浄水の新技術

2020.8.8

ピコプランクトンとピコプランクトンカウンタ

1.ピコプランクトンによる浄水障害(2013.11.28水道産業新聞他)

 クリプトスポリジウム汚染の対応措置として、クリプトによる汚染の恐れが高いレベル4と恐れがあるレベル3の水源を利用している場合、ろ過池又はろ過膜の出口の濁度を0.1度以下に維持することが義務付けられています。

 気候変動・地球温暖化の影響により、湖沼・ダム湖などの水道水源では藻類の異常繁殖が顕著となり、多くの水道事業体において凝集障害・ろ過閉塞等の生物障害に直面しています。とりわけ、0.2〜2μmという極微細な大きさのピコ植物プランクトンが発生すると0.1度以下に維持することが困難となっています。ピコプランクトンは貧栄養から中栄養湖で多く見られます。以前から問題視はされていましたが、近年この傾向が特にみられるようになったそうです。

 対策としては凝集剤の注入量を増やすことによる対応しかないのが実情です。細胞が小さく顕微鏡で観察したときの特徴が乏しいため、生物相やその季節変化に関する知見が不足していて、濁度障害の原因種、すなわち砂ろ過を通過しやすい微生物はどんな種類なのかも明らかになっていません。

2.ピコプランクトンカウンタ(2019.11.14水道産業新聞)

 淀川の下流部で取水する大阪広域水道企業団村野浄水場では、2018年秋から濁度の日周変動が発生していて、その原因究明のためにリオン製のピコプランクトンカウンタを導入しました。

 村野浄水場は淀川の下流部から表流水を取水し、凝集沈殿、砂ろ過、オゾン処理、粒状活性炭吸着池の高度浄水処理を行っています。
 2018年10月頃から最終工程の粒状活性炭処理後、濁度がある時間帯に上昇し、またすぐに下降する日周変動の濁度異常現象を確認しました。通常の濁度は0.01〜0.03度位ですが、0.06度まで上昇するそうです。原因を生物系微粒子と推定し、着水井に次亜塩素酸ナトリウムを注入することで抑制されています。

 通常、プランクトンは顕微鏡による目視確認を行います。しかし、次亜塩素酸注入後やオゾン処理後は生物そのものを顕微鏡で確認することが難しくなるのです。
 ピコプランクトンカウンタは、蛍光顕微鏡では検出困難な塩素処理後でも、特有の波長のレーザーを生物粒子に照射し、細胞内の蛍光物質(クロロフィルa)が発する微弱な蛍光を感知するので、染色などの前処理をしなくてもピコプランクトンの数と大きさを短時間に測定することができます。また、生物とケイ素などの無機物質とを区別して計測ができます。0.5μmまで粒形別に計測することもできます。0.5〜1μmまでの粒子数などの範囲を設けての計測も可能です。

 大阪広域水道企業団は、まずは、濁度の原因が生物由来のものか否かをハッキリさせたいとしています。生物由来ならピコプランクトン対策を考えることになりますが、無機系の濁質ならば原因と対策を新たに考えなくてはなりません。濁度の日周変動を確認した粒状活性炭吸着池の出口にピコプランクトンカウンタを設置し連続計測を開始しました。粒状活性炭吸着池からは非生物系微粒子の流出にも悩まれていますので、幅広く活用したい考えのようです。

2018.2.17

メダカのバイオアッセイ+臭いセンサー(2017.10.26日本水道新聞)

 H24年5月、利根川水系の浄水場で水道水質基準を上回るホルムアルデヒドが検出され、一部の浄水場で給水停止を余儀なくされました。水道水が需要者の健康を害する恐れがあると判断された場合は、水道法23条「給水の緊急停止」に基づき、直ちに給水を停止する等の措置を講じなければなりません。水道水質基準項目の51項目のうち、水質異常時に直ちに所要の措置を講ずる必要があるとされる項目は、水銀やシアン化物イオン、塩化シアン、硝酸対窒素、亜硝酸態窒素等10項目以上が示されています。需要者の健康を害する恐れのある多くの物質を同時に監視し、しかも、いち早く水質異常を発見する水質管理が求められています。こうした要求に対して実用化された技術の一つが魚類によるバイオアッセイ装置です。

 バイオアッセイとは、生物(魚類や微生物等)を用いた毒物検査のことで、試薬を用いる化学分析法に比べて、未知の毒物や複合毒物にも対応でき、不特定多数の物質を同時に検知でき、かつ連続した監視ができるという利点を持っています。人間に危害を及ぼす急性毒物薬品としては約970種類あるといわれていますが、魚類はそれら毒物の約97%に反応し、反応も早く、飼育による環境への悪影響もほとんどありません。このようなことから、水道分野のバイオアッセイでは、ほとんどの場合魚類が用いられています。
 バイオアッセイに使われる魚はヒメダカが良く使われます。他の魚類は案外毒に強く、鈍感なのに比較して、ヒメダカは
@ 微量の毒に素早く反応し高精度の検査が可能
A 個体の大きさがほぼ均一なため、個体差による毒性反応の誤差が少ない。中大型魚は大きく成長すると毒物反応が鈍くなる傾向があるうえ、個体の成長差が出やすくなります。
B 長寿命(5年の生存事例がある)
C 国内に養殖業者が多い
D 個体が小さいため、装置を小型化することが可能
という利点があります。

 ヒメダカは死なない程度の低毒物濃度に対しても、@鼻上行動、A狂奔行動,B忌避行動、C停止(死亡)行動をする習性があり、日常的にCCDビデオカメラでヒメダカの状況を撮影し、その行動を画像解析処理にすることで、何らかの水質異常が発生したことを自動検知できるのです。

   

 毒物の他に、この数年、異常気象による原水のカビ臭が問題となっています。毒物に敏感なメダカですが、臭気に関する特別な行動はしないようです。

 そのため、「臭いセンサー」が開発されました。このセンサーは、飲酒運転撲滅のためのアルコール検知器のようなもので、水道原水中の油臭(灯油、軽油、ガソリン、エンジンオイル)やカビ臭(ジェオスミン、2-MIB)の異臭に対して、臭気の種類は判別できないものの、臭気度合い(強さ)を感じ、デジタル値に変換され、通常の原水臭と違う異臭が入ってきて、あらかじめ設定した臭い値に達すると自動的にアラームを発報し、異臭が少なくなるとアラームを自動で停止します。予め設定する臭い値は48値まで設定できます。

2018.2.1

鹿児島市の浄水場降灰対(2017.8.28日本水道新聞)

 御嶽山や白根山の活火山噴火被害が大きな話題となっています。

 鹿児島市の桜島は、多い年では、年間1000回近く爆発する活火山です。鹿児島市には3つの浄水場がありますが、河口に近い河頭(こがしら)浄水場(河口から15Km)と滝之神浄水場(河口から9km)では、ろ過池等に火山灰が落ちるため、降灰量が多い時では、灰が凝集されず濁度が上昇して、運転停止を余儀なくされていました。運転停止時間が16時間連続することもあり、その間配水池の貯水で対応していましたが、断水の懸念があるため、2つの浄水場のろ過池等に覆蓋を付けました。河頭浄水場の覆蓋設置工事は噴火による降灰対策としてのアルミニウム合金製屋根で、国庫補助事業として認められました。

 河頭浄水場ろ過池の覆蓋は、運転管理をするオペレーターがろ過池内の状況を把握しやすいよう、建物側に近い1/3を可動式蓋としています。常時は維持管理上必要な個所を開けて運用します。見学者対応が必要なときも、必要な所を解放できます。1枚当たりの可動蓋の重さは最大で400kgで、蓋の開閉は一人でも動かせる軽さだそうですが、偏心させて車輪を傷めないよう、通常二人で行います。

 降灰は雨水で流す仕組みで、ろ過池水上側(建物側)に可動蓋、水下側に固定蓋を設置し、階段状に重なる構造としています。可動蓋の走行方向と同じ向きに水勾配を付け、蓋端には縁を付けて水勾配に逆らう方向へは流れないように工夫していて、雨水はろ過池の長手方向のみに流れます。

 降灰混じりの雨水が乾燥すると固く凝固するため、蓋に水たまりが生じないように、蓋設置後に蓋がたわむことを防ぐ構造が施してあります。

 固定蓋にも水勾配がありますので、可動蓋を開いた際、可動蓋と固定蓋との間に隙間ができますが、この隙間部には交差部ゴムで埋める仕組みがあります。また、固定蓋同士の目地部には目地ゴムを設置し、降灰侵入を防ぎます。

2017.2.2

ピストン汚泥濃縮装置(2016.5.16日本水道新聞)

 水ingは浄水場の汚泥を効率よく濃縮し、脱水設備の台数削減や天日乾燥床の負荷軽減を実現するピストン汚泥濃縮機を開発しました。対象は汚泥シックナーで濃縮状況の悪い1%前後の低濃度で難濃縮の汚泥で、2倍程度に効率よく濃縮する装置です。

 汚泥シックナーで濃縮された汚泥を汚泥圧入槽で約50kPa(5mAq)程度に加圧し、下図の@のように、まず左側から加圧された汚泥を注入します。加圧汚泥がピストンを右側に押すと、ピストンがろ布に付着したケーキ膜を拭き取りながら濃縮された汚泥を排泥します。同社の既存製品と比較して、濃縮時間は半分で2倍濃縮できるそうです。このため、後段の脱水機の稼働時間を1/3程度削減することが可能となり、脱水機の台数削減や天日乾燥症の負荷軽減ができます。

 ピストン濃縮機の構造は、上部に打込弁、下部に排出弁を設置した一対のサイドケースの間に、SUS製のパンチングメタル構造のフィルターパイプを複数配置します。フィルターパイプには円筒状のろ布に加え、ろ布に付着した汚泥ケーキを剥離させるための樹脂製のピストン、ピストンの左右への移動をガイドするSUS製のガイドロッドで構成されています。ろ布はフィルターパイプ両端の外側にホースバンドで固定されており、簡単に着脱できます。

2017.1.29

高フラックス型中空糸膜(2016.11.3日本水道新聞他)

 平成8年に埼玉県越生町で発生したクリプトスポリジウム汚染事故を契機に膜ろ過設備が設置されるようになりましたがが、
@ 電力費をはじめとするランニングコストが高い
A 濁度変動への対応に問題がある
など、浄水処理施設としての問題点が指摘されていて、浄水施設への採用は必ずしも進展していないのが実情でした。この2点を克服するために開発されたのがクラレの高フラックス(Flux)型中空糸膜を使った膜ろ過システムです。

 2μm口径の大口径膜はろ過処理水圧が少なくて済む利点があり、ランニングコストを抑えることができます。しかし、ろ過対象水は除濁が不要で塩素滅菌のみで給水している原水のクリプトスポリジウムなどの原虫除去を目的とする製品でした。原水濁度が0.1〜0.2度程度の場合、膜間差圧1〜2kPa(10〜20cmAq)で安定運転ができ、膜ろ過工程に加圧ポンプを必要としないのが利点です。原水濁度が高くなる場合は、膜間差圧が上昇しやすく、除濁機能が無いため、適用範囲の制限を受けることが欠点です。

 クラレの高Flux型親水性中空糸膜の外表面は口径0.02μmですが、図のように中央から内部にかけては口径約10μmと大きくなっています。これにより除濁・除菌機能を損ねず、同社従来膜と比べて約3倍以上の透水性能(膜間差圧100kPa(10mAq)で60m3/時)を実現でき、膜ろ過システムのろ過圧力を低減できるようになりました。限外ろ過(UF)に近い分離性能を持ちながら、精密ろ過(MF)並みの透水性を確保しています。

   

 濁度変動対策として、膜モジュールは、エレメント下部を固定せず濁質が排水しやすい片端フリー構造とし、エレメント中心部からろ過水を逆噴射したり、空気を噴出させることで、膜の洗浄効果を上げ、原水の濁度上昇にも対応できるようにしました。

 片端フリー構造にすることで、汚れ物の堆積がしにくくなります。それでも、ろ過を継続すると膜の表面に懸濁物質が付着します。一定程度の濁質が膜に付着すると、ろ過工程から洗浄工程に移ります。まず、ろ過側から汚れのついている原水側に向かって、エアバックウォッシュを逆噴射し、膜表面に付着した懸濁物質を剥離させます。さらに、エレメント下部からのエアスクラビング(エアーによる洗浄)により懸濁物質の剥離を促します。この二段階の洗浄工程により膜表面はきれいに洗浄され、ろ過性能が回復します。

 河川水で実運転試験をしていますが、平均濁度5度、ろ過流速1m/日において、膜間差圧5〜10kPa(50〜100cmAq)での安定運転を確認しています。台風の降雨などで瞬間濁度が60〜80度まで上昇したものの膜間差圧の上昇は無く対応可能でした。処理水は水道水質基準51項目をクリアしています。

2017.1.26

フレームフロキュレータ(2016.10.24水道産業新聞)

 従来のフロキュレータは攪拌を行う翼車の中心に羽根車を取り付けた回転軸と、回転軸を指示する複数の水中軸受けにより構成されています。

 今回、水ingが発表した「フレームフロキュレータ」は、動力の伝達を羽根車と一体化したフレームで行い、回転軸が無く水中軸受を使用しない構造となっています。メンテ性の向上やコスト縮減効果が評価され、2016年度グッドデザイン賞を受賞しました。

 フレーム構造にすることで水中軸受や軸継手が無く、水中部の交換部品はローラーのみとなり、維持補修費の軽減が期待されます。フロートを付けることにより、攪拌トルクの伝達を行う十字支持材の補強を兼ねると共に、浮力を得ることにより水中での自重を軽減し、フレーム構造材に係る応力を軽減し、ローラー寿命の延命化が図られるよう工夫されています。フレーム構造材は大きな剛性を持たずに適度な弾性を持ち、フレーム構造に強さとしなやかさを両立させています。

2017.1.25

水道エネルギーマネジメント支援システム(2016.11.21水道産業新聞)

 日立製作所は水道事業の省エネや電力コスト削減に有効な「水道エネルギーマネジメント支援システム」を開発しました。給水エリアの水需要を満たし、給水の安定性を確保したうえで、電力コストの削減を可能にします。

 このシステムは、取水から配水における水系構造(水系図)、日々の水需要量、水道施設の配水池容量やポンプの揚水能力の情報、運用設定値(電力使用の上限値、配水池の目標水位)の入力により、日配水量予測を行い、各時刻のポンプ運転スケジュールを作成するものです。

 システムにはピークカット運転機能とピークシフト運転機能があります。

 ピークカット運転機能は、ポンプ運転が重複しないように電力の時間変動を平準化し、給水エリア全体のピークカットを行います。運転管理者が設定した一日の電力ピーク目標値に対して、達成できるポンプ運転スケジュールを自動作成します。

 ピークシフト運転機能は、削減対象となる時間帯のポンプ運転を他の時間帯に移すことで、給水エリア全体のピークシフトを実現します。電力会社との契約で設定した電力削減目標値や削減時間帯に対して、その時間帯の配水池水位低下やその後の水位回復を考慮したポンプ運転スケジュールを作成します。

 2つの機能とも配水池の水位変動や電力使用量推移のシミュレーション結果が出力され、給配水の安定性の向上やピークカット、ピークシフトの効果を確認できます。

 水源確保量、配水池容量、ポンプ施設等に余裕があることが運用可否の条件になると思えますが、配水池の水位は極力高く保つこと、水を作り続けること等の安全運用の価値観から、安全・安定性を確保しながら運用コスト縮減を図れる運転管理への考察は、今後の水道施設運転従事者が考えなくてはならないテーマだと思います。