・機能に関する事項」に該当する法定検査内容の「マンホール二重蓋」「配管サポート」「緊急遮断弁」など相対的に必要度が低い、もしくは、施設の規模に応じた段階的な設定が必要と考えられる5項目については除外されています。

 施設は水道法の法定検査の適否と上乗せ基準への適合により、S・A・B・Cの4段階で評価され、そのうち、S(上乗せ基準適合施設)とA(管理適合施設)には運営委員会の制定するマークが交付されます。

 平成20年〜22年度の3年間にわたりテスト実施を行い、平成23年度から本格実施を開始しました。23年度は、東京都・神奈川県・東海地域・近畿各県の4地域で111施設を対象に実施し、Sマークは27件、Aマークは70件公布されました。
 しかし、評価結果の公表に同意した施設はそれぞれ2件(7%)、16件(23%)でした。設置者でない担当者が窓口になった場合はステッカー貼り付けの権限を持っておられないケースもあるし、マンション管理組合の合意形成が難しいケースもありました。消防法の適合マーク制度は普及していますので、PR手法を工夫し、ランキング制度を浸透させていく努力と時間が必要なのかもしれません。

 その後平成23年度末現在、厚生労働省の調査では、容量10tを超える簡易専用水道210,848施設のうち、受験率は79.4%なのですが、容量10t以下の小規模貯水槽水道は863,532施設のうち、受験率はわずか3.0%にとどまっています貯水槽水道の管理責任が設置者にあること自体を認識していないマンション管理者が15%もいたそうです。貯水槽水道管理者に対して水質保全を徹底する自主努力を促すようなインセンティブを高めるランキング表示制度の徹底が望まれます。

2011.08.26 初版
2014.03.14 優良管理ランキング表示制度に加筆