2016年 技術士試験の参考資料

A ポチのお詫び

 ここのところ、HPへのアップが少なく申し訳なく思っています。原因は二つあると思っています。

一つは「忙しくなった」ことです。昨年から会社を変わりまして、水道施設管理技士受験講座を受け持ったり、浄水場業務委託のモニタリングを行ったりという、今まであまり経験したことのない業務に就くことになりました。また、何度か講演依頼もありまして、多くの水道事業体現役の方々や水道業界の方、あるいは、一般市民向けに水源や水道紹介、「持続」の必要性等の水道に関するお話をさせて頂いています。

 二つ目は、「老化と勉強不足」ですね。事業体現役を離れて7年に入ります。第二の人生といっても、水道界で生活させていただいていることには変わりないのですが、現役時代ほど切羽詰まった切実感を持って仕事に対処している訳ではありません。一日8時間は水道に向き合っていて、否が応でも対応策を指示しなくてはならない立場でもないのです。様々な情報が入ってきて勉強に追われる状況ではありません。やはり、日々の、新しい事象に関する勉強不足は否めませんね。
 それと、老化を感じています。新しく依頼のあった仕事は、それはそれで目新しい業務なので、興味を持って取り組んでいるのですが、業務の遂行にデータチェックや関連情報の入手と理解等に時間がかかっているのです。講演の前準備にも以前よりは手間がかかっているように感じています。勉強不足に加えて、頭のめぐりやキーボードの処理速度の劣化等々が原因と思いますが、仕事の完成に手間取っているのは確かです。イライラしますね。

 そんな状況で、7月18日には技術士試験が始まるというのに、皆様には何らお役に立てる資料や考えを提供できず、申し訳なく思っています。手元には、半年分程度の新聞記事の切り抜きを持っているのですが、うまく整理してUpすることが叶いません。ご容赦ください。

 このような事情で、今年度は「予想」という大それたことは申しませんが、参考になる記事をいくらかでもUpさせて頂こうと思っています。時間が許せば、見てやってください。

 今年の出題として気になることを述べておきます。

@ まず、「地震対策」です。東日本大震災から5年です。熊本地震もありました。「耐震技術」というよりも、「持続」に関する「水道施設の更新」を実施していく中で「施設の強靭化」を併せて盛り込む必要性を問われるのではないか?という予感を持っています。
 「C 参考資料 2」に、小泉先生の論説を載せましたので参考にしてください。

A 次は、同じく「災害対策」なのですが、「豪雨災害対策」としての「浄水処理対応の留意点」とか、「管路整備の在り方」や「災害発生時の応急・復旧対策」を問われるのではないかとも思っています。
 「C 参考資料 1水道事業基盤強化策」に、「地震や豪雨等大災害の増加が予測され、応急給水や応急復旧等災害に備えた水道事業者間での連携体制をより強化すべきである。」とまとめています。

B 「残留塩素の低減化」が昨年の水道環境に出ていますね。ポチは、「水道環境の方が最近の話題に早く反応している」と思っています。おいしい水に関する問題ですね。「C 参考資料 1水道事業基盤強化策」にも、「水源から給水栓までの水質管理の促進に取り組む。」とあります。
 「残留塩素の低減化」で答えるべき事項とすれば、浄水処理の最後に、消毒用の塩素を配水管の末端で0.1mg/L以上残っているように、注入制御します。管末の需要者は塩素が少なく良いのですが、途中の需要者は塩素濃度が濃くておいしい水道水とは言えないケースがあります。そのため、配水管が2系統以上ある場合は、それぞれの管路に適した塩素量を個別に注入します。管末では需要者に依頼して濁度、臭気、残留塩素濃度をチェックできるシステムを構築します。また、ある程度配水管延長が長い場合は、配水管の途中で追加塩素するよう、追加塩素注入システムとします。追加塩素する場合、注入点では到達塩素濃度を測っているので、ある程度高めの濃度で到達している場合は、元塩素注入量を制御するよう指令ができるシステムも有効です。塩素濃度の消費は水温、金属配管の老朽度(錆の程度)に関係します。四季の折々で注入量調整する、布設年度の長い金属管の場合は、管路通過時の塩素消費量を測定し、消費量が多い場合は布設替えを検討する等が考えられます

B 過去3年間(H27〜H25)の水道・水道環境の試験問題

1).H27年度

ア.U-1(1枚)

<水道科目>
1 魚類による水質監視装置(バイオアッセイ)を設置する際の留意点について述べよ。
2 浄水処理で使用される凝集剤の使用目的について説明せよ。また、凝集剤の種類を2つ挙げ、それぞれの特徴と留意点を述べよ。
3 配水管に排水設備を設置する際の留意点について述べよ。
4 配水システムにおける残留塩素管理の必要性と方策を述べよ。

<水道環境科目>
1 厚生労働省健康局から水道課長名で通知(平成27年3月6日付)のあった「浄水処理対応困難物質」の設定について、その経緯と同物質の位置づけ、取扱いについて説明せよ。
2 水道事業における環境・エネルギー対策として考えられるものを2つ挙げ、各々について述べよ。
3 表流水や伏流水を水源とする浄水場において、クリプトスポリジウム対策の観点から徹底した濁度管理を行うための方策として、凝集沈殿と砂ろ過の各々について、留意すべき事項を説明せよ。
4 水道水のカビ臭発生の原因と。カビ臭を抑制するための水源での対策及び浄水場での対策について、それぞれ説明せよ。

イ. U-2(2枚)

<水道科目>
1 地下水を原水とし、塩素消毒のみで給水している浄水場において、原水から大腸菌が定常的に検出されたため、紫外線処理か膜ろ過処理の導入を検討することとした。計画策定の責任者として、下記の内容について記述せよ。
(1) 導入に当たり水質的に調査・確認すべき内容
(2) 処理方式の剪定における留意点
(3) どちらかの処理を導入すると想定して、導入設備及びその維持管理に関する留意事項

2 送・配水管の破裂や漏水事故は、突発的な断・減・濁水を生じるだけでなく、道路交通や沿道家屋等への二次災害を引き起こすなど市民生活や都市活動に重大な影響を及ぼすことから、管路事故の予防と速やかな復旧対応が重要である。管路の維持管理を担当する責任者として、下記の内容について記述せよ。
(1) 想定される事故原因の抽出
(2) それらの予防対策
(3) 事故が生じた場合の対応

<水道環境科目>
1 表流水を水源とする浄水場において高度浄水処理(オゾン、粒状活性炭)を新たに稼働させるに伴い、すでに作成済みの水安全計画を更新することとなった。あなたが責任者として水安全計画を更新する状況を想定し、以下の問いに答えよ。
(1) 着手時に調査すべき内容
(2) 業務を進める手順
(3) 業務を進める際に留意すべき事項

2 近年、クリプトスポリジウム対策や維持管理の効率化を背景として膜ろ過を導入する水道事業体が増加している。膜ろ過導入を進めるに当たって、下記の事項について説明せよ。
(1) 急速濾過と比較した場合の膜ろ過のメリットとデメリット
(2) 膜の種類の剪定に当たって留意すべき事項
(3) 回収率設定の考え方及び回収率向上のための方策と、その方策が施設整備や運転管理に与える影響

ウ.V(3枚)

<水道科目>
1 我が国においては平成22年に人口がピークに達し、今後の人口減少か確定的になっている。水道は、過去において拡張を前提に様々な施策を講じてきたが、我が国の総人口の減少に伴い、給水人口や給水量の減少を前提に様々な施策を講じなければならないという、水道関係者が未だ経験したことのない時代が既に到来したといえる。このような状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1) 水需要の減少が継続する状況の下で、水道事業に携わる技術者として検討すべき項目をソフト面、ハード面の観点から多面的に述べよ。
(2) (1)の項目のうち、あなたが考える最も重要な項目を一つ上げ、解決するための技術的提案を述べよ。
(3) あなたの技術的提案がもたらす効果を具体的に示すとともに、実行する場合の留意点について述べよ。

2 近年における環境問題は、地球温暖化や廃棄物問題などのように通常の事業活動や日常生活に起因するものへと変化しており、様々な分野で持続可能な社会の構築に向けた取組が進められている。水道においても、資源やエネルギー使用量の見通しにより環境負荷の低減を図るとともに、環境保全に努める責務が生じている。このような状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1) 水道事業が環境に与える負荷要因について多面的に述べよ。
(2) (1)の負荷要因のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、解決のための技術的提案を述べよ。
(3) あなたの技術的提案がもたらす効果を示すとともに、実行する場合の留意点について述べよ。

<水道環境科目>
1 浄水場では、水質検査計画に基づいた原水、沈殿処理水、浄水等の水質検査結果や、薬品注入率等に関するデータが日々蓄積されている。表流水を水源とし、凝集沈殿及び急速ろ過を行っている浄水場の責任者として、あなたがこれらの膨大な情報を活用して浄水処理のマニュアル化を行うこととなった場合を想定し、以下の問いに答えよ。
(1) 平常時の浄水処理において重要と考えられる資質項目を3つ挙げ、その理由を説明せよ。
(2) 日々、蓄積されていく水質試験結果等の様々な情報を浄水処理に活用するための技術的提案を示せ。
(3) あなたの技術的提案がもたらす効果を具体的に示すとともに、そこに潜むリスクについて述べよ。

2 近年、より安全でおいしい水を供給するため、給水栓における残留塩素濃度の低減化に取り組む動きがある。あなたが、残留塩素の低減化を担当する責任者として事業を進めることを想定して、以下の問いに答えよ。
(1) 事業を進めるに当たって調査・検討すべき事項について述べよ。
(2) 上記で検討した内容を踏まえ、あなたが特に効果的と考える技術的提案を2つ挙げ、それぞれ説明せよ。
(3) あなたの技術的提案がもたらす効果を具体的に示すとともに、そこに潜むリスクを挙げ、そのリスクの軽減策について述べよ。

2).H26年度

ア.U-1(1枚)

<水道科目>
1 多層濾過の説明(単層ろかとの比較)
2 自家発電設備の目的と留意点
3 水管橋の形式と設計上の留意点
4 給水区域における確保すべき水圧、水質確保のための管網形成上の留意点

<水道環境科目>
1 水安全計画の目的と記載すべき内容
2 水質汚濁の環境基準の種類と内容の説明
3 送配給水の過程で起こる水質変化を2つ挙げ、説明せよ
4 凝集沈殿・砂ろ過のクリプト対策を2つ挙げ、その説明

イ. U-2(2枚)

<水道科目>
1 凝集沈殿・砂ろ過の臭味濃度の低減策としてオゾンを導入する場合
 @  調査・確認すべき事項
 A  プロセス選定の留意事項
 B  設備の留意事項

2 震災対策貯水槽
 @  震災対策用貯水槽を導入する背景と役割
 A  業務手順と検討事項
 B  維持管理上の留意事項

<水道環境科目>
1 表流水取水の浄水場における省エネ対策を以下の点について記述せよ
  1 着手にあたって調査検討すべき事項
  2 業務を進める手順
  3 2における留意事項
2 人口減少を踏まえた水道再構築
  1 人口減少が浄水処理や水道水質に及ぼす影響
  2 A・B二つの浄水場を持つ場合、施設の再構築を行う場合の留意点

ウ.V(3枚)

<水道科目>
1 施設の改良更新
 @  改良更新の課題を多面的に述べよ
 A  そのうち、最も大切なことを挙げ、解決のための技術提案
 B  技術提案の効果と実行上の問題点

2 都市への人口・産業の集中、都市域の拡大、気象変化により平常時の河川水量の減少、各種排水による水質事故が起きている
 @ 表流水取水の浄水場の課題
 A 1のうちの最も重要なものを一つ上げ、解決の技術提案
 B 技術提案の効果と、実行上の問題点

<水道環境科目>
1 集中豪雨の対策
  1 集中豪雨対策として検討事項を多面的に述べる
  2 最も大きな技術的と考えられるものを1つ挙げ、技術提案をせよ
  3 その技術提案の効果を挙げ、潜むリスクを述べよ
2 高度浄水処理(オゾン、活性炭、生物)の導入計画
  1 高度浄水処理を導入する背景を多面的に述べよ
  2 高度浄水処理を導入するときの検討事項
  3 検討を行うにあたっての留意点

3).H25年度

ア.U-1(1枚)

<水道科目>
1 汚泥,排水の処理プロセス
2 生物処理導入の効果と生物処理方式を2つ以上挙げ、概要を述べよ
3 ポンプ圧送系管路のウォーターハンマーの発生の仕組みと防止法
4 配水池の役割と設計時の留意点

<水道環境科目>
1 水質検査計画で記載しなければならない事項を挙げ、それぞれ説明せよ
2 上下水道で使用する活性炭の使用目的と導入時の留意事項
3 地下水取水浄水場の原水水質で留意事項を2つ挙げ、それぞれの対応策を述べよ
4 河川水質に影響を及ぼしうる汚濁発生源を2つ挙げ、水質面のリスクを述べよ。

イ. U-2(2枚)

<水道科目>
1 水安全計画の策定と運用において、以下の3要素に分けて説明せよ
 @ 水道システムの評価
 A 管理措置の設定
 B 計画の運用

2 小水力発電
 @ 小水力発電が導入される背景
 A 導入への調査内容
 B 業務の手順と留意点

<水道環境科目>
1 においの原因究明を進める場合
  1 着手に当たって調査検討すべき事項
  2 業務を進める手順
  3 2の留意事項
2 利根川のホルムアルデヒド事故対策
  1 原水水質発生事故の発生時に必要とされる事項
  2 中長期的に取り組むべきソフト面とハード面の対策

ウ.V(3枚)

<水道科目>
1 安定給水
 @ 安定給水を脅かすリスクを多方面に述べよ
 A 最も大きなものを1つ挙げ、解決のための技術提案
 B その効果と影響

2 広域化や広域連携
 @ 広域化が提唱される背景と期待される効果
 A 隣接する複数の事業体が事業統合する場合、課題を2つ以上挙げ、解決のための技術提案
 B 技術提案を推進するうえでの問題点と対処方法

<水道環境科目>
1 大雨の頻度増加や干ばつが増えている
  1 安全でおいしい水を安定的に供給するための検討事項を多面的に述べよ
  2 検討事項のうち最も大切と思える技術的課題を1つ挙げ、技術的提案をせよ
  3 あなたの技術的提案の効果と潜むリスクについて述べよ

2 地下水源浄水場でアンモニア態窒素と植物プランクトン障害がある。浄水処理方式の改良
  1 想定される課題を多面的に述べよ
  2 効果的な処理方法を1つ挙げ、その処理方式と特徴を述べよ
  3 2の留意事項を述べよ

C 参考資料

1 水道事業基盤強化策日本水道新聞2016.1.4)

1.安全・強靭・持続を将来的に可能とするために

A.水道事業を取り巻く環境と国・都道府県・水道事業者の責務

1.水道事業を取り巻く環境

 我が国の水道は97,7%の普及率(平成25年度末)を誇り、水質面も「安全でおいしい水」の供給を達成している。この状況を将来的に持続していくには、人口減少による給水人口・給水量・料金収入の減少により厳しくなる水道事業環境への対応や、老朽化が進む水道施設の更新や大規模災害に備えた強靭化に取り組まなくてはならない。
しかし、水道管路の経年化率(法定耐用年数40年を越えた管路の割合)は年々高まり、平成25年度末では10.5%に達している。一方、管路更新率は低下傾向にあり、平成25年度は0.79%にとどまり全ての管路を更新するには130年かかる状況である。
 耐震化も、配水池の耐震化率は47.1%、浄水施設は22.1%、基幹管路の耐震適合率は34.8%にすぎない。
財源の確保についても、給水原価が供給単価を上回り、事業運営に必要な経費を賄えていない状況の事業体が多い。また、水道料金に資産維持費を組み込んでいない場合や、組み込んでいても、数十年単位の長期にわたる収支バランスの評価を十分に行わないまま、水道料金の設定を行っている例が少なくない。

 これらの課題に対応するためには、水道事業者は知恵を絞り戦略的に事業経営に当たる必要があるが、職員数の減少や高齢化が進み、組織体制面での問題も深刻となっている。特に給水人口の少ない事業者で職員数が減少していて、自力でこれらの問題に対処することが難しい状況にある。
 このような状況が続くと、老朽化による漏水事故の頻発を招き、火災時に十分な消火活動ができない、水害時土砂の清掃が出来ないといった事態が起こり得る。

 このため、今後の水需要予測に沿った水道事業計画を策定し、需要量に応じて事業形態をより小さな規模へシフトさせ、更新費用の余裕を産み出す必要にせまられている。

2.国の責務

 国は認可権者として、認可事業者にアセットマネジメント等の水道の持続性を高める取組を適切に行うよう働きかける。水道事業者間の連携を推進したり、必要な予算措置を図る。

3.都道府県の責務

 都道府県も認可権者として、認可した水道事業者の持続性を高める施策を構ずる責務がある。県下の水道事業者の連携強化を図り、財政措置を行う。

4.水道事業者の責務

 水道を維持し、将来世代に引き継ぐことが責務である。老朽化した水道施設の更新や耐震化を進める。

B.経営基盤の強化

1.人材確保を見据えた広域連携の推進

 必要な人材を個々の事業者が個別に確保し続けることは、零細な事業者では不可能である。都道府県内を1〜数ブロック単位でまとめ、各事業体が広域的に連携しながら水道を支える人材を確保していかねばならない。また、水道施設の共同利用や資材調達・水質検査の共同実施により、スケールメリットを働かせコストの削減を図る。用水供給事業者と受水事業者の垂直統合の場合は、事業体が所有する水道施設の廃止が可能な場合が多い。
 広域連携においても、長期に渡って財源を手当てし、地域の将来像を見据えて施設の更新・再構築を進めるという戦略的な取り組みができ得る人材確保が必要である。人材確保の視点をもって広域統合を進め、統合後の事業体の課題に対応する能力が確保されるよう留意する。大都市等先進的な事業体の人材を活用する観点から、経営統合や

 人材の融通・派遣、事務的な協力の実施等地域に応じた選択をすべきである。
 国は広域連携の好事例や課題について水道事業者に情報提供を行い、都道府県と連携して必要な助言を行い、水道事業者間の連携を推進させなければならない。
都道府県は関係市町村に広域連携に関する協議の場を設定すると共に、広域連携の推進状況を定期的に把握し、必要に応じて助言を与える。連携の鍵となる人材の発掘にも心がける。

 また、以下の権限を都道府県に与えるべきである。
@ 協議会の設置
 水道事業者の連携を図るため、決定事項の遵守義務を伴う協議会を設置する。
A 財政支援
 国からの交付金交付事務の他に、都道府県独自が水道事業体の財政支援ができる枠組みを設ける。
B 都道府県の主導による「水道事業基盤強化計画」の策定

2.事業統合の方向性

 水道事業は効率的・省資源的な経営を行うために、将来的には、流域単位での統合を進めていくべきである。このため、水道事業の市町村経営の原則を見直し、都道府県も経営主体として位置づける必要がある。水道用水供給事業と受水水道事業の統合は、水源から給水栓までの一元管理が実現され、双方が所有する水源や浄水施設の再編等、統廃合が行いやすい。

 水道事業を支える人材確保として、水道事業者間の人材融通のみならず、民間企業の経営ノウハウや人材の活用も考慮すべきである。官民連携には個別業務の委託や第三者委託・PFI、IT化による事業の効率化等様々な形態があるが、水道事業者は経営の弱点や地域の実情に応じた様々な展開を検討する必要がある。民間企業も水道事業者からの幅広い要請に応えるため、体制の充実・強化を図らなくてはならない。

C.アセットマネジメントの実践と水道料金の適正化

 水道事業者は高普及率に達した水道施設の老朽化に伴う計画的な更新や、人口減少を踏まえた施設規模の適正化等、施設の再構築とそれに必要な財源確保が課題となる。需要予測、地理的・水源的条件、広域化等を見据えた施設の統廃合や共同利用等を勘案し、将来へ過大な施設投資による無用な負債を残さないよう留意しなくてはならない。

 国や都道府県は、長期的視野に立ったアセットマネジメントの実践と需要者への情報提供を水道事業者に義務付けなければならない。定期の立入検査時に、重点的に施設の更新の取組状況を聴取する。水道事業者の取組が不十分と認められる場合は、アセットマネジメントの適切な実施を指示・指導・助言をすべきである。
また、水道施設の更新には大きな財源を伴うため、自治体トップの経営判断が重要となる。国や都道府県は首長や水道事業管理者に対し、水道事業の経営が今後ますます厳しさを増してくること、水道施設の更新や耐震化の必要性、水道事業者間の連携の必要性を伝達すべきである。
 認可を受けた給水区域には給水義務が生じるため、需要減の状態においても、新規契約者に対して供給体制は整備しておく必要があるが、このことが事業規模を縮小する阻害要因になっている場合もある。今後は給水区域や給水量の縮小が必要となるため、給水区域の縮小等の事業変更認可を認めるべきである。

 水道事業者は「清浄」にして「豊富」「低廉」な水の供給が義務付けられている。ここで言う「低廉」とは、「安全」な水を、災害に対処し得る「強靭」な施設を確保し、かつ「持続」可能な形で経営することを前提に、高すぎず適正な価格で供給するという意味である。安ければ良いというものではない。
需要者に対して、「安全」「強靭」「持続」を担保する資産維持費の水準・内容について公的な見解を需要者に示し、水道料金算定の根拠となる更新等事業内容や水道事業経営の効率性について、積極的に情報発信し理解を頂かなければならない。
 国は料金値上げの成功事例に関する情報を発信すべきである。

2.その他の懸案事項

A.水質

 水源保全の取組や水源から給水栓までの水質管理の促進に取り組む。

B.地球温暖化対策

 電力消費の約1%を消費している水道事業者は、一層の省エネルギー対策、再生可能エネルギーの利用向上に努めるべきである。将来的な施設再構築において、河川表流水を取水する場合は、取水場所をより上流に求め、位置エネルギーの活用に留意することも有意義である。

C.災害時の事業者間連携

 地震や豪雨等大災害の増加が予測され、応急給水や応急復旧等災害に備えた水道事業者間での連携体制をより強化すべきである。

D.地下水利用

 大口需要者ほど負担の大きい逓増型水道料金が地下水利用の専用水道増加の一因と言われている。地域における健全な水循環の確保や水道という公共サービスを維持するための負担の分担の在り方について、専用水道と公営水道を併用する大口需要者との意見交換が必要である。

2 水道施設は予防保全の時代(日本水道新聞2016.1.25)

はじめに

 以下の文章は、首都大学東京特任教授の小泉明先生が、水道施設の計画的更新において、地震対策等施設の強靭化の推進を説かれている災害特集の記事を抜粋したものです。「最近は上下水道施設の老朽化に伴い、漏水事故や道路陥没事故が増加しているように感じている。人命に関わる悲惨な事故が起こる前に対処しなくてはならない。「水道施設は予防保全を心掛けなけることになるが、それには、事業を推進してくれる人材確保と住民の合意が必要である」ということを述べられています。
 ここ数年「持続」に関する動きが目立っています。小泉先生の文意もこの点に沿ったものではありますが、耐震性の強化等、「施設の強靭化を災害が起こる前に対処しておきなさい」という趣旨で論じられています。
 今年は、東日本大震災から5年目であり、熊本地震も起きています。近年、未曽有の大豪雨により水道施設の被害も問題となっています。今年は、「災害対策」も若干視野に置いておくべきとの思いから、技術士試験対策用にポチなりに先生の論旨をまとめてみました。参考にしてください。

1.水道施設の計画的更新と強靭化の推進

 「蛇口を捻ればいつでも安全な水が出る、レバーを押せば汚水が一瞬のうちに流れ去るという生活が未来永劫続くもの」と思っている人が大多数であると思えます。しかし、事業体が、老朽化が進んでいる水道施設の計画的更新の手を抜けば、利便性のある生活はいづれ崩壊していきます。21世紀は既存の上下水道システム全てを計画的に更新していかねばならない時代です。
 また、日本は有数の地震国です。日本の国土は4枚のプレートが重なっている場所にあり、世界の大規模地震の2割以上が日本の近辺で発生しています。全国どこでも大地震が発生すると考え、事前に水道施設の強靭化に投資して、災害発生時の被害を最小化すべきです。水道施設の循環的更新に合わせて、災害に強い施設の構築、すなわち強靭化も進めていかなくてはなりません。
 そうは言っても、国の補助金には限りがあるので、国民一人一人がお金を出し合ってでも強靭な水道システムを構築していく意識(水道料金の値上げ)を醸成する必要があります。
 また、弱い部分が壊れたらすぐに修繕できるよう
@ 地元企業や他の水道事業体との連携を構築する。
A 平常時から災害訓練を重ね、非常時体制の確認をしておく。
B 水道事業体の枠を超えた備蓄資材の相互融通
等、ソフト面の強靭化も必要です。

2.人材の確保

 ハード・ソフトの強靭化を進めるには人材の確保が不可欠です。近年は事業体職員の削減が続いていますが、いざという時に対応しうる人材は最低限確保しておかなくてはなりません。今後は公だけで人材確保するのは困難ですから、公民連携、特に地元企業の連携を図り、地元企業を活性化していく必要があります。
 災害時には他都市からの応援を得ることができますが、初動対応や応援部隊の指示などは地元事業体と工事業者が担います。事業体が長期の更新計画を策定し着実に進めていくことで、地元企業の経営が成り立ち、技術者も確保・育成ができますので、非常時の対応も円滑に進むものと思えます。
 一定の人材確保と強靭化を進めることで、災害時の被害を最小限に抑制でき、復旧もスムーズに行え、トータルコストも安く抑えることができます。

3.情報公開

 上下水道施設の老朽化が深刻になっていること、地震大国の日本は全国どこでも大地震が起こる恐れがあること、人命に関わる大事故が起こる前に対処しておこうと考えていることや先行投資の必要性を住民にPRしていく努力が必要です。施設の強靭化と非経済的とは表裏一体であり、災害がなければ強靭なシステムを構築したことが無駄だと批判されがちです。計画的更新事業の推進時に、より強靭なシステムを構築するには水道料金の値上げが必要であること等、良い情報と悪い情報を包み隠さず住民に発信していかなくてはなりません。住民の理解を得るためには、真実を公表して、住民と一緒に考え、合意形成を築きながら、施設更新と強靭化を図っていくことが重要です。

3 2015 水道界10大ニュース(日本水道新聞2015.12.24)

 十大ニュースは以下に示します。
 内容は、@「持続」の充実に関すること、A水資源の保全、B地震・災害対策 が目立っているように思えるのですが、皆様はどうお感じになられますか?

1) 厚労省 認可権限移譲を巡る議論が決着、法改正も視野に検討へ

 厚労省は水道事業基盤強化方策検討会で、地方分権に基づく都道府県への認可権限移譲の要件を承認、2016年度の施行を目指して政省令の改正を進めるほか、水道法の改正も視野に基盤強化策の検討に着手。

2) 政府 水循環基本計画を閣議決定

 政府はH26年7月に施行された水循環基本法に基づき、水循環に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、水循環政策の道しるべとなる水循環基本計画を閣議決定。流域水循環協議会の設置や地下水マネジメントにより流域連携の推進など9分野で施策の方向性を定めた。

3) 総務省 平成31年度までの5年間で簡水の法的化を要請

 簡易水道事業と下水道事業を公営企業会計の適用を推進するよう地方公共団体に要請。都道府県と人口3万人以上の市区町村における簡水は平成27〜31年度の5年間で公営企業会計に移行するよう求めた。

4) 各地で多様な広域連携の取り組みが進む

5) 厚労省 耐震化等交付金を創設 当初予算は増額も

 H26年度補正予算とH27年度予算で新たに生活基盤施設耐震化等交付金725億円が創設、計上された。長く続いた予算減額傾向が改善された。

6) 猛威を振るう豪雨 台風18号で4県・約27000戸が断水

 西日本から北日本にかけて広範囲に大雨となり、特に関東地方と東北地方では記録的な大雨を観測。常総市では鬼怒川の堤防決壊により2浄水場が冠水、断水が長期化した。

7) 日水協 災害対応力の強化へ着々行動

 日本水道協会は地震等緊急時対応特別調査委員会を立ち上げ、H29年2月の全国訓練の実施に向けた検討に着手。各地で合同防災訓練が行われる等、さらなる災害対応力の強化に向けて活動が進む。

8) 各地で進む包括委託 民間の担う範囲の拡大進む

 坂井市上下水道部が国内最大規模となる料金・工務関連の21業務を包括委託。荒尾市企業局が利用者対応から施設設計・建設、運転管理、アセットマネジメントに基づく経営・計画支援までを委託するなど、民間企業に広範な業務を委託する事例が誕生。

9) 国交省 次世代の水資源政策を提言

 国土交通省は「今後の水資源政策の在り方について〜水の恵みを享受できる「幅を持った社会システム」への転換〜」を公表。
 「安全で安心できる水を確保し、安定して利用できる仕組みを作り、水の恵みを将来にわたって享受することができる社会を目指す」を基本理念に掲げ、水の涵養から貯留、利用、排水に至るまでの水の循環を見据えた上で、いかなる事態が生じても柔軟かつ臨機に、包括的に対処できる「幅を持った社会システムの構築」を目指すことを提言。

10 )IWA東京会議開催へ 具体の検討体制が本格始動