水道事業における公費負担のあり方

はじめに

 日本水道協会の経営調査専門委員会が公表した「水道事業の公費負担のあり方について」の報告書(2020.5.28日本水道新聞他)の内容を、ポチなりにまとめてみました。大苦手の経営部門の話なので、まとめ方に不手際があるかもしれませんが、ご容赦願います。

1.水道事業の独立採算制とその現状

 水道事業経営の基本は、企業の経済性の発揮と公共の福祉を増進することであり、受益者である水道使用者の支払う水道料金により、サービスの提供費用を負担する「独立採算制」を採用している。

 水道使用者負担の公平性を確保するために、
@ 水道メーターによる水道使用量の計量により受益者と使用量を明確にして、水道使用者間の使用量に基づく公平性を保つ
A 「国や地方公共団体が負担すべきもの」は水道使用者ではなく一般会計等が負担する
の2点が原則となる。

 近年、節水機器の普及・節水意識の浸透・人口減少等による水需要の減少に加え、高度経済成長期以降に整備された施設の老朽化や頻発する自然災害対策として施設の更新を行う必要があり、水道事業費用が急増していく。
 さらに、一般会計等からの繰入金によっておおむね黒字が保たれていた簡易水道事業は、国の運営基盤強化の観点から上水道統合が進められてきた。統合後には繰入金がなくなり、水道事業の経営を一層厳しくする一因となっている。

 一般会計からの負担制度としては、「地方公営企業繰出制度」「国庫補助制度」があるが、国及び地方公共団体の財政状況による予算措置によって大きく左右される状況にある。

 水道事業の決算は、平成10年度は5兆2,945億円であったのに対し、平成29年度では4兆6,677億円と約10%の減少となり、水道事業の縮小が見て取れる。 他方、水道事業における他会計繰入金及び国庫補助金の合計額(決算)の推移は、平成10年度は5,571億円であったのに対し、平成29年度では2,391億円と、約60%の減少となっている。(総務省「地方公営企業年鑑」より)

 水道事業決算規模の減少よりも他会計繰入金及び国庫補助金の減少幅が大きいことは、今後、老朽化した施設の更新・再構築事業や災害対策等に莫大な費用を要する水道財政は、さらに厳しい経営環境に置かれていくことが予測される。
 水道事業体へのアンケート調査結果からも水道事業への公費負担である繰出基準に基づく費用の全額又は一部を減額されている事例が多く見受けられている。この要因は、一般会計等の財政状況の悪化などが挙げられたが、本来、法の趣旨でもある一般会計等との負担区分の明確化と一般会計等の財政状況の悪化とは、別個の問題として整理する必要がある

 このような状況から、地方公共団体及び水道事業者は、水道使用者が納得できる料金負担とするためにも、水道財政における費用の負担区分の明確化が必要となる。

2.水道事業における繰出基準にある公費負担の内容と今後繰出基準に加えるべきと思われる経費

 繰出基準で示されている各経費の負担区分について、公共性・社会性・政策性の3区分に整理し、その全部又は一部を一般会計等において負担すべきと整理した。

A 公共的経費

1)消火栓等に要する経費:経費の全部を一般会計等において負担

 消防関係の経費には、消火栓の設置及び管理に要する経費、消火栓の設置に伴う水道管の増設・口径の増大、水圧を高めるためのポンプの増設等施設の増設に要する経費のほか消防用として使用された水の原価を含む。

2)公共施設における無償給水に要する経費:経費の全部を一般会計等において負担

 公園、広場、道路、公衆便所等で、その施設のために使用する水及び公衆の飲料等として使用する水が対象。一般会計等において負担するのは、これらの水を無償で供給する場合のみに限られ、これらの施設においてメーターを取り付けたりして水道料金を徴収している場合は含まれない。

3)上水道の出資に要する経費

@ 水道水源開発施設整備事業

 水源をダムに求める場合、ダムの建設費の負担や遠隔地からの導水施設等の建設費が巨額となり、その結果、給水原価は著しく増嵩し、水道料金の大幅な引上げをせざるを得なくなることがあるため、ダム等の水道水源施設の建設改良事業に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。

A 水道広域化施設整備事業

 上水道事業及び水道用水供給事業を広域化することは、水源の相互融通による有効利用、施設の重複投資の排除や合理的配置、管理の充実によるサービス水準の向上等をもたらし、その利益は大きいものがあるため、当該事業が広域化として行う取水、導水、浄水等の施設の建設改良事業に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。

B 水道広域化推進事業

 多様な広域化を推進するため、国庫補助制度対象事業及び都道府県の策定する「水道広域化推進プラン」に基づき実施される連絡管等の整備、集中監視施設の整備、統合浄水場等の整備及びシステムの統合等、広域化に伴い必要となる地方単独事業に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。

C 未普及地域解消対策事業

 上水道事業の給水区域内又はその周辺において、地形や水源からの距離などの自然条件により未だ水道の未普及地域が存在している。未普及地域の解消を促進することを目的とした施設整備の建設改良事業に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。

D 安全対策事業

ア.災害対策

 地震防災対策特別措置法第2条の地区を給水区域に含むことが条件となる。安全対策の観点から行う事業は収益の向上に資するものではないため、本来、防災対策として一般会計等で負担することが適当と考えられる。しかし、当該施設の一部を常時給水するために使用することもあることから、当該事業に要する費用の一部を一般会計等において負担するもの。

イ. 水質安全対策

 災害等が発生した場合、住民の生命、生活、消防や医療などに必要不可欠な水を供給していくことは大変重要であるが、防災業務等を司る一般行政の責任領域であることから、当該事業に要する費用の一部を一般会計等において負担するもの。

B.社会的経費

1)上水道の高料金対策に要する経費

 必要な経営努力を払っても自然条件等のやむを得ない事由により建設投資が割高となり、水道料金算定の基礎となる給水原価が極めて高くなっている上水道事業について、料金格差を縮小するために、資本費に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。なお、「必要な経営努力」の一環として、経営戦略の策定や給水原価要件を設定している。

2)統合水道に係る事業統合前の簡易水道の建設改良に要する経費

 簡易水道事業は、農山漁村等を中心として地域住民の生活用水の確保、生活環境の改善等に大きな役割を果たしているが、その経営は上水道事業に比較して厳しい状況にある。このため、簡易水道事業については地方公営企業繰出制度により所要の財政支援を講じているが、上水道事業に統合されて(統合水道)からは、当該財政支援が講じられなくなる
 統合前の簡易水道事業に係る建設改良費のために発行した企業債の元利償還金に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。

3)統合水道に係る事業統合後に実施する建設改良に要する経費

 簡易水道事業の統合を推進することにより、上水道事業の経営基盤の強化を図る観点から、統合水道事業について、国庫補助制度(簡易水道事業再編推進事業に係るものに限る。)の対象となった建設改良事業に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。 

4)簡易水道の建設改良に要する経費

 簡易水道事業の資本費負担の軽減を図るため、建設改良事業に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。しかし、現下の厳しい地方財政の状況等を踏まえ、平成14年度から実施する建設改良ついて、繰出基準に基づく財政支援がされている建設改良費の一部については、一般会計等からの繰入れに代えて、当該部分に臨時的に発行する水道事業債(簡易水道事業分)の元利償還金相当額を一般会計等において負担するもの。

 また、建設改良費に充てた水道事業債(簡易水道事業分)に係る元利償還金の一部を一般会計等において負担する。

5)簡易水道の高料金対策に要する経費

 自然条件等により建設改良費等が割高のため資本費が著しく高額となっている簡易水道事業について、水道料金収入の適正化など経営健全化のために十分な努力をしていると認められるものに対して、料金格差縮小のため、資本費に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。
 なお、上水道事業の高料金対策と同様に、経営戦略の策定や供給単価要件を設定している。

6)簡易水道未普及解消緊急対策事業に要する経費

 水道未普及地域のうち、公衆衛生の向上と生活環境の改善を図るため簡易水道施設を緊急に整備する必要がある地域に対して、国庫補助事業と連携しつつ、地方単独事業を積極的に活用する「簡易水道未普及解消緊急対策」が平成10年度から平成12年度までの3年間実施された。
 当該事業の水道施設整備に係る簡易水道事業債の元利償還金に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。

7)簡易水道の統合推進に要する経費

 簡易水道事業は、上水道事業と同様に住民生活に密接に関連したサービスを提供するものであり、地方公共団体の財政運営や住民生活に与える影響が大きい。加えて、国・地方公共団体を通じて行財政改革が最重要課題とされている中で、経営の効率化・健全化を進めるという観点から、経営の効率化・健全化のための「簡易水道事業の統合(簡易水道事業が上水道事業に統合される場合を含む。)」を積極的に推進する必要がある。
 このため、簡易水道事業統合計画を策定し、事業内の簡易水道事業施設を整理・統合しようとする地方公共団体に対し、統合推進に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの(現行では令和元年度までの時限措置)。

8)地公企法の適用に要する経費

 簡易水道事業における法適用は、地方公共団体の任意とされているが、人口減少等による水道料金収入等の減少、施設・設備の老朽化に伴う更新投資の増大など厳しさを増す経営環境を踏まえ、計画的な経営基盤の強化と財政マネジメントの向上等をより的確に行うため、 平成27年度から平成31年度までの5年間を集中取組期間として、公営企業会計の適用を推進することとしている。
 このため、法適用に直接必要な経費の財源に充てるための簡易水道事業債の元利償還金に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの(現行では令和元年度までの時限措置)。

C.政策的経費

1)地方公営企業職員に係る基礎年金拠出金に要する経費

 地方公営企業の経営健全化のため、地方公営企業職員に係る基礎年金拠出金にかかる公的負担に要する経費の全部又は一部を一般会計等において負担するもの。

2)地方公営企業職員に係る児童手当に要する経費

地方公営企業職員に係る児童手当法に規定する児童手当に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。

3)臨時財政特例債の償還に要する経費

 財源不足を補てんするための赤字公債である臨時財政特例債の元利償還金について、その経費の全部を一般会計等において負担するもの。

4)経営戦略の策定等に要する経費

 地方公営企業をめぐる経営環境が厳しさを増す中で、計画的かつ合理的な経営を行うことにより収支の改善等を通じた経営基盤の強化等を図るため、「経営戦略の策定」に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。
 併せて、地方公共団体における専門的知識・ノウハウを有する外部人材を積極的に活用するため、「公営企業経営支援」に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。

5)公共施設等運営権方式の導入に要する経費

 民間の資金・ノウハウを導入し、公共施設の整備等における公共性及び安全性を確保しつつ、効果的・効率的なインフラ整備・運営を図るために公共施設等運営権方式を導入する場合、その準備に要する経費の一部を一般会計等において負担するもの。

6)繰出基準外の繰入金

 繰出基準に合致しない経費を一般会計等から公営企業会計に対し繰り入れるものが基準外繰入金である。

 近年の自然災害や社会・経済情勢等の変化を考えると、一部の経費については水道事業単独での経営努力等により賄いきれるものではないことから、新たに繰出基準に加えるべきと思える5点を記す。

@ 災害復旧に係る経費

 災害対策は繰出基準に入っている。

 被災後の復旧については、災害の規模、被害の程度などにより判断すべきではあるが、総じて一般会計等の負担が必要な場合が多い。東日本大震災や熊本地震などの大規模災害時には、国が個別に繰出基準を発出している。
 しかし、自然災害による水道料金収入の減少や復旧経費の増加は、水道事業の経営基盤に与える影響が多大であることに加え、近年は台風などによる風水害なども多発していることから、水道事業単独での経営努力により賄いきれるものではない。災害の規模や対象となる経費を明確に整理した上で、当該経費の一部について一般会計等において負担すべきと考える。

A 福祉減免に係る経費

 地方公共団体の実施する福祉施策としての水道料金の低料金制度・減免措置などは、地域の特性に応じて一般会計等が実施する福祉施策で行うべきで、独立採算を旨とする公営企業の水道料金収入で負担する性質のものではない。当該経費の全部について一般会計等において負担すべきと考える。

B 小規模集落への給水に係る経費

 多くの地域では集落の小規模化や高齢化の進行が顕著になっているが、日常生活における飲料水は必要であり、水道給水区域では、今後も水道水を安定供給することが求められる。しかし、ごく少数の需要者のために、莫大な水道施設整備・更新費用をかけることは、費用対効果の面からも水道事業者にとって大きな負担となっている。当該地域への給水に必要な水道施設の建設改良事業に要する経費の一部について一般会計等において負担すべきと考える。

C 浄水場等の更新事業に係る経費

 浄水場等の更新事業については、採択基準が厳しく、対象となる水道事業者は限定的である。 しかし、更新事業の実施には莫大な費用を要し、水道料金の高騰の原因となる。また、地域の公衆衛生及び生活環境の確保や産業活動の充実に伴う雇用の創出・確保など、地域への社会貢献の側面も有している。繰出基準の要件緩和等を整理した上で、更新事業に要する経費の一部について一般会計等において負担すべきと考える。

D 浄水施設覆蓋整備事業に係る経費

 浄水施設覆蓋整備事業は、異物混入などのテロ対策のリスク対応に加え、浄水処理過程における藻類の増殖抑制などに有効であり、水道水の安全性向上に寄与するものである。事業の必要性から、現行の国庫補助金交付要綱及び交付金取扱要領の高度浄水施設等整備費が補助対象事業として設定されている。
 テロ等による異物混入に対する危機管理対策は、本来、水道事業単独で規制及び対応できるものではない。国庫補助要綱等に合致する覆蓋整備事業に要する経費の一部について、一般会計等において負担すべきと考える。