読者のQ&A

Q14(2014.3.13)

 新水道ビジョンの「新たな発想で取り組むべき方策」の中に、「多様な手法による水供給」があります。コスト性や水質管理面を考えて、配水池や配管を設けず、水を宅配する等のいろんな手法を考えるのも一考という意味でしょうが、この点について、口答試験で聞かれた場合、どのように答えれば良いでしょうか?


 水道行政が「国民皆水道」を目指した成果と言えますが、平成23年度末現在普及率97.6%にまで発展し、概ね拡張の目標達成を果たした状況と言えます。残る未普及地域への水道整備は、国庫補助金等の財政支援があったとしても、1戸当たりの給水単価が数百万円に及ぶとなると水道行政にとっては財政的な負担は大きいし、使用水量そのものが少ないために安全な水道水質の確保面でも問題が生じます。このような観点から、「水道水の供給を新たに希望される小規模集落への水供給は、その地域の事情を勘案した様々な給水手段を考えていくべき」というのが新水道ビジョンの主旨だと思います。

 地域住民の必要水量が枯渇している場合と、地下水等水量はあるのですが、地域の大部分の住民の飲料水が水質面で使えない場合、あるいは、地域のごく一部の方の水量が枯渇している、又は飲料水のみが不足しているという場合では、水の宅配もしくは水を指定した場所に取りに来ていただく場合等、対策は異なると思います。

1) 水が枯渇もしくは水質上問題があって不足している場合
 住民から要請があった場合、水道局もしくは水道局から宅配依頼された業者が、給水車を出動させ、各戸に設けられた給水タンクに給水し、出動費と水道代を支払ってもらう。
2) 井戸や沢の水はあって飲料外用途には使えるが、飲料水に困っている場合
@ 浄水場や配水池等水道水を供給できる拠点を決めておき、需要者はポリタンク等を持参し、給水拠点まで水を取りに来てもらう。
A 水道水をボトリングした容器を宅配請負業者に配達してもらう。(水道料と宅配料は事前に決定しておく)

 水道敷設以外の何らかの対応策を決定した場合、水道敷設を要望する住民の主張は、「過疎地に住んでいても、水道を引いてもらっている街中の市民と同じ市民である。衛生的な水を安定して供給してもらう権利があると思うし、市は市民福祉の観点からも住民の要望に答えるのが筋ではないのか。市民皆が公平に扱われてしかるべきではないか。」というものでしょう。このような住民の後押しとして議員が働きかけてくる事態も珍しくありません。

 対応策を考えていく場合、水道施設を敷設する場合は良いのですが、宅配水等の供給を提案する場合、水道施設を敷設することが何故できないのかを衛生面、コスト面について、十分納得してもらえるような説得が必要です。

 なお、水道設備を敷設する場合も、場合によっては消火栓の設置をも要求される場合があります。消火栓は1t/分の消火水量を要しますので、日量換算すると1000戸程度の住宅団地に相当する場所でないと配水管内の停滞時間が長くなって、衛生面の確保が難しくなることを十分に説明し、諦めて頂くようにするべきです。

Q13(2013.3.26)
 管路更新の優先順位は、耐震化の観点からは、上流側に位置する導・送・配水管、病院や重要施設・震災時避難場所へ給水するルート上にある管路の更新順位を優先する事業体が多いようです。また、既設水道施設の長寿命化・延命化を図りながら、漏水事故発生による社会インフラへの2次災害防止も防ぐというトレード・オフの観点も視野に入れた対策も重要です。
 
 管路の更新は、漏水防止と耐震対策の両方の観点から行うべきと思いますが、持続可能な管路更新策定計画を行う上で、管路アセットマネジメントを踏まえた効率的な更新整備を行う際、管路更新の優先順位設定手法としてどのようなものがありますか

1.はじめに

 新水道ビジョン(案)では、「強靭」な水道施設を構築していくために、「水道施設の健全度が低下しないように適正に維持管理されており、基幹管路、浄水場、配水池の全てが耐震化されています。」という水道施設の維持管理を実現・持続することが水道事業に携わる者の使命と位置付けられるようです。
 高度成長時代に布設された長大な配水管の多くが更新時期を迎えようとしている状況を認識し、一定期間に多量の配水管の更新をこなしていくために、財政面・人員面の課題を整理し、更新管路の優先順位の選定によって単年度の更新管路長を抑えると共に、更新管路の長寿命化をめざし、今後の年度別更新管路長の平準化を果たしていく必要があります。

 しかしながら、今後、給水人口や給水量が減少していくことを考えると、耐震化を推進しながら、計画的に管路の更新を図っていくことに頭を悩ませておられる水道事業体の方は多いものと思います。中小事業体の多くは「管路老朽度調査に回すお金も人も余裕がないよ。」という状況にあるものと推測致します。ポチもこのテーマに対して、「安くて効果的な手法は無いものだろうか?」と注意して情報収集していますが、なかなか決め手になる手法を見つけることができていないのが実情です。ハッキリ言って、質問者への答に十分そぐわない点があるものと思いますが、現時点での知見を紹介します。

 一般論としては、管路耐震化の推進を重視する観点からは、上流側施設の導・送・配水管、病院や庁舎等の重要施設あるいは震災時避難場所へ給水するルート上にある管路、あるいは大規模な断水を引き起こす恐れのある幹線管路の更新順位を優先しながら、管路の更新優先順位を決めている水道事業体は多いと思います。

 漏水防止・管路老朽化対策の観点からの優先順位は、「水道維持管理指針」に掲載されている外部腐食度(デプスゲージ等によって管体外面の腐食度を測定する管路調査から、規定管圧に対する安全度を計測して求める)や、「水道施設更新指針」に基づく点数評価によって優先順位を決めていくのが好ましいあり方と思います。
 マッピングシステムによって管種・布設年度・漏水事故歴・地盤性状等の管路情報を収集・整理している事業体、さらに、埋設管の引き揚げ調査まで行っている事業体であれば、調査収集したデータに基づいて使用可能年数や事故歴の多少等、布設替えすべき理由を統計的に算出し、優先順位の設定をすることが可能となります。中大規模水道事業体では、このような諸データを整備しているところが多く、それらを活用して優先順位の設定を行い、順位選定理由の可視化によって議会や需要者への説明責任を果たす資料に役立てておられることと思います。

2.管路状況検査による選定手法

 一例として、大規模水道事業体で採用されている、普通鋳鉄管、高級鋳鉄管の老朽度を計量することによる管路更新優先順位の設定方法についてご紹介します。普通・高級鋳鉄管のみを扱っているため、C型(印ろう継手)、A型(メカニカル継手)の鋳鉄管が対象となっています。ポリスリーブ未装着のダクタイル鋳鉄管(T型、K型他)やNS管等最近の管については扱われていませんことを留意して下さい。
 この事業体では、埋設管の引き揚げ調査を行っており、管路外面腐食深さとその周辺の土質目視データ(土質と土色)を約100件収集しています。それらデータから、外面腐食深さを目的変数、土質・土の色及び埋設期間の各因子を説明変数とした重回帰分析を行い、以下の式に示す外面腐食深さ予測式(著名な管路メーカK社が考えたものですね!)を作成しています。

  y=kT0.293
  k=exp(0.000X11+0.379X12+0.379X13+0.000X21+0.557X22-0.376)

   ここに、y:外面腐食予測深さ [mm]、T:埋設期間[年]であり、Xijのカテゴリーは下表のとおり。

「k値」が概ね、k=1.5以上になれば、腐食性土壌と判断しています。(この判断基準については事業体によって異なっているようです。)
「ガラ」とは、礫・玉石交じり土や砕石のように口径の大きな石分を含んでいる土です。礫分が外面塗装を傷つけるケースが高いということでしょう。



 さらに、この予測外面腐食深さに加え、口径・継手・布設年度・内面状態を説明変数、漏水発生率を目的変数とした統計分析(数量化理論)による式を設定し、各管路の漏水発生率を算出します。下記の式により算出された路線毎の推定事故発生率の高い順から、管路更新を行っていくことになります。

 RN=C・C・Cm・C・C・L・R

 ここに、RNは路線毎の推定事故発生率[件/年]、RLは過去平均事故発生率[件/km・年]、Lは管路の延長[km]です。

 

補正係数の種類

内  容

カテゴリー

補正係数

外面腐食

Co

外面腐食予測深さが、設計安全率1.0時の管厚以上

[外面腐食老朽度ランクT、U]

データなし

外面腐食予測深さが、2.0mm以上かつ設計安全率1.0時の管厚未満

[外面腐食老朽度ランクV、W]

1.00

外面腐食予測深さが、2.0mm(腐食しろ)以下

[外面腐食老朽度ランクX]

0.80

内面状態

Ci

エポキシライニング管

1.03

ライニングなし

1.00

布設年度

Cm

管路データの無い1952年以前

1.10

1952年以降

0.99

継手

Cj

印ろう形継手(C形)

1.06

メカニカル形継手(A形)

0.98

口径Cd

φ89152mm

1.04

φ200254mm

0.92

φ300mm

0.87

 こちらから腐食が進みます 

@許容差=1.5mm
A規格管厚−許容差(@)=7.5mm
B静水圧,水撃圧,土圧及び輪荷重に対し,それぞれ1.0の安全率を見込んだ時の計算正味管厚=1.3mm
C静水圧に対し2.5,水撃圧,土圧及び輪荷重に対し,それぞれ2.0の安全率を見込んだ時の計算正味管厚=1.9mm
D腐食しろ=2.0mm

<ポチの考察>

@ 漏水事故発生率
 RNを支配する最も大きな要因はRL(過去平均事故発生率)みたいですね。この事業体の調査では、布設後第1回目の漏水が生じるまでの期間は平均35年と算出しています。以後、2・3回目の漏水が発生する期間は次第に短くなっていく現状があり、漏水発生回数が多い管路は漏水事故発生率を高く設定するようにしています。その考え方を以下に紹介します。

表 過去の漏水事故発生件数別の1年あたりの事故発生率

過去の漏水事故発生件数

@  漏水事故が発生するまでの平均期間

[単位:年/件]

A @の逆数

 

[単位:件/年]

B Aを1kmあたりに変換

1年あたりの事故発生率

[単位:件/km

0件

   35.17 

0.028

0.201 

1件

        6.50 

0.156

1.089 

2件

        4.38 

0.228

1.617 

3件以上

        3.48 

0.287

2.188 





 3件以上の漏水発生履歴を持つ管路は必然的にRLの値が高くなりますので、更新順位が上がってくるのが解りますね。この考え更新優先順位を考えるうえで有意義な情報だと思います。3件以上漏水事故が発生した管路は無条件に布設替えしても良いのかなという判断がつきそうですね。

A 大口径管
 φ200mm以上の管が漏水しにくいのは、管厚が厚いことと断面係数が大きく構造的に強いからでしょう。漏水発生面からみると、大口径管の更新順位は後ろ回しになってしまいます。大口径管は幹線管路となっている場合が多いので、漏水発生危険度だけでなく、以後に述べる「社会インフラへの2次被害」の面を考慮した優先順位を考えることが肝要です。

B 管外面腐食
 冒頭でも述べていますように、普通・高級鋳鉄管の腐食状況データですので、ダクタイル鋳鉄管に関してはそのまま当てはまらないかもしれないことを留意しておいてください。

 外面腐食はランクV(カテゴリー3)の管までは大丈夫で、ランクT〜U(カテゴリー1)の管は即交換という考えでしょうか。中間に位置するランクV〜W(カテゴリー2)の外面腐食管や経年管、印ろう継手、φ150mm以下の小口径管は、漏水しやすい状況にはあるけれど今すぐ更新という状況ではないので、各要素の重相関分析から算出されるRN値の高低で評価し、どの管を優先的に取り替えるべきかを考えるものですね。

 この手法は、統計分析(数量化理論)の目的変数を、管体の外面腐食深さにしているため、管路の外面腐食状況に関する調査を行うことが必須条件となります。管路更新の際の撤去管を対象に調査するとしても、調査費だけで1箇所数万円〜数十万円かかっているようです。
このような調査の実施が無理な場合、もし、漏水事故発生時等で管体腐食度や周辺土壌の性状をダクタイル鉄管協会等の協力を得て計測できれば、この式を自分の事業体の管路にそのまま当てはめてみるのも一考かと思います。

 また、y=kT0.293式の結果を解釈すれば、腐食に与える影響は、
ア 「土質」については、ガラ>粘土>砂 (砂はほとんど腐食に影響を与えない)
イ 「土の色」については、黒(暗灰)>茶(白)色 (茶・白色はほとんど腐食に影響を与えない)ということが分かります。
 すなわち、礫交じり土と粘性土は要注意ということになりますね。管体腐食のデータ採取が不可能な事業体であっても、修繕工事や掘削時等で、目視の土質情報(「土質」「土の色」)を収集蓄積しておけば、定量的な評価はできないものの、ある程度、「どの地域の埋設管路の腐食性が高いのか」といった目途がつくと思われます。

C 内面状態
 内面状態については、「無ライニング管」の方が「エポキシライニング管」より安全という扱いになっているのが意外に思われるかしれません。ここで言う「エポキシライニング管」とは、工場出荷時から施されている「エポキシ紛体塗装管」のことではなく、「無ライニング管」の内面更生工事による「エポキシコーティングを施した管」ということです。腐食がかなり進行した「無ライニング管」の錆等の腐食部を除去した後、エポキシコーティングを施した管の方が、管更生工事の不要な状況にある「無ライニング管」よりも漏水しやすい状況にあるのが現実のようです。

 更生工事を必要としない状態での「無ライニング管」と比較して、更生工事を必要とした管の現在の内面腐食状況が、「更生工事を施しても、あまり良い状況までは改善しきれなかった」ということだと、ポチは思うのです。
 エポキシ樹脂塗料を現場内面塗装する際には、塗装面が良く乾いている状態で塗装を行い、塗装後最低3日間の十分な乾燥養生が必要と言われています。そのため、ポチの現場では、「内面塗装後3日間は温風を流し続ける通風養生をする」ことを義務付けていたほどです。「管更生工事において、スクレーパー等による腐食部の取り去り工程が十分にできなかったか、エポキシ塗装をする際塗装面がやや湿潤状態であったか、または、エポキシ塗装後の養生が十分には行えなかった等の結果なのでは」と推測しています。

D 布設年度
 RN値を求めるうえで、布設年度が事故率にあまり大きくは影響していないことは興味深いですね。「古い管でも傷んでいない管もある。」ということでしょうね。

 ポチのいた事業体の幹線管路は溶接鋼管で、腐食対策として流電陽極方式(注参照)を全管路に採用しています。流電陽極は測定用ターミナルボックスと共に約200m以内毎に管路に設置し、全て土質調査と共に比抵抗値まで測定していますので、測定ポイントが腐食土壌かどうかの判別もついています。このため、流電陽極に使用しているマグネシウム(Mg)の減り方を毎年測定することで、その管路を掘り出して外面腐食状況を調査しなくても、埋設管の腐食度を概ね推測することができるのです。
 溶接鋼管に限定してのことですが、Mgの減り具合の傾向から類推すれば、配管布設工事時に管の外面塗装を傷つけてしまったかどうか(施工不良)が最も大きな要因ではないかと推測しています。外面塗装が傷つけられた管の埋設場所の土壌が腐食性土壌地域であれば、腐食の進行は大きく早くなっています。

 鋳鉄管の外面塗装は100μmという薄さ(内面塗装のエポキシ樹脂塗装は300μm)ですから、「重い鋳鉄管を扱う際の職人さんの技術力と気配りの優劣によって、例えば、転がしたり、転圧時に砂で塗装が擦れ傷ついたり、塗装が傷ついた部位の補修塗装の養生が不十分であったり、ポリスリーブの装着が不適切であったり等の不適切な施工により、布設後の管腐食進行の運命が決まるのではないか」と思っています。鋳鉄管は、「工場出荷時の外面塗装の状況を、如何に傷つけずにそのまま現場埋設できているか」という業者の技術力とコンプライアンスに委ねられていると思っているのです。

<注> 流電陽極方式とは
 
 腐食防護を必要とする管よりも自然電位が低い金属(マグネシウムなど)を陽極として管の近辺の土壌に埋設し、陽極と管との間に異種金属電池を形成させ、管への防食電流を流入させる電食防止法です。防食電流を測定するためターミナルボックスを設置することもあります。陽極は消耗するので適時補充が必要となります。バックフィルは消耗を均一にするためのモノ。陽極の消耗が激しいと管体の塗装に問題があり、腐食の危険度が大きいと推測する目安となります。流電陽極方式はマクロシェル腐食とミクロシェル腐食の両方に効果がある防食法と言われています。










3.社会インフラへの2次災害防止
 漏水事故による道路や鉄道への影響、あるいは、断水による救急病院等への影響や、広範囲な断水を防ぐこと、すなわち社会インフラの機能を損なうような漏水リスクを回避する必要性も大切な要因です。
 管路を更新することによって防止できる事象(漏水、漏水修繕による断水被害、道路規制、漏水損失費用)を機会損失費用に換算し、費用対効果を計算し、費用対効果によって優先順位を判断する手法を紹介します。

この事業体では、以下の4点を考慮しています。
@ 道路交通・通行人への影響(交通車両が漏水発生現場を迂回することによる損失時間を機会損失費用に換算)
 事故発生により、交通車両や通行人が事故発生現場を避けて他の道路へと迂回すると想定して、舗装種別から判断した設計交通容量等と、迂回に要する時間及び事故発生による交通規制時間の平均から、想定被害人数・想定被害時間を算出し、市内総生産を用いて想定被害額を求めています。

A断水被害(断水による被害額)
 断水区間に相当する平均給水人口、平均断水時間より、断水1件あたりの想定被害人数を求めます。断水による想定被害額原単位は、「水道事業の費用対効果分析マニュアル(案)」での算出方法を準用し、想定被害人数を用いて、断水による想定被害額を求めています。

B修繕費用
 1箇所あたり平均の配水設備修繕費用を計上しています。

C漏水損失 
 経年管残延長と有効率向上値の関係を、回帰分析を用いて求めると、経年管改良による単位延長あたりの有効率向上値が求まり、これに全市給水量及び給水原価を掛けて、漏水損失費用を求めています。




 費用は管路更新費用、便益は、推定事故発生率RNを用いて次回事故が発生するまでの推定平均期間(1/RN)を求め、それまでに布設替を行うことによって軽減されると思われる配水管事故発生時の2次的な影響の想定被害額としています。

この費用対効果から、
@ 今、更新せずとも漏水が1度発生してから改良した方が費用対効果がある管路
A 今、更新して漏水防止した方が、費用対効果がある管路
を割り出すことができ、更新順位として、A→@→その他 としています。

ポチは、「明日漏水事故を起こすであろう管を、昨日まで使い続け、今日取り換えるよう知恵を出して欲しい」と部下の職員に言い続けてきました。この事業体の試みは、ポチの願いを確率論的に具体化した手法で評価に値するものすね。それだけではなく、さらに先を読んでいて、明日漏水事故が起こっても、まだ更新は待って修繕を行った方がいい管路と、そうでない管路を選別してみようという点まで考えが進んでいる点に敬服いたしました。
 今回紹介しました手法は、あくまでこの大規模事業体に当てはまる方法ですが、皆様方の事業体で実践される場合は、人口密度や都市形態などによって事情は異なりますので、各事業体で独自に設定し変える必要はあります。「このような考え方もあるのだな」という風に捉えて頂ければ幸いと思います。

Q12(2012.03.05)
 配水管網の計画的更新や漏水修繕体制の充実、そして漏水調査の徹底により、毎年、漏水率は減少傾向にあるものの、近年は漏水率の減少がほぼ頭打ちに近くなっています。「漏水調査の範囲を広げ、調査周期を短くする」、すなわち、もっとコストをかけて漏水調査を行えば、漏水率のさらなる低減が見込めるものと期待できますが、果たしてどの程度のコストをかけ、どのレベルまで漏水率を下げることが妥当なのか苦慮しています。経営効率を考慮した漏水防止業務の在り方はどうあるべきであろうかという疑問を持ちながら配水管網の維持管理業務を行っていますが、何か具体的目標とすべき指標や考え方は無いのでしょうか?


1.有収率(漏水率)を目安に漏水防止業務を効率的に進められるだろうか

 水道事業体の職員のうち、配水管の計画的更新や漏水調査の推進という業務に携わっておられる方は多いと思います。配水インフラの管理・整備をこれまで精力的に進めてきた結果、東京都などは漏水率が3.1%と低い水準に至っています。有収率の向上に積極的に励んできた事業体では、漏水率が年々下がってきて、「ここまで低減すると、もう限界なのでは」とか「漏水率の限界はどの程度なのか?」「漏水防止作業の費用対効果は漏水率が下がってきても説明できるものなのか?」といった疑問を抱えながら、業務に携わっておられることと思います。漏水率が10%程度以上であった時代は、水資源の有効利用の必要性とか、漏水事故による二次災害の防止のためという目的で事業推進の説明がついたかもしれませんが、漏水率がある程度以上に低減してきますと、自分が担当する配水インフラの管理・整備における漏水防止対策の限界の設定や費用対効果を考慮した業務対応が新たに必要となってきます。

 有収率や漏水率は現時点で一般的に使用されている漏水対策の目標指標です。しかし、有収率や漏水率は水資源の有効利用度は示していますが、配水インフラの管理の効率性の評価という面では便利な指標とは言えません。その理由は、漏水率は需要量の多少やその変化に大きく影響を受けるものであることです。配水インフラにおける漏水量は一定であるはずですが、その配水管網内での需要量が多ければ漏水率は相対に低く算出されますし、需要量が少なければ逆に上がるという性格のものです。すなわち、発生している漏水量は一定であっても、「需要量の多少によって漏水率は上下する。」という問題を抱えています。

2.配水インフラにおける漏水量(CARL: Current Annual Real Losses)の設定
 一般的に、 配水量=(有収水量+有効無収水量+メータ不感水量+漏水量) として水収支分析されています。水道事業体の水収支量は算定期間が4月から翌年3月までの1年間ですので、年次平均値として扱われています。その内容を表−1に示します。

 メータ不感水量はメータ誤差に起因する計量誤差のことで、配水量に対するメータ不感率として各自治体が独自に設定しています。しかし、メータ不感率について実態的にどの程度の率が望ましいのかは、日水協やメーカー等からはっきりと示されていないため、使っているメータは日本中ほぼ同一品種のものであるのに、自治体によってメータ誤差の採用値はまちまちであるという問題はあります。背景には、漏水率を低く抑えたいという自治体の思惑があるのかもしれません。

 事業用水量や消火用水量も計量水量ではなく、消火作業等の消火栓使用時間の想定等による認定水量なので、正確さとしては問題もあります。

 このように水収支分析のデータの正確性に若干の問題点はありますが、
     漏水量(CARL)=配水量−(有収水量+有効無収水量+メータ不感水量)
で求めます。

   表−1 配水量の中身
 有収水量 メータで計量され、事業収入に結び付いた水量 
 有効無収水量 水道事業用水量、消火時等の消火栓使用水量、漏水認定減額水量等
 メータ不感水量  メータ誤差に起因する計量誤差
 漏水量(真の漏水量(CARL))  配水管漏水量、配水池の漏水量やオーバーフロー水量、給水メータ上流側の給水管漏水量

3.漏水量の増減に関係する要因
 
真の漏水量(CARL)の中身は、配水管漏水量、配水池の漏水量やオーバーフロー水量、給水メータ上流側の給水管漏水量等が考えらえます。

 
配水システムが経年劣化してくると、新たな漏水や管破裂事故が自然に増加する傾向があり、管路の更新や地上漏水の早期発見と素早い修理、積極的な漏水調査による漏水発見を進めていけば、漏水量は次第に減少傾向となります。
この減少傾向の度合いは、
@ 計画的管路更新事業の推進(管路更新のアセットマネジメント)
A 適正な配水圧力調整
B 漏水修理の迅速さとその修理工事品質
C 未発見の漏水を見つけるための積極的な漏水調査 
のバランスのとれた業務内容によって左右されますので、事業体は配水システムの内容を細部にわたって分析し、効率的に漏水管理を行うことが必要になります。

1)給水管漏水は給水管数に関係する
 
良く整備された給配水システムにおいて、一般的に、漏水量は配水管よりも給水管に関わるものが多い傾向があります。管材の破裂や継手等からの漏水発生の生ずる頻度や漏水量は、給水管の方が配水管の数倍ありあます。理由は、給水管が小口径管であるがゆえに構造的に脆弱であることと、単位長さ当たりに多くの継手や接続金具を用いているためです。
 
管破裂時の平均的漏水量は配水管の方が給水管より多いのですが、給水管の微小漏水は発見が難しく、修理されるまでに長期間がかかります。このため多くの漏水量は給水管上で発生していると言えるでしょう。
 給水管での漏水が多いとして、配水システム内の給水管の存在量を示すパラメータとして、「給水管数」と「給水戸数」とが考えられます。この2つを比較しますと、給水管数の方が漏水量を把握するパラメータとしては、より適していると思われます。それは、集合住宅のように、1本の給水管によって多くの給水戸数に給水している場合、1つの主メータの上流側給水管の漏水(1本の給水管の漏水)がその給水管に依存している全給水戸数全ての漏水と考えられるからです。給水戸数ほど給水管は存在していないので、給水戸数を対象として漏水量を推測するより、給水管数を対象に漏水事故の発生を推測する方がより妥当と思えるからです。

2)配水管の漏水は配水管延長に関係する
 
配水管の破裂による漏水も、もちろん無視はできません。漏水の大部分が給水管よりも配水管の延長に起因している配水系統もあります。良く管理された配水システムでは、給水管漏水による漏水量よりも配水管漏水量が上回るケースの転換点は、配水管Kmあたり給水管密度20本未満の場合と考えられています。

3)配水圧の影響
 
配水管網を適切な配水圧力で管理することの効用は以下の通りです。
@ 配水管網の寿命を延伸する
A 配水管・給水管における新たな破裂の頻度を軽減する。
B 配水管網に存在するすべての漏水量を削減する。
C 個人所有の貯水槽からのオーバーフロー量を削減する。
D 水圧に依存する単位時間あたり需要量を削減する。
 平均的な漏水発生頻度と個々の漏水量は配水圧に大きく依存します。大規模配水システムでは、漏水量は水圧の1.15乗に相関すると言われています。

4)その他の要因
 配水圧の大小が配水管網の漏水発生の大きな要因ですが、給配水管の埋設地盤や土壌の種類が漏水発生の頻度、そして、地上に漏水が現れ易いかどうか、言い換えれば、漏水発見のし易さに大きく影響します。地盤や土壌条件を考慮して、耐震管のような壊れにくい管材や、腐食性土壌にあってはVP・PEのような腐食しにくい管材の適切な選択が漏水発生の多少に大きな影響を与えます。

 漏水の存在は厄介なものであり、その多くは発見されずに何か月も何年も続くことがあります。損失水量の多少は管網の特性と事業体による漏水調査と実践される修理方針に大きな影響を受けます。損失水量を左右する具体的要因としては、次のようなものが考えられます。
@  管網の水圧
A 新たな漏水や管材破裂の発生頻度と典型的な漏水速度
B 新たに発生した漏水をいかに早く探し出しているか
C 地上漏水が水道局に報告される時間の長短(漏水がどのくらい早く知らされるか)
D 漏水場所特定時間(いかに早く新たな漏水場所が特定されるか)
E 漏水修理時間(いかに早く修理もしくは漏水を止めることができるか)
F バックグラウンド漏水(検知されない小さな漏水)のレベル
 積極的な漏水調査の実施は発生した漏水の長期間放置に対して有効な対策となります。

4.配水インフラの漏水指標
 
一定規模以上の配水インフラでは、最高に素晴らしい管理下にあったとしても、漏水はある程度は常に存在するものと考えます。そうしますと、漏水率を減らすことに目標を置くのではなく、配水インフラにおける一定程度発生するであろう漏水量(不可避の漏水量)を推定し、その不可避の漏水量値を基に配水インフラでの制御すべき目標とすべき漏水量を設定します。そして、その設定値を年次的に達成していくために、管路更新アセットマネジメントの推進、漏水の早期発見と迅速な修繕作業の推進、地上に現れない小規模漏水の漏水調査業務の3点セットをバランスよく進めていくことが、効率的な管路維持業務を遂行していくうえで必要と思われます。すなわち、現時点での配水運用圧において、いかに配水管網が管理(漏水修理、布設替え、漏水調査)されているかということを計量することが、効率的管理業務を遂行していくには不可欠であるということなのです。

 
「配水インフラにおける一定程度発生するであろう不可避の漏水量(UARL: Unavoidable Annual Real Losses)」を推定する手法として、IWA(International Water Association)漏水管理特別委員会が開発した配水管網のインフラ漏水指標(ILI:Infrastructure Leakage Index)について紹介します。ILIは、「最高に素晴らしい管理下にある配水システムにおいても、漏水は常に存在する。」という事実に適応した考え方を取り入れています。




 
「どのような配水系統にも漏水は常に存在する。」という考え方のもとに、不可避の最少漏水量は、Figure 1の内側の小さい長方形(UARL)で表わされます。CARL(大きい長方形)とUARL(小さい長方形)の差は、技術的に漏水防止可能な漏水量となります。

 UARLの対象とする漏水の中身は次のようなものです。
@ 継手や金具からの発見されにくい漏水を対象としたバックグラウンドロス。地表面に現れない漏水の場合、音聴調査で発見できないほど流量が少ないもの。概して小流量の漏水で長期間続く可能性のある漏水。
A 経験上の平均的な頻度で、平均的な漏水継続期間程度で発見・報告される漏水や管材破裂による典型的な漏水流量。概して大流量で短期間の漏水。
B 経験上の平均的な頻度で、平均的な漏水継続期間程度では発見されない漏水や管材破裂による典型的な漏水流量。概して並みの漏水流量であるが継続期間は積極的な漏水管理の熱心さと手法に依存する種類の漏水。
C 配水システム内の平均的水圧。水圧と漏水流量の関係は線形であると想定する。

 UARLは配水管延長、給水管数、配水管からの顧客メータの迄の距離、最新の運用配水圧をファクターに、技術的に防ぎにくい最少の年次漏水量を予測します。このことは、その配水系統が高水準な管路管理をされている条件下では、防止することがほぼ困難な漏水量がどの程度であるかという推測値を設定することです。このUARLがいかほどの値になるかをもって、管路管理目標の目安にしようというのです。
       UARL(g/日)=(18×Lm+0.8×Nc+25×Lp)×P
 ここに、Lm=配水管延長(q)、Nc=給水管数、Lp=官民境界から顧客メータまでの給水管の総延長(km)、P=配水システムの平均水圧(m) です。
 UARLは5,000以上の給水管数、給水管密度配水管qあたり20以上、運用配水圧25〜100mの配水系統に適用できるそうです。

 ILIは最新年次の真のロス(CARL)と不可避の真のロス(UARL)の比、すなわち
       ILI=CARL/UARL
です。比にすることによってILIは無次元となり、異なる測定単位(メートル法、米国法、イギリス法)を使っている国々の間の比較を容易にします。

 ILIは給水管密度と正の相関があります。給水管密度が上がればILIは増加する傾向があるのです。
原因としては
@ 入り組んで複雑な道路形態を持つ都市では、給水管延長が長いことが予想されること。
A 都市化が進み道路交通量が多いと漏水の修復機会(間隔)が長大化する傾向が考えられること。
B 都市化が進んでいることは古い給水管も多く存在することになり、漏水発生の危険性が増していること。
が考えられます。

 
管理の行き届いた管路システムでは、ILI=1.0(CARL=UARL)となることが予想できます。日本の規模の大きい水道事業体ではILI < 1.0の可能性があります。これは世界有数の地震国として管路更新に取り組んできた結果が大きいと思われます。

 ILIは経済性を考慮していませんので、必ずしもILIの目標を1.0とする必要はありません。配水システムには漏水レベルを一定以上下げることが経済面を考慮すると得策ではないケースがあります。水を節約する(漏水防止を推進する)価値と掛かるコストを考えて、目標レベルを設定することが大切と思われます。
 ILIの目標レベルを設定して、その目標レベルをクリアできた場合、積極的な漏水調査の推進に掛かる費用を当面削減することは有意義です。しかし、耐震対策の推進や管路の寿命を考えた計画的更新のスピードを減ずる方向の経営判断をすることは慎むべきと思えます。管路の老朽化状況を考慮した計画的管路更新と発見された漏水の速やかな修理体制の継続は、必要不可欠な管路維持業務であるからです。

<参考文献> 

Infrastructure Leakage Index (ILI) as Water Losses Indicator

Winarni Winarni
Environmental Engineering Department, Trisakti University, Jakarta, 2009

Leak Location & Repair Guidance Notes

Specialist Group, Efficient Operation & Management, Water Loss Task Force, 2007

 


Q11(2009.05.07) 
 水道法12条に「技術者による布設工事の監督」の規定があり、監督をする技術者は水道法施行令第4条に定める資格(「水道工学または衛生工学、または土木工学科を修めた上で大学卒業後、実務経験2年以上」等)が必要とされています。この規定ですと、新規採用の職員や他の部署から人事異動できた水道事業未経験職員は水道布設工事の監督ができません。
 また、水道法第3条「用語の定義」10項に、「この法律において、「水道の布設工事」とは、水道施設の新設または政令で定めるその増設もしくは改造の工事をいう。」とされていて、「政令で定める」内容は、「一日最大給水量、水源の種別、取水地点または浄水方法の変更に係る工事、沈澱池、ろ過池、浄水池、消毒設備または配水池の新設、増設、または大規模の改造に係る工事」とされています。
 老朽配水管の更新工事は水道施設の新設には当たらず、「水道の布設工事」ではないとも言えます。熟練技術者の大量退職を控え、水道事業体はどのように解釈して対応すべきと思われますか?


  水道法12条「技術者による水道布設工事の監督」によりますと、「水道の布設工事」を施行する場合は,2年以上の実務経験等を有する監督者が必要とされています。
 水道法3条「用語と定義」逐条解説によりますと、「水道の布設工事」とは,「水道施設の新設又は政令で定めるその増設若しくは改造の工事をいう。」とされ,「新設」の場合は全ての工事が該当しますが,「増設・改造」の場合は工事の内容が特殊であり,施工によって給水する水質に異常をきたす等の恐れがある「大規模又は重要部分の工事」は該当するが,それ以外のいわゆる配水管の更新等は該当しないと解釈されます。結論として「配水管の更新等」は「布設工事」には該当せず監督者は必要ないと解釈できると思います。

 しかし、新設の配水管布設工事の場合は監督者が必要なのに、更新工事なら不要という考えには違和感がありますね。布設替え(更新)工事に監督者が不要な理由として,「これらの工事は通常の土木工事として適正に施行されれば,水道施設の正常な機能の保持上特に問題がないと考えられからである。」とあります。新設・更新工事を問わず、通常の土木工事の範疇で充分と見なせる場合もあるでしょうが、シールドや特殊工法、耐震継手工事の習熟度等、一概に通常の土木工事とは言えないケースも多いと思うのです。最近は特に、「飲用に適する水を供給する水道システム全体の危機管理体制を強化しよう」という考え方が主流になりつつあると思います。
 これらの点を総合的に考慮されて、水道事業体の責任で法解釈をすべきでしょう。

 ポチの事業体でもこの法解釈に困ったあげく、「水道管の布設替は口径の大小に関わらず,管内を流れる水質の確保,管や継手の種類による特殊性等,また,圧力配管ゆえの漏水防止等,一般土木工事等とのノウハウの違いにより,水道管布設工事に従事する者は資格者であることを義務付けており,この布設工事の施工を指導する監督者は一定の実務経験が必要である。」との見解で対応しています。
 新規採用職員並びに人事交流職員は実務経験がないため,実務経験が取得できるまで,実務経験のある職員の指導のもと水道布設工事設計・布設現場監督見習として従事していただいています。実務経験が取得できれば,ただちに水道布設工事の監督者となれるため,この期間を人材育成期間と考えているのです。

 また、ある事業体では、監督者に任命できない技術職員は、資格ができるまでは給水担当とか布設工事に関係のない部署に配属しているというお話を聞いたこともあります。


Q10(2009.05.03) 

計画日配水量100m3程度の小規模水道の湧水水源の湧水量が最近どんどん減少して、安定給水に支障をきたす状況となっています。
 ちなみに水源地より上のほうは1000m以下の山々が連なっていて水源涵養には申し分ない条件の所です。近年土木工事や森林伐採等、水源枯渇の原因になる要因もみあたりませんし、近頃、特別大きい地震も起こっておりません。
 湧水量減少の原因はどのようなことが考えられますか?また、全国的にもこのような事例は多く見られるのでしょうか?


 湧水は性能の良い地下水(浅井戸)と位置付けられると思います。一般的に、地下水が枯渇してくるのは、
@ 過剰取水:水源の周囲に地下水利用者が増え、当該地域の地下水賦存量を超えた取水が生じている場合やその涌水(井戸)の限界取水量を超えるかそれに近い取水量を続けて取水していた場合
A 賦存量の減少:地下水脈が何らかの原因(地震等)で変わったり、水源涵養状況が減少傾向にある場合
が考えられます。

 ご質問のケースでは、水源涵養条件の変化等、賦存量の減少は考えられないみたいですし、田舎で、湧水源周囲では井戸取水を含む地下水利用が一般的な地域なのでしょうが、近くに大量取水を開始した等の過剰取水の発生も無いのでしょう。

 一番考えられるのは「涌水(井戸)の老化」だと思います。井戸の揚水量は建設時が一番豊富で、その後、取水量はだんだんと枯渇の方向に向かう(揚水量が少なくなっていく)状態にあるものです。涌水に関しては私の事業体には存在しないので詳しくは知らないんですが、東北地方の事業体の例ですと、15000トン/日の湧水水源が時系列的には減少の方向に向かっているということをお聞きしたことがあります。
 すなわち、地下水(井戸)の水脈は使用と共に、水みちがバクテリアの発生や金属・無機物・砂泥等の堆積により水みちが目詰まりしたり、地震などで水脈が荒らされたり分断される等何らかの原因で湧水量(揚水量)が減少に向かう傾向にあるということです。

 湧水が枯渇の方向に向かっているとしても、湧水が存在しているほどの土地ですから、湧水源付近ので地下水脈は期待できると思われますので、浅井戸を掘れば安定した取水は期待できるものと考えます。  

Q9(2009.04.0)
 蛇口からでる水道水が着色されて出てくる原因と対策をまとめていただけませんか?


  この回答として「水道技術ジャーナルNo49」に横浜市水道局の飯島氏が執筆されていた内容を主体に紹介します。

1.白濁水
(1)数秒間放置すると下の方から澄んでくる場合
<原因>
 蛇口から出る水に何らかの原因で空気が混入している。
 断水を伴う水道工事による水道管への空気の混入や給湯器による加温により水に溶け込んでいた空気が放出される、あるいは、勢いよく出る水に空気が混入されコップの水が白濁する等の原因が考えられます。
<対策>
 空気の混入が原因ですので、少し放置すればきれいになり、問題はありません。

(2)放置しても白さが消えなかったり、加温すると水が白くなる場合
<原因>
 給水管の材質が亜鉛メッキ鋼管の場合、亜鉛が溶け出して白色になります。
 火にかけると一層白くなったり、表面に白い油膜が浮いたように見えることがあります。
<対策>
 給水装置内の滞留時間が長い場合に起きやすく、朝一番の水は他の用途に使う等の対策が必要です。給水装置の布設替の必要があります。

(3)数分間放置すると白濁物が沈殿する場合
<原因>
 この汚濁物質は、水道工事による土砂の混入や浄水場から除去しきれなかったアルミ分や泥質等が考えられます。アルミ分である場合、基本的には白色ですが、管内の錆分が混じると茶色くなります。土砂の場合は少量の場合は白っぽく、多量になると茶褐色になります。配水管流向の変化や漏水事故等による配水管流速の急上昇により、積年配水管内に貯まっていた汚濁物質が流れ出すことが多いですね。
<対策>
 水道本管の洗浄が必要です。

(4)防錆剤等の薬品による場合
<原因>
 ビルやマンションでは、赤水対策として、受水槽に防錆剤を入れることがあります。この時、何らかの理由で多量に入れてしまうと、水が白くなることがあります。
<対策>
 保健所等の公共機関に連絡し、原因を究明して対応が済むまでは飲料をひかえる必要があります。

2.赤茶色の水(赤水)
 金属管の腐食による細かい鉄さびが流出したもので、赤あるいは赤茶色の水になり、ひどい時は鉄さびの固まりが確認できることがあります。
<原因>
 鋼管・鋳鉄管等鉄管の腐食による鉄さびの発生や鉄バクテリアが配水管内で繁殖している場合が考えられます。
<対策>
 配水管の布設替えや配水管ライニングによる更正工事が必要です。
 赤水が朝一番の使い始めの時に発生しすぐに水が澄んでくる場合は、給水装置の腐食(鉄さび)が考えられます。見た目にきれいになるまでは他の用途に使う必要がありますが、根本的な対策は給水装置の布設替えです。

3.黒い水
 マンガン酸化物が流出すると黒い水となります。
<原因>
 マンガンを多く含む水源の場合は何らかのマンガン除去対策を施していますが、そのマンガンが何らかの理由により配水管まで流出し、塩素に酸化されて酸化マンガンとして沈殿付着します。配水管内の流向や流速の変化が生じると、水道管の内面に付着していた酸化マンガンがはがれて、黒い水や砂のような粒として蛇口から出てきます。鉄さびが加わると黒褐色や茶褐色になります。
<対策>
 水道管の洗浄や布設替えが必要です。

4.きらきら光る水
<原因>
 水道水に原因はないのですが、ガラス容器で長時間お湯を沸かしたり、水をつぎ足して繰り返し使用していると、「ガラスのフレークス現象」と呼ばれる、ガラスが劣化しきらきら光る小片状の物質ができることがあります。フレークスとはミネラル分の一種の含水珪酸マグネシウムのことで、飲まない方が賢明です。
<対策>
 ガラス製品で湯を沸かす場合は空焚きや継ぎ足しで沸かさないように心がけましょう。

5.夾雑物(ゴミ)
(1) アルミ系凝集剤
<原因>
 1−(3)で紹介しました浄水場から除去しきれなかったアルミ分や泥質等が配水管内に沈殿付着している夾雑物です。基本的には白色ですが、管内の錆分が混じると茶色くなります。急速ろ過池の砂を通り抜けて流出している非常に微細な夾雑物ですので、風呂桶に貯まった水の底にうっすらと白っぽいふわふわした微細粒子が存在することで苦情となるケースが多いですね。
<対策>
 凝集剤の最適注入や沈澱池管理を徹底することですが、浄水場から完全に流出を防ぐことは難しいと思います。 配水管の洗浄が有効ですが大口径管の洗浄は不可能に近いのが現実です。配水支管の洗浄や管路内の夾雑物を捕捉するためのストレーナやドレン付きT字管の設置が有効です。

(2) 剥離したシールコート
<原因>
 シールコートとは,モルタルライニング管の内面に塗布された保護材のことで,メタアクリレートやブチルメタアクリレートなどを反応させたアクリル系樹脂あるいは塩ビ系樹脂がその成分です。
 内面をモルタルライニングした鋳鉄管では、昭和40年初等から50年代前半にかけては塩化ビニル系、昭和50年代から平成元年にかけては浸透性でないアクリル系のシールコートをモルタルの劣化防止に使用していました。水道原水が地下水で遊離炭酸を多く含んでいる場合や、ランゲリア指数が低い浸食性の強い水道水では、浸透性でない塩化ビニル系やアクリル系のシールコートが剥離し、水道水質苦情として問題となっています。経口毒性試験では、モルタルライニング表面に塗布されたシールコートは衛生上無害で引用しても差し支えないとの見解がありますが、まず飲めないですよね。
<対策>
 これらのシールコートは主として口径250mm以下の配水支管に使われているケースが多く、大口径管ではあまり見られません。4−(1)と同じく、配水支管の洗浄や管路内の夾雑物を捕捉するためのストレーナやドレン付きT字管の設置が有効です。
<参考>
遊離炭酸:水に溶存している二酸化炭素のことで、20mg/Lを超える場合は腐食作用を持つ場合が多い。

Q8(2009.04.06)
 
 ポチさんのH20年度筆記試験必須問題予想で<想定問題3>
「人口減少、高齢化の進展、厳しい財政事情等の問題を抱えている地方において、上下水道施設の整備や運営面上の課題を挙げ、対応策について水道事業および下水道事業それぞれについて述べよ。」がH21年度必須試験の本命になるような気がしています。下水道部門では投資額の平準化や安くできる施設整備手法等を含め、アセットマネジメントの必要性が盛んに論じられていることから旬な話題なのではないでしょうか?
 ポチさんのご意見はいかがですか?


 <想定問題3>における事業体の課題としては、「計画的な施設の更新」と「流域水質汚染対策」の両面が考えられます。
 2007年から技術士の試験方法が改正されてからは「健全な水環境保全」が2年連続で出題されていますので、この傾向を第一義に考えますと、「流域水質汚染対策」としての施設整備を図る上で、財政問題を克服するための「工夫」を問うことは大いに考えられますね。「下水道整備が遅れているため水道原水の水質が悪い。財政面からは、下水道の早期普及や安全・安心を高めるための施設整備ができかねる」という課題を克服するための知恵を問う設問となります。「水循環」に関する設問を一番に考えておくことは今までの傾向からして大切でしょう。
 
 では、「計画的な施設の更新」という面を重視した視点で問われるか?という質問に対してです。

 「施設の更新」も非常に大切なテーマで、特に「水道施設の長寿命化策」(事故リスクが大きくなって問題点が多いという指摘もありますが)は今後注目される課題と思っています。「地域の最適解」を求める事業運営に関する問題も今後の大切なテーマでして、技術士としての力量を試す設問として、ポチが試験官なら是非出してみたい問題なのです。この数年間、私も出題の可能性はあるだろうと思って、予想欄には何番目か(第1番ではありませんが)に挙げていました。でも、最近は、「上下水道共通問題としては出ないんじゃないか?」という考えに傾きつつあります。
 理由は、
@下水道のアセットマネジメント手法(施設の長寿命化策等技術的側面が強いもの)はともかく、水道ビジョンにおける内容は経営的側面が主で技術的な側面があまり無いこと。(総合技術監理部門の設問としては良いんですが)
A「20〜30代後半までの技術者には経営的な問題が重荷なんじゃないか」と思えること。
です。でも、「絶対に出ないよ。」と言い切れるほどの自信はないんですがね。変わり者の試験官もおられるみたいですから。(笑い)

 ただ、A or Bの個別設問として、技術的側面を重視した設問は大いに考えられますね。例えば、「老朽化した配水管が多量にある場合、経営面を考慮した更新計画のあり方について述べよ。」とか、「散在する小規模な浄水場を多く保有している事業体において、安全・安心を高め効率的経営を目指すためには、経営的手法も含め、どのような維持管理策が考えられるか?」なんてところです。

 「出題されるかどうかにかかわらず、上下水道技術者(技術士)にとっては重要なテーマである。」ことは間違いありませんので、賢明な皆様は自分なりの見解を持っておいて下さいね。

Q7(2008.5.2)
 
過去問から維持管理・更新に関する出題が予想されます。
水道施設の維持管理、保全、更新の関連について整理してもらえませんか?


 いつの頃からは解りませんが、水道界では、「維持管理」という言葉が一般的に使われています。  昭和の安定成長期に入った頃、水道界では「建設」から「維持管理」の時代になったと言われ、「維持管理」が脚光を浴びてきたのではないでしょうか。
 水道維持管理指針(2006)によると、「かつては、維持管理の概念は狭く理解され、水量・水圧を確保するための設備の運転や保全、水質基準に適合することを目的とした管理という考え方が強かった。しかし、需要者の要求水準が高まっている現在では、需要者が利用する水道の水準を高めるという広い概念を目標とすることが必要」と記しています。(P2) 解ったような?解らない言い回しですねー。

 総合技術監理のテキストである青本(技術士制度における総合技術監理部門の技術体系)のP54〜57には、「設備管理」は設備の信頼性・保全性・経済性を管理尺度として、「設備計画」と「設備保全」を併せたものと説明しています。
 「設備計画」とは、設備が生まれるまでの調査研究、設計、製作、設置とし、「設備保全」とは、設備が生まれてからの運転、保全、廃却、更新と位置づけています。

 水道界で言う「維持管理」とは、この場合の「設備保全」の意味に近いものと思われます。(ポチの独断ですが!)すなわち、水質及び運転管理、設備の点検・整備、保全、管理の・最適化・効率化、レベルアップを含めた更新、情報提供となりますかねー。「保全」や「更新」は「維持管理」の一部の業務と言うことになります。
 「保全」とは個々の設備や水道システムが故障した場合、短時間で修理することができる状態にしておくことと言えるのではないでしょうか?
 「更新」とは、設備の老朽化に伴い、設備の信頼性・保全性・経済性に問題が生じたり、新たな価値観に対応する必要性から、古い設備を廃却し、新しい設備に取り替えることと言えましょう。

 維持管理の基本的考え方として、水道ビジョンが目標としている「安心」「安定」「持続」「環境」に関する点と費用対効果分析を踏まえ、以下の視点にたって行っていくことが重要としています。
@ 維持管理は個々の点検に止まらず、システムとしての機能を理解してレベルアップに努める。
A 点検、整備、更新の実施に当たっては、水道技術全般(土木・機械・電気・水質・環境技術等)の技術を駆使して全体としての統一性を図る。
B 点検・整備は管理目標を踏まえた維持管理計画を策定し計画的に実施する。
C 管理技術者の確保が難しい場合は、自動計測・自動制御・遠隔監視等の技術を活用したり、水道事業の広域化や第三者委託による対応を図る。
D 水質管理は、原水から給水に至るまで総合的に行う。
E 原水監視、必要資材の備蓄、災害時の応援等は広域的に対応する。
F 計画的に老朽施設の更新・耐震化を進める。
G 需要者に積極的に情報提供する。
H 水道技術の継承や技術水準の維持向上に努める。
I OAやITを用いて維持管理の最適化を図る。
J 目標管理を徹底し、維持管理の向上と効率化を図る。
K テロ対策に努める。
L 業務委託を行っている場合は、業務の適性執行状況を常に把握する。

Q6(2007.8.31)
  配水量分析の中に配水池の漏水量が入ってないのはなぜでしょうか?海外の配水量分析には配水池のオーバーフロー水量や漏水が含まれているし、水道維持管理指針にも配水池のクラックや伸縮目地の補修方法が載っていて、配水池漏水の存在は確認されていることと思うのですが。


 配水流量とは、基本的には、浄水システムの出口の流量+配水池の増減量であると思います。

 水道ガイドラインによりますと、配水量とは浄水場の出口(送水管の損失が無視できる場合)または、配水池の出口における流量(通過量)となっています。でも、この記述では、送水管や配水池の漏水量は配水流量にはカウントしないとも読み取れます。
 同じガイドラインの図4.1(省略)でも、「配水量=送水流量-送水管漏水量+配水池に流入する別系統の流入量−配水池からの分水量」と記しています。この中に配水池漏水量に関する記述はありませんが、明らかに、配水量とは「浄水システムの出口流量−送水管漏水量」であり、送水管や配水池の漏水量は配水量にカウントしませんよという記述と類推できます。これは、ポチの考えと異なります。そうすると、送水施設能力は「日最大配水量+送水管や配水池漏水量」であるべきなのです。送水管や配水池漏水量が考慮されていないのは、「そういう漏水はあってはならないもの?」という扱いなんでしょうかね?

 一方、水道施設設計指針では、取水施設〜浄水施設の計画水量は日最大取水量(日最大配水量+取水ロス≒日最大配水量×1.1以内)を対象としていますが、送水施設からは日最大配水量を対象とすることになっています。このことから推察しますと、配水量=送水流量+配水池の増減量(送水管や配水池の漏水量を含む)と考えるのが妥当と思えます。

 以上異なる二つの記述を紹介しましたが、ポチは前述しましたように、「配水量=浄水システムの出口の流量+配水池の増減量」が正しいと思っています。ややマニアックなテーマで恐縮ですが、この点について、読者の皆様のご意見を頂けたら幸いです。

 送水管や配水池の漏水量が計量されている場合は、「B無効水量」の中の「L漏水量」の中にそれらを個別で計上するか、配水施設漏水量として、または配水管漏水量として、送水管・配水池・配水管の漏水量を一括して計上することになるのでしょう。計量できてない場合は「Mその他無効水量」に一括して含まれることになります。

 一般的に、配水池の漏水量は計上されていないことが多いのですが、それは、送水管や配水池に漏水がほとんど無いから?でしょうね。(これはタテマエっぽいかなー。配水池からの漏水を公に認めると衛生管理上問題となるので、ガイドラインでも記しているように、送水管損失として取り扱っているのかもしれませんよ。・・・これはポチの偏見でしょうけどね!笑い)

 また、配水池の漏水の有無は数年おきに配水池水位の降下テスト等でチェックすべきと思います。浄水システムや配水池に漏水があることは、飲み水である水道の衛生上問題となりますからね。

Q5(2007.07.31)
 「有機フッ素汚染」のニュースが出ましたが、これは大きな問題となりますでしょうか?(業界として、又は試験問題として・・・)厚生労働省のHPで検索して見てましたが、あまり記事がでてこないんです。


 PFOA(パーフルオロオクタン酸)はフッ素を含む有機化合物の一種で、動物実験では肝臓毒性や発達への影響、発ガン、肥満との関連が指摘されています。環境中で分解されにくく、日本や欧米などの人間の血液中に蓄積していることが判明し注目されています。欧米では生産規制が検討され、日本の3社を含む世界のフッ素樹脂メーカーが、昨年米環境保護局と共同で環境への排出削減に自主的に取り組んでいます。・・・・というのが新聞で紹介されている内容です。

 大阪市水道局のHPで紹介されているPFOAのコメントは以下の通りです。
 PFOAは有機フッ素化合物の一種であり、水道法に基づく水道水質基準項目並びに水質管理目標設定項目には指定されておりません。米国環境保護庁(USEPA)が発行した2003.4.16付のフェデラルレジスター(官報)によりますと、PFOAの発ガン性について過去の実験報告では認められたとしていることに対し、当時の最新の実験報告では認められなかったとしています。また同官報では血中濃度30,000ng/mL以上の人のホルモンレベルを調査したところ、顕著な影響は認められなかったと報告しています。この血中濃度は新聞報道されている関西在住の人々の血中濃度10ng/mLの2000〜3000倍の濃度に匹敵します。PFOAの影響については、現在USEPAにおいて、より詳細な調査研究が進められているところです。
 大阪市ではH17年度より、原水や水道水中のPFOAの存在状況や浄水処理での処理性等について調査を行い、原水・水道水中に平均で数十ng/L存在すること、粒状活性炭処理で一定の低減効果があることを確認しています。今後とも継続的に調査を進めていく予定です。

 PFOAについては詳しい内容が解らず、当然のことながら、現時点では、厚生労働省においても今後どうしようというところまでの方針は無いものと思われます。大阪市のHPでも書いていますが健康への影響もまだハッキリとはしていないみたいですね。このような状況から、当分の間は水道水質基準項目へ取り上げられそうな気配もないし、技術士試験にも出そうにはないんではないか?というのがポチの当てにならない見解です。


Q4(2007.07.09)
 工業用水道の料金はどの位なのですか?上水道と比較して安いとは聞いているのですが。

 平成18年4月1日現在での全国の工業用水道の平均料金は23.31円/m3です。
 また、最高料金は
・国庫補助金が投入されていない事業では80円/m3です。
・国庫補助金が投入された事業では、65.34円/m3です。

 工業用水道の料金格差はその地域に流れる河川の流量や河川の利用率に相関した水源開発費に大きく左右されます。
 また、工業用水道事業に於ける国庫補助制度の趣旨は地盤沈下防止対策でして、地下水取水から河川表流水に水源転換を促進する際の受水企業の負担軽減措置や普及促進を目的に設けられたものです。その主旨からして、国庫補助で整備した事業は料金を低廉に維持する必要があるという考えから、経済産業省から料金に規制が設けられています。この規制の影響により、料金で回収できない赤字分については、行政からの補充か企業からの経営協力金といった形で手当てすることになります。 


Q3(2007.07.04)
 「2007年 ポチの予想問題」の選択科目Q5.次亜塩素酸ナトリウムの使用に関する留意点として、「次亜塩素酸ナトリウム使用における臭素酸・塩素酸の課題を説明し、使用上の留意点を述べよ。」が紹介されています。この問題を考えた背景にはどんなことがあるのですか?また、「臭素酸・塩素酸」について詳しくかかれたものや参考になるものを教えて下さい。

 厚生労働省健康局水道課からの事務連絡として、まず、H16.6.16「次亜塩素酸ナトリウム等水道用薬品の使用に当たっての留意事項について」により、高濃度の臭素酸(水質基準の健康項目25番、発ガン性があるといわれています)を含む次亜塩素酸ナトリウムを多量に注入していたことにより、臭素酸の水質基準を大幅に超過する事案が発生しているので注意を促しています。また、H18.3.30「浄水処理における次亜塩素酸ナトリウムの使用に当たっての留意事項について」により、次亜塩素酸ナトリウムの使用に当たって、臭素酸や塩素酸の基準超過等の問題が起きないように留意するよう呼びかけています。これら二つの事務連絡の内容をまとめますと、次のようになります。

 次亜塩素酸ナトリウムは25度を超える高温下で長期間貯蔵していますと、有効塩素濃度が顕著に低下してきます。有効塩素濃度が低下した次亜塩素酸ナトリウムを使用して必要塩素量だけ注入するためには、当然のことながら、単位あたりの水に対して注入量を増やすことになります。その結果、次亜塩素酸ナトリウム中に含まれる臭素酸や塩素酸も多く注入されることになりますので水質基準値をオーバーする恐れも生じてくるのです。原水にアンモニア態窒素、または、鉄・マンガンが多く含まれるなど、原水水質が原因で次亜塩素酸ナトリウムを多量に注入している場合には、薬品基準や水質基準の適合について特に注意をしましょう。

 臭素酸の水質基準値は0.01mg/L以下です。H16.616付の厚労省事務連絡では、鉄・マンガンを多く含む深井戸を原水とする事業体において、通常の塩素消毒に加えて酸化剤として高濃度の臭素酸が含まれる次亜塩素酸ナトリウムを多量に注入していた結果、臭素酸の検出値が基準値の16.8倍である0.168mg/Lであった事例が報告されています。
 次亜塩素酸ナトリウムに含まれる臭素酸は、次亜塩素酸ナトリウムの保存期間や保存温度によって濃度が増えることはほとんど無いみたいです。そこで、臭素酸濃度の低い次亜塩素酸ナトリウムを使用するよう注意する必要があり、塩を電気分解する生成次亜システムの場合は使用する原料塩に含まれる臭素酸濃度をチェックし、購入次亜塩素酸ナトリウムでは購入時に含まれている臭素酸濃度を確認しておく必要があります。常日頃から臭素酸濃度の低い次亜塩素酸ナトリウムを使用するよう心がけるべきです。

 塩素酸は赤血球細胞への酸化ダメージが懸念されている物質です。現時点では水質基準に指定するために、食品安全衛生法に基づき水質基準として追加することについて食品安全委員会の意見を求めている段階で、平成20年4月頃指定される見込み(水質基準=0.6mg/L)です。
25度を超える温度下で長時間貯蔵していますと次亜塩素酸の酸化による有効塩素濃度の低下が顕著になり、塩素酸濃度は逆に上昇してきます。その結果塩素酸の多量注入の危険性が生じます。
@夏期は購入後なるべく早く使用し貯蔵期間を少なくするよう使用計画を変更する
A次亜塩素酸ナトリウムをタンクに入れるとき継ぎ足しは極力さけること。
B貯蔵タンクの清掃を心がけること。
C貯蔵室の温度調節を心がけ20度以下の低温貯蔵に留意する。室内貯蔵では空調設備を設置する。屋外貯蔵タンクでは断熱材を施し冷却配管を設置する。
D有効塩素濃度が低下しにくい濃度の低い次亜塩素酸ナトリウム(5〜6%以下)を使用する
ENaCl濃度の低い超低食塩次亜塩素酸ナトリウムを使用する
F小分け購入している場合は品質チェックに留意すること。
等の対策が必要となってきます。

 2007.7.16水道産業新聞では、日本水道協会が「次亜は生もの」として、BCFが大切として紹介しています。@は基本的な対策ですし、Aも常識的なものです。Dは濃度が低ければ低いほど有効なんですが、その結果としての注入量が多くなるのが問題です。タンクが大きくなる、注入器の容量不足等の問題が生じますね。精製次亜システムから購入次亜塩素酸ナトリウムに変えたところなら設備性能的には大丈夫ですがね。Eはある業者の推奨策なのですが、日本中どこでも入手できる状況ではない(関東地方はOK?)のだそうで、対策として書くには今一つってところでしょうか?
・・・以上「ワンポイント注意報」でした。

 今、ポチの水道事業体ではこの対策に取り組んでいますので、神経質になりすぎたのかも知れません。この対策をまとめた冊子を探しましたが、コンパクトにまとめてある資料は見あたりませんでした。(早晩出てくると思います。)事業体以外の水道関係者にはまだなじみの薄いテーマかも知れませんので、試験に出るとすると来年あたりかも知れませんね。でも健康に関する問題であり、「ほとんどの事業体で何らかの対策を講じなければならないケースが多い」と思われる頭の痛いテーマであることは間違いありません。このような状況から、若干早いとは思いましたが、先取り的な意味も含めて今回載せた次第です。ヨロシク!


Q2(2007.01.15)
 2007年から技術士の試験方法が改正されますが、ポチさんは対策としてどのようなことを注意すべきと思われますか?

 ハッキリ言って「よく解りません」というのが、正直な答えです。
でーすが、ちまたの受験対策講座の資料とか技術士に関する評論をポチなりに勉強しまして、「こうなるんではないかなー?」と思えるポチなりの考えを述べてみます。くどいようですが、あまり鵜呑みにせずに、読み流す程度にしてくださいね!

@ 記述時間が増えた
 旧方式は7時間で、体験論文(3時間)、必須記述1問・5択15問・選択記述2問(4時間)でした。新方式は体験論文と5択問題が無くなり、選択記述(3時間30分)、必須記述(2時間30分)だけで6時間あります。問題が少なくなり、記述時間に余裕をくれるのですから、書き易くなることが期待できます。

 ポチのHPでは、体験論文と5択問題は扱っておりませんでしたが、新方式になると、筆記試験に関しては完全にフォロー出来ることになります。うっふっふ!!

 そのことはさておいて、ポチは、筆記試験の合格を勝ち取るには、「試験問題を予測し、合格レベルの答案例を前もって用意し、その内容を覚えておく。試験当日には、用意した答案例とほとんど似通った問題が出題され、ほとんど丸写しに近い状態で答案用紙を埋めれば、高い確率で合格できる。」と記しています。「旧方式では、こうしないと合格は難しい」と考えているからです。これは、「十分な記述時間がない」ことから考えた対策なのです。事実、ポチは上下水道部門の筆記試験を2度受けていますが、予想がほぼ完璧に当たってすぐに記述し始めても、一応書き上げたときは残り時間は30分あるかなしでした。誤字脱字をチェックしますと、余裕は10分〜15分というところでしょう。
 これではヤマが少しはずれますと、かなり実力がある人でも、試験中に文章構成に時間がかけられませんので、自分の主張を十分論理的に記すことが難しくなります。記述時間に余裕があれば、実力のある方は試験前半に、ある程度推敲できますので論旨がしっかりしてきて、合格する確率は高くなることと思います。論理的考察力が求められていますので、この面は「合格しやすくなる」といえるでしょう。

 でも、ほとんど暗記で対処できた体験論文が無くなるのは、ある意味、残念ですねー。

A 要求される記述内容が高度になる?
 旧方式の記述問題は専門知識を問うことが目的でしたが、新方式では、選択記述は「専門知識と応用能力」、必須記述は「論理的考察力と課題解決能力」のチェックを目的としています。
 旧方式では、応用能力は体験論文でチェックされてきました。このため、体験論文は大切で、多くの方々は文章の推敲にかなりの時間をかけておられたことと思います。新方式では、選択記述で応用能力を求められることになります。

 応用能力とか課題解決能力を問う出題とは何なんでしょうね?まず、総合技術管理部門(特にH13〜15年の問題が特徴的です)の出題傾向であるケーススタディ的なものが考えられます。「条件設定しておいて、受験者に自分のお勧めの対策を記述させる」というパターンはどうでしょう。あるいは、設問に対して、「あなたが経験したことを踏まえて」「あなたならどう対処しますか?」「優先順位の高い順に述べよ」等の条件が付くことかもしれません。

 その他は・・・、今のところ、思いつかないなー!

 応用能力や課題解決能力をチェックされることは、要求される記述内容が高度になるというより、本来技術士なら当たり前に求められる姿というか、「技術士にふさわしい論旨の展開をしなさい」ということだと思います。
技術士になるために一番必要なことは、「技術士にふさわしい」用件とは何か?(=科学技術に関する高等の専門的応用能力)ということを理解しておくことだと思います。大抵の方は、技術士試験を受けるに当たり、体験論文を推敲していく中で、このことの理解を深めておられるものと思います。新方式では、体験論文は筆記試験後の提出ですから、体験論文対策を筆記試験後に行おうとする方は、技術士の必要とされる資質について、十分な理解をせずに試験に臨まれるおそれがあります。この方々が応用能力や課題解決能力を含めた記述が十分に出来るかどうか大いに疑問に思えます。

B でー! ぽちのお勧め対策
 まず、お勧めなのですが、皆様は、筆記試験に合格してから体験論文を作るのではなく、筆記試験までに、口頭試験前に提出すべき体験論文を仕上げておいて欲しいのです。口頭試験に合格しての技術士ですから、口頭試験でも大きな比重を持つ体験論文は、筆記試験前に十分な時間をかけて作成し、その過程で、「技術士とは何か?」ということを理解して欲しいのです。筆記試験後ですと口頭試験対策だけでも大変ですよ!

 それから、体験論文に何を書こうか決めておくことは(すでに出来上がっていれば尚良いですが)願書の経歴の書き方に反映できてメリットも高いと思います!

 次に、字数は同じなのに、応用能力や課題解決能力の記述を加えなくてはならないことが予想されます。この加えるべき内容は試験当日でないと解りませんからじたばたしても始まりませんね。

 試験対策は従来と同様「情報てんこ盛り」型対策でよいのです。ただし、設問内容によっては、用意していた記述内容以外のことを付け加えなくてはなりませんので、用意していた「てんこ盛り情報」はコンパクトに記述し変えなければならないことが考えられます。(総合技術管理部門の試験では必ずこの要素はあるのです。)このため、「てんこ盛り情報」を、図表でコンパクトにまとめるとすればどのようなものになるか?というチェックをしておくことも考慮しておいてくださいね!図表化することは、升目にこだわらない字数が使えるメリットがあります。「筆記試験の注意事項」では、「てんこ盛り情報」は、時間が少なくなったとき、「箇条書きにすると字数が稼げる」旨を書いていますが、こんどは逆の現象に対する対応策ですよね。

 結論ですが、受験勉強は今まで通り、ポチのHPの「筆記試験の注意事項」に書いているように、「情報てんこ盛り型」となるよう、200時間以上時間をかけて、答案例を作り、それを暗記して試験に臨まれることを勧めます。そうしておけば、一定の条件設定が付いていても、時間がありますので十分対応できると思いますよ!

 くどいようですが、「情報てんこ盛り」の用意が出来ていない設問に対処しなければならないケースでは、かなりヤバイですよ!ある読者の方から、このケースでの対処法(実力が今ひとつの受験者には必須なんだそうですが)を聞かれたことがあります。良い方法なんて、有るわけないだろーがー!

 このような見解から、当面「筆記試験の注意事項」は変更致しません。今回の改正は、合格者を増やすための方策でしょうから、皆様、ご心配なさらずに!(本当かいな?無責任でごめんなさい)


Q1(2007.01.14)
 水道協会誌にある水道の統計資料で全国平均
       給水原価 181.15円/m
       供給単価 176.09円/m
とありますが、これは、平均すると赤字で水道水を供給しているということでしょうか?
 事業体によってはそのようなところもあるようですが。
A1
 給水原価とは、1m給水するのにかかる費用のことで、ポチの事業体では
  給水原価=(経常費用−受託工事費他)/水道料金算定水量
としています。
 受託工事費他とは、不特定多数の一般的な給水のために掛かる費用とは見なせない、他事業体との共同事業における工事費であるとか、個人所有の水道施設の修繕工事等、ある特定された方々の便宜のために使った費用のことで、給水のために使った費用とは見なしにくい費用のことです。

 供給単価とは、1m給水して得られる収入のことです。大抵の事業体は逓増料金となっています。これは、水道事業は他に代替えのできない公共性の高い事業であることから、生活用水は安く、事業用と見なされるものからは多くの料金を頂こうという福祉的趣旨の強い料金体系といえます。近年、企業・病院等の大口需要者が、自家用の井戸を掘り、高料金の水道を敬遠する動きがあるのはこういう料金設定が原因なのです。
  供給単価=給水収益/水道料金算定水量

 一般的には、供給単価より給水原価が高い場合は、その水道事業体は赤字であるといえます。

 ただし、水道事業体は給水する水量(水道料金)によって収入を得る以外に、水道新規加入者から加入金を頂いたり、不採算地域の水道建設や維持管理費に対して、市町村の一般会計(税金)から住民福祉の名目等で何らかの補助金を受けている等、料金収入以外の収入を得ている場合があります。このため、一概に、経営的に赤字であると断定はできません。