災害・漏水対策

2022.2.11

岡山市の停電対策(2021.8.30水道産業新聞)

 平成30年7月の西日本豪雨や9月の北海道胆振東部地震では、土砂崩れや倒木で、大規模な長期的停電の発生や可搬型発電機の搬入が困難なことによる水道の長期断水事故が多発しました。水道界では、自然災害が猛威を振るう時代になったことから、大規模停電が生じることを想定した水道継続の在り方として「確実な電源確保策を考え直すこと」が緊急課題となっています。

 給水区域が750Km2の岡山市は、浄水場9か所、加圧ポンプ場92か所を有する水道事業体です。岡山市は平成29年に策定した「岡山市水道事業総合基本計画(平成29〜令和8年度)」に基づき、主要浄水場4か所には非常用発電機を整備し、小規模浄水場や加圧ポンプ場には日本建設機械レンタル協会中国支部岡山地区支部、岡山県配電盤工業協同組合と「災害時等における支援・協力に関する基本協定(災害協定:平成25年)」に基づき、可搬型発電機を運搬・設置することとしていましたが、令和元年度に停電対策(計画期間:令和2〜9年度)を以下のように見直しました。

1)  全浄水場に連続72時間以上運転可能な常設発電機を設置し、3日分以上の燃料備蓄量も確保する
2)  加圧ポンプ場
@  主要施設7か所には24時間以上運転可能な発電機を設置する。1日分以上の燃料備蓄量も確保する。
A  岡山市の給水量率の1割に当たる残り85か所の加圧ポンプ所は、山間部に点在する小規模ポンプ場であることから、平成29年に結んだ「災害協定」に基づき可搬型発電機を運搬・設置する。

 <ポチの非常用発電機に対する意見>
 非常用発電機の整備・充実は停電対策として非常に有効な手段です。思いもよらない規模の自然災害が頻発している今後を考えますと、岡山市の対応は素晴らしいことだと思います。

 ただ、中国電力は電力供給能力やリスク対応がかなりしっかりしていて、30分を超える停電の発生は皆無と言って良いような安定した配電状況にあります。この見識を持っていたある管理職と話しているとき、「特別高圧で別系統の任意切替受電ができる2回線受電体制で受電している浄水場では、非常用発電機の確保が必要なのだろうか?」という疑問を投げかけられたことがありました。その意見は受け入れませんでしたが、当時は「一理あるな」とも思っていました。非常用発電機は、使う必要がある異常事態はまず無いのに、日常の維持管理手間は大変だからです。
 でも、昨今の自然災害のすごさを考えますと、「電力会社の供給安定性に頼り切った水道事業で許されるのだろうか?」という思いも出てきました。

 非常用発電機を設置すると、停電発生が起きたら即座に非常用発電設備受電に切り替えることで、運転時間中は安定した電源を得ることができる状態にしておくために、日頃から保守点検をしておかなくてはなりません。そのため、数か月毎に試運転して、発電機が正常に動くことを確認する作業が不可欠になります。試運転は、発電機が稼働するのを確かめるだけのアイドリング運転ではなく、必要全負荷をかける発電運転を数十分以上行う必要があります。

 試運転の目的は、以下の二つです。
@ 発電機の運転状況の確認
A 備蓄した軽油等の燃料は備蓄期間が長くなると劣化して発火しにくくなる恐れがありますので、定期的に新しい油と入れ替えるための燃料消費

 試運転を行う際、発電機室の近辺に住宅がある場合は、騒音発生に対する同意を得なくてはならないケースもあります。燃料の備蓄容量を増やすことは長期停電に対する安全面では望ましい対策ですが、定期的な燃料の入れ替えの実行においては、試運転時間の長時間化や試運転回数の増加が必要になり、維持管理の負担は増加します。

 ポチが福山市の主力浄水場の場長をしていた時、「2000年問題」が水道リスクとして日本の話題になりました。「2000年問題」とは、1900年代に築造された浄水管理システムの中には2000年代への移行に対応できていないシステムがあり、1999年12月31日から2000年1月1日になった時、不具合が生じて運転ストップ等を起こすのではないかという懸念です。

 私が担当した浄水場は完成後30年間ぐらい経っていましたが、非常用発電機の試運転は周辺住民への騒音迷惑を考慮して、3か月に1回、アイドリング運転のみをして発火・運転状況を確認しているのみでした。発電運転とその電力を使った浄水場の稼働状況を確かめる運転をしたことは無かったものと思います。

 「2000年問題」への対応として、1999年11月の後半に、発電機に全負荷をかけての実働運転を試みたところ、運転50分を経過した時点で発電機の冷却水漏れが生じ、運転不能の状態になりました。即座に試運転を中止して、部品交換と全負荷による試運転を繰り返し、年末には安定して稼働できる状態に復帰させることができました。

 1999年の大晦日は浄水場に待機していましたが、平穏に2000年の正月を迎えられた時の喜びを今でも覚えています。ちなみに、心配された「2000年問題」は、ポチの知る範囲では「日本のどこにも生じなかったのでは」と思います。

2022.2.10

神奈川県企業庁の火山災害対策(2021.8.30水道産業新聞)

 神奈川県企業庁は、平成26年の木曾御嶽山の噴火により近辺河川の水質に悪影響を生じたことから、平成27年度に富士山や箱根山が噴火した場合の水道施設への影響調査を行いました。結果として、富士山が噴火した際には、降灰により原水水質の悪化として酸性化や原水濁度の上昇が生じるが、凝集剤・活性炭・アルカリ剤の注入により水質の安全は確保できるという結果がでました。

 降雨等の通常時の原水濁度が上昇した場合は凝集剤の増量で対処できます。降灰により酸性化した高濁度原水対応として酸性の凝集剤を増量すると、更に原水の酸性化が進み、凝集不良を発生することが懸念されます。このため、酸性化された原水水質のpHを下げるために、まずアルカリ剤を注入し、凝集作用を保ち続ける必要があります。

 主力浄水場の寒川浄水場は凝集剤・アルカリ剤共に既存施設で対応できると判断されましたが、谷ケ原浄水場はpH調整として既存の消石灰注入設備から苛性ソーダ注入設備に変更されました。平時の水質変動には細心の注意を払いながら対応されてきていましたが、降灰の酸性化という非常時対応には苛性ソーダに切り替えたほうが安全と判断されたようです。凝集剤注入設備も増強されます。

2020.9.17

横浜市が市内配管図管路情報閲覧システムをWeb公開(2020.4.23日本水道新聞)

 横浜市水道局は、市内配管図管路情報閲覧システムをWeb上で公開しています。事前にID登録を行うことで誰でも閲覧できます。

 管路情報閲覧システムでは、市内の道路下に布設された配水管の位置や給水管の管種・口径・布設年度などを閲覧できます。これらの情報は、主に不動産関係者や指定給水装置工事事業者等を中心にニーズがあり、一般的には水道事務所の窓口等で情報提供が行われています。Web上で閲覧できるようにすることで、利用者の業務効率の向上だけでなく、災害発生時の復旧作業の効率化に活用します。

 災害が発生した際には、応援要請を受けた事業体が横浜市内の管路情報を事前にWeb上で取得することで、復旧作業の円滑な進行が期待できます。また、長期にわたる復旧で派遣隊が後続隊への引継ぎを行うに当たっては、事前の調査検討のための情報として活用し、後続隊の円滑な作業着手を早期復旧に役立てます。管路情報閲覧システムとマッピングシステムはデータサーバーが異なるため、被災により市内のマッピングシステムが利用不能となった場合の一時的な代替手段としても期待できます。

 横浜市と災害時相互応援の覚書を取り交わす事業体をID登録することで受援体制の強化も図れます。

2020.9.9

南海トラフ巨大地震対策(2020.3.30水道産業新聞他)

 これまでに阪神淡路大震災、東日本大震災等国難級の大震災がありましたが、今後、最も被害が大きいのではないかと想定される南海トラフ大震災に備える必要があります。政令市と東京都の19大都市による大規模災害対策検討会が作成した「南海トラフ巨大地震対策」を紹介します。

 水道施設の耐震化には長い期間と経費を要しますが、大地震はいつ発生するかもしれません。全国の水道事業体の災害対応能力をいかに高めていくかが課題となります。水道事業は他のライフラインと比べると事業規模が小さく、相互扶助が無ければ災害時は乗り越えるのが困難な事業体が多いと推測されます。

 被災した場合には、遠慮なく声を上げられる仕組みと関係性を構築することで、水道界全体の災害対応力の強化に繋がると考えられました。南海トラフ巨大地震や大規模災害への対策として、給水車の大量不足と迅速な救援体制の構築に関する21の対策案です。

課題T 給水車の大量不足への対策

 平成29年に日本水道協会(以後「日水協」)がまとめた「地震等緊急時対応特別調査委員会応援体制検討小委員会報告書」で、政府が想定する南海トラフ地震発生時には約3000台の給水車が不足するとしています。H29年時点での全国の水道事業体が保有する給水車数は1200台でした。

分類1 水道事業体の給水車活用

提案1 南海トラフ巨大地震発生時における給水車要請ルールを新設し、限られた給水車を有効活用
 給水車の要請台数が、全国の水道事業体が保有する給水車台数を超える要請状況に至った場合、日水協による全国的な救援体制の構築に混乱を及ぼし、応援先決定迄に長時間を要する恐れがあります。発災から3日間は病院など人命に関わる施設に限定する給水車要請ルールを新設します。
 「発災後3日間」の期間設定は、飲み水について、備蓄などにより自助・共助によってある程度乗り切れる、または乗り切ることが求められる日数という考えです。発災直後に命を守る上で最も水を必要とする医療機関への給水を絶対にストップさせないという医療機関優先ルールの提案です。 

提案2 南海トラフ巨大地震発生時の給水車不足台数を試算し、給水車の過剰台数の抑制
 給水車の要請台数を共通化した試算方法で算出し、全国の給水車保有台数と突合を行い、南海トラフ巨大地震発生時の給水車不足台数を試算します。この試算結果を基に、被災水道事業体における応急給水場所の検討や発生時の給水車過剰要請の抑制につなげます。
 「給水車が3000台不足する」ということは、「欲しい数の給水車を派遣できない」ということを前提に考えなくてはなりません。需要と供給のギャップを埋めるには、需要の絞り込みと優先順位の設定が不可欠です。

提案3 全国の給水車保有数の維持・拡大
 発災初期の応援隊が到着するまでは、各々の水道事業体が応急給水の対応を取ることになります。給水車の保有は、人命に関わる施設への臨機の応急給水活動を行うことができます。給水車保有の拡大は財政負担を伴いますが、全国への応援給水体制の強化に繋がります。

提案4 運転要員の確保と活用
 災害時に派遣する給水車を運用するには、運転手の適宜交代が必要なため、他都市の職員でも運転可能とします。給水車の稼働時間を延長できるし、輸送力アップに繋がる。
 給水車の運転要員確保の課題として、平成29年3月以降に取得した普通自動車運転免許では、2t以上の給水タンクを搭載した給水車を運転することができず、準中型自動車免許等の取得が必要となりました。また、近年の若手職員はかつてに比べ、運転免許の取得率が低下しています。提案3には、給水車台数の維持・拡大と併せ、現行の免許制度への組織単位での対応も求めています。

分類2 民間・自衛隊の給水車の活用

提案5 民間給水車の活用
 大規模災害が発生した際、民間事業者の給水車、資材、人員を活用できるよう、民間事業者と応急給水に関する協定を締結する。なお、給水車の全国的な活用が可能となるように、他水道事業体への応援隊派遣時に民間事業者の給水車を帯同することができる旨の内容を明記することが望ましい。

提案6 自衛隊給水車や海上保安庁船舶の支援活動を円滑に受けるために情報共有を実施
 自衛隊の大型給水車(加圧式・5tタンク等)を活用することで、大量の水道水が必要となる医療機関等の応急給水を効率よく行うことができます。また、海上からの注水や、空路による応急給水により、限られた給水車を効率よく運用することができます。これらの機関から災害時に円滑に支援を受けるために平時から情報共有を行う。
 給水車の保有を増やすことは大都市では可能ですが、中小事業体では予算・維持管理手間を考えると容易ではありません。東日本大震災等の災害時では、酒造メーカー、自動車製造会社、運輸会社、道路清掃企業、乳業メーカー、国交省党の支援を頂いています。各都市で様々な業種の民間事業者と連携していますので、これらをリスト化し全国的に共有できれば良いです。

分類3 給水車活動に係る間接的な対策

提案7 給水車の活動ロスを低減して有効活用する3事例
@「仮設水槽等の活用」
これまでの応急給水活動では給水車を停車させたまま直接市民に供給する手法が多いのですが、給水効率的には組み立て式仮設水槽の活用がトレンドとなっています。他都市の震災対策の「トレンド」を把握し、共同発注する等の工夫をすることで価格も安くなることも考えられます。
また、残留塩素の低下に配慮しなければなりません。
A「給水車への注水作業を効率化するための施設整備」
給水車への充水は給水車専用の給水栓の設置、ドライブスルー形式の給水スペースの整備、交通整備員の配備等を考慮します。
B「給水車への給油時間の短縮」
災害時には道路渋滞が起こるし、給油も困難になることを想定しておく必要があります。

提案8 給水車を代替する3事例
@「既存タンクの有効活用」
A「医療機関の受水槽への消火栓等を使用した直接給水」
B「飲料水袋等を用いた飲料水の住民配布」

分類4 給水車必要台数を減少させる対策

提案9 早期復旧で断水戸数を一日でも早く減らすための平時の備えと災害時の復旧活動の進め方
 大規模災害発生時は早期復旧に努め、応急給水場所数の減少を図ることが重要である。
 「応急復旧」段階では、断水地域の一日も早い復旧を最優先とし、管工事組合等の応援と共に、他事業体の応援を出来るだけ取り入れる。
 「復興」段階では、管工事組合等にその中心を担ってもらうことになる。

提案10 給水車を使用しない応急給水場所の整備7事例
@「消火栓等に接続して応急給水を行う仮設給水栓の整備」
A「学校などの避難所への災害時用給水栓の整備」
 避難所運営に携わる市の職員や住民だけで応急給水場所を開設できる。

    
         松山市HP                     横浜市HP

B「学校の受水槽に給水栓を設置して応急給水場所として整備」
C「耐震性貯水槽の整備」
D「貯水機能付給水栓の整備」
E「浄水場等への応急給水施設の整備」
F「災害用井戸の整備」

提案11 住民への働きかけ
 水道事業体による応急給水が行われるまでは、住民は自助共助によって水を確保します。そのため、地域住民の災害対応能力の向上、意識啓発が必要となります。水の汲み置き・飲料水の備蓄PR、断水体験、応急給水訓練、出前講座、受水槽の活用の啓発を提案します。

提案12 医療機関への働きかけ
 巨大地震発生時には給水車が不足していて応急給水対応ができない恐れがあることを、医療機関に説明し、医療機関の自助として、受水槽容量の確保、井戸水源や自家発電設備の設置等、災害時に必要な水量を確保するための自助対策を働きかけます。災害拠点病院は3日分の水を確保できるように指導します。
 断水時には病院の受水槽に速やかに給水車から注水できるよう、「給水車専用入水管」を設置しておいてもらう。

課題U 迅速に救援体制を構築するための対策

分類1 南海トラフ巨大地震発生時の救援体制の設定

提案13 南海トラフ巨大地震発生後いち早く被災地に入り情報収集と応援調整活動を行う現地調整役を予め設定
 大規模災害が発生した際、被災地事業体では、発災初期における混乱やマンパワー不足等により、水道給水対策本部の設置が遅れ、応急給水・復旧等の災害対応を迅速に実施することが困難になると予想されます。そのため、事前に発災時の現地調整役を設定しておくと、発災初期に速やかに現地調整役が被災水道事業体で応援に係る調整活動を開始し、早期に適切な規模の応援要請ができるようになります。

 基本的に水道の災害支援は「要請主義」です。「助けて欲しい」と意思表示をしなくては支援が来ません。被災事業体はどこから手を付けたら良いか解らない状態になる恐れがあり、時間的なロスが生じる恐れがあります。「現地調整役」は互助体制を調整する役目を担うのですが、「押しかけて支援する」という考え方となります。日水協の「地震等緊急時対応の手引き」では、「地方支部間を超えた支援が展開される際は、日水協本部が先遣隊を派遣し調整を行う」としています。被災事業体のことを良く知り、情報を得やすい関係にある事業体が一定の条件のもとで支援に押しかけ、被災状況を把握し、被災事業体に代わって発信することで、初動を早めることができると提案しています。

 水道事業体は、自らが困った時に、助けてくれる事業体をあらかじめ決めておくことで安心感も得られますし、平時の意見交換など災害対策の充実も図れます。

提案14 南海トラフ巨大地震発生時の地方支部長または県支部長代行をあらかじめ設定
 大規模災害の発生時には、日水協のルールに基づき被災地方支部長・都道府県支部長は、被害状況及び応援状況等の情報連絡と共に、応援要請について迅速な対応が必要となります。しかし、南海トラフ巨大地震発生時には、被災地方支部長・都道府県支部長だけでなく、支部内水道事業体も同時被災する可能性が高いと思われます。そこで、被災の可能性が低い水道事業体に地方支部長・県支部長の代行をあらかじめ設定しておくことを提案しています。

提案15 南海トラフ巨大地震発生時の給水車受援モデルを作成し、救援体制を想定
 南海トラフ巨大地震発生時の被災水道事業体と応援水道事業体の組み合わせをあらかじめ想定した給水車受援モデルを作成し、地理的に同時被災の可能性が低い都市の間で関係を強化し、応援の役割等を決めておきます。これにより、発災後、被災地に派遣されるまでの準備・調整の時間を短縮することができ、迅速に被災地に応援隊を派遣できます。

分類2 被災地における救援体制の早期立ち上げ

提案16 複数の応援隊の調整を行う「幹事応援水道事業体」を活用することで、効率的な応援活動につなげる
 大規模災害発生時、被災水道事業体は大混乱している中、被災状況の把握、応急給水や応急復旧活動、住民等への説明等膨大な作業に追われます。このような状況下で応援隊との調整を行うことは、被災水道事業体にとって大きな負担となります。日水協が定義している「幹事応援水道事業体」を決定し、活用することで効率的な応援活動につながるとしています。

提案17 派遣体制の事前リスト化
 派遣体制の事前リスト化により、応援水道事業体内部での人選などに要する時間の短縮が図られ、迅速に被災地に応援隊を派遣できます。発災後、最初に派遣される派遣隊(第1班)を受入水道事業体が速やかに把握できることから、受入態勢を整えやすくなります。リスト化された職員に対して、スキルアップ研修をはじめとする各種研修の実施により、災害対応能力の向上が図られる。

提案18 応急隊が被災地に早期到着するための平時の備え
 大規模災害が発生した場合、多くの水道事業体が被災することから、出動準備や日水協が定義している「中継水道事業体」の調整に要する時間の短縮を図ることで被災地への早期到着が可能となります。このため、応援派遣用装備品の事前準備や陸路や海路等による複数の応援隊進行ルートの想定及び「中継水道事業体」を想定しておきます。

 仙台市では、支援隊の装備品の平時からの備えとして、応急復旧、応急給水、本部隊のそれぞれの役目に応じた活動資機材一式をセットにして、1か所に集約して保管されています。これにより、派遣職員が個人装備を準備する3〜4時間の間に、活動資機材のチェック・積み込みの準備ができるようになりました。災害が無ければデッドストックとなりますけれど。

提案19 情報収集の効率化
 災害発生時における被災水道事業体からの情報発信をルール化することで、応援水道事業体の迅速な支援準備につなげることができますし、各水道事業体から被災水道事業体への情報を取りに行く必要もなくなり、情報共有の迅速化が図れます。また、被災水道事業体と応援水道事業体間での情報共有を図ることで、応援体制の早期立ち上げが可能となります。

 「震度5弱」以上の全国報道レベルの地震が発生すれば、被災事業体から応援の要となる関係事業体に、速やかに第一報を発信することをルール化する。「被害の有無にかかわらず」、「休日・夜間を含めて」の対応です。スマートフォンなどモバイル機器と併せてメール、SNSの活用が有効です。

提案20 応援活動を効率的に行うための情報共有ツールの5事例
@「応援水道事業体受入体制の整理」
A「応援水道事業体用マニュアルの作成」
B「複数の被災水道事業体間でのテレビ会議の実施により高度な調整を要する緊急事態の対応」
C「応急給水情報の台帳化」
D「二次元コードを活用した応急給水情報の公開」

 支援に来る水道事業体に知っておいてもらいたい基礎情報をまとめておくことが大事です。水道施設・設備の特徴(弁類の回転方向、開栓器の形状等)、応急給水・応急復旧作業時における留意事項、宿泊や食事の提供ができないこと等が考えられます。用語の違いを含め、自分たちが当たり前と考えている知識や習慣が、他の事業体にとってはそうではないことはよくあります。

提案21 大都市水道局研修講師派遣制度の新設により水道界全体の災害対応能力の向上に寄与
 災害時の被災地における活動は、通常の仕事の進め方とは異なることが多々あるので、実際に体験した職員から具体的な事例を含む講義が有効です。大都市水道局の災害派遣活動経験者による水道事業体向けの研修講師派遣の仕組みを新設し、水道界の防災力向上に資する。過去の大規模災害における災害派遣活動経験者を対象とした講師派遣者リスト(1.先遣調整役または幹事応援水道事業体等の調整役経験者、2.応急給水活動応援経験者、3.応急復旧活動応援経験者、4.災害査定経験者)を作成し、全国の水道事業体に講師を派遣します。

2020.2.10

ダウンサイジングの推進と消防水利の確保(2019.8.19水道産業新聞)

 水需要が減少する中で管路の老朽化に対処するため、管路更新を行う際にはダウンサイジングが検討されますが、ネックとなるのが大量の水を消火栓に供給する配水管径の確保です。消火用水1m3/分は1000戸の団地供給が可能な水量です。

 ポチは現役時に「消防水利を確保するにはどの程度の管口径が必要か?」を考え、管網計算でチェックしたことがあります。H-W公式を使い粗度係数C=110(かなり老朽化していると思える管はC=100)、消火栓放出量を1m/分として管網計算したのですが、その時の答えは、φ150mmならOKという答えでした。φ100mmの管でもφ150mm以上の大きい管から分岐した近くの位置であればOKのところもありました。C=110はある程度布設年度が経過した古い管を想定した値と思いますので、新設管が多い団地などでは、もう少し粗度係数を上げて試算しても良かったかなとも思っています。ただし、管の新しさを考慮して消火栓の設置をしてしまうと、数十年後に水の出が懸念されるケースも想定しておかなくてはならないので、計画者としては悩ましいですよね。

 水道産業新聞に神戸市の水道局と消防署の見解が載っていましたので参考にしてください。

 神戸市の火災対応の99%は消火栓を使った消火活動です。その背景には公設消火栓の設置が十分にいきわたっていることがあります。神戸市は消防水利を全面的に水道に頼っている状況です。

 消防署は現場における消防活動は「他人の家は燃やさない」という「延焼防止」が基本です。このタイムリミットは8分です。延焼防止には1つの家の火災に消防ポンプ車4台を出動させるため、少なくとも4栓の消火栓が必要となり、1栓あたり1m/分の水を継続使用できることが条件です。住宅密集地なら6台の消防自動車による消火が必要とのことです。

 消防署は「水道管のダウンサイジングなど考えられない」という考えです。安全消火のための「水量」にはこだわるけれど、「質」に対する責任は感じられません。消火用水量を確保するために口径を大きく設定すると配管内の滞留時間が長くなり、追加塩素注入等の「水質維持」に関する手立てや排水のための「有効無収水量の増加」という問題が生じることは意識されていません。
 六甲山麓に建設された住宅地は人口減少が顕著なので、水道局としてはダウンサイジングを行いたいのですが、消防署は空き家が増えているため、通報の遅れが懸念されるので必要口径は確保して欲しいという意見です。

 1m/分の水を継続使用する必要性は、昭和中期の裸木造家屋や無ライニング管の使用を前提とした知見であり、1m/分の水を放出できる消火栓の基準はφ150mm以上の管路と考えられています。
 ただし、プレハブ系の建物ならその半分で済むし、マンション等ならそれ以下の水量で消火可能だそうです。消防ポンプ車の消火用ノズルも操作することで放水量や放水の形状を変更できるものもでてきました。
 このように建物の形状も変わってきていることから、「「消防力の整備指針・消防水利の基準」を最新の知見も取り入れた内容に変更して欲しい」と水道局は願いますが、消防署は何よりも安全を重視する姿勢が基本ですから、配水管の減口径については折り合いを付けることが難しい面もあります。

 水道局と消防署が各々の事業の考え方を忌憚なく話し合うことによって、消防サービス基準の維持を前提としたうえで、その条件を満たす場合に限り、φ100mmとφ75mmの配水管であっても消火栓の設置を許容することになりました。

 老朽管路の異形管部等では内面部の錆で閉塞した状態が見られ、φ100mm以下の管では適正な水圧で放水することは難しいのですが、管路更新等で閉塞等による水圧低下の懸念が無くなった管については縮径を適用しています。神戸市は配水池からの自然流下方式で、平均配水圧が0.46Mpaと比較的高い状況にあります。しかし、配水圧を人為的にコントロールできないので、縮径する場合の口径選定には気を使うとのことです。

 現場サイドでのお互いの信頼感が必要なことが解り、水道局は、日々の点検や消火活動時の水圧状況を確認しておき、消火栓からの水の出具合に関して消防署が不安に感じている地区の配水状況を適宜説明するなど、消防サイドの不安の解消に向けて配慮していきます。

 阪神淡路大震災では「水が一滴も出ない」状況になりました。主力管種のダクタイル鋳鉄管の継手部が抜けたためですが、管路の耐震化は一気にはできないので、消防事業として耐震性防火水槽を整備するようになり、2019.4.1時点で公設・私設併せて2469基の防火水槽があるそうです。

 ポチは、必要配水管口径がφ100mm以下の小規模配水区において、地元住民から要望されていた消火栓の設置を必要となる口径上の問題から断る代わりに、消火栓必要か所に防火水槽を設置してもらい、その防火水槽への充水は水道管から水道給水管で行えるよう施設整備に協力したことがあります。防火水槽の大きさは、家屋火災の場合一回当たりの消火時間が40分程度で終わることが多いことから、40 mにしてもらいました。防火水槽前の道路に防火水槽から直結した消火栓ボックスを設置し、火災時は消防自動車から消火栓に直結して給水できるようにしました。

2020.2.7

ダムの洪水対処能力を2倍に(2020.2.7日本経済新聞)

 水道施設の浸水対策の必要性については、2020.1.10にHPに記載しました。浸水被害を防ぐ手立ての一つはダムの決壊を防ぐための緊急放流を極力しないことです。緊急放流はダム下流の河川を氾濫させるリスクを高めます。

 2018年の西日本豪雨では、「愛媛県の野村ダムなどの緊急放流によって河川の氾濫が起こり、死者が出た」として、遺族らが訴訟を起こしています。2019年の台風19号は、関東・東北地方で大雨をもたらし、5県6か所のダムで決壊を防ぐための緊急放流がされました。

 近年豪雨の激しさがひどくなる傾向があります。豪雨による洪水被害に対する対処能力を倍増させるため、政府は降雨量の予測精度を高め、事前にダムの水位を減らす仕組みを作ります。既存のダムや貯留池の貯水を豪雨発生直前に事前放流するのです。
 事前放流を効果的に行うため、AIで精緻化した気象庁のメソモデル・全球モデルと呼ばれる予報を基に、2020年6月から大雨が予想される1〜3日前に、事前放流によりダムの水位を下げる仕組みを設けます。豪雨時は国土交通省が一括して各ダムの運用を行います。

 ダムには洪水対策や河川環境保全対策用の治水ダムや水力発電・農業用水・上水道・工業用水道の水源となる利水ダムがあります。(治水と利水の両方の役目を持つダムを多目的ダムといいます。)

 治水の管轄は国土交通省ですが、利水の管轄は発電や工業用水道、上水道、農業用水等の利水目的別に経済産業省、厚生労働省、農林水産省と所管が分かれています。利水ダムは電力会社や地方自治体が管理している場合もあります。
 事前放流による洪水防止を行う治水担当の国土交通省は、水源を出来るだけ溜め置きたい利水関係者からの協力を得にくい状況にありました。現行法には、国が事前放流をダム管理者に指示できる規定はありますが、発動実績は無いようです。

 異常気象による大規模洪水への対処能力を高めるため、関係省庁やダムを所有する電力会社や地方自治体等との調整を行い、降雨を一時的に溜め込む洪水調整容量を現在の2倍に増やせるめどが立ちました。国土交通省が2020年5月までに各ダムの管理者と事前放流に関する協定を結びます。

 全国には稼働するダムが1460か所あります。それらの総有効貯水容量は約180億m3で、大雨の時に貯水できる洪水調整容量は約54億m3ですが、このシステムにより新たに約50億m3が確保できるとのことです。事前放流のための排出能力を高めるための配管の増強費や設備が壊れた場合の補修費用は国が負担することにより、降雨の予想に応じたダム貯水量の操作に協力を求めます。

 菅内閣官房長官が2019年末に、ダムの洪水調整容量を2倍に増やす方針を関係省庁に伝えたところ、国土交通省を除く利水ダムを管轄する省庁からは「業界の理解が得られない」等の慎重な姿勢が見られたとのことです。水道事業体を含む利水関係者にとって、渇水による水源枯渇は他に有効な対処方法の無い大きなリスクでありますので、事前放流に対しては「慎重に対処して欲しい」と願うことは当然だと思いますが、昨今の豪雨被害の悲惨さを考えると一概に反対はしかねる状況になったものと思えます。AIを使った降雨量予測システムの精度をどこまで高めることができるのかが課題となります。

 今までは洪水調整(治水)のために、巨額の費用と時間をかけて、ダムの新設や嵩上げ等の増設工事を行ってきました。八ッ場ダムは1952年に調査に着手し、地元の反対や政権交代による事業の中断などにより完成まで70年を要し、5000億円の事業費を費やしました。
 今回のような既存施設の有効利用範囲を広げられるソフト開発の推進は、旧来型の施設建設に頼る公共事業のあり方に新しい知見を与えてくれるものと思えます。

2020.1.10

水道施設の浸水対策(2019.10.29日本経済新聞)

 日本の年降水量の経年変化をみると、最近の20年から30年間では、雨の多い年と少ない年の降水量の開きが次第に大きくなってきているそうです。地球温暖化に伴う気候変動の進行によっては厳しい渇水や激しい大豪雨の発生が予測されるため、水道事業への悪影響を想定して前もって対応しておくことが求められます。

 最近の大豪雨としては、2018年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)で最大約263000戸が断水し、解消まで約1か月を要しました。2019年には台風19号により14都県の約163000戸が断水、その10日後の台風・大雨で、千葉県内の浄水場が被害を受け約4700戸が断水しました。

 2018年7月の西日本豪雨の後、厚生労働省が2018年末にまとめた全国の主要な浄水場などの緊急点検結果によりますと、3152施設が浸水想定区域にあったそうです。その内、81%の2552施設は防水扉の設置などの浸水対策は未整備とのことです。
 近畿・中国・四国の15府県で浸水想定区域にある水道施設のうち約83%は対策が未実施の状況でした。

     

 浄水場の陥没写真は、2019年台風19号の豪雨による福島県いわき市の平浄水場の状況です。夏井川の決壊により、最高水位80cmの水没が生じました。電源盤が水没して故障し送水ポンプが動かなくなりました。浄水場はハザードマップの「浸水想定区域」ありましたが、防水扉や入り口のかさ上げなどの対策は取られていませんでした。

 豪雨による濁流が押し寄せると機械設備にも問題は生じますが、受変電・計装等の電気設備のICチップが破壊されると、復旧に相当の時間がかかります。西日本豪雨の断水が長引いたのも、電気設備の部品調達に時間がかかったと言われています。電気・計装設備を守るために、防御壁や防水扉の設置、2階等の高いところに移転させる等の浸水対策が急がれます。

 電気機械設備の故障以外に、取水口上流の河川付近の土砂崩れや堤防・河川底面の破壊が発生することにより、土砂・流木・多量のゴミ等の流入で取水口や水路が塞がり、取水が難しくなる恐れもあります。通常時は取水口にはゴミの掻き揚げ機水路の閉塞を防いでいますが、濁流の勢いが一定限度を超えてくるとゴミを含む土砂で塞がれてしまいます。取水口や取水路の閉塞に関しては、これまでの国の対策では想定されていませんでした。

 水道施設は、これまでは施設の更新や地震対策に精一杯という状況で、水害を考慮した浸水対策にまで配慮する費用や人手の確保は難しい状況にあったものと思えます。防災対策の遅れの背景には、水道事業体の財政難があります。厚生労働省によると人口減などで全国事業体の1/3が「原価割れ」(供給コストが料金を上回る)の状況にあるとのことです。

 それぞれの浄水場が置かれている状況にも違いがありますので一概には言えませんが、一般的には、水害対策に関するハード面の補強はコストがかなり必要と思われ、整備する時間も必要なことでしょう。対策計画を立て、計画的に浸水対策を実施することの他に、水害の発生を前提に、水の備蓄や応急給水体制の充実を図ることも対応策として考慮される必要があります。

2019.2.16

漏水等市民通報アプリ(2018.5.7日本水道新聞)

 福山市は2018.4.20から、市民通報アプリ「パ撮ローズ」の運用を開始しました。従来は電話で受け付けていました漏水やマンホールからの溢水などの事故情報の提供をスマートフォンやタブレット端末からの通報を可能にしたものです。

 福山市道路部局が道路事故に関する情報提供システムの導入を検討していたことから、路上で目に付く漏水やマンホール・消火栓ボックス等上下水道資器材の事故についても、通報できるよう上下水道局が連携を図りました。

 アプリでの上下水道に関連する通報項目
@ 水道管から水が出ている
A マンホールから水が出ている
B 道路舗装の割れ目などから水が出ている
の3項目です。

 これらに該当する漏水等事故を見つけた場合、アプリから
@ 該当する状況の項目を選択
A 近接、遠景の2枚の画像を撮影する
B 位置情報を確認する
を行い、通報します。

 アプリによる通報で、現場の状況(画像)や位置情報を的確に把握できますので、より迅速な応急・修繕対応に役立つと期待されています。

 アプリの運用に際して、ふくやま上下水道修繕センター内に専用パソコンを設置し、より早期の緊急対応、応急復旧が図れるよう態勢を整えています。

広島県内の事業体で、通報アプリの導入は初めてとのことです。