「持続」を可能とするためには

A 中小水道事業体の現状

 水道事業は原則として市町村が経営することになっています。中には複数の事業体による「企業団」や都道府県が行っているものもありますが、公営であることに変わりはありません。水道事業を経営する団体を「水道事業体」と呼びます。日本には約1300の水道事業があります。
 2018年末に成立した改正水道法では、水道広域化の推進役として都道府県の役割を規定しています。その役割とは、広域連携を推進するための協議会を設けることができ、国の定める基本方針に基づいて基盤強化計画を定めることができます。その基盤強化を進める実践主体は水道事業者(水道用水供給事業者)です。水道事業の持続を行う責任者は約1300の水道事業体なのです。

 水道への投資は昭和40年代後半から急増し、水道の量的(面的)な整備はおよそ完了していて、全国どこでも蛇口から水が飲める状態になっています。昭和後期に整備された水道施設の多くが現在も使われていますが、これら水道施設を適切に作り直す、あるいは入れ替える「更新・再構築」の時期が来ています。
 施設の更新においては、東日本大震災やその後に生じた大地震、毎年のように日本列島を襲う台風や豪雨のもたらす土砂災害等の大規模化しつつある災害対策も考慮しながら、より強靭な水道システムを構築していく必要があります。

 しかし、中小規模の水道事業体では、「水需要の減少」や「職員不足」といった問題を抱え、日々の水道事業の運営に精一杯で、耐震化はおろか老朽水道施設整備の進展もままならず、水道事業の「持続」の実現が危ぶまれる危機に直面しているのが実態で、老朽化した施設を更新する検討のための第一歩を踏み出せない状況にある事業者が多いのは事実です。

1)人口減少と単身世帯の増加による料金収入の減少

 水道事業体は、人口減少の流れの中で料金収入が目減りし,財政的に苦しくなってきています。

 国立社会保障・人口問題研究所が2019年に公表した将来推計人口は、2015年の1億2710万人から2040年に1億1092万人、2045年には1億642万人となっています。
 人口減少の最大の原因は出生数の減少、すなわち、団塊の世代の子供たちの出生数が増えなかったことです。人生観の変化や経済的な要因等による晩婚化や未婚率の増加と言えます。「人口ピラミッドの将来推計」を見ればわかりますが、第二次ベビーブームの子供たちの産んだ子供たちが少ないため、第三次ベビーブームとみられる人口増が表れていません。晩婚化や未婚率の増加は今後も続くでしょうから、今後、人口増に転じる可能性、すなわち出生数の増加が生じる見込みはほぼ期待薄なのだそうです。

     

 国立社会保障・人口問題研究所は、人口だけでなく世帯構造の変化に注目しています。少子化や高齢化が進む中で、一人暮らしや夫婦のみという世帯が増加していて、核家族化が加速し、世帯の小規模化が進んでいるのです。

 全国の一般世帯の総数は、2035年までに沖縄県を除く46都道府県で減少が始まり、2015年から2040年にかけて4.8%減少すると推計しています。同じ期間での人口減少率が約13%ですので、世帯数の減少割合は低いのですが、現象の「質」が問題です。ポイントは単身世帯の増加と高齢化です。

@ 単身世帯の増加
 平均世帯人員は全ての都道府県で減少し、2015年時点では東京都のみが2人を下回る1.99人でしたが、2040年には、北海道(1.93人)、高知県(1.94人)でも2人を下回ります。単身世帯主の割合は全国平均で2015年の14.5%から2040年では18.0%に上昇し、特に、地方部の単身世帯の増加が顕著になります。
 単身世帯の増加の一因として、人々が結婚しなくなったことがあります。生涯未婚率と呼ばれる50歳時未婚率は急上昇していて、2015年には男性で約23%、女性で約14%でした。近い将来、男性の3〜4人に一人、女性の5人に一人が未婚のまま老後を迎えることも考えられます。

A 高齢化
 65歳以上の世帯主が全世帯に占める割合が、2030年にはすべての都道府県で30%以上となり、2040年には45道府県で40%を超えると推計しています。75歳以上の世帯主が全世帯に占める割合は、東京都を除き20%以上となります。
 高齢者の単身世帯も増加します。世帯主65歳以上の世帯に占める単独世帯の割合は2040年には全都道府県で30%以上となる。

 高齢の親が成人した子供や孫と同居するケースが減っています。今や90〜100歳まで長生きすることは珍しくないので、子供が独立し夫婦のみで生活する、その後に配偶者と死別し単身で生活する期間が長くなってきているのです。  

 水道界で注目すべきは、人の「住まい方」と「水利用」との関係性がどうなるかです。

 晩婚化や未婚率の増加や高齢化は単身世帯を増やします。水道料金は福祉型逓増料金制を採用している事業体が大多数でしょうから、基本料金内の水需要者が急増することを表しています。基本料金部分は損益分岐点の損失範囲になりますので、水道事業体にとっては人口減少で水量が減っているうえに、需要水量の少ない部分の需要者が増えることで、収入が大きく減少していくことが推測できます。

2)水道離れ

需要者数の減少を主要因としながらも、水道離れとして、地下水利用の専用水道を活用する企業や病院等が増えています。専用水道を活用する需要者は水道大口需要者であるし、福祉型逓増料金制の料金体系では事業体に利益をもたらす数少ない需要者でして、水道経営の根幹が揺らいでくる現象と言えます。

 また、節水意識の高まりから節水機器の普及が著しいという現状もあり、給水量は毎年減少しています。

H23年度においては2億m3が減少し、水道料金に換算すると、1m3あたり200円とすれば毎年400億円の減少額となります。

3)水道職員の削減

 水道事業体職員数はピーク時の1980年頃から2019年時点で約4割減少していて、阪神淡路大震災のH7年とH23年を比較した場合は18,600人の減少(27%減)だったそうです。

 職員数の削減が顕著になってきた原因は次のようなケースが考えられます。
・一方的な市長部局からの職員削減率の適用を単純に受け入れてきたこと。
・水道事業は装置産業としての知識と経験が不可欠で、特に危機管理対応時にこそ必要であるという認識が欠落していたこと。
・企業会計の中で経営黒字を見せかけるために人員削減を進めた。
・水道事業にマネジメントは不要と長期的・経営的視点を導入させない役所風土が優先されたこと。

 多くの中小事業体の職員は、マンパワー不足により日常維持管理の仕事に追われているため、老朽化が顕著になっている水道施設を更新すべき必要性は感じていても、将来を展望する余裕がないのが現実となっています。自治体行政改革の潮流の中で、人事権のある一般部門(市長部局)が、水道部門の職員削減の影響を何ら検討せずに進めてきた事例もあることと思います。職員が2〜3人の小規模事業体では、日々の仕事で手一杯の状況なのです。

 また、意思決定の中心的役割を担う課長クラスの人の水道事業経験が少ないことも問題です。課長クラスの職員は水道事業が抱える問題点とその解決方法等、今後市町がとるべき政策的判断材料を首長に示し、今後進むべき方向性の決断を迫る立場にあります。しかし、経験不足の職員ではその資料をまとめ上げることが難しいのです。「水道事業の安定・持続が最高の市民サービスである」という経営意識を持ち、必要な人材は補強・補充・育成するという戦略的な経営思考を持って事業経営に望むことが必要なのですが、この点が置き去りにされた結果と思えます。

 これらの結果、中小事業体では、「人が足りない」「お金がない」「技術職員がいなくて技術の継承が出来ない」「施設の老朽化対策が遅れている」という状況が表面に現れてきています。結果として何も行動に移していないことから、「困った、困った」というレベルで思考停止しているように見受けられ、監督官庁からは切迫性がないとの指摘を受けています。

2015.8.31

<参考1>水安全計画の策定率は13.3%(日本水道新聞2015.4.27)

 厚労省は平成26年3月末時点の上水道・水道用水供給事業における水安全計画の策定状況は13.3%と公表しました。平成25年度比2.3%増で、策定中が5.5%となっています。簡易水道事業のみを経営している事業体では、策定済みが0.5%、策定中が1.1%です。簡易水道事業を合わせた全水道事業では策定済みが7.5%、策定中が3.5%に留まっていることになり、中小規模の水道事業者における策定を支援する必要性があります。

 水道事業体が早期に取り組む主要な事項として、「安全」では水安全計画(WSP)導入による水質管理促進を挙げていますが、遅々として進まない状況があるのも事実ですね。

    

<参考2>平成30年度(2019年度)の水道耐震化率(水道産業新聞他2020.2.3)

 厚生労働省は2020年1月27日、平成30年度末時点での水道施設の耐震化状況を発表しました。

 導水管・送水管・配水管の基幹管路総延長に対して、耐震管と地盤状況を勘案して耐震性があると評価できる管を加えた基幹管路の耐震適合率は、前年度より1.0%増の40.3%で、調査を開始した平成20年度(28.1%)から12.2%の上昇でした。
 「基幹管路」とは導水管・送水管・配水本管(給水管の分岐の無い配水管)と、各事業体の判断で災害拠点病院や避難所などの重要給水拠点への給水管路を加えたものです。

 浄水施設の耐震化率は1.5%増の30.6%で、平成20年度(16.3%)から14.3%の上昇です。「浄水施設の耐震化率」は着水井から浄水池まで処理系統のすべてが耐震基準を満たさなければ「耐震化」と見なされません。

 浄水施設の改修は施設停止を余儀なくされますので、耐震化が困難な場合が多いことから、沈澱池とろ過池に絞った耐震化率が「浄水施設の主要構造物耐震化率」です。浄水施設の主要構造物耐震化率は前年度比3.8%増の46.1%でした。

 配水池の耐震化率は1.7%増の56.9%で、平成20年度(29.3%)比で27.6%上昇しました。個々の配水池ごとに改修を行い易いことが大幅上昇の要因と思えます。

     

 厚労省は参考として、「基幹管路の耐震適合率」「浄水施設の耐震化率」「配水池の耐震化率」の事業体数別分布を示しました。0〜100%まで10%ごとに事業体数を表すと、3つの指標とも10%未満の事業体数が最も多く、耐震化を意欲的に進めている大規模事業体の数値が影響する全国平均値では現れない実態が浮き彫りとなりました。

 ただし、前年度との比較では10%未満であった事業体の1割程度が全指標とも10%以上に移行しています。耐震化への着手も始まっていると思えます。 

 平成30年12月、「国土強靭化対策」を見直した「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」では、令和4年度末までに上水道の基幹管路の耐震適合率の目標を50%に定め、緊急対策を通して約4600Kmの耐震化を図り、耐震適合化率の上昇ペースを従来の1.5倍(2%/年のアップ)に引き上げるとしています。また、耐震性の無い重要度が高い施設を耐震化し、浄水場で3%、配水場で4%引き上げる目標も示しています。

 この3か年緊急対策のフォローアップするために、2019年6月に策定した「国土強靭化年次計画2019」では、改正水道法の施行を契機に、水道事業者等に対する耐震化計画等策定指針の周知や財政支援を図ることで水道施設の耐震化・老朽化対策の推進を図ることが明記されています。

B 水道事業を営む上での基本的な作業手順

 水道事業は地方公営企業会計制度に基づき、原則として、料金を収入源とした独立採算による事業運営が求められます。

 水道事業の企業価値とは、常時給水、言い換えれば、「いつでもどこでも、安全でおいしい水を安定的に供給すること」です。地震や水害等の緊急時でも、拠点となる病院等の基幹施設への給水継続は、最も優先的に保障されるべきです。
 この企業価値を支えるものは、水道事業体が有する経営資源、すなわち、ヒト・モノ・カネです。
これら資源を支えるものは、常時給水義務の達成や質の高い水道水の提供を通して得られるお客様の理解水道料金です。

 水道施設の老朽化や水道サービスに関する要求の高度化により、今後の建設投資需要は増加していきます。一方、人口減少下では水需要の減少に伴い料金収入は減少します。よって、将来の投資額を保証する安定的収入を確保できるよう料金制度の最適化を図ることによる経営基盤の強化が急務の課題となります。

 要約すると、将来的に常時給水を可能にするヒト・モノ・カネを備えた水道事業を独立採算で成り立たせる手法を考えましょうということです。

 具体的作業手順は次のようになります。
@ 「安全」「強靭」「持続」の具体化、すなわち、わが町の将来あるべき水道ビジョンを考え
A 現状の水道施設の安全度チェックのためのアセットマネジメントを行い
B 中長期的な水道事業計画を策定します。

 中長期的に水道事業計画を実践していくうえで、
C 広域化や官民連携等により事業の効率化
D 料金体系の適正化を図ります。
E 水道担当者は、この事業計画を市長部局や首長に図り、承認を受けます。
F 次に、利用者との積極的なコミュニケーションを図り、水道局の置かれている状況、今後の事業計画、老朽化施設を更新や耐震化を行わなかった場合に起こり得るリスク等について、具体的な事例やデータを示し、現実の水道運営状況を説明することで、中長期的な事業計画に対する住民の理解を得ます。

C 中小事業体の「持続」に向けた対応方法

1.水道事業体におけるコスト縮減策

 料金値上げを上程する前に、当然のごとく、「水道事業体はコスト縮減のためにどのような努力をしたか」ということを問われます。
 
 水道事業体の実施すべきコスト縮減策としては以下のことが考えられます。
@ 水道事業における人件費を含むあらゆる面でのコスト縮減(内容的にはかなり限られる)
A 一般会計からの支援
B 水道会計の利益積立金を全額投入する赤字補てん
C 浄水場等の資産売却
D その他

 以上5点の中で、水道事業体が問われるコスト縮減努力は@の水道事業におけるコスト縮減です。

 「水道事業のコスト」を見ますと、水道事業は水道施設整備費が56.3%を占める装置産業であることが分かります。水量減少によってコスト削減が可能な分野は動力費・薬品費(5.3%)程度で、水量が減少しても事業コストはほとんど変わらないという面があります。施設規模を小さくしない限りコストを減らすことは難しいのです。施設規模を小さくするための根拠造りですが、浄水場の統廃合については、施設台帳の整備、施設能力や稼働率、水質状況、経年劣化を含む老朽度の把握、給水区域内人口と使用水量の推移、重要度等を勘案して施設統合案を策定する作業が必要になります。この作業がしっかりできる体制を持っている事業体では取り組みもスムーズにいくのでしょうが、技術力や人材不足の事業体では困難な作業となります。

 そこで、人員(人件費)削減が行われやすい状況があります。
 同一規模の水道事業体と比較して「我が水道事業体は人数が多いから削減しよう。」という話をよく聞きます。しかし、給水人口や給水量が同一規模であっても、給水区域範囲の大小、簡易水道や加圧地区が多く点在している度合、提供しているサービス形態の違い等、サービス条件に違いがある場合は、一概に、同一人員規模に合わせようとする方向性は正しいとは言えません。衛生行政という業務を預かる水道事業体は適正な職員数を確保しなければなりません。提供すべきサービスを維持するための人員はどの程度必要かを見極めたうえで、過剰と認められれば人員削減を行うべきと思えます。間違っても、「人員削減が行政改革の潮流である」との考え方で、一般部局と一律同レベルに扱うべきではありません。

   

2.アセットマネジメントと水道ビジョンの実践

1)基本的方向性

 ・拡張時代に建設した水道施設の老朽化が顕著となり更新時期を迎えている。
 ・施設の耐震化が遅れている。
 ・職員の人事異動や退職により、水道技術の空洞化が生じていて、技術継承がうまくいかない。
 ・資金不足や技術者不足で問題解決のための行動ができない。
というのが、地方の中小水道事業体の抱えている悩みだと思います。修繕等、日々の業務に追われている状況の中でも、まずは、これらの問題解決のための行動を起こさなくてはなりません。
 具体的には
@ 人口減少に伴う給水収益の減少による財政面の課題
A 施設の老朽化・耐震化等、水道施設面の課題
B 人員削減に加えて、職員の高齢化と技術の継承等、維持管理面の課題
という3つの課題と向き合う必要があります。

 これらの問題を放置すると、給水水質の劣化・漏水・断水事故の多発等給配水業務に対する需要者の不信や経営破綻という水道事業破綻のシナリオが迫ってきます。
 そこで、今ある水道施設の現状チェック(資産管理=アセットマネジメント)を行って、施設更新の必要性の見える化を図り、水道事業体職員間での料金改定や施設更新の方向性の共有と共に首長・議会・需要者等の水道関係者に現状と対応策を判り易く説明しなくてはなりません。

2)アセットマネジメントの実践

ア 施設の安全度のチェック

 水道事業体が行うべきことは、まずアセットマネジメントによる施設の安全度のチェックです。
 導・送・浄水施設では、各設備図・施設台帳及び管理状況・劣化状況(設置年度、整備点検状況、故障履歴、他)を整理します。
 配水管では、管路図と管路データ(管種、口径、延長、布設年度、漏水事故歴、濁水発生履歴、埋設土壌環境、他)を整理する必要があります。管路図は大規模災害が発生した時、応援者に円滑に働いてもらうためにも必要不可欠なデータベースです。この設備台帳や管路情報をもとに、施設の更新計画を立てます。

イ 水道ビジョンの策定

 水道施設や管路の現状を知り得たら、将来における我が町の水道計画(水道ビジョン)を考えます。基本的には「安全でおいしい水の供給」「強靭な水道施設への更新」「持続可能な水道経営の在り方」の具体を我が町はどの程度まで整備するかいうことです。

ウ 施設の更新計画の策定

@ 法定耐用年数内で老朽施設や管路を更新すると費用はいくら必要か。それは現在の水道料金収入で可能なのか?
A 施設の状況から、給水リスクがあまり高まらない範囲で、耐用年数をどの程度延長できるのか試算する。耐用年数を延長した場合、技術的にどの程度が対応できるリスクの範囲内なのかを明確にする。
B 財政負担の軽減策(補助事業の対象となるか?起債の適用は可能か?)や分散方策(年工事量の平準化のための更新工事の優先順位の設定)を検討する。
C 不足する財源確保のために料金値上げの規模と料金体系を試算する。
 
 今後あるべき我が町の水道ビジョンとアセットマネジメントによって我が町の水道施設の実情を把握し、現状の収入と必要となる更新費用を知って、時代の変化に応じた水道システムを再構築していかねばなりません。
 料金値上げ無しに更新工事計画が策定できるような事業体はほとんど無いと思います。財源不足が深刻な状況を再認識し、必要経費が賄えうる料金値上げとコスト削減策の実施により、将来ビジョンに整合させていく道筋を、どのようにして市民に納得していただくかを本気で考えざるを得ない状況になると思います。言い換えれば、厚労省提案の水道ビジョンに盛り込まれた「安全・強靭・持続」の中身を、我が町では、どの程度までレベルを落として実践していくかを決めることになるでしょう。地方の水道は地方の特性や実情を踏まえた事業モデルを作っていかざるを得ないということです。

エ 管路の更新

 管路は水道施設資産の大部分を占めています。「水道事業のコスト構造」を見ましても、管路の割合が高いのが理解できます。管路は、今後、更新費用が最もかかる資産といえます。管路の更新については、市民に納得していただける範囲内で、「更新費用を如何に抑えるか。」が主題となります。「水道ビジョンは実践していくけれど、お金が無いわけだから、コストを徹底的に安くすることが絶対条件だ。」という気持ちで取り組むことが重要です。

 長期財務シミュレーション(マクロ的アセットマネジメント)を行い、水道事業経営が成り立つ範囲内での管路更新投資額の「枠」を設定し、直近数年に行う管路更新対象路線の選定は、「投資枠」の範囲内で、どの路線を優先すべきかを決定します。(ミクロ的アセットマネジメント)
 根拠のある投資先送り策を考え、投資額そのものを抑えながら、安全・安心な水道事業を運営していくというレベルの高いマネジメントが要求されます。

 a 更新管路の優先順位を見極める

 優先順位は、重要度評価として、地区別給水人口、給水量、重要施設数等を参考にします。
 また、更新必要度評価(老朽度診断)として、漏水の発生状況、水理機能(幹線管路、バイパス管等)の重要性、耐震性能、水質劣化状況(錆の発生や汚濁物の体積状況等による汚濁水発生状況頻度)等が考えられます。

 b ダウンサイジングの推進

@ 有収率の向上と目標有収率の設定

 配水過程では漏水の発生は避けて通れませんが、造水コストを削減することは水製造・運搬事業者である水道事業者の使命であり、漏水量があまりに多いと、原材料費の高騰だけでなく浄水設備能力を大きく取らざるを得なくなるデメリットが生じ、「安全・安心な水を安く配る」という水道の使命を果たせなくなります。

 漏水調査費用に見合う漏水の早期発見による有収率の向上は必要不可欠の命題であり、漏水発見費用に見合う目標有収率の設定を行わなくてはなりません。目標有収率の設定値は事業体によって異なると思いますが、漏水調査作業結果に基づくコスト的に見合う設定値を模索することになります。
 目標有収率を達成するためには、対処療法としての「漏水の早期発見、修繕」と根本対策としての「漏水多発管の選定と早期更新」をバランスよく推進する必要があります。

 漏水箇所の効率的発見は技術力を伴う難しい業務です。漏水調査によって有収率がある程度改善してくると、漏水発見効率は次第に悪くなっていきます。漏水調査による有収率の改善は一定程度まではスムーズにできますが、その後は、広範囲の配水管網をやみくもに漏水調査するのでは成果は上がりません。漏水調査を始めた頃は大規模漏水が探しやすく、漏水量の減少が顕著なのですが、ある程度の規模の漏水を発見した後は、規模の小さい漏水を探すのに効率が悪くなるのではないかと思います。そこで、流量測定範囲を細分化してブロック化し、ブロックごとの夜間最小流量を監視するような工夫が必要となります。

 管路更新事業は、需要予測と目標有収率によって算出された配水量を効率的に配水し得る配水管網整備計画に基づき執行します。更新管路の優先順位は過去の漏水履歴を参考に、漏水事故多発管路を選びます。漏水回数、漏水状況等を記録し、管路データとして蓄えていく体制が必要です。

A 将来需要予測に基づくダウンサイジングの推進

 給水区別の人口推定を行い、人口減少地区(水道需要の減少が想定される地区)に対しては、相応の減口径管の布設替計画を行います。

 しかし、いざダウンサイジングを行うとしても、人口減少がどの程度になった時点を対象とするのかが難しい問題となってくるでしょう。管路をひとたび布設替えすれば、その管の寿命は数十年続きます。現時点の人口を対象にして布設替えすれば、当面は無駄のないジャストフィッティングな管でしょうが、数十年後は確実に水需要がさらに減っていきますので、その時点では、やや大きすぎて余裕のある管路になるものと思えるからです。

 3階以上の直結給水の拡大は安全でおいしい水を給水するうえでは望ましい策です。しかし、以前は需要が多かったから水圧上3階給水が不可能な地区であっても、需要が減少して配管損失が少なくなり有効水圧に余裕ができてくると3階以上給水が可能となる事例が出てきます。このケースで、一旦、3階以上給水を認めますと、その口径を将来的に維持していく必要が生じてきますので、ダウンサイジングがやりにくくなる状況が生まれることもあります。

B 消火用水量の確保

 φ150mm以上の配管には消火栓があります。2020年4月時点では、「消防水利の基準(昭和39年12月10日消防庁告示7号)に則り、消火栓はφ150mm以上の管に取り付けることとし、管網の一辺が180m以下となるように配管されている場合はφ75mm以上でも可という基準で設置されています。

 消火栓がついている管をφ100mm以下の管にダウンサイジングしますと、消火栓の給水能力に支障が出てくる恐れがあります。消防関連部局と綿密に連携し、消火用水を水道配管の消火栓に頼るのか、防火用水槽の整備を推進していくのか等、今後の消火用水の供給の在り方や応分負担について、将来のあるべき姿を提示しながら給水サービスの充実とそれに伴う経費負担を前もってよく考えて、配管整備を進めていく必要があります。

 c 根拠ある管路更新先延ばし策の模索

@ 更新時期を遅くできる管を探す 

 管の埋設環境調査や既設管の管体調査等の機能診断を行って、耐用年数を超えても機能維持できる管を確認し、それらの更新時期を遅くします。一律に耐用年数を超えた管路を更新するのではなく、過去に漏水履歴の無い管、腐食土壌ではない管等、漏水の無い状態の良い管路の更新は先延ばしする。

A 限界集落の扱い
 限界集落地域のような過疎地の配管は、単位管路延長あたりの需要者が極端に少なく、経営的には大きなハンディとなりますが、その分、断水等事故時の影響も少なくて済みます。

 一例として、管路全てをどの地区も同じように更新することは難しいことを理解していただき、原則、当該過疎地域では管路更新工事は行わず、「管路は延命化に特化し、修繕のみ行う。漏水事故による断水が生じる恐れがあることを了解していただき、タンク車で対応する。」という方針を立てられた事業体もあります。身の丈に合った水道システムの構築例と言えるでしょう。

 また、水道ビジョンに触れられているような、プロパンガスのように、水の宅配システムを考慮したり、従来同様の長距離管路による配水に頼るのではなく、現地の水源を利用した移動式浄水車による給水確保を行うのもやむを得ないかもしれません。

B 安価で長寿命が期待できる管更生工事の採用
 老朽管の内面を更生工事によって補強し、結果として、更新工事よりも長寿命化が安価に達成できる場合は、検討の価値があります。

C 長寿命管の採用によるLCCの低減
 水道施設設計指針では、溶接鋼管、鎖構造継手鋳鉄管、融着型ポリエチレン管は耐震管と位置付けられています。耐震管とは地震時でも壊れにくい管ということで、40年の耐用年数を超えても使い続けられる可能性が高い管と解釈できます。耐震管を採用することで配水管の寿命を長めに設定し、その間使い続けられることを前提にライフサイクルコスト(LCC)を計算し、配管コストを下げる試みをされる事業体が増えています。

 ポチのいた福山市では、2003年頃から全ての配管を耐震管で布設することを条件に、料金値上げを行わずに可能な投資費用(配管更新費用20〜25億円/年)を考慮して、全管路(当時は2400Km)を耐用年数40年より長い60年で布設替えすることを議会で承認していただきました。配水管更新率1.6〜1.7%/年を目標に現在も布設替え計画を進めています。これも、一種の「根拠ある管路更新先延ばし策」と言えるでしょう。

<参考3>「良い設計」・「良い施工」の必要性

 長寿命管の設定根拠には、耐震管のような壊れにくい「良い材料」を使うことの他に、「良い設計」、「良い施工」を確実に行うことが必要条件となります。問題は、「良い施工」をいかに確保するかにかかっていると思います。「良い設計」・「良い施工」のポイントを管種毎に列記します。

@ 溶接鋼管
@ 電食対策
 流電陽極方式等の電食対策を必ず施す

A 溶接工の施工技術が確実であることの確認
 「N2P」の溶接工資格を持っている者から、各溶接工の溶接個所を非破壊検査(X線撮影)でチェックし、溶接技術の合否を確認する。非破壊検査時に、溶接一か所あたりの所要時間を測定しておき、非破壊検査をしない箇所での溶接時間が異常に短くなってないかをチェックする

B 管外面についた傷の塗装補修や溶接部の内外面塗装の乾燥養生
 エポキシ系塗装は塗装後一定期間の乾燥養生が必要です。JFEの推薦は3日間の乾燥養生です。塗装後30分程度の放置で、塗料が手には着かなくなりますが、この状態で埋めた場合、地下水等水分と接触すると、塗装部に水か浸透・拡散して水ぶくれのように膨れ上がるプリスター現象をおこし塗装が痛み、長寿命が期待できなくなります。

<注>長寿命溶接鋼管の内面塗装(2013.10.10日本水道新聞)
 100年の期待耐用年数に応える長寿命型水道鋼管の内面塗装の仕様は、工場塗装を0.3mm以上から0.6mm以上に、現場溶接部塗装を0.4mm以上から1.0mm以上と大幅に厚くしています。塗装の手法も櫛型ヘラで3層に塗るなど変更され、その塗装工の選定には、日本水道鋼管協会が行う塗装講習会の受講者(受講していないものは新たに受講させる)を特記仕様書に記載することを協会は要望しています。

A 鎖構造継手鋳鉄管
 鋳鉄管の布設工事は、一般的には、地域の水道設備業者や土木業者が行います。鋼管溶接工のように必要技術の習得をチェックできれば良いのですが、多くの業者が対象となりますので、その現場担当者の知識や技量には注意が必要です。
 鋳鉄管は重い管材ですので、ともすれば扱いが粗雑(管を移動や布設する場合、しっかり持ち上げず、地面と擦れて、外面塗装に傷を付ける)になりがちになり、外面塗装を傷つけた場合は、丁寧な修復が望まれます。溶接鋼管と同様に、鋳鉄管が長寿命に耐えられるかどうかは、塗装の良否にかかわることが大部分と思われます。

@ 外面塗装を傷つけない
 鋳鉄管の外面塗装厚は100μm(異形管は80μm)と非常に薄いので、外面塗装を傷つけないよう配管作業における管材の取扱いには細心の注意を払います。
 ポリエチレンスリーブの設置は必須です。

A 外面塗装や切管部の現場塗装
 外面塗装を傷つけた場合は、修復用塗料で修復後一定期間の乾燥養生をとります。切管部の塗装も同様です。
 鎖構造継手を離脱させた場合は、内面の傷を確実に修復し、一定の養生時間(理論上は溶接鋼管と同じ3日間の乾燥養生が必要と思います)をとります。

B 電食防止対策
 管体に傷をつけて食い込ませるタイプの特殊押輪等を使った場合、電気の導通が生じる恐れがあります。電食防止の観点から、迷走電流の導通の可能性を防げる範囲は30m以内とし、30m以上連続して繋がないことを原則とします。

B 融着ポリエチレン管
@ 融着後の冷却時間を守る
  融着後、熱を冷ますため一定時間の放置を厳守させること。放置時間は、業界推奨は10分間以上です。福山市は30分を義務付けています。30分としたのは、放置時間を守らなかったとしても10分は放置してくれるだろうと考えての措置です。

A 過度なスクレーピングを行わない
 スクレーピングとは、ポリエチレン管の劣化部を除いて融着ができるよう、融着部の表面を削り取る作業のことです。融着の際、管が熱せられて膨張することにより融着ソケットとポリエチレン管が融着できるのですが、φ50mmのような小口径管は、スクレーピングをし過ぎると、融着の際、管が熱せられて膨張してもスクレーピングした隙間を埋めきれずに融着不良が生じる恐れがあります。小口径管はスクレーピングし過ぎないように注意することが肝要です。

C 埋め戻し材(全管種共通)
@ トレンチ掘削床の整地
 礫交じり土壌に配管布設する場合、掘削床の小礫石を丁寧に取り除くこと
 掘削床と配管底間の10cm程度は良質な砂質土で埋め戻し、管体を傷めない配管ベッドを施工すること

A 埋め戻し土に含まれる小石の撤去
 真砂土に礫が交じっている場合があります。小石が管に直接接触させないよう丹念に取り除きます。

D 耐震管の布設に関するポチの感想(私見)

@ 鎖構造継手鋳鉄管

 ポチは現役時代に、ダクタイル製造業の技術者にNS型ダクタイル鋳鉄管について以下のような苦言を呈していました。

 NSダクタイル鉄管の欠点は 
(1) 重量が重いこと 
(2) 塗装が100μmと薄いこと 
(3) 薄い塗装を保護すべきポリスリーブの施工を配管工事業者に委ねていること
 と指摘し、(2)は「せめて鋼管並みの外装強さを持つ程度の厚い塗装を確保して欲しい」、(3)は「配管業者作業員がポリスリーブを取り付けるのではなく、最初から工場施工として取り付けていて欲しい」と要望致しましたが、(2)(3)共にコストの兼ね合いから無理だとのことでした。

 しいてもう一点問題点を挙げれば、 
(4) NS継手の施工に熟練を要すこと
 でしょう。この点はGX管の出現でかなり改良されたと伺っています

 鋳鉄管の場合、施工不良を生じる最大の理由は(1)の「重いこと」と思っています。塗装の薄さを補ってくれるのは、「塗装を傷めないように扱おうとする配管工の細やかな配慮」なのですが、管が重いとどうしても取り扱いがずさんになります。体力的に劣る高齢者や女性労働者にはしんどい仕事だと思います。布設用のトレンチ掘削床は細長く狭いので、布設中に管を十分に持ち上げずに掘削土との擦り傷を付けてしまう場面を何回も見かけました。
 擦り傷を付けた場合は塗装し直す必要がありますが、丁寧に塗り直すことはあっても、十分な乾燥時間を待たずに埋めてしまうことが多かったと思います。「金属管は塗装品質が全てだ」といっても良いと思いますが、施工時間の制限を受ける管路工事では必要な硬化時間を取ることが難しいケースが多いと思います。管に傷をつけない丁寧な施工をいかに義務づけるかが課題です。
 (2)の薄い塗装を埋設時に守ってくれるのがポリスリーブなのですが、この装着も配管工任せとなります。散々塗装面に細かい傷をつけた後に、空気を十分に排除せずにポリスリーブを装着している光景をたまに見かけます。工場出荷時にポリスリーブが装着してあれば、埋設前に管が傷つくのをかなり防げると思って要望したのですが、無理とのことでした。

 鋳鉄管に限らずどの管種でも言えることなのですが、ポチは、40年の耐用年数を待たずに漏水トラブルを引き起こす管のほとんどは、「施工不良と抱き合わせの管である」と思っています。
 漏水修理を行った箇所の原因チェックをしてみますと、施工不良が原因と思える漏水発生箇所がほとんどでした。フランジや固定金具のボルトの締め付け方に問題がある、金属管では外面塗装が傷ついてサビ部から漏水していた、伸縮継手の差し込み方が悪い等、配管技術の未熟者の施工なのか配管規則を守らない配管工が原因なのかは解りませんが、しっかりした配管施工がなされていない現状があるのは確かでした。何らかの形で配管状況をチェックする手法を考える必要があると思っています。

 福山市のような人口47万人の都市でも、配管工事を希望する業者は100社を超えています。H16年頃の東京都の配管業者数は、定かではないのですが、確か約1400社と聞いていました。今はもっと増えているのでしょうね。
 業者数が多いと配管施工の技量は、会社によってピンキリの差が出てきます。当然配管施工工事を始めたばかりで施工技術が未熟であったり、しっかりした技術を学んでいない配管工が担当することも大いに考えられます。
 福山市のある配管業者の幹部は、私に、NS鋳鉄管施工の場合、「一人前になるには1年はかかりますねー」と言ってましたが、一人前になる間、せっせと施工不良個所を増やしてくれたのでは水道事業体はたまったものではありません。最近は職工さん不足と聞きます。未熟な配管工の方々も増える傾向にあるのではないでしょうか。

A ポリエチレン管

 耐震管の中では、ポリエチレン管は溶接鋼管や鎖構造継手鋳鉄管との布設コストを比較すると、かなり安く上がります
 また、ポリ管の融着接合技術は1日ほど実施訓練を受けた程度の配管工でもほとんど問題なく施工できたと思います。私は職業訓練校の講師をしたことがありますが、訓練生が問題なく溶融技術を身に付けてくれた体験をしていて、施工ミスの少ない継手法であると思っています。
 1996年頃だったと思いますが、福山市で初めて融着式ポリエチレン管を採用した時、初めて施工したのが、当時福山市と合併した島の業者でした。土木業が主体の業者で配管工事に長けている感じはありませんでした。落札後、水道局の訓練センターで1日講習を受けたばかりの工事責任者と話をすると、「ポリ管は軽くてしなやかで扱いやすい。接合で失敗することもないと思います。」と言ってまして、これなら安心だと思いました。

<ポリエチレン管の老朽度調査(2019.12.19日本水道新聞)>
 配水用ポリエチレンパイプシステム協会は、1996年(平成8年)に、福山市の海岸埋立地に作られた道路に埋設深度約1mで敷設されたPE100製φ100mmの直管13m分とEF継手を掘り上げ、埋設後24年経過時の老朽度を調査しました。土圧により外面にはわずかな変化が見られたものの機能性は維持されていて、EF継手により埋設されたサドル分水栓の状況も良好だったそうです。断水して水圧試験を行い、通水中との比較で外形寸法の変化を測定したところ、健全な状態を示す値が得られました。海水分や腐食性土壌の影響を調べるため管材と共に現地地盤と埋設砂を採取し土壌試験や性能評価をします。

B 溶接鋼管

 溶接鋼管は溶接、塗装技術が管路品質を大きく左右します。「N2P」の溶接資格を持ってはいても、管路溶接に慣れた溶接工を集める必要を感じました。造船所溶接工のような平面の直線的な溶接を得意とする溶接工と、管路のように上部・下部・横面と溶接位置が異なる体制で曲面溶接するのでは溶接のノウハウが違うらしく、直線溶接の得意な方はX線撮影をすると不合格となる場合がありました。最初の3〜4か所の溶接個所を全てX線撮影して溶接工の技術力チェックをするのが良いと思います。

 あまり無い例とは思いますが、X線撮影をしない予定の溶接箇所では、溶接スピードが速くなる溶接工がいました。「その箇所をX線撮影する。」と私が命令しましたら、「頼むからやめてくれ。」と懇願された場面もありました。高度成長時期の話なので今では無いとは思いますが、作業員のコンプライアンスの問題です。

 いずれの管種を使うとしても、管路更新のスピードを向上させる更新計画の策定と共に、更新管路が寿命以上に長持ちするよう、良い施工をしてもらうことを念頭に事業展開すべきと思えます。

3)水道料金体系の見直し

 現在は、基本料金と従量料金の「二部料金制」で、使用量が多いほど単価が高くなる「逓増型」の料金体系が主流です。これは、高度成長時期のように水需要増が見込まれ、水源不足の時代には適していた料金体系です。
 戦後の第一次ベビーブームに生まれた団塊世代が働き盛りの頃に策定され、夫婦と子供の3人から4人世帯をモデル世帯としています。このモデル世帯は1980年代では世帯の4割を超えていましたが、2019年の国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2040年には2割程度まで低下する見込みだそうです。その団塊の世代は2025年には後期高齢者となり、2040年には世帯主が75歳以上の世帯が1/4を占め、一人暮らし世帯は全世帯の4割程度となります。

 水道事業は、原価配賦図を見ていただいてもお分かりのように、電気・薬品費等の変動費の割合は少なく、固定費が給水原価の大部分を占める装置産業です。人口減少・単独世帯の増加・節水の普及・地下水利用等の水道離れの影響で給水量が減少に転じても、事業費用は余り減少しないという特性を持っています。
 今後、水需要減少が顕著になってくる状況では、需要減少以上の速さで収入減を招き、固定費部分の料金回収も危うくなる恐れがあり、将来的な安定経営に資する料金体系とはいえません。

 「A 中小水道事業体の現状」でも述べましたが、人口減少の一因である晩婚化や未婚率の増加は単独世帯を増やします。単独世帯は水使用量が少ないので、基本料金内の水需要者が急増することになります。基本料金部分は経営的には負担になる福祉的意味合いの強い低価格料金帯ですので、水道事業体にとっては人口減少で水量が減っているうえに、需要水量の少ない部分の需要者が増えることになります。さらに、大口使用者の節水地下水への水利用転換により利益を生じている料金の高い部分の水使用料が減少して、収入が大きく減少することになります。

 水道事業体は将来必要となる更新資金を確保できるよう、料金金額の見直し、逓増料金の見直し、基本料金と従量料金の関係の見直しを図る必要があります。

 原価配賦図の「原価配分」にある「準備料金」の配分を多くするよう基本料金の割合を高めて従量料金(超過料金)とのバランスを見直すことが必要と思われます。水使用の多い企業負担の軽減や多人数世帯と単独世帯との世帯間格差の是正ということになります。高齢者の単独世帯の水道料金負担は増えることになりますので、福祉型料金とは言えない面が出てきますが。

2020.8.10

<参考4>平成31年4月1日現在の水道料金(2019.12.12日本水道新聞)

 日本水道協会は平成31年4月1日現在の1315水道事業体(末端給水事業1247、用水供給事業68)の水道料金体系および改定状況の調査結果をまとめた水道料金表を発刊しました。

 平成30年4月2日〜31年4月1日までの調査期間内に料金改定を行った事業体は51事業で、値上げ改定は37事業、料金体系を見直す「ゼロ改定」が5事業、値下げ改定が8事業、広域統合に伴う料金改定が1事業でした。前年度の料金改定事業者数は68事業体で、改定数は17事業の減少となりましたが、消費増税を令和元年10月に控えていたのも原因と考えられます。平均改定率は10.1%で、平均改定期間は6.1年です。平均改定率は平成25年の3.1%から上昇傾向にあり、昨年に引き続いて10%以上となった。(表参照)全国的に将来を見据えた料金のあり方の再検討が進んでいるようです。

 料金体系は従来の傾向どおり用途別料金体系から口径別料金体系への移行が進んでいて、用途別料金体系は30.9%、口径別料金体系は58.2%です。

 「給水人口区分別10m3使用時の家事用平均料金」(表参照)は全国平均が1544.6円/ m3で、100万人以上の事業体では2/3の1053.5円/ m3ですが、0.5万人未満の事業体では1846円/ m3となり、給水人口が少ない小規模事業体ほど高料金を強いられる状況が顕著になっています。ちなみに2500円/ m3を超える事業体は49事業体あり、給水人口3万人未満の事業体が46事業体を占めています。

4)福島市の水需要減少対策(2016.10.27日本水道新聞)

1. 個別受給給水契約制度(H28.7.1施行)

 需要減少の原因の一つが大口需要者の地下水への移行です。人口が減る中で大口需要者を離さないためには、多少収入を減らしてでも水道を使い続けて頂き、地下水への切り替えによる大きな減少を防ごうとする対策です。今まで節約のために使用量を抑えている方には、これを機に必要な分だけ使って頂きたいという思いもあります。

 水道を直近12か月以上使用している使用者のうち、月平均使用量が1500m3以上の者(約50者)を対象に、月平均使用量の9割を基準水量と定め、これを超える水量について最高単価の1/2を適用とします。つまり、契約すると、直近1年間の平均使用水量の9割を超えた部分が半額となります。具体的には、51m3〜基準水量までが247円/m3(税別)基準水量を超えた水量が123円/m3です。

 その他の適用条件は以下の3つです。
・水道料金・下水道料金使用量の滞納が無いこと
・市税の滞納が無いこと
・共同住宅・公衆浴場用途でないこと

 基準水量は申込日から直近一年間の使用水量で決まり、原則として3年間継続して適用する。契約期間は締結日から年度末までです。
 なお、契約期間中に地下水などを水源とした専用水道の利用を始めた場合は契約解除となりますが、元々利用していた場合はその限りではありません。
 基準水量を超えなくてもこれまで通りの通常料金を払っていただくだけですので、使用者側にデメリットはありません。

 宇都宮市、北九州市、喜多方市などで類似の制度が導入されています。

2.個人未加入者向けの3つの制度

イ.水道加入金減免制度(H28.4〜H30.3末)

 2年間限定で、井戸水などの自家用水道から上水道に切り替える場合の水道加入金を一律6万円減免します。

 対象は、用途が一般家庭用で、屋内配管を伴い、屋内配管全てにおいて上水道に切り替えるもの。メーター口径13mmの場合、通常の加入金が6万円(税別)のため、期間中に申し込めばゼロになります。

ロ.配水管布設工事助成制度

 水道局の水道管が布設されていない公道にφ50mm以上の配水管を布設する際、工事費用の全額または一部を助成します。給水工事の新設工事との同時申請と工事後の寄付が条件です。

 対象は給水区域内で
@ 井戸水等の自家用水道から上水道へ切り替える者
A 新築住宅の建築主(法人、営利目的を除く)
B @Aの工事に合わせて輻輳管を解消する者
です。

 助成額は、一戸当たりの布設延長が20m以下の場合は全額。20mを超える場合は20mまで全額、超過部分は1/2助成です。輻輳管解消の場合は切替工事(分岐)費用の全額です。
 助成額は対象戸数の合計で決まるため、1戸当たり布設延長が20m以下となれば、利用者側の負担はゼロとなります。

 「家の前まで水道管を布設して欲しい」と要望が有って、配水管を布設しても上水道に加入してもらえないこともありました。この制度は、要望を受けて水道局が整備するのではなく、お客様に一旦整備費用を負担していただき、給水契約を結んでから助成するという、上水道に加入する確約付きの制度と言えます。

ハ.給水装置工事資金融資あっせん制度

 給水装置工事費用を金融機関から借り入れる際、水道局が融資を斡旋し、利子分を負担します。対象範囲は公道下の配水管取付口から宅内の給水用具までです。

 融資限度額は自宅が60万円以内、貸家やアパートなどは1戸当たり最高45万円で合計200万円以内です。新築住宅の建築主や民営の簡易水道・給水施設組合員、法人は対象外です。

5)技術の継承

 水道事業は、福祉的な側面を併せ持つ事業ですので、「水道事業は公(官)が担うのが望ましい」という意見が大勢を占めていると思います。10年、20年、30年先を見通した水道ビジョンを遂行していくために、官が今まで通りに自ら人材を育成して技術を継承させていくことができれば、水道事業が安定し効率的な良い経営が実現できるし、ひいては、長期的なコスト削減につながっていくと思います。

 水道事業は飲料水という食品を製造し家庭や事業所まで届ける宅配業であります。飲料水ですので品質的な安全性は欠かせませんし、いまや水道は代替のない社会インフラでありますので、不断水の24時間供給が義務付けられています。いつ何時に漏水事故が生じても断水を生じないよう短時間で修復し、安全で豊富に使える高品質な水道をできるだけ安く提供する、しかも可能な限りおいしく仕上げることが要求される水道事業は、高度な水道技術を駆使しないとかなわない事業であります。

 しかし、官が2〜3年で一般部局(市長部局)との人事異動を行ったり、事業体における職員の大量退職による人員減少の補てんがままならない状況にあれば、事業体職員間で技術ノウハウや暗黙知を継承していくのは至難の業となります。
 この場合は、危機管理や災害対応を含め、民が受け皿となって暗黙知を含めた技術ノウハウを継承していく必要があります。「水道事業は公が担うものだ」という考えから、これからは水道技術を持った者が水を作るという考え方を持たざるを得ません。
 いろいろな事情から、水道に関する技術を官が保持しにくいと判断される場合、官だけでノウハウが保有できない部分は民と一緒に保有する。あるいは、官が職員の減少や人事異動によりノウハウが維持できない状況にあれば、民と長期契約したり、広域水道に加入する等、水を作る者に水道技術のノウハウを継続していく方法を積極的に考える時代が来ています。

<参考5>岩手県矢巾町の実務継承の取り組み(2014.5.29日本水道新聞)

 矢巾町では、町長と職員が経営戦略会議を開き、3年〜5年という短期サイクルの人事異動では人材育成や技術の継承が図れないことを課題として提起しました。

@ 退職時まで水道事業に在籍して仕事を行う者
A 10年サイクルで異動する者
B 通常のサイクルで異動する者
の三つから職員の希望を募ることにし、組織内にノウハウを蓄積し、かつ、技術の継承を可能とする環境整備を行いました。

 マンネリ化を打破するために、長期にわたって水道事業への在席を希望する者には、技術士や学位の取得、研究機関や企業との共同研究等、自身を高めることを求めます。職員10名に対し、知識や技術の習得等人材育成にかける予算を300万円/年計上しています。やる気のある者は、何度でも専門的な研修を受けることができます。
 水道の持続可能性を創造し、それを実践できる人材を、我が町で育成しようという立派な試みだと思いますね。矢巾町の若い職員が、やたら元気がいいのがわかるような気がします。

 松江市では、水道事業体が市長部局への人事異動が生じない職員を確保するため、事業体単独で職員採用をしています。

6)首長、議会、市民への提案と承認

 アセットマネジメントの実践により施設更新の必要性や中期経営計画の中に更新費用を組み込んだ料金値上げ計画による財源確保の見える化を図り、水道事業体職員間での施設更新の方向性の考え方を共有します。

 次に、この内容を、首長・議会・需要者等の水道関係者に判り易く説明しなくてはなりません。まず、自治体のトップに対してメッセージを伝えていくわけですが、その環境づくりとして、必要ならば、自治体内の財政部局・政策部局との情報の共有を図ります。水道事業の責任者は、水道部局を超えた自治体内部の理解を得ながら、首長に理解と賛同を得る作業を担います。
 料金値上げを伴う場合は、市の広報誌に掲載するとか、各町内に職員が足を運んで、厳しい会計事情や具合の悪い情報・見せたくない情報をありのまま解りやすく説明することで、事業体の提案に理解をいただけるよう働きかけることが重要でしょう。更に、住民と役所との通訳の役目をしていただくファシリテーターの養成も必要です。

 老朽化施設の更新・財源の確保・水道に関する専門的知識や技術の継承方法等、水道事業体の持つ課題を解決するためには、水道事業体が示した今後の方策に対して、首長が了解と判断することが大前提となります。
 この作業を積極的に推進していくリーダーは非常に大切で、小規模水道事業体では水道事業所長や水道課長がこの任を背負います。最良と思える課題解決策を判断する水道事業所長が毎年のように異動していますと、現状を打破するためのハードルを越える判断ができず、課題が先送りになってしまいます。

7)広域連携

ア 都道府県や近隣にある中核事業体の役割

 中小事業体の担当者は、人とお金がない中で、このまま施設の更新をせずに対処療法的な維持管理業務を行い続けていることに危機感を感じています。近隣水道事業体間での職員間の交流が少ないのも、自分に対するプレッシャーとなっています。必要なことは、対応に向けてまず行動に移すことなのですが、頼れる人脈や時間が無いのも現実です。

 そのような状態を察し、仲立ちに立つべきは都道府県や近隣の中核水道事業体と思います。中核となる事業体には、課題解決のための地域の牽引役としての役割を自覚して、近隣の事業体が何をしているのか注意深く見てもらいたいのです。
 地方自治法には、「市町村の行政職員は我が市町の住民の繁栄と幸福に寄与するのが本分」という建前がありますので、他市町村の水道事業を助けること自体が難しいと考えられる方もおられます。水道は地域インフラの要でありますので、隣接自治体の水道の存続が危機に陥っている以上、できる範囲で力になろうと考えてほしいものです。

 規模の大小を問わず、水道事業体が抱えている課題は共通点が多いはずで、単独の事業体では解決できない事象でも、複数の事業体が集まれば解決できる可能性もでてきます。お互いにメリットがある部分から連携を深めれば良いですね。

 都道府県には事業体相互の情報交換の場を設定してもらいたい。技術交流会や水道研修会の開催等を通じて、近隣事業体の悩みを知って、「手助けできることはないか」と考えてあげることが必要です。

 全ての課題を解決する万能薬のような正解は無いと思いますので、地域の状況に見合った手法を、皆で考えていく必要があります。

イ 広域合併

 市町村合併による設備更新の進捗力は非常に大きいものです。市町村の広域合併が実現した場合は、「同じ市民なので」という説明のもとに、水道設備状況の格差の是正がスムーズに進むケースが多いと思えます。設備投資額が高くついても、周辺地域があまりにひどい状況にあるのを放っておけないからです。

 政令市の「給水区域人口密度と配水管100m人口」の図を見て頂くと、政令市は全国平均に比較し人口密度は高いのが一般的です。水道経営効率が一番高い川崎市は人口密度が大阪・東京に次いで高く、配水管100m人口は59.8人となっています。東京都が大阪・川崎市より人口密度も「配水管100m人口」も低いのは、東京23区だけでなく周辺市町の末端まで水道普及率を伸ばそうと努力した結果なのでしょう。
 注目すべきは新潟・岡山市です。2つの要因が全国平均よりも劣っています。水道経営効率は良いとは言えません。これも大きい都市に頼った広域合併をすれば周辺地域も水道サービスの恩恵が得られているという結果でしょう。広域合併を含む広域化が今後の水道行政の在り方のヒントを与えてくれているように思います。

 このため、中核市にとっては、合併は設備投資や維持管理等の重荷を背負うことが多いために、合併に至るまでの交渉は難航するケースが多いのです。立派な水道で料金の高いところと、水道がぼろぼろで料金が安いところの統合は難しいものがあります。

 広域合併を行った場合、給水人口、管路延長、給水面積、浄水場数が増えます。水道施設の維持管理をするうえで、管路や浄水場の運用効率が悪くなります。小規模水道は施設効率が非常に悪い中、大都市より少し高い程度の水道料金を維持しているケースが多いのです。また、必要人員を充当できなかった経緯が多く、管路を適切に管理できていなかった結果、有収率が良くなかったり、図面管理も問題があることが多いのです。このような状況から、北海道内には合併協議が実らず広域化の話が止まっているところがあると聞きます。
 水道施設状況に固執せずに、町づくりという視点で連携する機運を盛り上げ、その中に水道の負担を組み込むような手法も必要なのではないかと思います。

福山市は、平成の大合併で周辺4町と合併しました。維持管理部門の現場から、上記のような問題点が報告され、結果的に、合併地区の全ての浄水場は廃止、配水区域への給水は全て福山市からの幹線管路を敷設して統合しました。合併直後数年間の水道施設投資は合併町関連がほとんどを占めていた記憶があります。
 小規模水道事業体がこのような状況にあったのも、効率化・合理化のもとに人員を削減する一方、水道料金を抑えてきた結果もあると思っています。一定の人材を確保しておかないと、事業を運営する力が無くなっていくということも痛切に感じました。

ウ 広域化の推進

@ 広域化のメリットと問題点

@  メリット
 広域水道に参加できれば、構成団体の首長は水道に関する責任から解放されます。広域水道事業体は個々の行政区域を気にせず最も効率の良い配管ルートを選定できますので、コストを含めた効率的な水道システムの再構築が可能となります。水道施設の運営管理には水道技術管理者や水道施設管理技士(浄水・管路)など様々な資格が必要ですが、共同発注により配置技術者の効率化が図れますし、それぞれの自治体が開発したツールの統合が業務の効率化につながります。広範な区域を管轄することになるので、広域水道事業者職員だけでは対処できないリスクもありますが、大事故や災害が起こることを考慮して、前もって構成団体や管工事組合等と災害時応援連携をとる等の対応も可能となります。

A 問題点と対応策
 ハード面の管路や施設の整備の他に、小規模水道では資産台帳や管路図面の無いところが多くあります。様々なシステムを統合化・共有化するためにもお金がかかります。事業の効率を高めるためには小さい水道を廃止し、大きいところに統合する必要も出てくるでしょう。また、大きい浄水場に一極集中を図れば、災害時のリスクが高まりますので、重要幹線のバックアップ機能を確保する等、安全面の処置も必要となるでしょう。
 広域化の総論は賛成だが、負担金、水道料金の格差、職員の身分保障等、各論反対になるケースが多いのも事実です。

 広域化の推進においては、議会や首長が我が町の水道経営に対する正しい判断を下していただくことが不可欠になります。飲める水の供給を維持するために何が必要かを考え、首長・議会・住民に訴えねばなりません。これらの判断をする水道事業所長が毎年のように異動し、現状を変えるためのハードルを越える判断ができていないのも現実です。

 このため、都道府県や中核となるべき水道事業体のリーダーシップに期待がかかります。広域化の規模としては収入が50〜60億円程度、人材は50〜100人程度の規模が必要という意見もあります。人口密度の小さいところで経営が難しく、職員の技術力にも問題がある事業体に対しては、何らかの手助けは必要です。地域全体のダウンサイジングを視野に入れながらの柔軟な解決策を生み出す発想が欲しいものです。
 広域化による規模の拡大と経営力・技術力に優れた職員の力で、アセットマネジメントによる施設更新の効率化、財政面の不均衡や料金格差の是正を目指した「地域適正料金の確保」、経営監視強化や首長や議会への説明能力の強化を図れる経営能力の向上が可能となるような広域化案の作成を期待します。「現状での個々の事業体の職員数では高度な施設の管理運営ができない」ことを説き、首長や議会の正しい判断を仰ぎたいものです。

A 広域的一括委託

 いきなりの広域統合が難しい場合は、広域的一括委託を検討することも有意義です。個々の事業体のような小さい事業規模だと民間企業が採算上請け負ってくれないケースの業務でも、いくつかの事業体が共同で、施設の運転管理、検針・料金徴収などの業務の共同化を進められれば、民間の参加も可能となります。

<参考6>北奥羽地区水道事業協議会の共同化の取り組み((2017.9.7水道産業新聞)

 北奥羽地区水道事業協議会は、平成20年1月青森県南部と岩手県北部のいわゆる南部地方の22の水道事業体で設立されました。H29年9月時点では青森県南部の八戸市他12水道事業体と岩手県北部の二戸市他9水道事業体の正会員、関連地区の管工事組合や企業など準会員14団体、協力団体1(宮古市水質検査センター)の36事業体・企業・団体により構成されています「広域連携団体」です。

 青森県南と岩手県北の水道事業体では、簡易水道を含む小規模水道は運転管理・維持管理という日常業務面で課題があることに加え、施設整備・更新の費用や人材の確保など、早急な運営基盤整備が求められています。構成団体の多くは職員数10人以下の事業体です。スケールメリットを生かした水道事業運営について具体的に検討することが必要との認識から、以下の4つを基本的な視点として、「できるところからの広域化(共同化)」を目指し、八戸圏域水道事業団が中心となり、共同化に取り組んでいます。

@ 施設の共同化
 施設能力や水源の余剰分の活用を念頭に、共同での施設の利用や更新を実施することで、投資の抑制を図り、不安定水源などの解消を含めた施設の統廃合を図る。

A 水質データ管理の共同化
 協議会員の水道事業体の中には水質検査を外部検査機関に委託していたり、水質管理専任職員を配置している事業体も減少傾向にあることから、八戸圏域水道企業団で水質検査結果のデータベースを構築し、他会員のデータを一元的に管理します。
 八戸以外の会員20事業体の内、14事業体が同企業団と協定を結び、1) 水質データの集中管理と定期的な評価(年1回程度コメントシートの提出)、2) 異常発生時の調査協力と指導・助言、3) 実務担当職員の研修会(年に1〜2回程度) 4) 水質検査受託機関の研修会 を行います。

B 施設管理の共同化・共同発注(設備台帳システム、保守点検業務の一括委託)
 施設台帳の整理や施設管理の一括発注により効率的な維持管理を行い、設備の機能維持に加え、コスト削減も視野に共同化を図る。

C システムの共同化(管路情報システム、料金管理システム、財務会計システム)
 料金システム、管路情報システム、財務会計システムにより共同の運営・管理を図ることで、業務の平準化と共に業務の効率化とコスト削減を目指す。

 ハードの結合はできるところから取り組み、まずは、ソフトの問題から共同化し、効率的に水道事業運営していくために、行政の枠を超えて考えようという取り組みです。課題ごとに、関係自治体の現場レベルで専門部会を設置し、今できることを進めながら、将来ビジョンやスケジュールを描いたロードマップを作り、次のステップに進むのでしょうH29年の研修会では、「平成28年度の集計結果にみる水質管理における注意点」が話されたそうです。

<参考7>鳴門市・北島町の浄水場共同化(2017.8.21日本水道新聞他)(2017.8.21日本水道新聞他)

 徳島県鳴門市と北島町は老朽化したそれぞれの浄水場を統合し、共同で更新や運転・維持管理を行います。

 共同化の対象となるのは、鳴門市浄水場(56850m3/日:高速凝集沈殿+急速濾過)と北島町浄水場(15000 m3/日:凝集沈殿+急速濾過)で、いずれも旧吉野川の表流水を原水とし、北島町内の川を挟んだ対岸に位置しています。このような関係から、浄水場の運転・維持管理に関する情報交換や、原水の水質検査を共有するなどの連携を図っていました。

 両浄水場共に老朽化や巨大地震対策が課題であり、両市町による「鳴門市・北島町水道事業広域化協議会設立準備会」において、浄水場の整備費用などを総合的に比較検討した結果、鳴門市浄水場の敷地内に共同浄水場の整備・共同化が双方にとって有効であるとの結論を得ました。

 平成30年度末までの基本計画策定を目指し、共同浄水場の基本設計、建設に係る費用負担割合を検討します。2017年度中に基本設計、PFI・DB・DBOという官民連携手法についての導入可能性調査、整備基本計画の策定を業務委託する予定です。

B 官官委託

 近隣のある程度規模の大きい事業体に業務委託をお願いするという官官委託を検討する際、業務コストと業務水準が異なっていて、断られるケースがあります。中小事業体が安いコストで低い水準の管理を行っている場合、その値段で、大規模事業体と同等の管理を行おうとすると、大規模事業体の持ち出しとなってしまうのです。そこまでして他事業体の面倒を見ようとする事業体は少ないかもしれません。

<参考8>奈良県川西町の県用水受水に伴う直結給水(2017.8.3日本水道新聞)

 奈良県は、県営水道と市町村水道を一体と捉え、県域全体で資産最適化を図る「県域水道ファシリティマネジメント」を実施していますが、その具体化として、奈良県水道局から受水を受けている川西町の水道管を、2017.6.15に直接接続し、県水道の持つ直圧エネルギー(水圧)を利用して配水する「直結給水」に切り替えました。

 川西町は、浄水場に隣接する配水池で県水を受水し、ポンプ場から配水していました。老朽化していた浄水場、配水池、配水ポンプ施設を廃止し、従来は40%でした県水の受水量を全量に引き上げると同時に、県水と川西町の管を直接接続し、県水の水圧を利用して配水する「直結配水」に変更しました。
 これにより、同町の施設更新費用を削減できるだけでなく、直結給水化することによりポンプ動力費も削減できます。奈良県は、配水ポンプに代わって減圧弁を設置し、水圧調整をします。

<参考9>東京都・横浜市・川崎市による事業体への支援(2017.2.20水道産業新聞)

 東京都水道局、横浜市水道局、川崎市上下水道局は2017.1.20に「国内水道事業体に対する支援事業に関する覚書」を締結しました。将来にわたり持続可能な水道事業の構築に向け、広域化等経営基盤の強化に資する支援を実施していくことが目的です。日本水道協会関東地方支部内の水道事業体からの支援要請を受けて、首都圏水道事業体に対し、覚書は広域化などの事業の基盤強化に向けた支援を試行実施するための在り方をまとめたものです。事業実施は2017年4月1日からです。

 具体的な実施内容は以下の通りです。
@ 3事業体側から支援を押し付けるのではなく、水道事業体からの要請に基づき、支援を実施します。
支援要請の受付窓口となる「国内貢献プラットフォーム」を3事業体内で設置し、相談を一括して受け付けます。当面の間、窓口は東京都が行います。
A プラットフォーム内で各事業体の特性や得意分野に応じて案件を調整し、振り分けます。3事業体がそれぞれの特性や得意分野に応じて役割分担するからです。
B 3事業体は振り分けられた案件ごとに、要請元の水道事業体への相談対応や支援を行います。
C 各事業体が実施した支援内容を共有・検証し、支援メニューのブラッシュアップに向けた協議や検討を行います。支援を実施して終わりにするのではなく、支援実績をフィードバックの上、さらに充実した支援提供に向けた検討へと繋げます。
D 日水協と連携し、関東地方支部だけでなく全国の水道事業体に情報発信します。

 東京都水道局は多摩地域の統合で培った広域化のノウハウ、横浜市水道局はPFI事業で実施した川井浄水場再整備に象徴される公民連携の実績、川崎市には長沢浄水場を核に浄水施設を再編・集約して水道システムのダウンサイジングを実現した経験を有していて、それぞれ固有のノウハウ・技術に加え、水道事業で育んだ実力を踏まえての有効なサポートが期待できます。

 全国にこのような流れが波及していくことを期待したいですね。 

<参考10>長野県企業局による水道事業の代替執行(2017.6.12日本水道新聞)

 長野県企業局は、H26年7月に南木曽町で土石流災害が発生し、災害復旧支援のために長野県企業局職員を2か月半にわたり派遣した際、小規模町村における水道事業の実情を目の当たりにしました。同時期に地方紙で天龍村における水道施設整備と維持管理の困難な状況が掲載されたことを契機に、過疎自治体の支援方策の検討に着手しました。

 天龍村の給水人口は1300人、老年人口が6割と県内で最も高く、大部分の地区が管路耐震化率0%であり、支援対象と設定しました。当初は企業局が企業債を発行して資金調達をすることを考えましたが、H26年11月施行の改正地方自治法で創設された事務の代替執行制度を活用し、2017年4月から天龍村の鶯巣簡易水道における管路更新事業の支援を決定しました。
 
 事務の代替執行は、普通地方公共団体(長野県)が他の普通地方公共団体(天龍村)の求めに応じて、協議により規約を定め、県が村の事務の一部を村の名で管理・執行できるものです。地方自治法の「事務の委託」と異なり、事務の権限が村に残り、村の基準に基づき県が事務処理を行うことができ、村議会の監督も及びます。

 H28年10月に、天龍村が長野県に事務の代執行を要請し、県と村は規約を協議する議案をそれぞれの12月議会に提出・議決した後、両者で規約を協議し、村の簡易水道に係る事務を県が代替執行すること、代替執行する事務内容、開始時期などについて合意し、調印しました。その後、県が代替執行する旨と規約の告示を行い、総務大臣に届出し、それぞれの3月議会における関連予算案の提出・議決を経て、2017年4月から代替執行を開始しました。
 県が代替執行を行う範囲は、鶯巣簡易水道再編(推進)事業に係る事務の内、設計積算、補助金、工事監督、関係機関との調整に関することです。
天龍村は、施工業者の選定、工事の発注、契約・給付完了検査、工事代金の支払い、起債の借入・償還、地元との連絡調整です。

 この事業は国庫補助を活用し、H29年度から3年間で2.9Kmの管路を整備します。県は土木職員1名を県発電管理事務所に配置、事務所業務を行いながら天龍村事業に対応します。県は地域貢献と人材育成が主な目的であり、今回は委託費などを徴収しないとしています。このため、天龍村にとっては設計積算委託費、補助申請に係る経費など約390万円の費用削減が見込まれています。県は山間僻地における管路設計積算に関するノウハウを習得し、大規模災害時における支援体制の強化につなげたいとしています。

8)官民連携

ア 人材確保(2018.5.21水道産業新聞)

 将来、水道事業体は資金的に生き詰まるので、広域化・官民連携に進まざるを得ないという見解が一般的ですが、実際は、人材確保ができないから、直営作業を諦めて、やむなく包括委託をするという事例が圧倒的に多いという意見があります。

 水道の会計は地方公共団体の普通会計とは独立した特別会計です。しかも水道事業は装置産業ですので保守点検維持管理を先延ばしにすれば、当面の業務は繰り延べできるという特性があります。市町村の一般部局よりは人員削減の効果が見えやすい部署とも言え、人員削減を積極的に実施した結果、人がいなくなったという実態があります。

 総務省の公務員定員管理統計(平成30年3月)では、普通会計部局の平成6年から平成29年までの人員削減率が16.5%であるのに対し、水道会計部局は38.5%の削減率です。これは全国平均値ですから、この間に削減率が7割を上回る事業体もあったはずです。
 水道技術者が削減され、水道の原理・配置・構造・維持管理の知識を有する職員がいなくなってきました。水道創設期に活躍したベテラン職員のほとんどが定年退職したことも響いています。

 この結果、普段の維持管理・運転管理をする職員もいなくなっていますので、外見上は「経費削減」の旗のもと、包括委託・長期委託の方向に向かっています。

 包括委託が進めば進むほど「人材不足」は加速され、人は減らされ続けるという悪循環に陥っています。この状態は、次の包括委託発注の時に、委託業務の中身を把握する発注側の職員がいなくなる問題が生じます。水道業務に不慣れな職員が担当すると、業務の緊急度や重要性を考慮することなく、総額で委託額を決める傾向が強くなります。また、発注業務の進捗を監視・モニタリングできる人材もいなくなります。

 水道事業の持続には人材が必要なので、人材不足の問題を打破するためにしっかりした人材を持つ中規模以上の事業体を核とした広域化が選定されている状況にあります。

イ 契約問題

@ 請負契約と委託契約

 地方公共団体の契約行為は請負契約と委託契約があります。

 請負契約(工事契約など成果品を伴うもの、民法第632条)については、ダンピング予防のために最低制限価格などを設けているのが一般的です。

 委託契約(役務提供などの契約、民法第656条による「準委任」相当)については、実質底値なしの価格競争となっていて、価格が低ければ受託できる環境にあります。過剰な価格競争の結果、適正価格と大きくかい離した委託契約も多くあります。下限が無いことにより、発注者側にも「安ければ良い」という風潮があります。委託契約においても品質確保のための下限価格の設定が必要でしょう。

 請負契約では、契約期間は成果品の完成に必要な期間から設定されます。しかし、委託契約については、契約期間をどの程度に設定するかの明確な根拠がありません。
 通常、地方公共団体の予算は単年度主義ですので1年を契約期間としている委託契約が多いのです。複数の業務を一括して発注する包括委託業務は3〜5年の契約が多いのですが、期間設定の根拠についてはあいまいです。
 民においては、3〜5年の受託期間で次期の業務委託の保証がない中では、新規に社員を採用する余裕は無くなり、人材育成に費用を投じることも難しくなります。本来は、運転維持管理業務についても適正な利潤を確保しつつ、次期契約受託の見通しのある契約形態が望ましいのですが。

A 契約期間

 官が技術の継承ができない場合は、危機管理や災害対応を含め、民が受け皿となって継承していくことになります。官には退職後65歳まで再雇用する再任用制度がありますが、水道職員の多くが50代であり、今後定年退職者が増加しますが、全ての職員が職場に残るわけでもありませんので、この穴埋めをするのは民ということになります。
 このため、民は技術者を新たに養成・確保しなくてはなりませんが、民は市場規模に見合った投資を行うのが原則です。技術者の育成には時間を要します。施設の状態を確認するだけでも1年はかかるといわれています。そのため、民としては、契約期間が短く、引き続いて契約更新してもらえるかどうか見通せないと、人材育成のための投資はできません。採算確保が疑わしい案件は受注できないのです。

 官としては、「公平公正」が基本なので、民の要求に対して非常に難しい対応となりますが、民の実情を踏まえて、発注者が発注ロットと契約期間という「事業量」をハッキリ示す必要があります。官が自らの現状と課題を整理したうえで、将来像を検討しておき、それを踏まえた受注可能な民間委託案件となるよう検討して欲しいのです。

 民では、新しく請け負った水道施設には他事業体の浄水場で管理を携わった経験者を配置するよう配慮されているそうですが、今後水道運営委託の仕事が増えてきますと、全ての施設でのこのような対応は難しくなります。人材育成に時間がかかる分、契約年数を長くして、安心して働くことができる環境整備が必要となります。

 水道運営管理協会の委託内容データでは、単年度契約が36%、3年契約が40%、5年が15%、5年以上は4%であり、3年契約の多くはプロポーザル方式での選定とのことです。プロポーザル方式の発注には、約2年間の準備期間と発注事務を行う時間が必要ですから、民としては、3年契約ではあまりメリットがないのです。「人を育てる」、「技術や暗黙知を継承する」という視点を踏まえ、契約年数を考えてもらいたいというのが民の意見です。

B 単価と発注ロット

@ 単価
  民間委託が始まった当初は、民も受注実績が必要なため、大幅なダンピングをしてでも受注にこぎつけていた時代がありました。この結果、「民に委託すればコストダウンにつながる」という期待が官に生まれてきたことも事実です。しかし、「採算が確保できない案件は受注できない」というのが民の原則です。民に委託すればコスト縮減になる時代は終わりました。建設現場の普通作業員(17400円)と同じ金額で、良い水道技術者が育つのでしょうか?水道技術管理者の資格取得には100万円/人かかります。安心して民間企業に水道事業を任すためには、民間企業内で人材育成が行われる環境を整えてあげる必要性もあります。民間委託はコストを主眼に置くのではなく、技術力を有する民間企業を見つけようとする努力が必要です。

A 発注ロット
 発注ロットが小さければ民は採算が取れません。一事業体で「人・モノ・カネ」を確保しようとすると、ある程度大きな事業規模が必要になるでしょう。一定規模以下の事業体は様々な形態で広域連携を模索していかないと民の受注が得られない恐れがあります。小規模な事業体が散在している地域では打つ手がない状況になりますので、広域化により規模を拡大して民の採算が見込まれる官民連携の構築が不可欠の条件となります。

 地域に基幹都市があって、そこに小規模水道を統合する水道企業団のような形態を構築できれば、第3者委託といった施策も可能となります。中核となる事業体はノウハウや専門知識を周辺地域の事業体と共有し、周辺地域の水道サービスを向上させていく意識が必要です。例えば、5~10年スパンで複数の事業体が業務を標準化して民間委託がスムーズに進められるような下地を作っていくという努力が望まれます。

ウ 民の創意工夫の発揮

 民と協同で水道事業を効率的に運用していくためには、民間の資金や技術力を活用していかざるを得ません。民の創意工夫を十分に発揮してもらうために、仕様書での必要人員の設定や作業手順の義務付け等、民の創意工夫が発揮しにくくなるようなルール設定は必要最小限にし、「官が望む管理レベル以上の業務が発揮できれば、民の行う管理の形態にはあまりこだわらない」という配慮をすべきです。官民がお互いに水道事業を進めるパートナーと認め、現状と課題を認識したうえでより優れた進むべき方向性を探っていくことが望まれます。

 水道事業の委託化は地元の就業機会を作れる機会でもあります。地元に根差した人達にきっちり水道の仕事をしていただき、良い仕事をしてくれた人は水道の仕事でちゃんと生活していけるシステム・制度を作っていければ良いと思います。

エ 委託業務のモニタリング

 モニタリングは民が請け負った業務の実行内容を客観的に評価するシステムです。モニタリングは水準通りか否かを評価するだけではなく、水準以上のことをきちんと評価する必要があります。委託受注が価格競争に陥ることを防ぐために、モニタリングの結果が良好だった場合は、インセンティブを与えることも重要です。また、モニタリングは官にとってコストアップの一因になりますので、必要最小限に留める工夫も必要です。

 小規模事業体では直営でモニタリングを行うのは難しいので、民に自らの業務が適正かどうかを自己評価させる、いわゆるセルフモニタリングを行うケースも報告されています。ただし、委託から5年も経つと、自己評価システムが形骸化しつつあり、同じような文書が上がってきているという問題も指摘されています。絶えず評価のポイントを変えて緊張感を保つ手法を考える必要があります。

 一方、官民が情報を共有できるマネジメントを実践できれば、いつまでもモニタリングをする必要はないという意見もあります。

オ 官民連携手法(PPP)

 官民が連携して公共サービスの提供を行うスキームをPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携、官民連携)と呼びます。

 代表的な官民連携手法としては、事業期間、業務委託範囲、民間事業者裁量の拡大の程度によって、個別(業務)委託、包括的民間委託、DBO(Design,Build,Operation)型業務委託、PFI事業、コンセッション方式等が考えられます。他に、指定管理者制度や市場化テスト等も含まれます。

@ 個別業務委託

 地方自治体が主体的に運営する水道業務において、定形的な業務(検針業務など)、民間事業者の専門知識や技能を要する業務(電気計装関係の保守業務など)、付随的な業務(事務所の清掃作業、草刈りなど)の一部を民間事業者に外注することを指します。
 個別業務委託は、水道事業者である地方自治体の管理下で業務の一部を委託するものであるため、水道法上の責任は全て地方自治体が負うことになります。また、契約年数も単年度が大半で1年ごとに更新していくことが一般的です。

A 包括的民間委託 

 水道業務を包括的かつ複数年にわたって業務委託する形式を指します。具体的な業務として、浄水場の運転管理・巡回・保守点検・修繕やメーター検針・料金徴収業務などが挙げられます。契約期間は3年〜5年が多いです。一般的には、第三者委託制度と抱き合せて発注されることが多くなっています。

B DBO型業務委託

 DBOは「設計(Design),建設(Build)、運営(Operate)」を略した名称です。DBO型業務委託では、浄水場などの施設の一部新設又は大改修をする際に、当該浄水場の設計、建設、運転管理、修繕等の業務を一括でパッケージにし、長期間にわたって民間事業者(単独又は複数)に委託する形式を指します。設計・建設・運転管理とそれぞれの段階で個別に入札を行う必要がないことから、行政コストも削減することができます。また、実際に設計段階から建設・運転管理の段階までを踏まえた最適な提案をされることが期待でき、トータルコストが下がる可能性もあります。契約期間は、10年〜30年と長期にわたることが一般的です。

C PFI事業

 サッチャー政権以降の英国で「小さな政府」への取り組みの中から、公共サービスの提供に民間の資金やノウハウを活用しようとする考え方で、「小さな政府」や「民営化」等行政・財政改革の流れの一つとして捉えられるものです。
 浄水場などの公共施設を新設する際に、設計・建設・維持管理・修繕等の業務について、民間事業者の資金とノウハウを活用して包括的に委託する形式を指します。DBO型業務委託と同様に、契約期間は10年〜30年と長期にわたることが一般的です。

 VFM (ヴァリュー・フォー・マネー)はPFIの基本原則で、一定の支払に対し、最も価値の高いサービスを提供するという考え方です。PFI事業による公共サービスの提供は長期にわたるものであり、建設費に加えて、事業が開始された後の維持・管理、その事業内容のモニタリングといったものが、VFMを計る大きな要素となり重視しなければならないでしょう。

 PFIの事業形態には、「サービス購入型」と「独立採算型」、その中間である「混合(ジョイントベンチャー)型」と3種類あります。
a 「サービス購入型」
 発注者が事業期間にわたって、民間事業者に対してサービス対価を支払う方法。民間事業者は自ら調達した資金(銀行からの融資など)で施設を新設し、その後長期間にわたって管理し、発注者である公的機関から事業期間にわたって定額の業務委託料を受け取る。発注者は、施設の建設費用を一度に拠出することなく、事業期間にわたって割賦払いし平準化することが可能となる。

b 「独立採算型」
 民間事業者が利用料金を直接収受し、利用料金収入のみで費用と利益を回収する方法。従来の独立採算型では、建設費用などまとまった資金を工面できなかったため、既存の公民館やスポーツセンターの運営等、大掛かりな投資を伴わないものが多い。

c 「ジョイント・ベンチャー型」
 基本的には独立採算型であるものの、公的支援制度を活用するなどして一部施設を整備する方法。

 上記の3類型のうち日本の水道事業に適用された例はこれまで「サービス購入型」のみとなっています。

D コンセッション方式(2016.9.26水道産業新聞他)

 コンセッション方式とは、高速道路、空港、上下水道などの料金徴収を伴う公共施設などについて、施設の所有権を発注者(公的機関)に残したまま、運営を特別目的会社として設立される民間事業者(以下、SPC)が行うスキームを指します。SPCは、公共施設利用者などからの利用料金を直接受け取り、運営に係る費用を回収するいわゆる「独立採算型」で事業を行う事になります。

 「独立採算型」事業では、SPCが収入と費用に対して責任を持ち、ある程度自由に経営を行うことができます。例えば、利用者の数を増やすことによる収入の増加や、逆に経営の効率化による運営費用の削減といった創意工夫をすることで、事業の利益率を向上させることが可能です。

 コンセッション方式と他の官民連携手法と最も大きく異なる点は、コンセッション方式では「事業の経営主体」が民間事業者となるのに対し、それ以外の方式では公的機関(水道事業であれば、水道事業者)が経営主体となります。 経営主体となることは、当該事業に対する最終的な経営責任を持ち、重要な方針、計画や施策の決定権を持つことを意味しますので、コンセッション方式においては、当該事業における民間事業者の責任と経営の自由度が大きく増すことになります。

a コンセッションの事業スキーム

1. 発注者(地方自治体)とSPCとの関係
 コンセッション方式を事業に適用した場合、まず発注者とSPCがコンセッション契約を締結します。コンセッション契約では、両者間で事業期間、SPCに委託する事業範囲、SPCが公的機関に対して支払うコンセッションフィー(運営権対価)の金額、利用料金の設定に関する制限(上限金額など)などについて取り決めます。
 事業期間は通常20年〜30年程度が多いようです。また、コンセッションフィー(運営権対価)の金額の決定方法については、事業期間内に当該事業から見込まれる料金収入から運営費用を控除した金額の現在価値相当とすることが一般的です。コンセッション方式が適用される事業は公共施設となりますので、SPCの選定は入札で行われます。

2. 出資者とSPCとの関係
 発注者とSPCがコンセッション契約を締結しますが、SPCは、事業主体である株主が発注者とコンセッション契約を締結し、事業を運営していくことだけを目的として設立している特別目的会社です。このような観点において、「出資者こそがコンセッション事業の民間側の事業主体である。」といえます。
 出資者は、運転資金やコンセッションフィー(運営権対価)の支払いに必要な資金を出資金という形で、SPCに対して資金提供し、事業開始後、毎年得られる料金収入の中から配当を受け取ります。出資者が複数いる場合には、投資家間で株主間協定を締結し、会社運営のルールを定めることになります。

3. 金融機関とSPCとの関係
 SPCは、運転資金やコンセッションフィー(運営権対価)に株主からの出資金を充てますが、必要な初期費用は巨額になることが多いため、全てを出資金で賄うことはできません。そのため、SPCは金融機関と融資契約を結び、融資を受けることになります。
 コンセッション方式のような独立採算型の事業については、当該事業の料金収入のみを担保に融資を行うプロジェクト・ファイナンスという形式が一般的です。プロジェクト・ファイナンスでは、料金収入が減り、融資をスケジュール通りに返済をすることが出来なった場合でも、株主に対して責任が遡及されることはありません(一方、事業がうまく行かなかった場合には、出資者に代わって金融機関が事業を継承します)。

4. 利用者(住民・企業)とSPCとの関係
 SPCは、サービスの受益者(利用者)と直接契約を結び、提供したサービスの対価として料金を直接受け取ります。水道事業の場合は地方自治体ごとに給水条例が制定されており、水道事業者と住民が給水契約を締結しています。コンセッション方式を適用した場合は、この給水条例を一旦破棄し、新たな給水条例を制定の上、SPCと住民の間で直接給水契約を締結することになると見込まれます。

5. 外注先(運営会社、運転維持・管理会社、設計・建設会社)とSPCとの関係
 SPCは、事業運営にあたって必要な業務を適宜外注することが見込まれます。出資者が当該事業に精通した事業会社である場合には、従業員をSPCに対して出向させることで、様々な業務を内製化することができるでしょう。しかし、ファンドといった金融機関が出資者である場合には、主要な業務は外注することになると思われます。
 水道事業の場合は、SPCの業務範囲に、水道施設(水道管含む)の運転・維持管理や料金徴収業務のみならず、水道施設の大規模改修や管路の延長等資本的支出に係る業務まで含まれる可能性があり、外注内容は多岐に渡ることが予想されます。

b 公的機関(官)側のメリット

1. 運営権の売却による既存債務を削減することが可能
 コンセッション方式を適用する場合、公的機関(発注者)は民間事業者(受注者)に対して「運営権」を売却します(民間事業者側の立場に立てば、民間事業者は公的機関が所有する施設を利用して事業を運営する権利を公的機関に付与してもらう見返りとして、「運営権対価」を公的機関に支払うことになります)。そのため、公的機関は運営権の売却資金を原資に、当該事業に係る既存の債務(地方債や企業債)を圧縮することができます。

2. 財政負担なく、水道事業を運営することが可能に
 コンセッション事業は、民間事業者にマーケット・リスクをとらせ、独立採算の原則のもとで事業を運営させる手法です。そのため、公的機関による財政負担なく事業を運営することが可能になります。例えば、水道事業では公営企業会計のもと独立採算制を敷いていますが、現在でも「水源の開発費用」、「浄水場への高度処理施設の導入」、「広域化」などの事業に対しては、一部国庫補助金や一般会計からの繰入金などが補填されています。コンセッション方式を導入した場合は、一部民間事業者が負えない業務やリスクについて公的資金を補填する必要性が生じる可能性はありますが、こうした補助金や繰入金については現状より削減されると見込まれます。

3. 自らの関与を確保しつつ、民間事業者のノウハウの導入による効率化が可能に
 コンセッション方式を導入した場合、当該事業の運営方法は民間事業者に任されるため、民間事業者のノウハウを活かしたサービスの向上や事業の効率化を図るための施策が導入されることが期待されます。水道事業でいえば、クラウド・コンピューティング技術などのICTを利用した監視・制御システムの設備投資額の抑制などが挙げられるでしょう。
 こうした民間事業者の創意工夫といったメリットを享受しながら、公的機関も事業経営に対して一定の関与を確保することができるため、民間事業者による過度の効率化による利用者のサービスの質の低下といった事態を抑制することが出来ます。コンセッション方式では、公的機関が利用料金の設定などに対して一定の制限をつけることが可能です。

4. マーケット・リスクの移転が可能に
 コンセッション事業は民間事業者に独立採算の原則のもとで事業運営をさせる手法となります。このため、民間事業者は原則として、収入の増減(マーケットリスク)に対しても責任を負うことになります。水道事業では「人口減少」「代替水源の利用(地下水、湧水など)」「サービスの多様化(ペットボトル飲料水、飲料水の宅配サービスの登場)」等により、水道料金収入が長期的に減少傾向にあることもふまえると、マーケット・リスクを民間事業者に移転させることができる点は、大きなメリットの一つといえるでしょう。

c. 民間事業者側のメリット

1. 自らの創意工夫を持って料金収入を伴う公共施設の運営を行うことが可能に
 コンセッション方式の制度誕生によって、民間事業者は、自らの創意工夫と責任のもとで料金収入を伴う公共施設の運営に参画することができるようになります。従来の方式では、あくまでも公的機関が運用する公共施設の運営事業の一部業務を受けることしかできませんでした。民間事業者にとって「公共施設の運営事業」という新たな市場が誕生したといえます。国土交通省によれば日本の社会資本額は2009年時点で768兆円あると推計されており、今後更新されていく社会資本の一部にコンセッション方式が適用されるだけでも、大きな市場となることが予想されます。

2. 運営権を担保とした資金調達が可能に
 コンセッション方式では、公共施設等の事業を運営する権利を「運営権」として、無形固定資産化することができるようになります。そのため、「運営権」を担保として銀行や証券市場から資金調達を行うことが可能となります。これまで、民間事業者が公的機関の所有物(公物)を担保に資金調達を行うことはできませんでした。しかし、民間事業者が公的機関にかわって事業の運営主体になると、運転管理やメンテナンスといったオペレーションだけでなく、設備の更新や改修といった資本投資も必要になってきます。今回、「運営権」というソフトな権利を無形固定資産化とすることが可能になり、はじめて「公的機関による所有」と「民間事業者による運営」を両立した上下分離型の事業が可能となったのです。

d コンセッション方式が採用されてこなかった理由

 コンセッション方式は平成28年度までは採用されておりません。その理由として、
イ 災害対応時など責任の一部が地方公共団体に残る場合があることが想定されますが、現行の水道法は、認可を取得した運営権者に全責任がかかることになり、実態と水道法上の責任が合っていない。
ロ 運営権者が事業継続できなかった場合、地方公共団体が最終的な責任を果たせない懸念がある。
ハ 地方公共団体が認可を持っておらず、水道法上の責任を持つ根拠がないこと。
等が指摘されています。

 民間事業者と地方公共団体との権利・義務関係を明確化して、双方の不安を取り除く必要があります。

e コンセッション運営権者の費用負担の平準化と減価償却費の徴収(2017.1.19日本水道新聞)

 水道事業者が公共施設等の建設等に係る費用を負担した場合、運営権を設定しなければ当該費用を料金収入で賄うことができていますが、運営権を民間企業に設定した場合は、料金が運営権者の収入となり、当該費用を料金収入で賄うことができなくなります

 もう一点、コンセッション制度を利用して民間業者が水道事業を実施する場合、契約期間の満了時までに負担する減価償却費(更新投資にかかる費用)が、事業期間後期に向けて逓増するため、事業期間後期に赤字経営となるという構造的な課題やコスト増が水道料金に反映されるため、事業期間中における水道料金が安定しないという問題が想定されます。

 地方公共団体が運営権設定前に負担した建設費等について、PFI法第20条(費用の聴収)「公共施設等の管理者(以下は管理者と記す)は、実施方針に従い、公共施設等の運営権者から、当該施設の建設、製造、修繕に要した費用に相当する金額の全部または一部を徴収することができる」という規定に基づき、施設減価償却費を徴収できるようにしました。
 公共施設等の建設等に係る費用について、PFI法第20条に基づく費用徴収により賄うか、運営権対価に含めるのか否かについては、管理者と運営権者との合意に基づくものであり、実施方針や実施契約に従って決定されるものとしています。

 運営権者の費用負担の平準化策として、費用計上時期の考え方を示しました。
1) 既に事業期間中の年度ごとに管理者が請求する金額を、そのたびに運営権者が支払う場合、建設費等負担金は運営権者の各事業年度の損金に算入できる。

2) 運営権者が一括払いを行い、管理者からの請求の際に年度ごとの負担額が確定される場合も、支払い方法を問わず管理者から請求があった日の属する事業年度の損金に算入する。
 減価償却費を一括支払いする場合、減価償却費そのものは運営権対価に含まれるものの、運営権対価は無形固定資産のため定額償却する必要があります。事業期前半は更新投資に係る償却費が少ないため利益が多くなり、税として徴収されてしまいます。公営企業のままの場合なら利益をプールできて更新投資に活用可能な財源が、民間活用すると税として流出することを回避できるよう、PFI第20条を活用して対応しようとする考えです。

f 工業用水道のコンセッション

 需要の減少による工業用水道事業収入の減少や、老朽化に伴う施設更新需要の増大など、工業用水道事業も運営基盤の強化策の一つとして、コンセッション方式の導入が期待されています。
 経済産業省は、工業用水道事業へのコンセッション方式導入に向けて「工業用水道事業法施行規則」、「工業用水道料金算定要領」、「工業用事業法に基づく通商産業大臣の処分に係る審査基準等」について、2017.3.31付で2点ほど改正しました。

@ 事業法上の手続き

工業用水道事業法では、工業用水道事業者(以後「事業者」)とは「一般の需要に応じて工業用水を供給する事業を営む者」と規定し、配水施設から受水企業への給水義務を負う者と言う解釈です。
 事業者が地方公共団体の場合は「届出制」、「地方公共団体以外の者」は「許可制」と手続きが異なっています。

 しかし、コンセッション方式の運営権設定には様々な形態が考えられ、事業者である「一般の需要に応じて工業用水を供給する事業を営む者」が地方公共団体か運営権者なのかが問題となります。

 事業者が地方公共団体である場合は添付書類として、また、事業者が運営権者である場合は許可申請書の添付書類として、いずれの場合も「公共施設等運営権実施契約書の写」を添付することとしました。
 運営権者と地方公共団体との責任分担について国が確認する観点から、運営権者許可申請を行って事業者となる場合だけでなく、地方公共団体が引き続き事業者として供給規定を変更する場合の添付書類等に、「公共施設等運営権実施契約書の写」を追加したのです。運営権者の負担軽減の観点から「写」で代用できることとしています。

基本的に、以下の3ケースが考えられます。

CASE1配水施設を含むすべての施設を運営権者が運営する場合
 事業者が運営権者になりますので、許可が必要です

CASE2:配水施設を運営権者が運営し、その他施設を地方公共団体が運営する場合
 ケース1と同様、事業者が運営権者となりますので許可が必要です。地方公共団体が取水から送水までの卸供給をし、運営権者が配水施設から需要者への供給を担う場合でしょうが、事業者は運営権者になります。 そのため、運営権者が許可申請をし、許可を得たうえで事業者となります。
 地方公共団体は将来において事業を再開することが予想されますので、「休止」と整理し、届出が必要としています。

CASE3:地方公共団体が引き続き工業用水を供給する事業を営み、利用料金を自らの収入として収受し、運営権者は地方公共団体が工業用水道事業法の責任を担う範囲内で施設の運営を行い、利用料金の一部を自らの収入として収受する場合
 事業者は地方公共団体となるので、運営権者が許可を取る必要はありません。ただし、地方公共団体は供給規定に「運営権者が運営事業の対価として利用料金の一部を自らの収入として収受する権利を有する」旨を明記し、変更届出を行うこととしました。

A 料金算定要領の改訂

 民間企業が参入する場合の総括原価の費目として、法人税などの租税課金と配当金を追加しました。

2015.03.14 初版
2020.08.04 内容を総合的に見直し、校正する
2020.08.07