東日本大震災

1.地震被害(2011.3.12〜14読売新聞、日本経済新聞)

 2011.3.11午後2時46分、宮城県沖を震源とする国内観測史上最大(世界4位)のM9(震源深さ約10Km)、震度7(宮城県栗原町)が発生、引き続いて福島県沖〜茨城県沖にかけてM7級の地震が連続して生じ、岩手・宮城・福島県で壊滅状況の地区が続出しました。
 震度は宮城県栗原町の震度7を筆頭に、岩手県釜石市から千葉県成田市にかけた岩手・宮城・福島・茨木・栃木・千葉県の太平洋岸の各地域で震度6弱以上の揺れを観測しました。

 被害は地震の揺れのよる土砂崩れや家屋倒壊等に加え、津波による被害が深刻です。仙台市では推定高さ10mを超える津波が海岸線から約2Kmの地点まで達し、ビル、家屋、車の多数が流され、溺死とみられる遺体200〜300人が発見されています。岩手県大船渡市、福島県相馬市など大津波により集落ごと流されて壊滅状態になった沿岸部都市が続出しています。また、津波と共に火災が発生し、宮城・茨木・千葉のコンビナート火災や爆発、あるいは三陸海岸沿いの町々が壊滅状態に陥っています。


  各地でライフラインが寸断され、火力・水力・原子力発電所が50か所近く停止し、東北地方を中心に450万世帯、東京電力管内でも約400万世帯が停電しました。特に福島第一、第二原子力発電所では地震動と同時に巨大な津波により原子炉を守るべき機器や電気設備が壊滅的な被害を受け、移動動力と人力による核燃料冷却用の海水注水が行われていますが、火災や建物・原子炉機器の爆発が起こり、予断を許さない状況が続いています。
都市ガスも約42万戸で供給が止まりました。仙台空港の滑走路は水没、成田空港は閉鎖され、高速道路は首都高速・東北道・常磐道・東名等、東北や関東のほぼ全域で通行止めとなりました。首都圏・東北エリアの新幹線や在来線もほぼ終日の運行を取りやめました。電話回線も携帯電話各社の基地局約3700か所で電波が止まり、東北から関東にかけて通じにくい状態です。

2.東日本大地震の特徴(2011.3.12〜16日本経済新聞)

@ 海溝型地震が連動した

 東日本大地震は地球を包むプレート(岩盤)の境界域で起こる海溝型地震が短時間の間に連続して起こった地震といえます。日本列島は北米プレートとユーラシアプレートに乗り、東側から太平洋プレートとフィリピンプレートが潜り込んでくる場所に位置しています。プレートが潜り込むメカニズムは地震を引き起こす原因となる歪が溜まりやすく、一気に北米プレートが跳ね上がって地震が起きたものです。
 しかも、複数の地震が短い間隔で起こった「連動型地震」でありました。地震を起こしたプレートの範囲は、北は岩手県三陸沖、南は茨城県沖までの南北500Km、幅200Kmにわたり、この範囲で6分間以内にプレート間の大きなずれ(断層破壊)が3回連続して起こりました。まず、宮城沖の震源で始まった最初のずれは約100秒続き、その約50秒後から始まった福島県沖の2回目のずれが約100秒、次いで茨城県沖で3回目が約100秒続いた可能性が高いと思われます。ずれは3Km/秒の速度で進みました。海と陸のプレート境界で発生する巨大地震は、ひずみの溜まった境界面が次々のずれて起こると考えられています。しかし今回の地震は、最初にずれた領域と重なる場所で、次のずれが始まった可能性があります。
 静岡県沖を震源とする「東海地震」と、中部地方の沖合を震源とする「東南海地震」、四国沖の「南海地震」の3つの地震は連動する可能性もあり、連動した際にはM9を超える巨大地震となる恐れがあるといわれています。

<注>マグニチュードについて
 日本で長く使われていた「気象庁マグニチュード(Mj)」は解析値が8.3〜8.5で頭打ちになる問題があります。そのため、巨大地震を比較するには、地震で放出されたエネルギーの総量を算出する「モーメントマグニチュード(Mw)」が国際標準となっています。阪神大震災はMw6.9であり、今回の地震の規模はその約1450倍となります。    

    観測史上の巨大地震

1960年5月 チリ地震 Mw9.5
1964年3月 アラスカ地震 Mw9.2
2004年12月 スマトラ島沖地震 Mw9.1
1952年11月 カムチャッカ半島地震 Mw9.0
2011年3月 東日本大地震 Mw9.0











A 津波の発生

 津波で浸水した面積は、、福島県相馬市から青森県八戸市にかけて、約470Km2(3.23パスコの調査による)に上ります。
 被害が大きかったのは、地震の規模が大きかったうえに震源が比較的浅くて津波を強める条件が整っていたことです。震源付近の断層は東北地方太平洋側の地形とほぼ平行に走っていて、陸地にも近く、津波が一気に岩手県や宮城県に押し寄せたと思われます。

 津波の発生メカニズムは、まず、プレートの跳ね上がりによって海底が盛り上がることに始まります

   

 海洋研究開発機構の深海調査研究船「かいれい」が震災発生3日後から震源域の海底地形を調査すると、宮城県沖の日本海溝の底部(水深約7400m)で、東日本を載せた北米プレートが東南東方向に約50m動いたうえ、約10m盛り上がっていることが解りました。

 2013.2.22九州大学辻准教授らの調査によりますと、東日本大震災は沈み込む太平洋プレートに引きずり込まれた北米プレート(陸側プレート)が一気にずれて発生したものです。地震発生と同時に、沿岸から約250Km離れた水深3000〜6000mの海底で複数の断層が発生し、この断層が動いたことで多数の亀裂が発生し、陸側プレートが伸びて海底部分のプレートの動きがより大きくなり、この動き(断層発生による地滑りにより多量の土砂が海底に向かって滑り落ちたことも含む)により、より多くの海水を持ち上げて津波が巨大化したものと推定しています。

 水深が深く邪魔されない条件では、ジェット機並みの数百Km/時の高速で伝わります。

 津波は海岸に近づくと速度は数10Km/時程度に落ちますが、水深が浅くなるため一気に高さを増します。
逃げるのは容易ではありません。狭い入江や遠浅の海岸といった地形の影響で、陸の奥まで到達しやすい特徴があります。
 三陸のリアス式海岸のように湾の外側が広くて内側が狭い「三角形の湾」では、湾の内側に行くにしたがって津波が高くなりやすいのです。陸地が突き出だ半島や島でも海底地形によっては津波が大きくなることが判明しています。
 自動車並みのスピードで迫ってくる津波から逃げるのは容易ではありませんが、避難方法は、津波が河口から逆流してくることが多いので、河川周辺から遠ざかることと、鉄筋コンクリート製建物の3階以上に避難することでしょう。

  台風などで起きる波の波長は100〜200m程度で、ひいては寄せの間隔が短いのですが、地震による津波の場合は、数Km〜数10Kmで、数10分〜1時間余り押し寄せ続ける特徴があります。まさに、水の壁が押し寄せてくる状況であります。このため、波は岸壁で砕けて消えるのではなく、岸壁を乗り越えて内陸部に入って来やすいのです。波の高さ2mで木造家屋は全壊して流されるといいます。また膝くらいの水深でも人は足をすくわれます。津波の押し寄せる時間が長いので、モノに挟まれたりして動けなくなりますと溺れ死ぬ可能性が高いので、人的被害は地震による建物等の倒壊に比較して非常に大きくなる傾向があります。また、数10分後、押し寄せた水が一斉に引き始める際にも被害を起こす恐れがあります。

 今回の地震では、。2011.3.24現在でも、津波が到達した470Km2のうち、7割以上の地域が水浸しのままとなっています。プレートが跳ね上がった影響で陸地側の地盤が沈下したものと考えられます。仙台市の名取川周辺や岩手県陸前高田市などの地盤は1〜2mほど沈下しているみたいです。陸地側が下がった分、津波の実質的な高さはは増した可能性があります。

B 長周期地震動

 今回の地震では東京都心部でも震度5強を記録しました。震源から遠くまで地震波が伝わり、ゆっくりとした揺れを生じさせる「長周期地震動」が襲ったと考えられます。地震波は固い地盤から軟らかい地盤に入ると、地震波の伝搬速度が遅くなり、揺れは大きくなります。建物には共振で揺れを増幅する固有周期があり、高いビルほどゆっくりとした長周期の揺れに弱い傾向があります。高さ70〜100m以上、20〜30階以上の高層ビルでは幅2〜4mの大きな揺れが5〜10分間続く可能性があります。関東平野や中部平野、大阪平野などは堆積層で地盤が軟らかく、揺れは強くなりやすい状況にあります。04年に起きた新潟県中越地震で、震源地から約200Km離れた六本木ヒルズ(東京港区)のエレベータワイヤが切断されました。
長周期地震動が注目されたのは2003年の十勝沖地震で、築10年以上の高層ビルでは対策を講じていない建物が多いのが現状です。建物の立地や高さによって揺れは大きく異なるため、耐震診断による耐震強化が今後の課題です。

 長周期地震動は石油タンクにも大きな被害を与えます。内部の油が波打つ「スロッシング現象」を誘発し、タンクの破損や火災の危険性があります。十勝沖地震では震源地から300Km離れた石油タンクで火災が起きました。

C 液状化と側方流動

1) 液状化
 一般的に、地盤は土や砂、水、空気などで構成されています。液状化現象が起こりやすい地盤とは、海岸や川のそばの比較的地盤がゆるく(しめかためられていない)、地下水位が高い砂地盤などです。
砂を多く含む砂質土や砂地盤は砂の粒子同士の剪断応力による摩擦によって、ゆるい状態(しめかためられていない)でも安定を保っています。

 地下水位が高く、ゆるい砂もしくは砂質土地盤では、地震や建設工事などの連続した振動が加わりますと、その繰り返し剪断によって、お互いの摩擦によってかろうじて安定していた砂同士がバラバラになり、間隙水圧が増加し、その結果、砂粒子同士の有効応力(摩擦力)が減少し、剪断応力が減少していきます。これが0になったとき、砂の粒子は下に沈殿し地盤沈下を起こし(砂質地盤の体積が減少して)地面に泥水が噴き出てくる液状化現象が起きるのです。





 パイプやマンホールなど地中に埋めてあるものが地面に浮き上がってきたり、建物は地盤沈下によって傾き、重心の高い建物や重心が極度に偏心した建物ではより顕著に不等沈下が生じ、中高層建物では転倒・倒壊に至る場合もあります。杭基礎の建物でも摩擦杭の場合は建物を支えていた摩擦力を失い、不同沈下による建物が傾くことがあります。
下層の地盤が砂質土で表層を粘土質で覆った水田等では、液状化を起こした砂が表層の粘土を突き破り、水と砂を同時に吹き上げるボイリング(噴砂)と呼ぶ現象を起こすことがあります。1964年の新潟地震では県内の各地でボイリング現象が観測されました。

 発生する場所砂丘地帯や三角州、港湾地域の埋め立て地などがほとんどですが、近年の研究では、旧河川跡や池跡・水田跡なども発生しやすい地質であることが分かってきました。近年、都市化で該当地域が多いことで被害拡大の影響が懸念されています。

 液状化の最大の問題はライフラインの崩壊です。ガス管はポリエチレン化が進んでいるが(例えば2011年3月に京葉ガスは90%)、耐震化が遅れている水道配管や耐震化しにくい下水道管の回復が遅いため、他の全てのライフラインが回復しても居住困難な状態が継続する場合が問題となっています。(例えば2011年の東日本大震災での福島第一原子力発電所免震棟、Jヴィレッジ、浦安市、いわき市など)。

<液状化現象の説明例>
 地下水の高い、緩い締固め状態の砂地盤に、地震のような振動が連続して加わると、間隙水圧が増加し、砂同士の摩擦力が減少しバラバラ状態になって沈殿・地盤沈下を起こし、地下水が地面に噴出する現象。地中埋設されているマンホールや配管が浮かび上がり、建物や道路が傾斜・陥没を起こし、上下水道設備に多大な損傷を生じる。

2) 側方流動
 側方流動は、地盤流動現象の1つで、傾斜や段差のある地形で液状化現象が起きた際に、いわゆる泥水状に液状化した地盤が水平方向に移動する現象をいいます。

液状化による側方流動により川底が埋塞した小野川

 側方流動には大きく分けて2つのタイプがあります。1つは、地表面が1〜2%程度のゆるい勾配になっており、地中部に液状化層が存在するものです。この場合、地盤が傾斜に沿って移動します。
 もう1つは、護岸などに見られるタイプで、地震の揺れおよび地盤の液状化で護岸などが移動することで、後背の地盤が押して側方流動を引き起こすものです。

 このような側方流動が発生した場合、地中構造物に多大な影響を与えます。例えば、杭基礎であれば、側方流動が発生することにより杭は地盤から水平方向にせん断や曲げの力を受けます。この地盤からの力が杭の耐力を超過し、杭のせん断破壊等を引き起こします。このため、杭基礎は上部構造物を支える事ができなくなり、場合によっては構造物の転倒などを引き起こすことにつながります。

3.水道の被害

@ 地震時の断水状況(2011.3.14日本水道新聞)

 地震による水道の被害は、東北地方を中心に北海道から徳島県までの16県で、少なくとも140万戸が断水という、日本の近代水道始まって以来と言える広域災害の様相を見せています。特に、大津波が襲来した岩手・宮城・福島県を中心とする太平洋沿岸部は壊滅的で、情報収集が困難な地域もあることから支援の長期化が懸念されています。
 3月11日14時46分ごろに大地震が発生し、日本水道協会が水道救援対策本部を立ち上げ、厚労省・各支部との情報連絡・被災状況の収集を開始しましたが、東北地方の被災状況が徐々に明らかになったのは同日の夕方に入ってからでした。宮城県支部からは給水車130台の要請、福島県支部の郡山市は庁舎が機能停止し福島県庁が調整を行っていること、青森県支部は停電等で会員間の連絡が取れない等、被害が深刻でしかも広範囲にわたっていることが明らかになりました。茨城・栃木県からも給水車の要請があったことから、応急給水に必要な給水車の総数を把握するとともに、全国各支部へ出動可能な台数を調査し、北海道から九州までの全地方支部で214台の給水車が派遣可能なことが判明しました。11日未明には、東北・関東地方の被災地へ準備が整い次第出発の要請をしています。
 厚労省と緊密な連絡を取る中で、首相官邸に応急集水の対応状況が報告され、官邸からは、給水を要望する現地病院等の情報から、応急給水車の行先について考慮するよう指示がありました。3月12日に入ると、新潟市をはじめ、徐々に給水車が現地で給水活動を開始しました。
 断水状況は、11日には不明でしたが、12日10時ごろには16都道府県で約100万戸、夕方17時30分には17都道府県で少なくとも140万戸に及んでいることが判明し、14日12時時点でも14県140万戸が断水している状況でした。応急給水に派遣可能な給水車は244台になり、14日16時現在で152台(114事業体)が給水活動に従事していました。

3月14日12時現在の断水状況

青森県 約   500戸 岩手県 約 80000戸 宮城県 約310000戸
福島県 約190000戸 秋田県 約  1700戸 山形県 約  7000戸
茨城県 約470000戸 栃木県 約 40000戸 群馬県 約     4戸
埼玉県 約    70戸 千葉県 約300000戸 新潟県 約  2700戸
長野県 約  1000戸 岐阜県 約    30戸

復旧済:北海道、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県、徳島県、水資源機構

A 液状化地盤に注目する(2012.9.20日本水道新聞)

 金沢大学の宮島昌克教授によりますと、東日本大震災の最大震度は7ですが、地震動そのものによる水道施設被害は、今回と同様に最大震度7を記録したH7年阪神淡路大震災やH16年新潟県中越地震と比較しても顕著な程度ではありません。しかし、地盤の液状化が千葉県・茨木県を中心に大規模に発生し、浄水場や水道管路に甚大な被害を与えました。長期機能停止になった浄水場は東北・関東地方に4か所ありますが、そのうちの3か所が液状化による池状構造物の亀裂や場内配管の断裂などが主原因となっています。東日本大震災による水道施設被害の多くは地盤振動によるものよりも、液状化などの地盤変状によるものが多く、管路被害であれば、ある範囲に集中して発生している特徴があります。従って、地盤変状が発生する可能性の高い地域を予測し、優先的に耐震化を進めることにより、地震被害が格段に低減するのではと指摘されています。

 「H23年東日本大震災における管本体と管路付属設備の被害調査報告書」では、@ 軟弱地盤や人工改変地盤は、自然の強固な地盤より揺れが大きくなりやすく、液状化現象などと合せるとより被害が拡大し、A 震度6弱以上になると被害率が高くなる傾向があると指摘しています。以下の地盤、部位について優先的に耐震化を図ることが望ましいとしています。
 @ 埋立地や自然堤防などの液状化地域
 A 谷底低地や後背湿地などの軟弱地盤
 B 宅地造成地の盛土(人工改変地)や切盛り境界地、傾斜地
 C 道路盛土などの人工改変地
 D 旧水部などに該当する部位

 Bの宅地造成地やCの道路盛土、Dの旧水部などは、250mメッシュ上の表層地分類では良い地盤とされる「丘陵」や「台地」等に含まれる場合が多いため、耐震化の優先順位計画を策定する場合は、人工改変の履歴を示す切土盛土図や古地図などを用いて、地歴を含んだ地盤情報を考慮する必要があります。


 上記@〜Dに含まれる地盤にある基幹管路については、断水の影響度や重要度を考慮して、断水時のバックアップによる被害の軽減、管路の点検、管路更新時の供給機能の代替えにも有効なバックアップ管路を確保しておくことが望まれます。

 液状化に耐えうる管路とは、耐震継手を有するダクタイル鋳鉄管、溶接鋼管、ポリエチレン管といういわゆる耐震管が該当します。

<参考:仙台市の液状化地盤におけるSU型ダクタイル管の挙動(2012.9.20日本水道新聞)

 金沢大学の宮島昌克教授は仙台市とクボタの協力を得て、津波により1m程度浸水し液状化現象が発生したことがハッキリしている仙台市宮城野地区に埋設されていて、漏水事故を起こさなかったφ300mmSU型ダクタイル管(延長130m)の管内継手個所の状況を確認しました。

 この地区は仙台港の後背地で道路や下水道管路が大きな被害を受けた場所です。管内の水を抜き、TVカメラを挿入し、各継手個所をカメラで全周回転させ実視し胴付間隔上下4方向で測定します。その結果、地盤変位の大きかった個所では継手の伸びが抜け出し長の限界と同じ長さに達しており、その箇所と隣接する前後の継手ではある程度大きな伸びが認められ、そこから離れた場所ではほとんど継手の伸びが無いことが明らかになりました。これにより、地盤変位が大きい個所では継手が離脱防止機能により抜け出しを防止していること、それ以上の変位は隣接する継手で吸収していることなど、鎖構造管路が設計通り機能していることが確認できました。

B 空気弁の漏水事故

1) 空気弁本体の破損

a 空気弁の被害状況と破損の実態

 理由は定かではないのですが、導送配水本管の被害において空気弁損傷被害が非常に多いのが東日本大震災の特徴の一つです。表に示すように、阪神淡路大震災での空気弁の被害は目立つほどではありませんでしたが、仙台市やいわき市では配水本管被害件数の50〜80%程度を空気弁の損傷が占めています。主にフロート弁体のへこみやフロート弁体案内・誘導弁体の破損が多いようです。

引用文献:「東北地方太平洋沖地震による空気弁の被害状況(調査結果)について」 (株)栗本鐵工所 

b 空気弁破損被害の推定原因(日水協:H23年東日本大震災における管本体と管路付属設備の被害調査報告書、2012.9.27日本水道新聞)

 空気弁の破壊については、これまでの地震でも経験した「案内(ガイド)」、「遊動弁体」の破損の他に、今回の地震では「フロート弁」の破壊がありました。その内容は、ステンレス製フロート弁体(空洞の球形状)が大きくへこんだものです。(aフロート弁体の損傷写真参照)このフロート弁体は9MPa(約900m水圧)でも変形しないことから、管路に何らかの衝撃的な圧力が発生したことが推測されます。
 推定されるメカニズムとして、地震により「フロート弁体」が一時的に吸気状態になって下がり、更に一瞬のうちに「フロート弁体」が排気による上昇する現象が生じた時に、閉じ込められた空気が圧縮され衝撃的な圧力が発生したことが推測されます。

 この現象を再現するために、工場の実流設備の管路に急速空気弁を配置し、補修弁(空気弁の元弁)を閉めて空気弁の「フロート弁体」が下がった状態(空気弁内は空の状態)にしておき、補修弁の操作レバーを急開操作することによって一気に水を空気弁内に送り込んで、フロート弁体が瞬時に上昇する状況を作り出す実験を試みました。
 この検証実験で、空気弁内部の圧力を測定したところ、衝撃圧は10MPa以上に達する場合があることが確認されました。空気弁内部では本管圧力より桁違いに大きな衝撃圧が発生することが証明されました。この衝撃圧力が空気弁の部品破損をもたらしたものと推測されます。

 「フロート弁体」は中空(空洞の球形状)のステンレス製と中実(中が詰まった球形状)の発砲エボナイト製の2種類があります。同一の外力を負荷した場合、中実のエボナイト製に比べて中空のステンレス製は変形が起こりやすい結果が出ました。

 地震時の急激な圧力変動の発生メカニズムについては、管路のシステム的な現象もありますので、未だに解明できていないのが現状です。今回の地震はM9.0、最大震度7(宮城県栗原市)という我が国観測史上最大の地震であったことに加え、揺れの継続時間が非常に長く(仙台市・塩竈市で3分程度)、余震活動が活発(M7以上の余震が6回発生)という特徴がありました。配水池や受水槽の液面搖動(スロッシング)現象が激しかったことが考えられることから、流量や圧力の急激な変動の要因なのではという意見もあります。この点は、金沢大学の宮島昌克教授が、2012.9.21岩手紫波地区水道事業研究会で述べておられました。

2) フロート弁体に異物が詰まったことによる漏水

 空気弁の被害にフロート弁体に異物が詰まったことによる漏水被害も多くありました。原因は、止水部(大空気孔弁座と遊動弁体の間)への土砂や錆などの目詰まりが大半を占めます。地震発生時にフロート弁体が下がる(吸気する)状況が生じ、その後、水圧が復元してフロート弁体が上がる(排気する)時に、異物をかみこむのではないかと推測されます。空気弁室は雨水が入り込むこともあり、普段は閉まっている遊動弁体の上部に土砂などの異物が溜まることが多いのです。このような状態になっていると、フロート弁体が一旦下がった時に、その土砂などの異物が落ちて、止水部(大空気孔弁座部)に詰まってしまうのです。

 この対策としては、定期的に空気弁を清掃するメンテナンスが不可欠です。仙台市は定期的な空気弁清掃を実施ていましたので、この被害は0でした。

C 井戸は地震に強い(2012.8.30日本水道新聞)

 東日本大震災で被害が集中した青森・岩手・宮城・福島4県トータルで、水道水源における地下水の占める割合は、平成21年度では約21%でした。水量比のデータですから、中小事業体の地下水に依存する件数比率はもっと大きなものと考えられます。全国さく井協会は、これら東北4県の井戸の被害調査を実施しましたが、その概要は表のとおりです。

 まず、地震直後の対応状況です。地震直後から、水道事業体から「井戸の水が濁っている」とか「水量が減っている」という問い合わせがさく井業者に殺到したそうですが、ガソリン不足もあり、ほとんど現地に出向くことが出来なかったそうです。

 濁りの発生状況は20件で、全体の7.5%程度です。発生要因は、スクリーン周辺部の細粒分の一時的な漏出が考えられます。「濁りが取れない」あるいは「ケーシング破損」は5件ありますが、ケーシングの腐食進行が原因と思われます。5件の内濁りが取れない井戸が3件ありますが、これの原因も、老朽化によるケーシングの破損か掘削時の施工あるいは仕上げに起因していると思われ、地震そのものが大きな要因とは考えにくいと推測しています。地震による濁りは、数時間から数日で治まるケースがほとんどだったそうです。
 この調査によって明らかになったことですが、使用している井戸のデータを持っていない自治体が多く、掘削時の状況が解らないケースも多くあるとのことです。
 井戸の能力以上に過剰揚水を続けますと枯渇や地盤沈下・塩水化などを引き起こし、安定取水上に問題を生じてきます。そのため、井戸使用直後から水位、水量、水質などの基本データの変化と、揚水状況から揚水量、ケーシング、スクリーン状態のチェックと必要なメンテナンスを定期的に施していくことが大切です。

 放射能被害ですが、福島県内の井戸300本で放射能物質が検出された例はありませんでした。ただ、放射能物質は土壌に吸着されることもありますし、深井戸の場合は、地上に降った雨が浸透、到達するまでは時間がかかるので、震災後半年程度ではまだ影響がなかったという可能性も否定できません。

 津波などの冠水により、井戸口元からの海水侵入による塩水化被害が多く見られました。下図のように、取水ポンプを井戸内に密閉し、防水マンホールを設置して、海水の冠水による海水侵入やポンプ設備の破損対策をとる必要があります。

 多くの塩水化被害は上記の井戸内への海水侵入によるものですが、地盤沈下によって帯水層に海水が侵入してきた事例もあります。地盤沈下によって塩水化限界水位が変化し、海水が入りやすい環境に変わったことが原因です。
 一方、水を汲みすぎて塩水化を誘発している井戸もありました。メンテナンスを行う上で、塩水化の限界運転水位をきちんと調査しておくことが重要です。
 浅井戸の場合、一時的でも井戸周辺が海水に冠水されると土壌が塩水化し、雨が降れば土壌の塩分が溶出して井戸水の塩分濃度が上がる現象も見られました。このような状況が半年程度続いた井戸もあったそうです。度重なる塩水化現象により、自然に塩水化濃度が減少していくことを待てない事業体は、安全なところに新たに井戸を掘りかえた事業体もありました。

 常日頃から、地下水は供給量に限度のある循環型水源であることを認識し、日常の揚水量や水質変化に関する維持管理をしっかりと行なえば、井戸構造は地震に対して頼もしい水源であると言えます。

D 伸縮可とう管の耐震性(水道産業新聞2013.3.28 京都大学小池武教授)

 伸縮可とう管の設置は地上と埋設の2パターンがあります。

 地上配置の伸縮可とう管は、東日本大震災においても設計通りの機能を発揮していたと言えます。水管橋など地上配置の例では、地震による地盤変動で伸縮可とう管にズレが生じましたが、設計想定内であり、ずれを元に戻せば当面の水道サービスを継続して実施できる状態のものでした。地上配置の目的は、温度変化による軸方向の伸びを吸収するために、相対的に損傷しやすい部位に設置します。

 一方、埋設配置の伸縮可とう管は大口径幹線管路で被害が発生し、機能被害は甚大でした。設置目的は杭支持のコンクリート構造物と隣接する地盤内埋設管路の不同沈下による相対変位の吸収と、温度変化による軸方向の伸びを吸収するために設置します。地震が発生し、地盤変位に伴う軸方向の変位が生じた場合、その変位をも吸収するための余裕代が必要となります。伸縮可とう管が伸びきった状態で地震が発生すれば、余裕代が足らないと漏えいが起こります。
 東日本大震災での漏えい個所を見ると、伸縮可とう管が不良であったのではなく、ピット等の構造物・埋設管路・伸縮可とう管を一つのシステムとする構造系の地震時応答の結果として、最弱部の伸縮可とう管が損傷したものと推測されます。

 大震災を教訓として、伸縮可とう管を設置する場合、
@バルブピットの外側に発生する不同沈下の吸収
A温度変化に伴う軸方向変位の吸収
B不同沈下後の残留変位性能として地震時変位を吸収できるよう余裕を持たせること

がポイントとなります。
 また、コンクリートピットを出てすぐに立坑や隣接構造物があり、その間に伸縮可とう管を設置する場合は、3者の地震応答結果として、相対変位が限界値を超過しないか検証する必要があります。構造物に挟まれた個所では、回転性能の強いものを選択する等、その場所の地震特性に応じた機能を有する製品を選択することが重要です。

 耐震型伸縮可とう管(下図)とは、伸縮性能、屈曲性能、離脱防止性能を備えたものです。

  

4.水道水の放射能汚染(2011.3.24〜25日経新聞)

 2011.3.23東京都は、金町浄水場で水道水1kg当たり210ベクレルの放射性ヨウ素を検出したことを発表しました。福島第1原子力発電所の事故の影響とみられています。
 福島第1原発の事故は、冷却装置を稼働させる非常用ディーゼル発電機が故障したために起こりました。巨大地震を感知して原子炉は安全に緊急停止したのです。停電となったため、非常用発電機により冷却装置が稼働し、しばらくは安定を保っていました。その後、想定を超える大津波の襲来により非常用ディーゼル発電設備が損傷を受け、非常用電源が停止し冷却装置が機能しなくなりました。稼働停止中といえども原子炉は高い熱を出し続けていますし、使用済み燃料を冷却格納していた燃料プールも余熱によって高温を帯びてきたため、建屋内に水素ガスが充満し爆発、分厚いコンクリート製の建屋が損壊しました。3.26時点では定かではありませんが、原子炉にも何らかの損傷を受けているやもしれません。その結果、原発周辺では核分裂反応で出るセシウムや放射性ヨウ素が検出される事態となったのです。

 福島第1原子力発電所から放射性物質が放出されていることから、東京都は3月21日に関東地方で久しぶりに雨が降ったことを受けて、3月22日に水道水の汚染度調査を行いました。利根川の支流である江戸川から取水する金町浄水場、荒川からの朝霞浄水場、多摩川からの小作浄水場の3か所で採取し、放射能測定を行ったものです。この結果、金町浄水場の水から、乳児の飲用に関する暫定的な指標値100ベクレルを上回る濃度の放射性ヨウ素を検出しました。そのため、江戸川から取水する金町、三郷の両浄水場から配水している配水区域の住民に、1歳未満の乳児に水道水を飲ますことを控えるよう求めています。続いて、23日にも金町浄水場で採水試験を行いましたが、やはり基準を超える190ベクレルを測定しました。
 実際に家庭の蛇口で出る水は、東京都が断水を回避するリスク対策として、複数の浄水場の水を混合して配水していることから、地域によっては浄水場の数値よりもさらに下がるものと思われます。
3月23日、25日に、東京都が防災用に備蓄している飲料水550ml入りのペットボトル24万本を乳児一人当たり3本を、都内の乳児約8万人の家庭に提供すると発表しました。各家庭への提供方法は23区5市に委ねるようです。

 今回の原発事故による水道水汚染は福島県(いわき市等)、茨城県(日立市等)栃木県、千葉県(松戸市)、埼玉県(川口市)、東京都(葛飾区金町浄水場)の6都県に上っています。いずれも、大量に摂取しない限り人の健康に影響を与える可能性は小さく、時間の経過とともに規制値を下回ってくることが考えられます。水道事業体では水道水の水質検査を徹底する体制をとっています。

<放射性ヨウ素について>

1) 放射性ヨウ素とは
@ 甲状腺がんの発生
 放射性ヨウ素とは自然界に存在するヨウ素と異なり、原発などでウランの核分裂反応が起きた時に生成される「ヨウ素131」などの放射性同位体のことで、放射能を持っています。ヨウ素は体内で代謝を調節する「甲状腺ホルモン」の合成に必要な物質です。喉仏の下あたりにある甲状腺でこのホルモンを作るため、普段から体に取り込んだ自然界のヨウ素を甲状腺に蓄積しています。放射性ヨウ素が食べ物や水と体内に多量に入ると、甲状腺に蓄積されて放射線を出し続けるため、がんになりやすくなるのです。1986年旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の際には、子供の「甲状腺がん」の発生率が上昇しています。

A 甲状腺の被曝限度量
 放射性ヨウ素は甲状腺に集まるため、緊急時の健康影響は甲状腺への被曝量で評価します。甲状腺の被曝限度量は年50mmシーベルトで、1年間汚染された水を飲み続けても被曝量を超えないように設定された乳幼児向け暫定規制値が100ベクレルです。
 乳児の場合は特に甲状腺の細胞分裂が活発でヨウ素を取り込みやすく、また、発達段階であるため放射線による影響も受けやすいため、成人よりも基準値を大きく下げているのです。同じベクレルの水を飲んだ場合、「放射線ヨウ素131」が与える甲状腺への影響を、ベクレルからシーベルトへの換算係数で比較しますと、発達段階の乳児が2.8とすれば、幼児は1.5、10歳児では0.76、15歳では0.5、成人では0.32となっていて、乳児から幼児への影響が特に懸念されるのです。

B 放射性ヨウ素の半減期
 放射性ヨウ素の半減期は8日と比較的短いのが特徴です。そのため、放射線に汚染された水を汲み置きしておけば次第に含有量は減ります。ちなみに、金町浄水場の水道水放射線量の測定値は、3月22日が210ベクレル、3月22日が190ベクレル、3月23日が79ベクレルでして、時間が経過することの減少効果も表れているのではないかと思われます。
 体内に入った場合、尿などで排泄される効果もあるので5日程度で半減するのではないかと考えられています。飲み続けなければ、体内に残る量は1か月でほとんど無視できる程度まで減ると思われます。

2) 風呂・洗濯・炊事に使っても差し支えないか?
 東京都で測定された程度の放射線量では風呂・洗濯・炊事に水を使っても、放射性物質が体や食べ物に大量に付着するとは考えられませんし、たとえ付着してもほんのわずかと思われます。風呂に入ったとき、水蒸気を吸い込んでも心配ないとされています。

3) 活性炭等の除去効果は?
@ 活性炭フィルター
 放射線物質を含んだ水道水を活性炭フィルターに通せば、放射線物質の量を1ケタ少なくできるとされています。一部の水道事業体では粉末活性炭の注入を始めたそうです。
 家庭用浄水器でも活性炭が使われていますが、メーカーでは詳しい効果は解らないと言っています。

A 煮沸
 水を煮沸してもあまり除去効果はないそうです。

5.過去の巨大津波

 太平洋沿岸各地の地層で、国の想定を上回る巨大津波の痕跡が相次いで見つかっています。2011.8.21日経新聞によりますと、下図の「最近見つかった大津波の痕跡例」のように、北海道、東北、静岡県、紀伊半島南部、神戸市、四国南部の沿岸で複数自身の連動による巨大な津波が押し寄せていたことが判明しています。

 中央防災会議は、今後の被害想定を行う際に、津波堆積物や古文書の調査をもとに最大級の地震・津波を検討するよう求めています。

 その一例として、東日本大震災に匹敵するM9級の超巨大地震が北海道から三陸沖の太平洋で過去3500年間に7回以上発生し、大津波が沿岸を繰り返し襲っていたことが、北大の調査で判明しました(2012.1.26日経新聞)

 北海道根室市〜宮城県気仙沼市の400地点以上で確認された津波堆積物の年代比較で、東日本大震災を除く7回分の年代が沿岸全域でほぼ一致し、調査結果から、千島海溝と日本海溝沿いに震源が4つあると推定されています。4つの震源域は数百年〜千年の異なる間隔で地震を繰り返していて、同時や連続発生もありうるそうです。沿岸地域は常に4方向からの津波を警戒すべきと警告しています。

 調査方法は、堆積物の位置から津波の高さを推定できそうな海岸沿いの崖や小規模な谷を中心に、道東の根室市から道南の森町、青森県、岩手県、宮城県気仙沼市までの地域を、放射性炭素や土器、噴火時代が分かる火山灰層との上下関係から年代を推定しました。
 結果として、沿岸一帯では、17世紀初頭、12〜13世紀、869年の貞観津波、約2000年前、約2400年前、約3000年前、約3500年前とみられる堆積物を確認し、ほぼ同時に津波が広範囲に押し寄せていることを確認できました。

 分布状況や地殻変動の痕跡を合わせ、震源域は@根室−色丹島沖(繰り返し間隔:300〜1000年)、A襟裳岬−十勝−根室沖(同間隔:1000〜1300年)、B陸奥−陸中の三陸沖北部(同間隔:1000〜1300年)、C東日本大震災が起きた陸中−常陸の三陸沖南部(同間隔:500〜1150年)の4か所です。2400年前の地震ではAとC、3500年前は@・A・Cがほぼ同時期に活動したのではと推測されています。  

  

6.今後の課題・教訓(2011.11.28日本水道新聞)

 2011年10月30日、厚生労働省が主催する「東日本大震災水道施設被害等現地調査団」は東北3県の7事業体を調査し、基幹施設・管路に絞り被害状況をまとめ、今後の課題・教訓を提言しました。以下その概要を紹介します。調査対象の7事業体とは、福島県(いわき市、郡山市)、宮城県(宮城県企業庁、仙台市、石巻地方広域水道企業団)、岩手県(陸前高田市、一関市)です。

1) 東日本大震災の概要

 東日本大震災(M9.0)は、岩手県沖から茨城県沖までの長さ約500Km以上、幅約200Kmを震源域とした我が国で発生した地震として観測史上最大のものでした。栗原市で最大震度7を記録、北海道から九州地方の広範囲で震度6弱から震度1を観測しました。M7.0以上の余震も想定震源域に密着して発生しています。
 地震動の振幅が大きく、継続時間が非常に長かったものの、1995年の阪神淡路大震災の応答スペクトルと比較すると、その半分以下となる特徴がみられます。
 また、津波は太平洋沿岸に達し、三陸沿岸では浸水高さ30m超、遡上高さで40m超を観測した地点もあります。平野部では内陸まで浸水し、仙台平野では海岸線から5Km以上の範囲まで浸水しました。

2) 施設の耐震化

 平成23年3月11日の本震後も、M7クラスの大きな余震が頻発し、本震と余震による水道施設の被害が広い範囲に及んだことが今回の地震の特徴です。

@ 基幹施設
 津波による沿岸部の構造物被害、耐震性の低い塔状構造物の被害、液状化による被害、池上構造物の軽微な被害が生じています。

 津波では、施設の崩壊・流出、設備の故障が多数発生し、浅井戸は津波の水位が低下した後も塩化物イオン濃度が高く取水不能状態となる水源が発生しています。沿岸部に位置する水源施設は、津波の想定も含めた抜本的な対策を検討・実施することが必要と考えられます。
 一関市では塔状配水池が倒壊しました。昭和53年竣工の構造物で、部材寸法が小さく、池状構造物と比較して固有周期が長くなる特徴があることから、地震動が増幅されたことが原因と思われます。類似構造物の安全性チェックが必要と思われます。

 地盤の液状化によって石巻地方広域水道企業団の蛇田浄水場に甚大な被害が発生しました。液状化で甚大な被害を受けますと長期間の機能停止となることが多いため、適切な対策が必要です。
 一方、液状化などが発生しなかった配水池や沈殿池などの池状構造物には、躯体損傷で機能停止に至るような被害はありませんでした。

A 基幹管路
 耐震管はこれまでの大地震と同様に、優れた耐震性を発揮しました。
 1997年以前の耐震設計指針で設計された送水管路において、伸縮可とう管の離脱や継手漏水が発生し、受水市町では長期間の断水を余儀なくされました。基幹管路のループ化や二重化などのバックアップ機能の重要性が再認識されました。基幹管路の被災は影響が甚大であることから、伸縮可とう管を含めて耐震性の高い管種・継手に変更・整備していく必要があります。

B 停電の影響
 今回の大震災では東北電力管内で広範囲かつ長時間に及ぶ停電が発生しました。このため、主力浄水場では自家発電設備の運転に必要な燃料の確保に困窮しました。主要浄水場への燃料供給を優先させたため、配水ポンプ場用燃料が補給できず停止に至った施設があります。また、事業体によっては、浄水場の運転を停止したケースもあります。通信施設の被害と停電により運転状況の監視・制御にも支障をきたしています。
 長時間停電に備えた燃料の確保や水運用システムを見直す必要があります。

高圧電源車の導入

 盛岡市上下水道局は、2013年度、米内浄水場に高圧電源車と受電設備を導入しました。盛岡市が所有する7浄水場のうち、自家発電設備を持たない浄水場は米内浄水場と中屋敷浄水場です。 中屋敷浄水場は、2012年度に自家発電設備を持つ浄水場との連絡管を整備し、今後、自家発電設備の導入を予定されているそうです。

 米内浄水場は、停電時対策として常用線と予備線の2系等受電システムでしたが、東日本大震災では両系統の送電システムが共にダウンし、浄水場の運転や配水池への送水が出来ず、給水区域内約3万世帯で30時間にわたる断水が発生しました。このため、盛岡市は同規模停電時を想定した配水計画を策定すると共に、施設への非常用自家発電設備等の整備を推進しています。この度の高圧電源車の導入はこの取組の一環であり、配水池貯水量を合せると、同規模の停電時でも給水が継続可能になるそうです。

 高圧電源車搭載の発電機は電圧6600V、出力500KVAで購入費は7844万円、受電設備は8085万円でした。

 自家発電設備は、基本的には導入後、調整運転をするだけで、実働することはほとんど無く、「施設の更新を待つだけの金食い虫」とポチは思っていました。私の先輩であった上司は、「中国電力の送電システムは福山市水道局の比ではないくらい、コストもかけた安全性の高いものだ。5年間で30分以上の停電は皆無と聞く。だから、2回線受電の投資を今後は重点的に行っていれば、それ以上の停電が生じた時は、想定外で説明がつく時代だと思う。」とおっしゃっていたのを思い出します。事実、ポチも「これからは自家発電設備を充実させていく時代ではないのかも!」って気持ちがありました

 しかし、阪神・淡路大震災から東日本大震災まで、大規模な地震が相次ぎ、今や自家発電設備の整備は持続可能な水道を守るための必需品となっていますね。ある程度規模の大きな事業体なら対応可能でしょうけれど、中小事業体では、自家発電設備の整備はかなり難しいのではないかと推測致します。東北地方では、仙台市も東圧電源車を導入したと聞きます。周辺の中小事業体でもその電源車の恩恵を受けられるよう、受電設備の整備を行い、地域の自家発電設備としての活躍をも期待しております。

C 初動体制
a 通信手段
 初動体制における最大のネックは通信手段でした。一般加入電話や携帯電話はほとんど使用できませんでした。各地方支部や各県支部に配置していた衛星電話は有効に機能しました。事業体内部の連絡には無線が有効でした。携帯電話のメール(パケット)も有効であった事例が報告されています。
 広報活動では、庁舎が被災した場合は防災無線が使用できず、職員が自転車や徒歩でテレビ局やラジオ局に原稿を持ち込みした例があります。

b 人員確保
 停電によりテレメータによる監視が不可能となり、被害状況を現地で確認するために適正な人員の確保が必要でした。
 全戸断水により市民からの苦情や問い合わせが多数寄せられ、復旧活動に専念すべき職員が電話対応に追われました。市長部局からの応援や水道事業経験のある退職者を活用するボランティア制度の検討が必要です。

c 仮設資器材の調達
 仮設資材(矢板、照明、水中ポンプ、運搬車両等)の調達や搬入に時間を費やしました。建設関連業者との協定が必要と思われます。

d 薬品の調達
 薬品メーカーが被災したため、一部薬品が入手困難となりました。薬品調達ルートの確保、水道事業体による薬品の相互融通等の検討が必要です。

e 災害対応マニュアル他
 初動期に情報収集・連絡体制・指揮系統でマニュアルに基づく対応が出来なかった場面がありました。より実効性のあるマニュアルに修正していく必要があります。また、津波被害を想定したマニュアルが必要です。
水道局庁舎が被災したため、OA機器を使用することが困難であった事例もありました。

D 応急給水
 地方支部長都市や県支部長都市が被災し、「水道事業体→県支部長都市→地方支部長都市」という階層的な応援要請方式が十分に機能しない場面がありました。

 水道施設の甚大な被害が広範囲に及んだため、大都市協定や姉妹都市関係等の日水協の枠組み以外の応援給水体が派遣され、受け入れ側ではこれらの調整に混乱を来すこともありました。さらに現地では自衛隊の応急給水活動も展開されていましたので、大規模災害時における応急給水の在り方を見直す必要が考えられます。

 応急給水活動では、被災事業体職員の職員配置に限界があり、派遣されてきた給水車を現地へ案内する人的余裕の無い場合が多くありました。このため、給水車へのカーナビ装備は必須の条件と思えます。また、職員数が限られているので、町内会やボランティアの受け入れも考慮する必要があります。

 今回のような大規模災害時には、他都市からの応援は不可欠ですので、受け入れ側の水道水の受け渡し場所や応急給水拠点を指示するための地図情報の整理が必要です。応援給水する側は、実践的で効率的な加圧式給水車を充実していくと共に、応援給水隊の派遣においては、被災事業体から給水車両等の要望を受けて派遣する等、事前情報を収集する重要性が認識されました。

E 地震被害地区の応急復旧
 大地震の際には、基幹施設の損傷や、長時間停電による送・配水ポンプの停止により、被害のなかった施設を可能な限り活用して応急給水・応急復旧活動を開始することになります。基幹管路の耐震化、ネットワーク化・ループ化、バルブ設置位置の適正化の有効性が再認識されました。
 また、伸縮可とう管の設置や確実な作動が管路被害の有無に、制水弁・空気弁等のバルブ類の管理の良否が断水区域の最少化・漏水個所の早期発見に大きな影響を与えました。

a 日水協や主要都市の先遣隊と地方支部長都市の協議により応援体制を決定することになっていますが、地方支部長都市が被災した場合の応援要請のあり方について課題となりました。

b 被災後、宮城県企業局、仙台市、石巻広域水道企業団等が復旧計画を公表しました。公表により、その後の復旧応援体制の規模が明確となり、被災者の心理的負担の軽減につながりました。

c 地元水道事業体が特殊な資器材を備蓄していたことが復旧を迅速に行えた面があります。効率的な資産管理を進める中で備蓄資機材の縮減傾向がありますが、使用頻度の低い大口径管材については一定の備蓄と、備蓄状況の情報共有が必要と思われます。

d 配水支管の漏水発見には住民からの情報提供が有効でした。

e 物資の調達、宿舎の確保、車両や燃料の手配、食料の確保、交代要員の手配などの後方支援活動が長期の復興支援を支えるうえで大切です。

キャンバス水槽(2013.3.11水道産業新聞)

 キャンバス水槽を紹介する記事の冒頭で以下のような記述がありました。
 応急給水活動の効率性という面でネックとなるのは、応急給水車が給水拠点や給水を行っている路上で足止めを食ってしまうことです。水を求める住民が給水車を見ればそれを止めようとするのは当然の流れであって、断るのも難しいのが現状です。その点、新潟市水道局が応急給水の有効なツールとして活用しているキャンバス水槽は、給水拠点に常設すれば給水車は本来の役割である水の運搬に専念することができます。・・・・・・というものでした。

 ある水道事業体の方から頂いたご意見なのですが、東日本大震災の発災初期に応急給水に派遣された現業職員に聞いた話では、被災者は通りがかった加圧タンク車を止めるようなことは無かったそうです。被災者は、雪の中、応急給水か所で何時間も立って待ち続けていましたので、現場に応急給水に向かった職員は、加圧タンク車から直接列に並ぶ被災者一人ひとりに水を配る時間がもったいなく感じ、水のピストン輸送に専念できるキャンバス水槽を非常にありがたいと思った、とのことでした。ポチにこの話題を提供してくれた方は、この話に感銘を受け、「改めて日本人の社会的秩序高さに心打たれた次第です」と語っていて、もし大規模な地震が発生したら、キャンバス水槽をできる限り有効に使おうと心に決めておりますとおっしゃっていました。東北地方の被災者の方に申し訳なく思いまして、このように訂正させて頂きます。(ポチ陳謝)

 新潟市水道局では応急給水用のキャンバス水槽を平成3年から使用していますが、阪神・淡路大震災での使用を通して、拠点給水所を活かした効率的な運搬給水を行うために、使いやすい現場設置型の水槽を考案してきました。主な改良点は、
ア キャンバス水槽と仮設給水栓を接続するため、消防ホースで良く使われるワンタッチ式の「町野式雄50」を用いた給水口を設置
イ 仮設給水栓は両端に「町野式雄50」を取り付けた安価な塩ビ製パイプを工事用スタンドに取り付け、安価な設備を目指す。
ウ 水栓は圧力損失の少ないボール式バルブを用いる。
エ 架台は現場で容易に組み立てられるよう4分割構造とし、高さを1mに設定する。
です。
 新潟市の考え方は、応急給水拠点に指定された避難場所には必要数を常備し、発災時の応急給水所は自主防災組織等の運営管理に委ねることです。局の応急給水対応の負担軽減が期待できるし、「市民に自主防災意識を醸成できる」と期待しています。さらに、応急給水車の運転回数も設定しやすくなり、必要な給水車の台数が把握できることで、速やかな応援要請も可能となると考えています。

F津波被害地区の応急復旧
 水道水源である井戸が津波を被り、塩化物イオン濃度・ナトリウム・蒸発残留物などが水質基準を超過し、水源として使用不可能な状態となり、給水車での運搬給水を長期に継続しなければならない状態となりました。
 水源水質の回復例として、陸前高田市では、まず井戸を清掃し、仮設電源を用いた水替えを1か月以上にわたって実施しています。その結果、2か月後に水質基準をクリアできる状態になり、一部地域での給水を開始しました。

 津波被害地区での水道復旧は、避難所や仮設住宅に至るルート及び津波被害地区を通る供給ルートの復旧を優先して行っています。特に手間取ったのは、津波によって家屋が流され、市街地のほとんどが瓦礫に埋もれている地区での通水作業でした。自衛隊の瓦礫除去の状況に合わせての通水作業となる上、配水管のバルブと給水管の止水栓を探すのに多くの時間と機械力を必要としたからです。
 こうした地区での管路応急復旧作業は、埋設ルートの調査→制水弁探索→配水管の水張り→給水装置の確認(止水栓閉止作業など)→漏水調査→漏水修繕→洗浄排水→水圧調査を繰り返し行い、給水エリアの拡大に努められています。また、地盤沈下が著しくて冠水してしまっている個所は漏水調査を行うことができません。早期の復旧が見込めない場所は、地上配管による仮設配管を別ルートで設置し、下流側への通水を確保しました。

G 管路・施設の情報管理
 一般的には、マッピングシステムが導入されている事業体であっても必ず紙ベースでも保管し、バックアップデータを分散管理するよう努めるべきです。ある事業体では、情報保管場所を庁舎への集中管理としていたため、支障をきたしました。

H その他
 全国から多数の給水車が被災地に向いましたが、流通ルートの寸断によるガソリン不足が応急活動に支障をきたしました。
 被害データ等の蓄積は重要ですが、写真や記録のまとめ方については、日水協の「地震等緊急時対応の手引き」の内容に沿って行う必要があります。日頃から各種研修会等で職員、配管業者、関係団体等に周知しておくことと、災害発生時には改めて方法確認することが大切です。

2011.03.21 「3.水道の被害」を記載
2011.03.25 「4.水道水の放射能汚染」を追加
2011.03.26 津波による浸水面積と地盤沈下が生じたとみられる地域の割合を訂正
2011.03.27 福島第1原子力発電所の事故のなりたちを追加記載
2011.08.23 「2−C液状化と側方流動」「5.過去の巨大津波」を追加記載
2012.02.15 「2−A津波の発生」を一部加筆。「5.過去の巨大津波」に過去3500年間で7回の巨大津波の発生を記載。「6.今後の課題・教訓」を追加記載
2012.09.12 「3−A空気弁の損傷被害」を追加記載
2012.11.15 「3−A空気弁の損傷被害」に日水協調査結果の見解を記載
2013.02.12 「3−C井戸は地震に強い」を追加記載