管路更新の技術

2020.10.11

AIによる管路劣化診断ツール(2020.4.2水道産業新聞)

 米国Fracta社(メインの技術者でもある社長は若い日本人)は2020.3.24、日本国内の水道事業者向けに、AIと機械学習技術を活用した水道管路の劣化状況を診断するオンラインツールの提供を開始すると発表しました。このツールは、水道管の位置情報・配管材質・口径・使用年数(設置年月)・過去の破損履歴の水道管路に関する5種類のデータと、同社が独自に収集している1000以上の環境変数(土壌・気候・人口など)を組み合わせて、水道管の破損確率をAIで高精度に解析し、最適な管路更新時期を導き出すものです。破損確率の高い水道管から優先順位をつけて更新することができるとしています。

 米国では、27州の60以上の水道事業体で採用され、試算では管路更新費用を年間30〜40%削減できているそうです。日本では川崎市、神戸市、越谷・松伏事業団等で管路診断システムの検証を行い、米国で実用化しているオンライン管路診断ツールと同等の有効性が確認できました。これを受け、同社は2020年春から国内水道事業者向けにツールの提供を開始しています。今後、多くの事業体での検証が進むにつれ、AIに日本の実情に応じた劣化パターンが蓄積されてくることで、予測精度の向上が期待できます。

 中小事業体に取って財政・人材不足が深刻になっていて、「明日壊れる管路を昨日まで使い続け、壊れる直前で更新したい」という夢の更新計画が実現できればベストです。地中に埋設されている管路の劣化予測は難しく、有効な手立てを探している状況ですが、このオンライン管路診断ツールの有効性に期待したいものです。

 豊田市上下水道局は2020.5.21に、Ftacta社と「水道管劣化予測データ作成業務委託」の契約を締結しました。これまで、国内では6事業体でAIによる水道管劣化予測の実証実験が行われていますが、実践導入は豊田市が全国で初めてです。
 豊田市内全域の導送配水管3643Kmを対象に破損確率を高精度に解析します。契約期間は2021.3.12迄で、契約金額は約1876万円です。豊田市は平成27年度に上水道の管網評価を実施していますが、平成29年4月に簡易水道事業を統合したことから、効率的な管路更新に向けて、旧簡易水道地区の管路の劣化状況を把握する必要がありました。解析結果の制度の検証をしていくそうです。
 Fracta社は、「水道管路の健全性を維持するためには、熟練の技術者が培ってきた勘や経験が不可欠だが、経験知や暗黙知の文書化や引継ぎは難しい。今回の取り組みでは、AIによる解析結果を呼び水として、技術者の経験知や暗黙知を引き出し、見える化・データ化を図ることで、豊田市の技術者が紡ぎ続けてきた技術・知見の継承を支援していきたい。」としています。(2020.6.1水道産業新聞)

 資本業務提携をしている栗田工業と共同で、栗田工業の持つ水処理技術のノウハウとFracta社のAI技術を融合し、水処理設備等機械設備設計の自動化、制御・運転管理の効率化・スマート化の実現も目指しています。AI・IoTを用いて水処理装置の運転制御の最適化、装置の最適なメンテナンス時期の見極めにより、水処理で消費される電力・薬品・消耗品の節減、財務的にはLCCを削減したい。コスト削減と省エネによって環境負荷を低減し、水処理の生産性を飛躍的に高めることで、「水不足」という社会課題にも対応したいと意気込んでおられます。(2020.8.24水道産業新聞)

 元気な会社です。期待したいですね。

2020.9.2

紫外線硬化型FRPシートによる老朽化施設の補修(2020.2.20水道産業新聞)

 紫外線硬化型FRPシートとは、不飽和ポリエステル樹脂とグラスファイバーを一体化したFRPシート(ポリエステル系ガラス繊維強化プラスチックのシート)を、ハサミやカッターナイフなどで任意の形にカットし、漏水箇所や老朽化が進行している配管・構造物等の補修部に張り付けた後、紫外線を当ててシートを硬化させ、強力に接着させることで強度を増していく補修材です。ゴムのような柔らかいFRPシートがUV(太陽光や紫外線LEDによる紫外線)に触れることによって硬化し、シートに含まれる樹脂により素材を問わず強力に接着しながら強度を増していきます。阿南電機の製品で、製品名は「ウルトラパッチ」です。

 紫外線硬化後の厚みは約1.5mmで、硬化時間は屋外の直射日光または屋内の紫外線照射装置の照射により最長2時間程度で完了します。また、止水補助剤の水中硬化パテなどを使用して漏水を一時的に止められれば、施設を稼働しながらの施工も可能です。

 防水性や耐衝撃性などに優れ、使用用途は電気、機械、土木・建築物と幅広く、鉄、塩化ビニル、ステンレス、FRP、コンクリート、プラスチック、木材などの材料に適合します。施工後はサンドブラストや穴あけ加工、各種塗装もできます。

 従来のハンドレイアップ法(型に樹脂を塗り、樹脂を含浸させた基材を手で積み重ねて硬化させたあと、離型・制作する手積み成形法)と比べて、樹脂と硬化剤の混合ミス等による仕上がりのバラつきがなく、紫外線により短時間で硬化するので、作業はクリーンで簡単であり、時間がかからないし、特殊な道具を必要としません。

 阿南電機のデモ試験器では、約12Kg/cm2の耐圧力があり、引張強度45.3MPa、曲げ強度124MPa、付着力3.0MPaで、温度は-30℃〜200℃まで使用可能で、平成11年の販売以来20年経過後も良好な状況で、長期にわたる防食効果が確認できているとしています。

 3020年2月時点で、公共事業では約360件の修繕・補修実績があり、水道施設では水管橋、浄水場内配管・タンクや管路の空気弁部・チーズや曲管部、溶接部等の補修に使われています。

 施工不具合のほとんどは補修部の下地処理状況や紫外線による硬化不足だそうで、丁寧な施工が必要なようです。サビ等の除去、水分や油分の除去、5℃以下での施工では加温すること、結露の防止等の注意事項がありますし、貼付時にも注意点が記されています。ある程度の施工経験が必要なのはどの工事でも同じですが。

    阿南電機HPより

2019.2.10

不断水で弁体取り換えができる仕切弁(2018.2.19水道産業新聞、2018.2.26日本水道新聞)

 2018.1.22、岡山市水道局は不断水で弁体が取り外しできる弁体取替機能を備えた「弁体離脱型ソフトシール弁(岡山型)」(以下、弁体離脱型ソフト)を採用する工事を岡山市内で行いました。「弁体離脱型ソフト」は大成機工と共同開発したもので、今後市内の現場で本格的に採用していく見込みです。

 直管やバルブ本体はかなりの耐用年数が期待できますが、弁体の超寿命化が課題となっています。「弁体離脱型ソフト」は弁体ゴムやブッシュなど摺動部を含む弁体一式を不断水で取り換えることができます。日本水道規格「JWWA B 120」に準拠し他性能を持ち、有効長や、キーキャップ高も同じなので、従来の規格品と同様に施工が可能です。弁体一式を撤去したのち、新規弁体を設置することができる他に、空気弁、消火栓、管内調査カメラ、仮設配管などの布設もすべて不断水で対応できます。管路メンテナンスにおける多様なニーズに対応でき、管路全体の長寿命化・耐震化に貢献する製品と言えるでしょう。

 現時点では、サイズはφ100・150mm、形状はGX型両受け・受け差しの4種類です。

2018.2.2

水管橋架替工法「NSフリースパン水管橋」(水道産業新聞2017.7.31)

 大阪府太子町は、老朽化したφ150 _内面無塗装鋼管製水管橋(支間長 10.0 b)を日鉄住金パイプライン&エンジニアリング(株)のが開発した「NSフリースパン水管橋」を使って、付け替えしました。工事現場の周辺環境は住宅街であり、片側一車線道路で且つ狭隘な為、施工期間を短く、断水時間を少なく、かつ交通止めを極力避けたいとの太子町の要望がありました。

 「NSフリースパン水管橋」は、外管と内管を複数のゴムを組み合わせた機密部で接合する構造で、伸縮フリー機能があり、ジョイント部で不同沈下の吸収ができ、高い耐震性を持つそうです。材質はSUS304などで、適応口径はφ100〜300mm、適用可能な支間長は20mまでです。

 工場製作された水管橋は4tトラック1台で一括運搬されます。下図のような構造ですので、運搬時は外管内に内管を差し込むことで全長を短くできますから、4tトラックでの運搬が可能となります。太子町の製品は運搬時最大長が12mでした。

 現場到着後、内管を引き出し、所定の長さに引き伸ばされた「NSフリースパン水管橋」をクレーンで吊り上げ、両岸の下部工の既設配管に接合(フランジ接合 or 溶接接合)します。河川内の仮設足場の設置は不要でした。本工事では、片側一車線規制を行い、4時間余りで施工を完了したとのことです。

   

2018.1.10

SDF工法(挿入管による中小口径管用更新工法)(水道産業新聞2017.7.31)

 SDF工法は,既設経年管を再利用したステンレス・フレキ管による開削工事が困難な場所での水道管路の更新・耐震化を可能とした工法です。従来のPIP(パイプ・イン・パイプ)工法では対応できない口径150mm〜800mm未満の老朽CIP管やDIP管に挿入可能な中小口径管専用の管路更新工法です。

 SDF工法に使用するステンレス・フレキ管は,下図に示すようにチューブ,ブレード,端管,ネックリング,ブレード押え,保護テープ,保護スリーブから構成されます。口径により耐引張性能は異なりますが,使用圧力は静水圧で1.0MPa(水撃圧を考慮した場合,1.5MPa)以下での適用となります。主部材にSUS316L(チューブ)、SUS316(管部)、その他部材にSUS304を使用していますので腐食に対して高い耐食性があります。しかし、SUS材はバクテリア腐食が生じる可能性がありますので,塩素殺菌がなされていない上水道以外の管路については,適用範囲外としています。

  

 挿入管の呼び径は80mm(外径120mm)〜400mm(外径460mm)です。軌道下や河川下の伏越し配管,交通量が多い道路横断部,他企業の埋設管が輻輳している場所等,開削による更新が困難な場所で管路更新を行う際に有効な工法です。

SDF工法の特長は以下のとおりです。
1. 鋼管と同様,耐震性に優れている。
2. 材質がステンレス鋼のため,耐食性,耐久性に優れている。泥水や砂等がチューブの間に付着しない様にブレード外装に防食テープを巻くことで保護している。また、引き込み時に既設管とフレキ管との摩擦低減及びキズ防止のため、防食テープを巻いた後に、仕上げとしてポリエチレンスリ−ブを巻いています。
3. 既設管の曲がり角度90°まで挿入可能なため,曲管部が多くても対応可能で、立坑の数を少なくでき、施工時間が短縮される。50mを超える長尺管の製作が可能なため、仕様に応じて単位長さを自由に設定できるので、継手箇所が少なくなり、管路品質も向上します。
4. 立坑を小さくできるため,建設発生土や産業廃棄物の発生を抑制でき,路面復旧範囲を限定することでコスト縮減ができる。

 施工フローは概ね以下のとおりです。
1. 立坑築造・既設管切断
2. 通線
3. 引込み設備設置
4. 既設管内清掃・既設管延長測定
5. 引込み・溶接・放射線透過検査(溶接部)
6. 絶縁フランジ施工(管端部)
7. グラウト充填

   

 2017年度にインフラメンテナンスの優れた取り組みや技術開発を称え広く紹介することで、その取り組みをさらに促進することを目的に「インフラメンテナンス賞」が創設されました。この工法は、厚生労働大臣賞を受けています。

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