水道のデジタル化

2020.12.14

菅政府が生活インフラのデジタル化を促す(2020.12.1日本経済新聞)

 地域は人口減少と老朽インフラの更新という2つの課題に直面しています。地方の過疎化の中で生活インフラを維持していくには、新たな技術を活用し、事業の効率化を図ることが欠かせません。菅政権は水道など地域住民生活に密接に関わるインフラのデジタル化を促します。地域インフラの更新投資の際に、保守管理の自動化や需要データを使った効率的な運用を可能にする仕組みの導入を後押し、長期的に上昇が懸念される料金やコストの抑制を目指します。

 水道事業は事業者数が約1300ありますが、給水人口が10万人以上の事業体は18%程で、小規模な市町村運営が大多数の状況です。約68万Kmの布設延長をもつ水道インフラのうち、今後20年間で法定耐用年数を超えるものが23%に上り、一気に更新を迫られる状況にあります。日本政策投資銀行の試算によると、水道事業が経常利益を確保するには2021年度から年1.7%〜2.1%の値上げを継続し、2046年度迄に累計60%引き上げる必要があるとしています。2018年に改正水道法で水道事業への民間参入を促しましたが、システムの老朽化を解消し得る程の効果は期待しにくい状況にあります。

 水道事業は市町村が個別に維持管理し、人材育成・運用管理システム開発・施設運用に無駄が生じがちな面があり、政府は自治体のシステム標準化を水道事業効率化の第一歩と考えています

 まず、水道事業を対象に、都道府県に対して2022年度迄にシステムの標準化によるコスト削減効果や今後の推進方針を示すよう要請します。地方自治法に基づいて都道府県が作成する「水道広域化推進プラン」に、削減効果の試算などを盛るように求めています。政府は地方交付税の優遇措置も活用して、自治体の取り組みを支援します。2020年中に検討状況を聞き取り公表します。

 2020年度に経済産業・厚労省の主導で管理システム間のデータ連携が可能となる「標準プラットフォーム」を公表しました。2020年3月までに7事業者の参入が見込まれています。天気や人口による水需要関連データを共有し、需要予測の精度を高めれば、水供給が効率化できます。人工知能(AI)を使った自動監視など最新技術の導入もコスト改善が期待できるため、「水道技術研究センター」でさらに高度なデジタル技術の導入を研究しています。

 厚労省調査では、管路の構造や位置などの水道施設データを検索できる仕組みは4割の事業体で整理が不十分で、現状ではデジタル化の遅れが目立っています。新たな基盤整備を進めるためには、仕様の標準化などを通した広域連携の推進がこれまで以上に必要となってきます。

2020.12.15

人間中心の社会(超スマート社会)Society5.0(内閣府HP)

1)Society 5.0とは

 狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)の次の、第5期科学技術基本計画において発表された我が国が目指すべき未来社会のこと。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society5.0)です。

 これまでの情報社会(Society 4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありました。人が行う能力に限界があるため、あふれる情報から必要な情報を見つけて分析する作業が負担であったり、年齢や障害などによる労働や行動範囲に制約がありました。また、少子高齢化や地方の過疎化などの課題に対して様々な制約があり、十分に対応することが困難でした。

 Society 5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。

2)Society 5.0のしくみ

 これまでの情報社会(Society 4.0)では、人がサイバー空間に存在するクラウドサービス(データベース)にインターネットを経由してアクセスして、情報やデータを入手し、分析を行ってきました

 Society 5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより実現します。Society 5.0では、フィジカル空間のセンサーからの膨大な情報がサイバー空間に集積されます。サイバー空間では、このビッグデータを人工知能(AI)が解析し、その解析結果がフィジカル空間の人間に様々な形でフィードバックされます。今までの情報社会では、人間が情報を解析することで価値が生まれてきました。Society 5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでには出来なかった新たな価値が産業や社会にもたらされることになります。

3)経済発展と社会的課題の解決を両立するSociety 5.0へ

 我が国そして世界を取り巻く環境は大きな変革期にあるといえます。経済発展が進む中、人々の生活は便利で豊かになり、エネルギーや食料の需要が増加し、寿命の延伸が達成され、高齢化が進んでいます。また、経済のグローバル化が進み、国際的な競争も激化し、富の集中や地域間の不平等といった面も生じてきています。これら経済発展に相反(トレードオフ)して解決すべき社会的課題は複雑化してきており、温室効果ガス(GHG)排出の削減、食料の増産やロスの削減、高齢化などに伴う社会コストの抑制、持続可能な産業化の推進、富の再配分や地域間の格差是正といった対策が必要になってきています。しかしながら、現在の社会システムでは経済発展と社会的課題の解決を両立することは困難な状況になってきています。

 このように世界が大きく変化する一方で、IoT、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータといった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術の進展が進んできており、我が国は、課題先進国として、これら先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れ、経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会であるSociety 5.0の実現を目指しています。

4)新たな価値で経済発展と社会的課題の解決を両立

 イノベーションで創出される新たな価値により、地域、年齢、性別、言語等による格差がなくなり、個々の多様なニーズ、潜在的なニーズに対して、きめ細かな対応が可能となります。モノやサービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供されるとともに、社会システム全体が最適化され、経済発展と社会的課題の解決を両立していける社会となります。その実現には様々な困難を伴いますが、我が国はこの克服に果敢にチャレンジし、課題先進国として世界に先駆けて模範となる未来社会を示していこうとしています。

5)繋がった情報が水道事業の課題解決に役立つ可能性(2020.1.23日本水道新聞)

 Society5.0のもとで展開される水道事業は、人口減少に伴う経営危機の懸念と担い手不足(業務の省力化)、施設の老朽化、持続可能な水道事業体制の構築、危険性が増大している災害対策に寄与する現場改善等、改正水道法の「基盤強化」の実践が目的となります。一方、24時間365日動き続ける水道の情報は、他の情報と繋がり利用されることで社会に大きな価値を生む可能性があります。サイバー空間で繋がった情報はより良い社会を創造できるでしょうし、より良い社会が水道分野の諸課題の解決にも貢献してくれることでしょう。

2020.12.18

スマートメーター(スマート水道推進協会:スマート水道メーター関連技術資料、他)

1)スマート水道メーターの定義

 スマート水道メーターを以下の 3 項目の内容に応じて3つの水準(レベル)を設定する。

@ 要件1(共通要件)
 遠隔でメーターID、検針値水量に加えてアラーム等を取得できること。一般的な電子式水道メーターで実現している要件である。

A 要件2(共通要件)
 指定された時間間隔もしくは一定水道の使用ごとにデータ送信ができること。一般的な電子式水道メーターで実現している。

B 要件3:データセンターとメーター間の通信について、内容に応じて以下の3つの水準とした。
・レベル1:上り方向通信(単方向通信)
 一定時間ごとにメーター計量した値をデータセンターに送信するものである。センター側からは何も送信しない。水量データ等の定期的な取得のみを目的とした場合に適する通信方向である。

・レベル2:上り方向に対する折り返し下り通信(双方向通信)
 一定時間ごとにメーター計量した値をデータセンターに送信し、そのタイミングでセンター側から指示等をメーター側に送信するものである。例えば、ある閾値を超える過大流量が計測され漏水の疑いがある場合にメーターからセンターにアラームを送信し、センターからメーターにロードサーベイ指示等を自動送信することなどが可能となる。

・レベル3:上り方向・下り方向通信(双方向通信)
 レベル2 の場合に加えて、センター側から任意のタイミングでメーターに指示を送信可能とする方式である。
 例えば、イベント開催を行う特定の大口顧客の使用水量を30分ごとに計測するなどを指示することや、水道使用の開始/停止申し込み時に止水栓の開閉指示を任意のタイミングで送る場合等に必要となる通信方式である。

愛知時計電機芥Pより

2)スマート水道メーターの形態

@ 通信装置内蔵型

 水道メーターの筐体に通信装置が組み込まれているものである。通信装置及びケーブルがメーター外部にないためシンプルな形状である。
ただし、海外製品の通信装置内蔵タイプの場合、後述の無線仕様の相違等から国内ではそのまま使用できない場合があるので確認が必要である。

Sensus Japan且送ソ

A メーター通信装置分離型

 電子式水道メーターや電磁式水道メーターから有線で通信端末に接続して無線システムとするものでする。国内メーカーはこのタイプが多い。通信端末を替えることで複数の無線通信に対応可能な製品もあります。8ビット通信方式であれば、通信可能な情報は特に制限はなく、また双方向通信に対応します。

B 読み取り・通信装置後付型

 既存の機械式アナログ水道メーターに、メーターの回転数読み取り及び通信を行う装置を後から装着するタイプです。機械式水道メーターを電子式メーターに交換することなくスマートメー ター化することができ、機能的にもAと同様です。ただし、メーターの精度は機械式のままであることと、 後付けの場合メーター本体と通信装置の更新時期が一致しないことに留意が必要です。

 リンクジャパンのeMeterは既存の電気・ガス・水道メーターに後付けすることで、自動検針します。2020.4.1春日那珂川水道企業団が導入し運用を開始しました。eMeterは内蔵する特殊カメラにより指定間隔でメーター文字盤を撮影し、画像を無線通信します。文字盤の表示形式はアナログ・デジタルの両方に対応します。φ13〜50mmのメーターに取り付け可能で、防水仕様であり水没にも対応できます。通信頻度が月1回の場合で約10年間電池稼働します。
 本体からの通信はソフトバンクが提供するLTE通信規格の一つであるNB-IoTネットワークを利用します。画像データは同社のクラウドサービスに集められ、AI解析により数値化され事業者に通知されます。
 春日那珂川水道企業団は2019年6月から2020年3月まで、山間地・市街地、地下式・地上式メーター、通信環境の悪さなどの環境条件を踏まえて試験をされました。期間中には台風17・19号により水没や土砂埋没にも見舞われましたが、問題なく検針を継続できたとのことです。(2020.4.13日本水道新聞他)

  

 大崎電気工業の「OCR検針システム」という自動検針装置は、光学式文字読み取り装置(OCR)を搭載していて、撮影した画像を基にAIでメーター検針水量を自動で算出し、クラウドシステムに送信します。画像を送信するのではなく数値データを送信するため、通信量を抑えて送信時間が短縮できるとしています。ビルや商業施設に特化した管理システムです。(2021.3.10日本経済新聞)

 大崎電気工業HPより

3)メーター設置環境と通信特性

@ 設置環境

 スマート水道メーターはメーターとセンター間でデータを双方向で取得します。この双方向通信は、水道メーターの設置環境の影響を受けます。戸建ての水道メーターは地中に埋設したメーターボックスの中に設置されています。集合住宅では、水道 メーターは各戸のパイプスペースや電気・ガスのメーターとまとめてボックス内に設置され扉によって閉じられています。このような設置場所は無線通信にとって厳しい環境です。従来の水道メーターをスマート水道メーターに換える場合、既存のメーター設置場所を変更することは容易ではありません。このため、設置環境に適した通信方式の選択に加えて、現地での検証を行うことが望ましい。

A 接続率

 メーターとデータセンター相互のデータ送信に対するデータ受信できる割合を接続率とすると、この値はできるだけ高いことが望ましい。ただし、接続に1回失敗してもメーターの通信装置にデータは蓄積保存されているため、複数回の送信でデータを送ることができればデータの利用目的によっては問題にならない場合もあります。例えば、1か月の検針水量を確認する場合、接続率は 50%以下でも2、3日の通信で使用水量を受信できれば、 大きな問題にはなりません。

 しかし、見守りサービス等の場合には毎日のデータをできるだけ確実に受信できることが必要です。現時点では利用目的ごとに何%以上が必要という明確な値は設定されていないため、事業体ごとに利用目的とデータ利用のタイミングを考慮したうえで必要な接続率を設定する必要があります。

B 水量データの測定頻度

 人による検針業務は2か月に1回の頻度で検針されていますが、スマート水道メーターでは15分間隔で水量を測定することも可能です。

 電力のスマートメーターは 30 分間隔で使用量を計測しています。電力の場合、夜間電気使用料など種々の料金体系があることに加えて、HEMS を通じて利用者にきめ細かな情報を提供するなどのサービス水準を考慮して設定しているものと思えます。

 水道の場合、スマートメーターの通信状態の検証に加えて、使用水量データを水道サービスにどのように活用可能か種々検討している段階であり、一般的な測定頻度はまだ定まっていません。今後、どの程度の頻度でデータを測定・送信するか、利用目的、通信料、電池の消耗等を考慮していくつかのパターンが作られることでしょう。一般的には、概ね1時間に1回の頻度で測定すれば種々のサービスの高度化が可能になると思えます。

 なお、実際には測定頻度の検討に加えてデータセンターへ送信する頻度についても検討が必要ですが、利用目的からリアルタイムで情報収集が必要なものは少ないことから、概ね1日1回の送信頻度が目安になると思われます。

 また、毎日の運転管理のための需要予測では、配水系統単位の水量予測が基本であり、1 回/時間の頻度で十分ですが、将来需要予測のための生活原単位を細かく予測する場合には、一時的に各戸の水量1回/15 分程度まで増やして測定することも考えられます。

C 水量以外の測定項目

 スマート水道メーターで計量するのは使用水量であるが、メーター本体に水温、水圧等のセンサーを組み込み、スマート水道メーターの通信装置を介してデータを送信することも可能です。スマート水道メーターで測定可能と思われる項目は水温、水圧、残留塩素濃度計で、接続による付加価値は次のことが考えられます。

a 水温
 冬季の水道管凍結の監視・防止 水温が一定温度以下、かつ、使用水量が一定量以下等の条件を設定し、これらの閾値を下回った場合、凍結の危険性が高いとしてアラームを顧客、水道事業体に送信できます。これにより、水道管の凍結を防止します。

b 水圧
 有効水圧の確認、異常水圧の監視 有効水圧を定期的に、あるいは一定水量以上を使用している時に測定することで、水圧の低い顧客がいないか確認します。また有効水圧の低い顧客が一定件数に達した場合にはアラームを出し、配水ポンプの圧力を上げることができます。
 ※一般的な電子式メーターは逆流検知機能を有しており、水圧計はなくても負圧の検知は可能です。

c 残留塩素濃度
 需要が少なく配水管路内の滞留時間が長い場合や、夏季に水温が高く塩素消費量が多い場合などに安全性を確認することができる。塩素濃度が低い場合には、配水管網末端からの排水や塩素注入率の増加等の判断材料となります。

 各戸メーターに他の項目を測定することで、水道使用量のみを計測する場合に比べて、一層のサービス水準の均一化や向上を図ることができます。なお、これらのセンサーについては各戸メーターに設置せず、配水ブロックの流入箇所に設置することでも相応のサービス向上は可能となります。どこまで付加価値・サービス向上を図るかは費用を考慮したうえで決定する必要があります。

4)スマート水道メーターの導入と活用

 スマート水道メーターの導入により種々のサービス向上、業務効率化を期待できますが、スマート水道メーターの価格が高い(費用対効果が小さい)ことがスマート水道メーター導入の阻害要因の一つになっています。欧米でも費用対効果は課題なのですが、水需給のひっ迫している国が多く、海外では漏水率が一般に高いため、需要抑制や水資源の有効活用という観点からスマート水道メーターが活用されています。

 これに対して日本では人口減少、節水機器の導入等により、平常時においては水需給バランスに余裕があります。また漏水率についても日本の水道は世界でトップクラスの低漏水率を誇っています。難検針場所の問題やメーター検針員の確保が難しくなりつつあることもスマート化の推進要因の一つではありますが、日本の水道に適した活用方策が求められます

@ 段階的導入

 先進事業体を中心に行われてきたスマート水道メーターの実証試験では、主に通信の確実性のほか、 漏水検知、見守りサービスなど新たなサービスの可能性について検証しています。今後は、利用方法についてより具体的に検討することになるでしょう。その際、小さく初めて効果を確認してから全域への導入を考えるのが得策です。一例として、大口利用者への導入から全体へ導入することが考えられます。

a 大口顧客への導入
 大規模商業施設や病院、工場などの大口水道利用者は、一般に水道使用量(料金)に敏感です。
 このような大口利用者に1 時間ごとなどきめ細かな水道使用量の情報を提供することで、利用者はどの機器が多く水道を使っているか、どこを節水すべきかのヒントを得られます。さらに、デマンドコントロールシステムとして大口需要者が目標最大使用水量を設定し、これを超えるような場合、後述の料金割り増しや止水栓を絞ることなども考えられます。

b 料金体系の検討
 大口顧客の中には、水道料金より地下水を利用した方が安価なため、災害対策も考慮して自前で地下水利用施設を設置し水道使用量を減らしている利用者も多いと思います。大口利用者の水道離れは水道経営を圧迫するものであり、水道事業体では大口利用者の料金体系を見直すなどの対策も取 っています。
 スマート水道メーターは1時間ごとの水道使用量を把握できることから、大口夜間料金など時間帯別料金体系を導入することが可能となる。地下水利用者の地下水使用原価と競争力のある戦略的な夜間大口料金とすることで、地下水利用者が夜間だけでも水道を使用するなど水道への回帰を促す方策として、大口の夜間料金を検討することが考えられます。なお、ここで夜間料金としたのは、昼間の水道使用量のピークを増やさず夜間(日平均)の水道使用量を増加させることで時間係数を小さくし、水道施設のダウンサイジングの効果も狙うためです。

c 賃貸アパート等特定施設への導入
 都市部の賃貸アパート等住民の異動が多い住居では、春など特定の時期に水道の使用中止、開始の申し込みが集中する。住民からの申し込みを受けて、止水栓の開閉を利用者の希望の時間に遠隔で行うことで、サービスの向上、業務の効率化が図れる
 ただし、止水栓の遠隔自動開閉は現在国内では対応していないため、これは今後の課題である。

A 全域導入後の効果

 これまで2か月に1回の頻度で水道使用者の水量データを取得していたのが、スマート水道メーター導入後に 1 時間ごとに水量データを計測する場合、従来の 1,440 倍(24 回/日×60 日)のデータを取得することになります。この膨大な水量データを有効に活用することが重要です。

a 精度向上と流況把握

(1) 正確な調定水量
 水道事業経営を行う上で最も重要な調定水量データを毎月正確に1 か月分として得ることができます。これまでの2か月に1回の検針では、検針間隔(日数)は必ずしも正確に2 か月とは限らず、1,2日のずれが生じている場合があります。スマート水道メーターにより、経営の基礎となる使用水量を毎月正確に計量し、その使用水量をもとに料金請求できます。一方、使用者も使用水量の前回検針との比較を正確に行うことが可能になります。

(2) ブロックごとの漏水率/有収率の把握
 正確な調定水量は正確な漏水率、有収率の把握につながります。またその把握頻度も年1回だけでは なく、毎月、あるいは毎週でも行うことができます。さらに配水ブロックごとに流量計を設置することで配水ブロック単位の漏水率/有収率の把握も可能となります。これらにより、同一配水ブロックの漏水率/有収率の推移や給水ブロックごとの差異の分析等を行うことで、重点的な漏水調査対象ブロックの検討などをこれまでより詳細に行うことが可能となります。

(3) 配水支管の流況把握
 これまで配水池の流出管に設置された流量計により配水量は毎時間把握されていますが、配水支管の流量は把握できないか、2 か月の検針水量データをもとにした配水管網解析による推測でした。
 スマート水道メーター導入後は、水道使用者の1時間ごとの水量データをもとに配水管網解析を行うことで配水支管の流れ(水圧、流速、滞留時間)をこれまでより正確に時間単位で推測することができます。これにより、きめ細かな配水管理を行うことが可能になるほか、配水支管の口径の妥当性の検証や残留塩素濃度の推測(必要捨水量の計算)等が可能となります。

(4) 需要予測
 正確な水量データの蓄積は精度の高い需要予測にもなります。ブロックごとの毎日、毎時の使用水量を曜日や気象データ等で分析することで需要予測の精度が向上し、さらに的確な浄水場の運転計画、配水管理計画が行えるようになります。
 また、将来需要予測のために生活原単位を推計する場合には、一時的に測定頻度を上げて、世帯人員別に洗濯回数等を把握するなど水需要構造を推計することで予測精度の向上を図ることができます。ただし、細かな測定頻度はプライバシーに関係するため、事前に使用者へデータ取得の目的を説明するとともに了解を得ることなど、慎重に行う必要があります。

 上記の(2)から(4)については地理情報システム(GIS)とメーター情報が関連づけられ、配水管路との接続関係あるいは給水ブロックとの包含関係が把握できることが必要です。

b サービス向上
 スマート水道メーター導入後は検針員のメーター読み取りミス、転記ミス等はなくなり、使用水量(料金)に関する問い合わせ・苦情は減少するでしょう。また、問い合わせがあった場合にも、これまでより詳細な1 時間ごとの使用水量データが得られることから、従来よりも的確な回答を行うことが可能となり、結果的に1回あたりの問い合わせに対する回答時間の短縮、サービス向上が可能になります。

 スマート水道メーター導入後は、問い合わせへ対応という受動的なサービス提供の向上だけでなく、詳細な水量データをもとに能動的に水道事業体から利用者に情報(サービス)提供を行うこと、すなわち、 使用者とのコミュニケーションをより積極的に行うことができます。例えば、漏水検知、見守り、見える化、断水等の情報を事業体から積極的に発信することにより、サービス向上にとどまらず利用者の水道事業に対する理解・信頼向上につながることも期待できるようになります。

 特に見える化については、使用水量の前月あるいは前年同月との比較に加えて、市内平均使用水量との比較や同一世帯人員平均使用水量との比較など、利用者の使用特性を情報として提供することで 利用者に水道使用行動の変化を促すことができます。ただし、この使用水量の情報については、情報提供の方法・表現により効果が異なるといわれており、今後の研究課題の一つでもあります。

c 業務効率化
 電力等では既にWebを通しての使用開始・中止の申し込みに加えて、使用料金等のWeb(個人ページ)を介した情報提供、使用料金の自動引き落とし等が行われています。水道においてもスマート水道メーター導入後は、他インフラ等と同様の情報・サービス提供を行うことで、業務の効率化、紙の削減等の効果が得られるでしょう。

d 民間事業者のデータ活用
 水道使用量のデータを他分野のデータと組み合わせることで、これまでとは異なるメリットや利用方法が生まれる可能性があります。

 例えば、見守りサービスは水道の使用量だけでなく、ガス、電気の使用量と組み合わせることで、より確度の高い推測が可能になると思われます。また水道を使用しているという情報は、在宅している証拠でもあり、水道使用パターンからどの時間帯に在宅しているかがわかれば、宅配サービスの効率化(再配達削減)につなげることができます。

5)災害対策

@ 地震時断水把握

 地震時の断水被害については、現状、水道事業体の浄水場の運転及び送配水施設の水圧・流量計等の値をもとに、断水状況を把握しています。また、小規模な断水の場合には、水道使用者からの苦情で知ることもあります。

 このような断水・給水の状況はスマート水道メーターにより正確に把握することが可能となります。通信インフラ及びメーターが正常に動いているとの条件がつきますが、地震直後にメーターの測定頻度及び送信頻度を上げることで、需要者の水道使用や漏水の有無がわかり、細かな断水範囲の把握が可能となります。特に、医療施設や避難所など重要拠点施設への給水状況をリアルタイムで把握することで、 応急給水、優先復旧管路の検討などに有効です。さらにこれらの情報を利用者に随時提供することで利用者の不安を緩和することも期待できます。

A 寒波による漏水発見

 異常な寒波が予想される場合に、事前にメーターの測定頻度を上げることで、使用水量の異常から給水管の破裂漏水の早期発見が可能となります。

B 渇水時の節水

 渇水期には取水制限の状況に応じた特別料金を(大口需要者に対して)設定するなど期間を限定した料金設定を行うことで、利用者に節水を促す(デマンドコントロールする)ことができます。

C 風水害時の避難指示

 異常気象の影響と思われる集中豪雨の多発、台風の大型化等により「これまで経験のない大雨」により風水害が増えていますが、このような時に、自治体から避難指示・命令等が発令されても、実際に避難しない人も多く人的被害の増大を招いています。水量データから避難していない家を特定し、避難の呼びかけ強化を図ることができます。

 また、避難しなかった家について暴風雨の後の安全確認を優先することやその際の参考に風雨後の水量データを活用することも考えられます。