ICT(情報通信技術)の活用

A.TCTが必要とされる理由

 ICTとは、情報通信技術(Information and Communication Tecnology)のことです。日本では、IT(Information Tecnology:情報技術)が広く使われていますが、ITは経済分野で使われる経済産業省の用語です。一方、ICTは、主として公共事業の分野で使われる情報通信技術を指し、総務省の用語なんだそうです。

 水道事業体は、人口減少に伴う水道料金収入の減少、水道施設の老朽化に伴う適切な施設更新の実施、団塊の世代の職員の大量退職に伴う職員減や水道技術力の低下等の課題に対処するため、官官連携、官民連携、ICT技術の積極的活用等による人材(ヒト)・施設(モノ)・財政(カネ)という経営資源を一体的に管理することが重要課題となっています。

 とりわけ、厚生労働省は2013年3月に策定した新水道ビジョンで官民連携の推進を明確にし、上下水道事業におけるコンセッション方式の導入等、民間企業の経営力を活用しやすい施策が打ち出しています。
 2007年問題と言われた団塊の世代の大量退職の際には、多くの水道事業体は、一旦退職した職員を再雇用という形で、実質的に退職年齢を5年引き伸ばして対応してきました。その団塊の世代の職員が65歳となり事業体を去るにあたって、水道専門職員の確保が難しくなり、組織として対応しなければ技術の継承が危ないという危機感が高まってきました。民間企業がビジネスの中で培ってきた経営ノウハウ・コスト感覚を活用することの必要性が官民連携という形で具体化されてきています。民間企業が収益性を求めるうえで必要なことは、一定の受注規模を確保すること(広域化)ICTを活用した技術面の確立です。

 ICTは、ヒト・モノ・カネという経営資源に関する情報を効率的に「見える化」し、解析・評価を通して経営管理やリスク管理の効率化を図るほか、災害発生時における被災状況の迅速な把握と復旧支援の効率化のための有効なツールと期待されるものです。例えば以下のような業務形態が考えられます。
@ 浄水場の設備稼に各種センサーを取り付け、設備稼働データやセンサーから集められた設備の音響・振動・回転数・送水量・水圧・電流値等のビッグデータを自動収集・分析し、機器の故障を予知して、水道設備の稼働率の向上やメンテナンスの高度化・効率化を図る。
A 過去の水質データと気象・天候データの関係をモデル化し、水質を予測しながら薬剤投入量の適正化を図ると共に水質検査業務のタイミングを適正化する。
B ARマーカーを水道設備に張り付け、ウェアラブルディバイスを装着することにより、作業手順や設備の故障履歴・稼働状況・他の関連設備への影響等の必要情報を作業員に知らせ、点検作業の効率化や技術の継承に役立たせる。
C 点検情報はウェアラブルキーボードでデータセンターに送られ、中央監視室とのデータ共有化やデータ入力の省力化も図れる。この種の機器の改善やソフトウェアの充実により、初心者の技術者でも熟練技術者と同等な作業を安全に効率的に推敲していくことが期待される。

 ICT活用の問題点としては、個人情報や設備運用情報等のデータ漏えいリスクに対する対応でしょう。リスク対応を厳密にすればするほど、使い勝手を難しくするという問題が生じます。

 平成26年度技術士二次試験の下水道[選択科目V]のV−2に次のような問題が出題されました。

V−2
 現在、我が国の下水道事業は多岐にわたる課題に直面する中、質が高く持続可能な下水道事業を維持し、さらに向上させていくことが求められている。一方、近年のICT(情報通信技術)の普及拡大には著しいものがある。このような状況を踏まえ、ICTを活用して健全な下水道事業の運営をするための方策について、以下の問いに答えよ。
(1)下水道事業運営に関する現状と課題について、下水道施設(モノ)、経営(カネ)、組織体制(ヒト)の3つの観点から幅広く述べよ。
(2)上述した課題のうち、ICTにより解決可能と思われる課題を2つ挙げ、それぞれについてICTを活用した解決策を提案せよ。
(3)あなたの提案がもたらす効果を示すとともに、そこの潜むリスクについて述べよ。

 ポチは、「この問題が水道科目で出なくてよかったなー」と安堵しました。

 平成26年度の出題予想として「持続」がテーマであり、官官連携以外のポイントをチェックしておくことを読者の皆様に提案したのですが、ICT技術を使う面からの持続対策を問う問題が出るとは思いつきませんでした。出題者もやりますねー。でも、現時点では、やっとビックデータを扱おうという動きが企業側から出てきた程度ですので、時期尚早という気もしますけれどね。

 口答試験対策としては、ICT技術の活用事例についてチェックされておくことを薦めます。また、この種の問題は、近いうちに「水道科目」にも出ることを考えておいてください。

 このような観点から、今回、「水道よもやま話」に「ICT(情報通信技術)の活用」を加えることにいたしました。

B.浄水部門での活用例

1.浄水設備の点検

2016.10.13

凝集不良を早期に発見するフロック監視システム(水道産業新聞2016.6.27)

 異常気象が続く中で、急激な豪雨による原水濁度の急変に対応できず、断水事故が多く発生しています。メタウォーターは、浄水処理の凝集不良を早期に発見する「フロック監視システム」を開発しました。原水濁度の急激な上昇、薬品注入設備の異常発生、薬品注入ミスなどにより、フロック形成の異常発生を早期に発見・通報してくれるシステムです。
 フロックセンサーは、フロック形成池に設置し出来上がってくるフロックの粒形を解析するもので、フロックの測定は「吸光度変動解析法」で平均粒形を算出します。フロックの形成異常が起きていると判断した場合、形成異常信号を警報として送ります。凝集不良への対応が早期にできることになり、後段の浄水処理工程への影響を最小限に抑えることが期待されます。
 フロックセンサー本体はSUS製で、寸法はφ50mm×260mmと小型で、重量は2kgです。センサーの光学部分には自動洗浄機能を装備し、高濁度時にも可能となっているそうです。

2014.05.10

メガネ端末で浄水場点検(2014.5.10日経新聞)

 メタウォーターと富士通は浄水場の保守点検業務にウェアラブル端末(メガネ端末)を導入します。メタウォーターが浄水場運転業務を受注している会津若松市の滝沢浄水場の管理業務で、2014年5月下旬から実証実験を始めます。

 メタウォーターはタブレット端末を機器にかざすと、作業時の注意点を表示できるクラウド型の水道施設管理システムを実用化しています。しかし、このシステムは作業員の手がふさがる課題がありました。メガネ端末を使用することで、両手を使うことが可能となり、作業の効率化を狙ったものです。

 メガネ端末のディスプレーには浄水場の中央監視室に集まる様々な機器のデータを表示できます。浄水場から遠く離れたポンプ場などで点検作業をする場合、これまではいちいち中央監視室に問い合わせをする必要がありましたが、メガネディスプレーに必要な作業などの情報が載っているため、問い合わせの手間が省ける他、浄水場運転管理業務全体の作業品質が高まることや、作業人員を減らせる効果も期待できそうです。

 メガネ端末はカメラを搭載しており、作業員が点検時にどこを見ているのかを録画できます。熟練作業員の作業工程を録画すれば、技術継承のためのマニュアルつくりにも役立ちそうです。

<参考:タブレット端末を利用した浄水場点検(水道産業新聞2013.10.24)

 メタウォーターのタブレット端末を利用した上下水道施設点検作業は、点検対象である上下水道関連装置にARマーカーというシールを張り付けておき、そのマーカーをタブレット端末で読み取ることで、場所と装置を関連付けることで、点検作業に必要な情報を得ることができ、点検作業の効率化・簡素化を図ろうというものです。また、クラウド上で上下水道施設に関するマニュアルや整備履歴など日常の点検内容や非常時の対応などの様々な情報や作業員の持つノウハウを蓄積することができます。

 具体的には、点検の際に、作業員がスマートフォンやタブレットを装置に貼付されたARマーカーを読み取ると、前回の整備状況の情報が画面に表示され、作業後にはその場で整備結果の入力ができるというものです。点検記録は、写真・音声・手書きメモ・映像などで時系列的に整理・保存でき、交代制勤務における引き継ぎ作業の効率化が図られます。タブレットをかざすだけで、該当マニュアルや過去の履歴、作業注意点(ノウハウ)を参照できるため、設備管理の技術継承にも役立ちます。収集された機器データを解析し、設備機器の更新や延命措置をより最適なタイミングで行うことも期待されています。

2013.11.03

ビッグデータで水道管理(2013.10.22日本経済新聞)

 富士通とメタウォーターは2014年末までに浄水場などの水道インフラの維持管理にビッグデータ分析を活用するサービスを始めます。

 水道施設を点検する際、作業員が気付いた点や撮影した画像、モーターの音などをタブレットに入力し、データ収集をします。ポンプや浄水装置に取り付けたセンサーが集める情報と併せて、得られた大量の情報を分析するのです。仮想空間上で実際の浄水場などを再現し、季節や天候のデータも組み合わせて、故障が起きそうな場所を予め特定しようとするものです。これにより、最適な人員配置や管理・維持計画の立案ができることが期待できます。また、ベテラン作業員の経験に頼らずに若い作業員でも点検ができる新たなシステムを構築します。

 メタウォーターが自治体に販売する業務効率化システムを通じてデータを収集し、富士通が分析を手掛けます。データ利用に同意する自治体が100〜200程度になれば有効なデータ分析ができるようになる見込みです。人口10万〜20万人程度の自治体では、水道インフラの維持管理コストが年間1億円程度かかっています。両社のシステムを導入することで、5000万円程度に圧縮することを目標に掲げています。

<参考>
 インフラ設備の保守・点検にビッグデータを導入する動きは徐々に広がっています。

 中国電力は島根原子力発電所の設備保全のため、NECが開発した「大規模プラント故障予兆監視システム」を試験的に取り入れました。プラントに設置したセンサーから集めた膨大なデータを分析して、清浄な運転状態をシステムが自動的に定義し、少しでも普段と違う動きがあれば通知します。故障する前にトラブルの芽を摘むことでプラントの安全性の向上や効率的な運用に繋げようとするものです。

 NTTデータは橋梁に複数のセンサーを付けて収集したデータを補修などに活用し、橋の寿命を延ばすシステムを実用化しています。

2.セキュリティ対策

2018.1.12

上下水道監視制御システムのサイバーセキュリティ対策(水道産業新聞2017.8.24)

 水道事業の広域化が進むにつれ、従来の個別プラント運転の最適化から、全体最適運転(安定運用、配水系統別の水融通・電力融通等)を目指す必要が出てきます。監視制御システムを「つなぐ」ことが前提となりますが、課題はセキュリティです。これまでの水道事業では、水道システムと外部ネットワークとは分離するのが基本であり、セキュリティの安全性は高い状況にあったと思います。

 IoTを利用した広域化への対応は、少ない運転員での運用、業務委託による故障対応の迅速化、技術職員不足対応、広域運用によるさらなる水道事業全体の効率化、ノウハウの蓄積等、監視制御システムをつなぐことでの効果が期待できます。また、他業種・他のシステムと情報連携を行うことで、新たな価値を創出できる可能性も出てきます。

 しかし、あらゆるモノがネットワークにつながるIoT時代では、監視制御システムのデータをIoTプラットフォーム上のサービスで利活用するために、それぞれのシステムの通信を実現するとともに、高度なセキュリティが担保されなければなりません。

 日立製作所のセキュリティシステムはサイバーリスクに対し、不正通信、ホワイトリスト型ウィルス対策、運転員別実行業務制御、接続機器の4つの観点から安全対策を構成しています。

@ 不正通信検知装置
 不適格者の操作やデータ取得を防ぐため、システム使用時にIDパスワードによる認証を行います。ログイン後一定時間操作がない場合には自動でログオフします。

 パスワード管理では、パスワードの有効期限の設定や一定回数以上パスワード入力に失敗した場合、ユーザーIDを無効化します。

 大規模な事故・災害発生時の現場対応等のため運転員が中央監視室から不在になることを想定し、運転業務を代行できる管理者用の緊急ログイン機能を付けています。あらかじめ決められたキーボードの特別なキーを同時に押下することで、一時的にログインを許可します。緊急ログイン中は、端末の警報音は鳴り続け、非常時運用であることを通知します。

 プラントの操作時は、ユーザー名、捜査端末名を記録し、不正操作や誤操作を検証することができます。システム上のデータの取り出しや印刷操作も記録を行い、いつ誰がどの端末から情報を持ち出したかも確認できます。

A ホワイトリスト型ウィルス対策
 ホワイトリスト型ウィルス対策とは、あらかじめ登録したプログラムのみの実行を許可するもので、未知のウィルスへの感染を未然に防ぎます。

 ホワイトリスト方式は、感染済みのウィルスを除去する機能がありません。そのため、持ち運び可能なUSBメモリタイプのブラックリスト方式によるウィルススキャンを併用し、ウィルスの感染・拡散防止を行います。

B 運転員別実行業務制御
 広域化により相互接続された監視制御システムでは異なる拠点の運転員が利用するため、ログインユーザーに対して、どのレベルの操作を許可するかを指定する操作権限と、操作可能な設備の範囲を指定する設備掌握機能があります。

 操作権限では、例えば、運転員は機器の運転のみ、技術者は運転操作・上下限警報設定値の変更まで、管理者は制御パラメーターまでという操作権限を設定できます。
 一般運転員とベテラン運転員を区別することも可能です。その他、帳票データ修正、トレンドグラフのペン登録の可否等、一人一人に細かい権限の設定ができます。

 設備掌握では、システムに収容されている全ての入出力信号を任意にグループ化できるので、運転員の監視捜査範囲を細かく管理できます。

C 不正接続機器検知・排除装置
 サイバー攻撃や情報漏えいの発生元や影響範囲の特定を迅速化し、登録されていないPC等が接続された場合、ネットワークから排除します。

C.給配水部門での活用例

1 経済産業省の水道管劣化診断システム(日本経済新聞2015.6.26)

 人口減少や節水の進行で水道事業の運営環境は厳しくなっています。経済産業省は2020年を目途にICT技術を活用して人件費の削減や設備の長寿命化を図れるよう、水道管などの劣化をICTで検知するシステムを作り、上水道を運営する自治体に導入を促す予定です。

 経産省は水道技術研究センターにこのシステム開発を委託します。日立・東芝など民間企業の他、自治体や大学関係者がシステムつくりに参加します。2016年度以降の実証実験を経たうえで、厚生労働省と共同で水道事業体にシステムの導入を働きかけます。

 導入対象は水道利用人口が30万人以下の中小水道事業体です。中小水道事業体では、人口減少や職員の高齢化などで、職員確保にも困難をきたし、事業の存続が危ぶまれています。ICT技術で設備の劣化を検知できれば、ベテラン職員の技術力や人手に頼っていた作業工程の削減が見込まれます。システムの共通化で、将来の事業統合がしやすくなるメリットもあります。水道事業運営コストの約4割は設備管理費と言われていますが、経産省は、ICT導入で最大17%の控訴削減が可能と見積もっています。

2 スマートメーター

2015.8.25

スマートメーターの実証実験(2015.7.15日本経済新聞)

 NTT西日本は神戸市などと共同で、スマートメーターを水道管に設置する実証実験を2015年内に始めます。実験期間は2017年3月までの予定です。
 スマートメーターは米センサス社の機器を使用し、神戸市内の9か所にスマートメーターを設置し、無線でデータを集約します。リアルタイムで水道管の状況を把握でき、異常を迅速に発見できることを目的に、従来型メーターのデータと比較し、精度を検証します。NTT西日本はスマートメーターからデータを収集するシステムの実用化の検証、神戸市は水道管理のコスト削減や効率的な設備投資の可能性を検証します。

2014.03.21

水道事業におけるスマートメーター(2013.8.5、8.29日本水道新聞他)

1.電力業界における省エネからエネルギー管理への流れ

 東日本大震災以前では、需用側が必要とするエネルギーはどんなことがあっても100%供給するのが供給側の方針でした。需要側は様々な省エネに取り組み、消費するエネルギーをできるだけ減らす努力はします。省エネされた状況で必要な消費側のエネルギーに対し、供給側は「お客様は神様です。」というイメージで100%供給していました。この100%供給を実現するために、今までは予備力を8〜10%は持てるよう努力をしていました。
 しかし、東日本大震災直後の8月における電力供給予備力は関西・九州で8%を下回りました。電力は貯めておくことができないものなので、需給バランスを保つことは非常に重要です。太陽光発電の余剰電力買取制度が導入されますと、一層、需給バランスを瞬時に調整するためのシステムが不可欠となりますので、スマートメーターの導入は必然的な流れであると言えるでしょう。

 スマートメーターを利用したエネルギー管理手法ですが、基本的には、エネルギー供給側の状況に合わせて、消費側にもエネルギー消費を制御してもらおうというものです。具体的には、「デマンドレスポンス」と言って、需給がひっ迫している時は消費を減らしてもらい、余裕があるときは使ってもらうよう、デマンド(消費側)にレスポンス(反応)してもらおうとすることです。
 デマンドレスポンスには
@ 需要逼迫状況に応じて価格を変化させるダイナミックプライシング
A エネルギーを減らせばポイントを進呈するインセンティブ型
B 需要逼迫時における顧客の負荷を一方的に遮断してしまう直接制御
があります。
 2012年夏北九州のプロジェクトで、一般家庭向けに通常の10倍までダイナミックプライシングを設定した実験結果では、価格帯にもよりますが9〜13%程度の省エネ効果があったそうです。

 電力設備は基本的にピーク時に合わせて設備投資をします。日本のエネルギー消費は、産業はほぼ横ばい程度ですが民生分野はかなり伸びています。少子高齢化が進む中で、これ以上の設備投資は長期的な日本の状況を考えると効率的ではないので、デマンドレスポンスによるピークシフトは広まっていく可能性が高いのです。

 電力事業では欧州各国でスマートメーターの義務化が始まり、日本でも国が電力需給の安定化を目標にする中で、スマートグリッドを活用して電力需給に即応しようというインフラ整備が急務となっているのが今の状況です。独自設計のスマートメーターを早くから導入している関西電力を始め、東京電力他全ての電力会社がスマートメータの設置に前向きに動いています。

 また、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの都市ガス3社は、無線を使ったガスメーターの検針システムを共同開発しています。エネルギーの消費量削減システムの一つの手段としてスマートメーター化を考えておられるのでしょう。

 このような動きの中で、水道分野においてもスマートメーターの導入の可能性についての検討が始まりました。
 海外では、スウェーデン・イタリアでは積極的に導入が始まっており、アメリカ・フランスも実施段階に入っています。しかし、これらの国では、正確な検針が行われてこなかったので、これをスマートメーターで解決しようという事情もあるようです。
 スマートメーターの社会への浸透は今後進んでいくと思われますので、日本の水道界も、スマートメーターを使ってどのような効果を得ようかというビジョンを明確に持って、対処してもらいたいと思います。

2.水道への影響

1) サービスの質

@ 需要者はパソコンやスマホで自己使用水量をリアルタイムで把握できる「見える化」が可能となるため、自主節水や適正利用を促す効果がある。
A 1時間毎、1l単位で使用状況を把握できることから、漏水や逆流を早期発見できるようになる。
 電子式メーターの相互受信機能や遠隔操作開閉機能を用いて、水道事業者による栓の自動開閉作業ユーザーとの相互情報連絡が可能となる。
B 訪問検針拒否者への対応、オートロックマンション対応、遠隔地対応、豪雪地帯の検針が効率化される可能性がある。
C 検針日を統一した毎月検針が可能となる。また、臨時・随時の検針にも対応できる。

2) コスト面

@ 機器の設置費、維持管理費が嵩むため、電力やガス等、他事業との協同検針、共同徴収やシステム維持管理費の分担等によるコスト軽減が課題となる。
A 毎月検針が可能となれば、水道事業体とすれば2か月検針に比較して若干の増収が期待できる。このことは立場を変えると、需要者にとってはスマートメーターに変更したために、料金が高くなったと感じられる可能性も強い。同様に、スマートメーターの方が現在の羽根車式メーターと比較して計量精度が高い場合(今までより多めに計量する場合)は、料金が高くなったとの苦情が生じる可能性がある。

3) 間接的影響

@ 検針日が統一されることにより、渇水時等異常時に需要者等一律に料金単価を変えるきめ細かい料金設定が行える等、料金制度そのものを変更できる可能性がある。
A 時間帯別料金が設定されれば、大口使用者(プール、洗濯業、貯水槽を持つ大商業ビル等)の節約効果が図れる。
B 使用量の「見える化」を利用し、一人世帯の老人見守りサービスも可能となる。

4) 社会インフラとしての電力、ガス等との共同化

@ スマートメータの導入が既に進められている電気・ガス分野との連携により、共同整備によるコスト縮減、災害時に備えた情報共有、メータ検針や検満メータ取替業務の共同化も期待できる。
A 電力・ガス・水道情報を活用したスマートグリッド(需給バランスの最適化調整や事故・過負荷などへの対応力を高め、それに要するコストを最小に抑える取り組み)の構築やビッグデータとしての他産業での利用が期待される。

 ポチの考え得る程度の利点では、水道事業者のメリット(毎月料金徴収による水道収入の増加、検針手間の削減等)や老人見守りサービスのような福祉面の向上は期待できますが、需要者に対するメリット(遠隔操作による水道開閉栓の迅速化、水道料金が安くなる等)が少ないような気がしますね。「水道事業にどのようなことを可能にするために導入すべきか」という点を十分に煮詰めて対応して欲しいものです。

<参考:都市ガス3社のガスメーター検針システム>

 既存のガスメーターにタバコ箱より少し大きめの専用無線機を後付けし、暗号化した検針データを無線(通信距離200m)を使った専用端末で集める仕組みです。端末を持った検針担当者はマンションの前に行くだけで各戸のデータを収集できます。

 ガス利用者はパソコンやスマホでその時々のガスの使用量を確認できるようになるし、マンション内の火災警報器が作動したら、無線でガスメーターを遮断する機能も可能です。

 一般的なガスメーターは膜の動きを通してガスの流量を測定する「膜式」が主流ですが、検針システムを導入するには超音波センサーで流量を計測するメーターに切り替える必要があります。

3.管路管理

2014.03.22

TCタグ付きマンホール(2013.9日本水道新聞、水道産業新聞)

 ICタグ付きマンホールとは、金属の電波遮蔽性をクリアした専用のUHF帯を使用するICタグを鋳鉄製鉄蓋に内蔵したものです。読み取り装置やスマートフォン、タブレットで、ICタグに記録されたデータを読み取り、点検作業の迅速化を図ると共に、地震などの非常時、埋設物の位置を正確に特定し管路の制御や破損状況の確認を確実に行うことを目的としたものです。

 ICタグには過去の点検履歴の他、管種、口径、バルブの開閉方向などを記録します。製品ごとにシリアルナンバーが付けられていて、個体識別も容易にできます。近くに他の鉄蓋が無い場合は、鉄蓋から約10m離れたところからでも、タブレット等の端末画面でデータを読み取れるため、交通量の多い道路上に設置された鉄蓋でも安全に点検できます。

 マッピングシステムと組み合わせて、管路図や管理台帳の情報を現場で確認できますし、点検後、現場で作業完了ボタンを押せば、点検した履歴が残るので、維持管理の効率化や確実性の向上が図られ、地下埋設物管理に大きく貢献できるものと思われます。また、地震などの非常時に埋設物の位置を正確に読み取れるため、管路制御作業や現場の破損状況を迅速・正確に報告できます。管路設備更新時期の適正化にも役立てたいとのことです。

 ICタグは1000℃以上の火災による炎や高熱のアスファルト舗装打設時にも耐えることができます。鉄蓋の上に鉄ブロック等の遮蔽物があっても反応しますし、取付位置を間違って反対側に付けたとしても反応してくれます。豪雨や漏水等による水没状況が生じても反応しますし、積雪状況でも反応します。(ユーチューブの映像では積雪状況は5cm程度で実験していました。) 
 あり得ないとは思いますが、電柱倒壊事故等で高圧電線(35万ボルト)が鉄蓋にショートした場合でもICタグは壊れませんでした。金槌やハイヒールによる打撃に対してもOKです。・・・これらの実験状況はYou Tube に公開されています。

2014.05.06

鋳鉄管の機械布設工法(2013.10.31水道産業新聞)

 2013年10月に福島県郡山市で開かれた日水協総会の水道展で、クボタはGX管を機械接合するための機械(製品名はサイトワゴン)を出品しました。
 具体的な方法は、掘削溝の上を走行するサイトワゴンをGX管の継手部に移動させ、円弧状の接合ユニットを下ろして管をつかみ、スピーディに接合するというものです。(下の写真参照)

    

 掘削溝に作業員が入らなくて済むので、掘削幅を狭くでき、掘削土量は約3割節減できるそうです。重量物である鋳鉄管を持ち上げる等の人的作業が解放されるため、作業の安全性を高められます。機械操作は簡単なボタン操作で経験の浅い作業員でも対応可能とのことです。

 サイトワゴンは4つのカメラを装着していて、ゴム輪の状況をスマートフォンで即座にチェックできます。管にはQRコードを貼り付けて、管の接合時にサイトワゴンのカメラでQRコードを撮影し、管情報や接合情報、施工位置情報を即座にサーバに転送し、リアルタイムで接合のチェックシートや日報、竣工図が作成されます。この機能は、チェックシートの記入ミスや図面等書類作成手間を軽減し、位置情報はマッピングシステムにも反映できます。

 ポチは現役時代に、ダクタイル製造業の技術者にNS型ダクタイル鋳鉄管について以下のような苦言を呈していました。

 NSダクタイル鉄管の欠点は @重量が重いこと A塗装が100μmと薄いこと B薄い塗装を保護すべきポリスリーブの施工を工事業者に委ねていること と指摘し、Aは「せめて鋼管並みの外装強さを持つ程度の厚い塗装を確保して欲しい」、Bは「業者作業員がポリスリーブを取り付けるのではなく、最初から工場施工として取り付けていて欲しい」と要望致しましたが、AB共にコストの兼ね合いから無理だとのことでした。
 
 しいてもう一点問題点を挙げれば、 CNS継手の施工に熟練を要すこと でしょう。この点はGX管の出現でかなり改良されたと伺っています

 鋳鉄管に限らずどの管種でも言えることなのですが、ポチは、40年の耐用年数を待たずに漏水トラブルを引き起こす管のほとんどは、「施工不良と抱き合わせの管である」と思っています。鋳鉄管の場合、施工不良を生じる最大の理由は@の「重いこと」と思っています。塗装の薄さを補ってくれるのは、塗装を傷めないように扱おうとする配管工の細やかな配慮なのですが、管が重いとどうしても取り扱いがずさんになりがちになります。

 その薄い塗装を埋設時に守ってくれるのがポリスリーブなのですが、この装着も配管工任せとなるのです。散々塗装面に細かい傷をつけた後に、ポリスリーブを空気を十分に排除せずに装着している光景をたまに見かけます。工場出荷時にポリスリーブが装着してあれば、埋設前に管が傷つくのをかなり防げると思ったのですが、叶いませんでしたねー。

 福山市のような人口47万人の都市でも、配管工事を希望する業者は100社を超えています。H16年頃の東京都の配管業者数は、定かではないのですが、確か約1400社と聞いていました。今はもっと増えているのでしょうね。業者数が多いと配管施工の技量は、会社によってピンキリの差が出てきます。当然配管施工工事を始めたばかりで施工技術が未熟であったり、しっかりした技術を学んでいなかったりした配管工が担当することも大いに考えられます。福山市のある配管業者の幹部は、私に、NS鋳鉄管施工の場合、「一人前になるには1年はかかりますねー」って言ってましたが、一人前になる間、せっせと施工不良個所を増やしてくれたんでは水道事業体はたまったものではありません。最近は職工さん不足と聞きます。未熟な配管工の方々も増える傾向にあるのではないでしょうか。

 管が重いとどうしても、狭い掘削溝の中での管芯合わせがずさんになったり、運ぶ途中で管を舗装の上で転がして、薄い塗装面を傷つけたり、またその補修がずさんであったり、著しいのは補修をサボタージュしたりで、管体に傷が入ったままの状態で埋設されたり、接合不備の施工がはびこることになります。

 このサイトワゴンは、鋳鉄管の重さと配管工の技量の未熟さによる施工不良をかなり減らしてくれることを期待できると思うのです。クボタの展示会場の近くにいたのに、このサイトワゴンに気づかなかったのは迂闊でしたねー。まだ、現場では使われていないのでしょうが、早く実践で使って頂き、欠点を克服して、初心者でも使いやすくて、クボタさんの考えられている機能を十分に発揮してくれる機械に成長し、日本中で活躍してくれる日が来るのが待ちどおしいですね。

 以上が、ポチの意見ですが、この記事をUp後、配管工事現場担当の水道事業体の方から次のようなコメントを頂きました。この方は、クボタから「サイトワゴン」のプレゼンテーションを受けた方のようです。併せて参考にして下さい。

<ある配管工事現場担当者の意見>
 今日本の建設業界は、下請の減少、とりわけ末端で働く配管工など熟練作業員の減少に悩んでいます。その負担軽減になるこのような技術は歓迎されるものと思っています。

 但し、実際の老朽管布設替えでは、既設管を撤去して新設管を布設しなければならないため、配管工は穴に入って接合することになると思います。
 また下水取付管やガス供給管、電気管といった管が掘削溝に幾つも横断しますので、それら既設管をくぐって新設管を吊り下ろすことになります。そうなると、鉛直に新設管を平行移動させる降ろし方は使えませんので、クボタの技術陣の方々には、「開削布設替えでは接合部のみ自動化するのが有効ですね。」と言っておきました。

 NS管の場合、管挿入後にゴム輪が受口の溝から脱落していないかどうかが重要な管理項目なのですが、従来の目視によるB寸、C寸の測定チェックは配管工の個人差に依存するため不安がありました。今回のロボット(サイトワゴン)は、これを写真によって自動的に管理することができます。
 さらに、他企業による毀損防止の観点では、継手位置もGPSで緯度・経度が記録できるところに維持管理上の大きな利点を感じます。

 クボタは完成図の作成まで自動化することを考えているようですが、既に自前のマッピングシステムを導入している事業体では難しいですね。継手の緯度経度といった数値データはどこかに保存しておけば、必ず有効に使えるものと思いますが。

この方のご意見は
@既設管の撤去及び布設替工事を行うには、作業員が穴の中に入って工事を行うことになるので、掘削幅の削減は難しいこと。
A布設替工事では既設各種管路が輻輳しているため、真上から鉛直につり下ろすことが難しいケースがあり、掘削溝内での接合工事にのみ使用することになること。
BNS管の挿入具合のチェックには有効なこと。
C位置情報等の記録機能は有難いことだが、現在自治体が使っているマッピングシステムとどのように連携できるかという点が課題であるということ
を指摘されておられます。貴重なご意見有難うございました。

<参考:東京都のGX管採用理由 水道産業新聞2013.10.7
 東京都水道局は平成22年から25年まで4年間の試行を経てGX管の本格採用を決めました。GX管のメリットは@長寿命、Aコスト、B施工性ですが、東京都は「施工性」に注目したようです。

 特に注目した点は、NS管では必須となっていた溝切加工が解消できることです。溝切加工に要する時間はφ250mmで25〜30分かかり、その間は他の作業が行えず、手持ちぶたさの状態となることに加え、溝切加工に伴うエンジン音等は夜間工事の騒音削減のネックとなっていました。
 さらに、GX管は異形管部接続時のトルク管理が不要になること、ボルトの必要数が半分程度になることから、接合の際の挿入力が1/3程度に軽減されたため、施工性の改良効果が大きいことが採用の理由です。これらの施工性のメリットは実施工を行う企業関係者も評価していることが、アンケート調査で確認できたそうです。

 ただし、GX管では掘削幅が軽減できるというコスト性のメリットについては、十分な作業性の確保なのでしょうか?NS管と同じ掘削幅としています。
 また、ポリエチレンスリーブについても、「輻輳した埋設環境ゆえに他企業工事による損傷などのリスクを最小化する」判断から、装着することとしています。

4.漏水調査

2014.9.6

水道センサーによる漏水検知システム(2014.9.5日経新聞)

 今回も「IoT」(Internet of Things)の活用法の紹介です。水道センサー(振動センサー)を水道管に取り付け水道管の振動音を識別することにより、漏水の早期発見を行う技術です。

 水道管の消火栓用マンホールやバルブボックス内の水道管(消火栓等の弁類等)に無線通信機能を持つセンサーを取り付けます。センサーの取付けは磁石で金属製水道管に張り付けるだけで特別な工事は不要です。
 設置されたセンサーは水道管の流れや漏水により発生する振動を音のデータとして拾い、情報センターに直接送られ情報システムで集中管理されます。センサーを取り付けた箇所ごとの音の違いや過去の音との変化からなどから、漏水の発見と漏水個所の部分を見つけます。発見精度は漏水箇所前後1m以内に絞り込めます。なお、センサーに内蔵されている電池は5年間交換不要とのことです。

振動センサー